信長の皇位簒奪説

正親町天皇と織田信長/wikipediaより引用

織田家 皇室・公家

信長が自ら天皇になろうとしたという噂は本当か? 皇位簒奪説4つの根拠を検証

2025/06/07

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根拠1 征夷大将軍

「信長は征夷大将軍に任命されることを望んだが、正親町天皇がそれを拒絶した」ですが、そもそも征夷大将軍に任命されることを望んでいたこと自体が間違いとされています。

というのも信長は右近衛大将や右大臣に任命され、それを辞任した後、今度は朝廷から

・関白
・太政大臣
・征夷大将軍

を提示されておりました。

上記の三職については信長が本心を明かす前に【本能寺の変】が勃発し、何ら返答はありません。

『真書太閤記 本能寺焼討之図』(渡辺延一作)/wikipediaより引用

いずれにせよ信長から望んだことではなく、むしろ朝廷から打診しているほどで、一つ目の根拠は消えました。

では2つ目「天皇の譲位」を見てみますと……。

 


根拠2 天皇の譲位

「信長は任官を拒んだ正親町を譲位させようと画策したが拒んだ」

これはどうでしょう?

何だか、もっともらしく聞こえますよね。

「信長が正親町へ譲位を要請した」といわれると、高圧的な信長が、自分にとって都合の悪くなった正親町を更迭するように仕向けた、と考えがちです。

はたして、このような認識は正しいのでしょうか。

このことを解く鍵として、「譲位」について正しい認識が必要となります。

実は皇室にとって、譲位が実現すれば後土御門天皇以来およそ100年ぶりのこと。

後土御門天皇/wikipediaより引用

非常にめでたいことであり、喜ぶべき出来事なのです。

つまり、信長が譲位を強要したというのは誤りで、実は正親町や皇室全体が譲位したくてしょうがなかった、というのが事実だったのです。2つ目も消えましたね。

 

根拠3 蘭奢待

「天下の名香“蘭奢待”(らんじゃたい)の切り取りを正親町に強引に認めさせた」とはどういうことか?

名香“蘭奢待”については補足が必要です。

日本一すばらしい香りのする香木といわれているもので、奈良時代以来、東大氏の正倉院に伝来しています。

長さ156センチほど。

ノコギリで3センチ前後切り取った跡が残っています。

蘭奢待の字の中には「東大寺」の3字が隠れており、別名「東大寺」ともいい、歴史上、この香りを楽しむことができた人物は、足利義政、織田信長、明治天皇などのビッグネームです。

足利義政は室町幕府第8代将軍。銀閣寺を造ったことで有名ですね。

足利義政/wikipediaより引用

明治天皇は、大日本帝国の君主。

二人とも、超のつくビックネームですね。

エドアルド・キヨッソーネが描いた明治天皇/wikipediaより引用

こうしてみると、信長は、この蘭奢待そのものの香りを楽しむことを目的としたのではなく、「わたしこそ、天下の覇者なんだぞ」と意思表示をして権威を示したかった、というのが妥当な解釈でしょう。

蘭奢待はその時々の政界ナンバー1の人物のみが体現できたもので、香りをかぐという行為により、自分の権威の高さを強調することが狙いでした。

しかし、このことが信長が皇位を狙っていた根拠になるかといえば別問題です。

香りを嗅いだ者が天皇になるという伝統や決まりがあったわけでもない。

あくまで、皇位とは全く関係のない権威の話なのです。

なお、蘭奢待と信長についての詳細は以下の記事にもございますので、よろしければ併せてご覧ください(記事末にもリンクあります)。

蘭奢待
「蘭奢待」東大寺正倉院にある天下の香木を切り取る|信長公記第108話

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では最後に「京都御馬揃え」と「実は“したたか”だった正親町天皇」を見てみましょう。

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恵美嘉樹

作家・歴史旅コンサルタント。 「旅を通じて歴史研究の最前線を社会に還元する」を理念に、二人組ユニットとして活動している。 慶應義塾大学および明治大学の大学・大学院で日本史・世界史を専攻し、歴史書籍の編集者や航空会社の国際広報など、多分野での実務経験を積む。 その後、日本初の“歴史旅コンサルタント”として独立。「日本遺産」「ヤマト巡歴」「世界史街道」など、新たな知的旅行スタイルを提案し、古代史から世界史まで広い領域を対象に、旅と歴史を融合させた企画・執筆・講演を行っている。 ◆主な著書 『日本の神様と神社 ― 神話と歴史の謎を解く』(講談社、2009年) 『全国「一の宮」徹底ガイド』(PHP研究所、2007年) 『図説 最新日本古代史』(学習研究社、2008年) 『最新 日本古代史の謎』(学習研究社、2011年) ◆国立国会図書館データ https://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/01104329

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