以前読んだ大河ドラマ関連の書籍に、こんなことが書かれていました。
大河の出演がキッカケで役者としてのキャリア、それのみならず人生まで変わる人もいる――。
その一例として挙げられたのが、最近では綾瀬はるかさん。
アクション女優として開眼し、歴史・社会的なキャリアも増加しました。
単に、かわいらしい、癒し系女優だけではない、大きな女優像へ変貌を遂げたと、僭越ながら私も感じております。
◆綾瀬はるかさん「八重の桜は宝物」 戊辰150年式典・トークショー(→link)
もう一人、この好例としてあげられていたのが、菅原文太さんです。
菅原文太さんと言えば、やっぱり仁義なき戦いシリーズ!
しかし、1980年の大河ドラマ『獅子の時代』で会津藩士・平沼銑次を演じることによって、ただの役者ではなく、歴史に造詣が深い人物に育っていったのだと言います。
そうなんです。
実は文太さん、スゴイ歴史好き!
知識も半端ない!!
それは『仁義なき幕末維新 われら賊軍の子孫 (文春文庫)(→amazon)』を読めばわかります。そして唸らされます。
賊軍子孫同士の、明治維新への目線。
本書を読むと、なぜ『花燃ゆ』と『西郷どん』が大ゴケし、東日本を中心に総スカンをくらったのか――その理由も痛感できる一冊になっています。
「明治維新の正と負の面を考える」
文太さん、あんたぁ、本気だな。
本書は、ページをめくった瞬間から、脳天直撃します。
ともかく熱い対談草案の筆跡と文章を見て、この人は本気だ、ものすごいぞ、と衝撃!
「明治維新の正と負の面を考える」
そう始まる草案冒頭から、この人は本気でガッツリ明治維新について語るつもりだな、と覚悟を感じるのです。
そんな文太さんは仙台藩士の子孫です。
対談相手の半藤さんは、長岡藩士の子孫です。河井継之助がよく知られていますね。

河井継之助/wikipediaより引用
文太さんは、仙台藩のことをなかなか冷徹に見ている部分もあります。
奥羽越列藩同盟の主役のようでありながら、途中から腰砕けになってしまったのだと語ります。
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故郷仙台へのいささか厳しい目線は、なかなか興味深いものがあります。
『ここまで言ってもよいものか?』
と、ちょっとドキドキするくらい辛辣だったりするときも。
このあたりで文太さんの歴史観、冷徹な目、観察力、調査力はとんでもないと把握できました。
そして、その印象は、読めば読むほど強くなります。
これだけ中身がある方ならば、あの演技力も納得できるというもの。それでもご本人は「俺は演技が下手」とも言うのですから……。
文太兄ぃにはもう参るしかございません!
アウトローやテロリストから見た明治維新
文太さんの代表作といえば、やはり『仁義なき戦い』です。
そんな彼であればこそ! と思えるのが、博徒だって明治維新を動かしたという見方です。
ただ、これはとても辛く、苦い目線でもあります。
彼らは戦ったものの、使い捨てにされた面があるのです。
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斬り捨てずに、敢えて見る。
そこが文太兄ぃじゃないですか。
彼の演じたヤクザ像にどっぷりハマったファンからすると、それでこそだと拍手喝采を送りたくなるところでもあるのです。
このアウトロー幕末維新関連の話、これはもう文太兄ぃファン以外も必読です。
特に半藤さんが新門辰五郎の伝記を書いた理由。
必読でしょう。

新門辰五郎/wikipediaより引用
表舞台に立ち、明治政府を担った英雄だけが、幕末を生きていたわけじゃない!
敗北し、アウトローであった幕末の人物にも、子孫は当然いるわけです。
自分のご先祖を誇りに思っていて、忘れないでいて欲しい。そう願う日本人は当然ながらおるわけですよ。
相楽総三に関する言及も、なんとも言えぬ悲哀が満ちております。
やっぱり、どうしても、読みながら文太兄ぃとこうしたアウトローを重ねてしまうんですよね。
相楽の虚しさには、文太兄ぃはものすごく心を寄せていたのだと思われます。
彼の最期に思いを寄せる達筆の色紙が掲載されておりまして、これを見るだけでぐっとくるものがありますよ。
相楽への言及としても大変優れた対談内容です。
アウトローから取り上げるだけでも珍しいもの。このことだけをとっても、本作は幕末ファンならば買っておいて損はないと言い切れます。
「仁義なき」って映画とかけただけじゃない
本書のタイトルを見て、大半の方はこう思うことでしょう。
「ああ、文太さんの代表作品とひっかけたわけね」
実は、それだけじゃないんです。
本当に心の底から、
「明治維新に仁義なんてない」
と、お二方が言い切っているのです。
孝明天皇の毒殺疑惑。

