『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第10回「走れ竜宮小僧」 ブレイク!高橋一生さんの小野政次

2017/03/13

こんばんは、武者震之助です。

フィギュアスケートの影響もあって、12パーセント台にまで落ちた視聴率がじわじわと回復しており、またSNSを見ていると反響が増えてきているようです。

感想をたどっていても、おそるおそる見ていた人たちが「今年も面白い」と言い始めている気がします。

私も全く同感で、二月あたりまではどちらに転ぶかわからないと思っていましたが、今はすっかりハマってきました。

今作は、評価視聴率ともにこれからじわじわ伸びるんじゃないでしょうか。

公式インスタグラムを見ていたところ、初期と比較して「いいね」が7倍近くまで増えている投稿があります。

特に高橋一生さんの写真には多くの「いいね」がついています。SNSでじわじわと口コミが広まり、それが数字につながり、見てみたら面白い、そんなよい転がり方をする気がするんですね。

これは先週、書こうと思って結局書かなかったのですが。高橋一生さんの小野政次は、昨年における草刈正雄さんの真田昌幸になるかもしれません。

昨年の前半、私は極力MVPから昌幸は外そうと思いました。なぜならば昌幸を含めると、彼ばかりになってしまうからです。殿堂入りということにしていました。

今年の政次もそうなるのではないでしょうか。

小野政次は、万人が認める本作を代表するキャラクターになる。そう予想します。

 


激しいもみ合いの末、奥山を刺殺してしまう政次

さて、本編です。

今週は、龍潭寺に逃げ込んだ血まみれの小野政次が、奥山朝利を斬ってしまった、と衝撃の告白をしたあとから始まります。

井伊直親としのは、奥山朝利殺害現場を訪れます。

父の屍にすがりつき、泣きながら父の仇を取ってくれと叫ぶしのの傍らで、直親は現場の様子を確認し異変を察知したようです。

おおっ、直親が知性を発揮しています。一方で、奥山孫一郎としのは激怒し政次を殺す気満々のようですが……。

政次は、次郎(井伊直虎)に殺害に至ったいきさつを語ります。

娘・なつと孫の亥ノ介がどうしても奥山家に戻らないことに業を煮やした朝利は、政次の背後から襲いかかります。

激しいもみ合いの末、相手を刺殺してしまった政次。事情を話せばよいと次郎は説得しますが、政次は父・政直が井伊直満を死に追いやった経緯を思い出し、二度も直親の父(実父と義父)を小野が奪ったからには許されないだろう、と暗い表情で語ります。

ここは竜宮小僧として何とかしたい、と立ち上がる次郎です。

当シーンでは、竜宮小僧を目指す次郎の性格が強調されています。

が、政次が何故龍潭寺に逃げ込んだかといいますと、寺がアジール(聖域)としての機能を持っていた点もあると思います。

昨年の『真田丸』の聚楽第落首事件でも、寺は逃げ込んだ容疑者をそう簡単には引き渡さない様子が描かれていましたが、寺というのは逃げ込んだ者はとりあえず匿わねばならない、そういう役割があるのです。

こうした俗世とは異なる僧や寺が持つ役割が、次郎の行動原理にもあります。

次郎はお姫様だとひけらかすこともなければ、天才的な発想、お菓子作りの腕前でどうこうするわけではありません。

僧侶という俗世から切り離された特殊身分の利便性と、己が持つ善意と機転だけを頼りに、竜宮小僧として人の役に立とうとします。

等身大の熱血ヒロインなのです。

 


井伊家と小野家をつなぐために、なつが……

井伊家の家臣たちは、もうこの機に小野を殺してしまえとヒートアップ。

そこへ、小野の名代としてなつがやって来ます。

父が殺されたのに仇の側につくのかと妹に激怒する孫一郎。

なつはそれでも、義兄である政次のことをかばうために、事情を解説します。

夫・玄蕃(政次の弟)死後も婚家に残りたいとなつが主張したことが事件の背景にあると説明するなつ。

しかし孫一郎は「亥ノ介を人質に取られて言わされているんだな!」とますます怒ります。この話の通じなさは絶望的です。

なつは、亡き殿(井伊直盛)は小野と奥山の縁をつなぎたがっていた、夫亡き後はその役目を果たしたいと訴えます。

さらに千賀も「父母の家同士が争っては亥ノ介が不憫」と口添えします。

それでもやっぱり政次は許せないと怒る孫一郎たちを前にして、直親が事件の真相を推理します。

凶器の脇差しはそもそも朝利のもの。そして現場に残されていた刀痕は位置が低い。

つまり、凶器を先に振り回したのは、脚が悪く這うようにしていた朝利。政次は正当防衛ではないか、と説明する直親。今週の直親は知力が高いぞ!

