信長の皇位簒奪説

正親町天皇と織田信長/wikipediaより引用

織田家 皇室・公家

信長が自ら天皇になろうとしたという噂は本当か? 皇位簒奪説4つの根拠を検証

2025/06/07

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根拠4 御馬揃え

「京都で行われた馬揃いで、正親町を威圧し続けた」

これはどういうことでしょうか。

【京都御馬揃え】とは、信長が御前で催した軍事パレードのこと。

もともと騎馬を集めて、その優劣を競う行事でした。

この儀式に対して、信長が朝廷へ軍事的に威圧することを目的としたと解釈する向きもありますが、あまりの面白さに、正親町天皇は

「アンコール!」

とばかりに再演を要求したほどです。

「威圧感」の微塵も感じられず、これも明らかに根拠とはならないでしょう。

京都御馬揃え
京都御馬揃え|信長の家臣たちが勢揃いした軍事パレードは衣装もド派手だった

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正親町天皇も意外にしたたかだった

以上からしますと、信長は皇位を狙ったとする根拠はどれもあやしいものばかり。

「信長は皇位簒奪を目指していた」というのはキャッチ―でつい乗っかりたくなりますが、どうもそんな事実はなかったようですね。

信長のカリスマ性の高さと、皇位を奪われそうに見えた正親町天皇の頼りなさとがオーバーラップし、人々に思い込ませてしまったのかもしれません。

恐るべし、信長!

と、こうして見ると正親町天皇は常に受け身で、信長にやられっぱなしの印象を持つかもしれません。

逆です。実はしたたかなやり手でした。

天正十年(1582年)6月2日、本能寺の変で信長が殺された時のことです。

変の4日後、正親町天皇は安土を占拠した明智光秀のもとへ勅使を派遣しています。その直後、光秀は上洛し、正親町は京都の平穏無事を光秀へ求めています。

明智光秀/wikipediaより引用

この先、世の中はどう転ぶかわかりません。

信長の代わりに光秀が天下を取る――そう考えたとしてもおかしくなく、光秀にツバをつけておいたのでしょう。

つまり、正親町天皇は、もし仮に光秀が天下をとるようなことがあった場合、朝廷の庇護者になってもらうように、手を打っておいたと考えられます。

その後、山崎の戦いで光秀は秀吉に敗れ、天下は豊臣政権へと移りましたが、こうした「先手必勝」の交渉はその後も続けました。

勅使派遣、任官など、秀吉への対応は緻密さを増すばかりです。

豊臣秀吉/wikipediaより引用

こうして正親町は在任期間、織田信長・豊臣秀吉という偉人と対等にやりあい、両者から多大な経済的保護を受け、皇室社会に安定と豊かさをもたらしました。

乱世の時代に、武力ではなく交渉のみで皇室を改善した正親町天皇こそ、真のヤリ手といえるでしょう。

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【参考文献】
藤井譲治『天皇と天下人 (天皇の歴史)』(→amazon
山田朗/歴史科学協議会/木村茂光『天皇・天皇制をよむ』(→amazon

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恵美嘉樹

作家・歴史旅コンサルタント。 「旅を通じて歴史研究の最前線を社会に還元する」を理念に、二人組ユニットとして活動している。 慶應義塾大学および明治大学の大学・大学院で日本史・世界史を専攻し、歴史書籍の編集者や航空会社の国際広報など、多分野での実務経験を積む。 その後、日本初の“歴史旅コンサルタント”として独立。「日本遺産」「ヤマト巡歴」「世界史街道」など、新たな知的旅行スタイルを提案し、古代史から世界史まで広い領域を対象に、旅と歴史を融合させた企画・執筆・講演を行っている。 ◆主な著書 『日本の神様と神社 ― 神話と歴史の謎を解く』(講談社、2009年) 『全国「一の宮」徹底ガイド』(PHP研究所、2007年) 『図説 最新日本古代史』(学習研究社、2008年) 『最新 日本古代史の謎』(学習研究社、2011年) ◆国立国会図書館データ https://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/01104329

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