孝明天皇(1902年 小山正太郎筆)/wikipediaより引用
倒幕の密勅の胡散臭さ。
相楽総三はじめとするアウトロー、非情の斬り捨て。
奥羽諸藩が被った絶大な被害。
維新の英雄たちに、二人が向ける目線は冷たいのです。
『アイツら、まるで仁義なんかねぇことをしやがったな……』というもの。
そもそも明治維新が素晴らしいものと言えるのかよ、というところまで到達しております。
言われてみれば明治初期は、日本中で不平不満がくすぶっておりました。""]
それをうまくなだめて、薩長こそ正義で、国が出来たのだと教育できた成果はたいしたものだ。
そこを褒めてはおりますが、皮肉たっぷりの口調です。
それもそのはず。
「仁義なき幕末維新」を【誤魔化す方法だけはたいしたものだ】と言ってるようなもんですからね。
賊軍子孫の抵抗の仕方
この対談は、「賊軍子孫の遺言になったな」という締めくくりがなされます。
お二人が「どうせ150周年ということで盛り上げるつもりだろう」と冷たい予想をしていた2018年を迎えております。
予想は的中しておりますね。
大河ドラマの『西郷どん』は、ドラマの質的にも視聴率的にも大苦戦。
その苦戦の理由も、本書を読めばわかります。
未だに薩長にだけ都合がいい、戦前レベルの歴史観で作られたドラマが面白いワケがない。
そんなもん、本書を読んで喝采を送るような賊軍子孫からしたら、ふざけたシロモノでしかありません。
本書の行間から、負けてしまった側が抑え込まれながらも、どうやって先祖の業績を残そうとしてきたかが伝わってきます。
こういうエネルギーを踏んづけて、見なかったことにして、軽薄な美化を垂れ流して、それが受けるほど甘くはないってことです。
お二人のスタンスは、賊軍子孫の戦闘姿勢が実によく出ております。
賊軍という呼び方も、最近では使われないようになっております。それを、敢えてこの二人は「賊軍」と名乗り、叛骨心を見せ付けているわけですね。
そんな二人は、安易な美化に走らず、史料を重ねて武器にして、フィールドワークをして歩いてゆきました。
そこまで徹底的に理詰めにして、厳しい目線をチラつかせながら、斬り込んでゆく。
これが、賊軍の戦い方だな。
そう思うんです。
「明治維新イエーイ! お祝いしよう!」っていう感じの勢力に、史料を束にして突っ込む感じですね。
『西郷どん』も、作品そのものはツマラナイですが、冷静に突っ込む意見はものすごく面白かったりする。
明治維新は日本が真っ二つになった戦いです。
どちらを描いても、反発は喰らいます。
この二人の対談を読みますと、明治維新礼賛がどんな反発を喰らうのか、実によくわかるのです。
しかも、反発するにせよただの感情論ではなく、あくまで理詰めで、斬り込んで来るというわけ。
それが賊軍魂だ!
この戦い方が、まさに文太兄ぃの姿とも重なります。
知識とフィールドワーク、それに感性を武器にして、歴史に斬り込む姿は、これぞファンが見たかった菅原文太像です。
スクリーン以外でも、演じる以外でも、こんな戦い方ができる文太兄ぃ。
やっぱりカッコよすぎますわ。
こんなにカッコイイ役者さんだったのに、ある歴史的人物を演じることに躊躇していたとわかるあたりも、感慨深いものがあります。
惜しまれる点があるとすれば、東日本大震災や文太兄ぃの死により、対談がここまでで終わったところでしょうか。
ともかくこれは、濃厚でものすごい一冊です。
タレント本じゃない。
断じてそんなものじゃない。

『仁義なき幕末維新 われら賊軍の子孫 (文春文庫)(→amazon)』
文太兄ぃは、自分の脚で歩いて歴史を探り、本を読み、そして頭できっちりと考える人です。
作家の半藤さんは言うまでもございません。
歴史に向き合って、自分たちを「賊軍子孫」と胸を張って言える。
本書はそんな骨太な一冊なのです。
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【参考】
菅原文太/半藤一利『仁義なき幕末維新 われら賊軍の子孫 (文春文庫)(→amazon)』