ナイスフォローです。理路整然とこう当主に言われてはどうしようもなく、孫一郎は父の行動に問題があったのかもしれない、とおとなしくなります。

なつを名代として向かわせたのは、実は次郎でした。

幼なじみの次郎と直親の連携によって窮地を脱した政次は、二人に感謝します。

この一連の事件で憔悴した政次の表情を見ていたら、とてもつるし上げて殺す気にはなれない、そう思う視聴者も多いのではないでしょうか。

気がおさまらないのはしのです。

父が気の毒だと悔しがる妻に、直親はもっと義父の気持ちを察していればこんなことにはならなかったのだ、私を恨め、と諭します。

しのは涙ぐみ、きっと父が悪かったのでしょう、と泣き崩れます。

井伊直政は胎内にいたころからこんな修羅場をくぐっていたのかと思うと、なかなか感慨深いものがあります。

それにしても、第八回前半では全く妻への思いやりが感じられなかった直親が、随分と変わったものです。

今週の展開において、彼は株をぐんぐんと上げてゆきます。

 

亡霊に怯えて写経だなんて可愛いとこあるじゃないか

井伊家の関係者は何かあると例の井戸に行きます。

ここで政次と出くわした直親は、これで検地の借り(第七回)は返したぞ、と言います。

『おんな城主 直虎』感想レビュー第7回「検地がやってきた」 直親の智謀は50台だよ、ヤァ!ヤァ!ヤァ!

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直親さん、以前は「サイコパス」とか言ってすみませんでした。

ちゃんと気にしてたんですね。政次も謝罪の言葉を述べ、ギスギスしていた鶴亀コンビに雪解けの時は近いことが伺えます。

直親という人物を持ち上げて、落とし、そしてまた持ち上げる、このジェットコースターのような展開はなかなか面白いです。

キャラクターがぶれているわけではなく、見方を変えることによって評価を上げ下げする、そんな力量が今年の脚本から感じられます。

次郎は昊天から「よいことをしましたね」と褒められますが、次郎はもっとできることがあったかも、と反省中です。

「日日是好日」ですよ、と慰める昊天宗建。

傑山宗俊とは違った精神的な癒やし効果が彼にはあるようです。

次郎の竜宮小僧としての奔走は続きます。

川名へ向かうと「せっかくだから小野のガキをぶっ殺せばいいのに」と意気軒昂な暴走隠居・井伊直平とその家臣たちに「奥山様の怨霊におびえて写経しているから許してあげて」と吹き込む次郎。

それにしても川名のご隠居は一体何を企んでいるのか、館に集う家臣のガラの悪さは一体なんなのでしょうか。

さらに次郎は、政次に「奥山殿の怨霊見たよ! 信じようが信じまいがいいけど、写経しないと祟られちゃうかも!」と脅しながら強引にすすめる次郎。

ばかばかしいと一笑に付したい政次ですが、態度の端々から怯えが見えます。

彼も奥山朝利の死には責任と罪悪感を覚えているのでしょう。

政次は怨霊に怯えて写経している噂のおかげで、周囲からからかわれつつも「憎々しいかと思っていたけど、かわいげがあるじゃないか」と好感度を上げているようです。

 


念願の跡継ぎが誕生! その名は虎松(後の井伊直政)

