魏無羨と藍忘機のルーツ

『陳情令』と『魔道祖師』/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

魏無羨と藍忘機のルーツがわかる~陳情令と魔道祖師は「武侠」で読み解く

Amazonの海外ドラマランキングで首位に輝いた『陳情令』。

同じ原作のアニメであり、これまた大人気の『魔道祖師』も

“#魔道祖師しんどい”

というハッシュタグが上位に上がるほどの大反響となっています。

兎にも角にも意表をついてくる展開がシンドイ……と、日本ではなりますが、本場の中国では「ああ、これは王道」となっているかもしれません。

というのも武侠ファンからすれば「ああ、あれがモチーフか」となることが実に多いのです。

では、何がどうモチーフなのか?

本稿では、王道となる元のキャラクター像と比較してみたいと思います。

【TOP画像】
『陳情令』(→amazonプライム)(→Blu-ray
魔祖道師』(→amazonKindle版)(→アニメamazonプライム

 

同工異曲

まず最初に押さえておきたいのは、各キャラについて「パクリ」と即断しないことです。

「同工異曲」という言葉があります。

似たような手順で作っているのに、別のものが出来上がる――見事なアレンジだね!

と、原典である韓愈(かんゆ)『進学解』では、褒めるニュアンスで使われています。

この同工異曲という言葉、現在では「パクリ」と揶揄するような意味合いも感じられますが、本来はそうではなかったのです。

そして『陳情令』&『魔道祖師』こそ、同工異曲、匠の技が詰まった作品と言えます。

『魔道祖師』の公式サイトには「世界が熱狂する中国BLファンタジー小説」とあり、日本向けのキャッチコピーとしては無難ですが、どうしたって抜け落ちてしまう要素がある。

それが武侠です。

武侠から同工異曲を探りましょう!

※なお本稿は性質上、各作品のネタバレを含みますことをご了承ください

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魏無羨――羨むことを知らぬ好漢

この作品は、名前に意味が隠されています。

まずは魏無羨から。

名の「嬰」は、名詞としては「おむつのとれない赤子」という意味があります。無邪気なイメージですね。

字の「無羨」は、羨むことがないということ。赤ん坊のように無邪気で、何も欲しがらない。そんな印象があります。

しかし周囲からは「夷陵老祖」――術を極めた畏敬の念を込めて呼ばれてしまう。名前の時点で運命があります。

この魏無羨は、金庸『笑傲江湖』の令狐冲がモチーフとわかる要素がいくつもあります。

令狐冲の「冲」はからっぽ。無邪気という意味もある。無欲でカラッとしている彼には合っている名前です。

この二人の共通点とは?

◆酒の飲み方が豪快だ! しかもこぼす……

魏無羨は酒が大好き!「天子笑」という酒を飲みたくてたまらない。そんな場面が印象的です。

しかも飲み方が豪快です。

酒器を口につけて飲めばいいのに、なぜか離して飲む。うれしそうに真昼間からグイグイ飲む。その仕草がいかにも「うーん、やはりこれだ! かっこいいと思わない?」と演出されている。

これって不思議ではありませんか?

日本や海外のドラマで、おっさんならさておき、若い美青年が酒をグイグイ飲み、それがかっこいいとされる。

これは令狐冲の大きな特徴です。

金曜の小説でも、令狐冲は若干年齢層が上。かつ酒好きで「俺に酒よこせ! 酒だ、酒だ!」とやたらと言い出す。酒を持ち歩き、よく飲む。しかも無駄にアクロバティックな飲み方をします。

酒入り瓢箪や瓶を投げる。その瓢箪が地面に落ちぬうちに敵を倒し、落ちる前に受け止めて飲む。

かっこいい。でも意味がわからないし、もっと落ち着いて飲もうよ。

半分以上こぼれてない?