そして冬。

直親は弓の弦を引き、魔除けのために音を鳴らしています。何故そんなことをしているかというと、待望の第一子が生まれるためです。

そしてのちの井伊直政が、ついに誕生します。

「虎松」と名付けられた赤ん坊は、井伊谷に希望の光を灯します。

その誕生の宴に、政次がおずおずとやって来ます。皆が緊張しながら見守っていると、政次は虎松の誕生祝いを持参しています。

その目録を確かめると、井伊直満(直親の父)の遺領を虎松に譲るというものでした。

まるで小野がかすめとったような直満の領地は、政次にとっては重荷であったのでしょう。

天文十三年以前、井伊直満が生きていた頃の井伊に戻したいという政次の言葉には、切ないものがあります。

亀、鶴、おとわと呼び合っていたあの頃に戻りたい、彼はそう思っているわけです。

ここで四回も費やした子役時代の重みが生きてきます。

鶴亀コンビはこれで完全に修復したように思えますが、あとの展開を考えるとこのタイミングでそうするというのが、なかなか残酷なことにも思えるのですが……。

虎松の誕生を祝い井戸の前で祈る次郎。そこへ直親がやって来ます。

涸れ井戸にも水が湧いた、これは吉兆だと喜ぶ次郎。直親は竜宮小僧として次郎が奔走したからこそ、政次と仲直りできたと告げます。

おとわに報いるにはどうしたらよいのか、と問う直親。

次郎は「今日のような日が、日々であるように。喜びに満ちた日が続くように井伊を守って欲しい。それが望みである」と告げます。

直親は「そんな井伊を、次郎法師様に、竜宮小僧様に、井伊の姫に捧げましょう」と誓います。

おおっ、直親! 名推理に続いてこのキラキラ王子様のような台詞、今週は本当にぐっと株を上げて来ましたね。桶狭間の絶望から、希望の日々が近づいたように見えます。

しかし、そうことは簡単にはゆきません。

今川家では、松平元康の謀叛に動揺していました。

元康は今川を裏切り、西三河の国衆を次々と味方につけてゆくのでした。

激怒した今川氏真は、松平の人質を全て殺害するように命を下します。つまり、瀬名や佐名の命も危険であるということです。

瀬名たちの助命を南渓にせっつく次郎。南渓も重い腰をあげ、直親から瀬名たちの助命嘆願に行く許可を得ます。

次郎を連れて駿府に向かおうとする南渓ですが、実は次郎は先に向かっていたのでした。

 

瀬名の命を救うため、今川の女領主へ直訴!するも……

瀬名は次郎にとって、たった一人の同性の親友です。

駿府についた次郎の前に、すっかり白髪になってしまった佐名がよろめき現れます。

短い出番で可能な限り最大のインパクトを残す佐名。白髪に変わり、取り乱した姿から悲嘆と混乱が見てとれます。

佐名は、どうにかして瀬名を救って欲しいと懇願します。

一方で井伊谷に残った政次は、次郎の性格で命乞いができるのか、疑念を抱くのでした。

次郎は早速、亡き義元の母である寿桂尼に面会します。

一瞬だけ次郎の成長に目を細めた寿桂尼ですが、あっさりと助命は無駄だから帰るようにと突き放します。

この「大きくなったのう」から「去ね」と発する一瞬の間に、貴婦人から迫力に満ちた女大名に変貌する寿桂尼。彼女はとても怖い人です。

次郎は瀬名の書状を見せ、夫はともかく瀬名は忠義にあついのだから見逃して欲しいと頼みます。

寿桂尼は、岡崎の元康の元へ次郎が向かい、和睦に応じたら褒美に瀬名とその子は助命しようと持ちかけます。

あまりに厳しい条件にひるむ次郎ですが、切り返しを思いつきます。

岡崎まで向かうからには瀬名とその子も同行させるべき、自分の留守中に瀬名とその子を殺されたら意味がないのだから、と啖呵を切る次郎。寿桂尼は次郎の覚悟をおもしろがります。

これが駄目な大河なら、この無茶苦茶な提案がそのまま通るかもしれません。次郎がお手製のお菓子を土産にしていて、それで寿桂尼がほだされるかもしれません。

女性ならではの優しさとやらが突然発動されて、寿桂尼がほろりと次郎を許したかもしれません。

しかし、本作は簡単にはいきません。

ここで使者が、鵜殿長照が元康に責められ自害したとのしらせをもたらします。

長照は寿桂尼にとっては孫。

静かな怒りに燃える寿桂尼は、次郎に「瀬名に引導を渡してやれ」と言い放ち、次郎を捕らえ瀬名の元に放り出します。

次郎は親類を救って欲しいと情に訴えようとしましたが、寿桂尼もまた息子の義元をはじめ、同じ血を引く大切な人たちを失っているのです。

肉親への愛情は刃となって相手を切り裂くこともあるのです。

孫の死を知った寿桂尼は、静かに激しく、その刃を次郎たちに向けました。

 

せめて竹千代と亀姫だけは助命して欲しい

こうして、複雑な事情ながらも久々に再会した次郎と瀬名。

もはや助からないと絶望の底にある瀬名を、次郎は励まします。

そこへ使者が参り、明日龍泉寺で自害することになったと瀬名に告げます。せめて竹千代と亀姫だけは助命して欲しいと嘆願し、泣き崩れる瀬名でした。

翌朝、朝食を前に瀬名を説得する次郎です。

まだ引導を渡していないとゴネたならば助命ができるはず、その間に今川館が焼け落ちるかもしれぬ、逃げ出す隙もあるかもしれぬ、元康が救出に来るかもしれぬ、とたたみかける次郎に瀬名はあきれます。

しかしその友を思う熱意に動かされた様子です。

次郎の、このうまくいくかはわからないけど、相手を救うためにまっすぐに立ち向かってゆく姿は、先週テレビ放映された『アナと雪の女王』のヒロイン・アナを思わせるところがあります。

同性相手にマウンティングをしたり、男受けばかり気にしているのではなく、友情のためならばいてもたってもいられずに走り出す、そんなヒロインが見たかったんだよなあ、としみじみ思いましたね。

2010年代の女性大河として、あるべき姿を本作は見せていると思います。お姫様でもなければ、誰かの母や妻でもない、一人の女性として困難に立ち向かう。そんな次郎の姿は実に爽やかです。

そしてついに、寺へと瀬名を運ぶ駕籠が到着します。

まだ引導を渡していない、瀬名にちゃんと引導を渡さないと祟るぞ、怖くないのか、と脅しながら粘る次郎。

家臣に突き飛ばされ、ハラハラする場面ではありますが、セコム傑山が待機しているので安心感があります。

そこへ、早馬が駆けつけてくるのでした。先週に引き続き、この終わり方は気になります。

 

MVP:寿桂尼

先週、桶狭間の泥の中で踏みつけられた扇からは、義元の死と今川の失墜が見てとれました。

そして今週、この人の姿を見た時、まだまだ今川は死んではいないと思えました。

見た瞬間にただ者ではないと思わされるのは、実のところ義元以上に彼女ではないかと思った次第です。

そしてこれは彼女だけではありませんが、本作は「女性だから」優しいとか、慈悲深いとか、そういうことは特にないのです。

「彼女だから」優しい、ということはあっても、性別がこうだからそうなるだろう、というわけではありません。

寿桂尼もまた、短い出番から苛烈な性分を見せ付ける、強い女性の一人です。

次点は瀬名。ツンツンした序盤は奈々緖さんの十八番というところでしたが、今週は我が子を思い必死ですがる姿、悲嘆と諦念、友を信じる心の動きを絶妙に演じわけておりました。

今後の彼女の運命を思うと辛いものがありますが、その時の奈々緖さんの演技を見るのが楽しみになってきてもいます。

 

総評

「日日是好日」という言葉が今週、そして本作のキーワードであると思います。

日々穏やかに生きてゆきたいというささやかな願い。次郎の死は、実は織田信長の「本能寺の変」と同年(1582年)ですので、その願いは死後にしか叶いません。

しかも『真田丸』で語られたように、幾多の犠牲があって成り立つわけです。

そんなわけで、本作の人物たちは今週生まれたばかりの井伊直政も含めて、ほんとうの意味で穏やかな日々を見ることなく世を去るわけですが、それでも何事もない日はあったわけです。

写経に励む政次、弓を鳴らして我が子の誕生を待つ直親らの日常はそうした貴重な瞬間であると思えます。

何故こんなことを書くかと言いますと、来週以降今週の穏やかさがきっと懐かしくなるだろうと思うからです。この穏やかさは嵐の前の静けさなのでしょう。

そして今週気になったのが、松平元康の描き方です。

井伊家にとっては救世主ともいえる存在ですが、本作はそう素直に描くつもりはないようで、瀬名と我が子をあっさり見捨てる冷酷さ、三河・遠江をひっかき回す恐ろしさが表現されていました。

こういう描き方はなかなか珍しいと思います。

元康は井伊家を救うのですが、同時に次郎にとって大切な人の命を奪う存在でもあります。

昨年の家康は老獪さで主人公たちと苦しめましたが、今年の元康は若さゆえの鋭敏さで、次郎とその周辺をかき乱すことでしょう。

昨年とはひと味違う黒い家康像が楽しみです。


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絵:霜月けい

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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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