そうツッコミたくなりますが、それが「あの令狐冲のかっこいい仕草!」扱いなのでもう仕方ありません。

ファンアートでも、コスプレでも、令狐冲は酒がセットです。

◆愛する相手と音楽を共に奏でるのさ〜

『笑傲江湖』は楽曲の名前です。この作品は、正派と邪派の対立が描かれています。

令狐冲は正派に属するものの、邪派の気のいい人物を目の当たりにし「こんな対立意味がないんじゃないかな?」と思ってしまう。

すると正派からけしからん奴だと突き上げをくらい、酷い目に遭います。

それでも対立を乗り越え、邪派の任盈盈(じんえいえい)と心を通わせ「笑傲江湖」を合奏する。そんな楽器の演奏と敬愛をからめた話が『笑傲江湖』です。

これってそのまんま、まさしく、魏無羨と藍忘機ではありませんか!

◆精神面がタフだ! 究極の巻き込まれ主人公

令狐冲は主人公としては変わり種です。

愛国心や仇討ちといった目的は特にないし、ビルドゥングスロマンともちょっとちがう。滅法気のいい性格で、困った人を放っておけない。

そうして人助けをしているうちに、災難に巻き込まれてしょっちゅう死にかけます。

裏表がないので「あいつって使えるよな」と罠にひっかかることもある。

そうやって右往左往するうちに、治療できない怪我をしたり、陰謀に巻き込まれたりする。そんな不幸極まりない人物といえます。

常人なら闇堕ちしそうなところを、彼はやけ酒を飲んで音楽を演奏して「ま、いっか」と忘れて突き進んでゆきます。そうして人助けと立ち直ることを繰り返しているちに、なぜか異常に強くなっているのです。

これは魏無羨もそう。彼は江澄のような責任感を背負っているわけでもない。親の仇討ちでもない。

ただ、困っている人を助けた結果、やたらと強くなってしまい、かつ敵だと思われている。そんな巻き込まれ型です。

あれだけ痛い目にあったら、慎重になってもいいのにそうしない。そういう性格なのです。

令狐冲は中国語圏で大人気です。

過去には日本でも有名な周潤發(チョウ・ユンファ)や李連杰(ジェット・リー)といった錚々たる名優が演じています。

美形であること以上に、親しみやすくて軽やかなアニキっぽさ。やけ酒を明るく飲んでいそうな親しみやすさが大事。日本の俳優ならば、松坂桃李さんあたりでしょうか。

そんな人気キャラクターに似ているなんて素敵!

それにみんな、魏無羨を好演した肖戦こそ、ネクスト令狐冲だと思っているんじゃないかな……となったら実際のところそうなのです。

『陳情令』と『魔道祖師』の大ヒットは、武侠ものは若い世代にも訴求力があると証明しました。

ゲームも開発されます。武侠の世界観はぴったりハマるのです。

そこで発売されたのが『新笑傲江湖M(モバイル・日本語版はソード&ブレイド)』。

この大陸版主題歌とイメージキャラクターに、肖戦が起用され、テーマソング『滄海一声笑』を担当しました。

ゲームはデカデカと「正宗(=本物)」と掲げており、相当気合が入ったものです。

 

予想通り、これには「肖戦で『笑傲江湖』をドラマにして!」というコメントが殺到しております。

現在、令狐冲を演じるべき俳優投票をすれば、肖戦が上位に入ることは疑いようがありません。

そんな彼は俳優として頂点に登りつつあるの。ここまで令狐冲にぴったりな俳優がいることも大変幸運なこと。

これから『笑傲江湖』を読む方は、彼が脳裏に浮かぶことでしょう。なんとも羨ましいことです。

※原作改変があまりに酷いと不評の2013年版

※主演がミスキャストと評価が厳しい2018年版

ちなみに『笑傲江湖』2010年代以降のドラマ版は、原作をアレンジしすぎて評判が悪い。

原作のニュアンスを崩さず、肖戦主演でドラマにするだけでも傑作となることでしょう。私もそんな日を待ち望んでいます。

肖戦と王一博が『滄海一声笑』を歌う動画もあります。ぜひお探しください。

 

魏無羨――究極の愛を育む

全体的な世界観、音楽へのこだわり。正邪が争う。そういった点は『笑傲江湖』の同工異曲といえます。

ラブストーリーの場合、同じ金庸でも『神鵰侠侶』です。

恋愛要素が強い武侠ものでは上位であり、楊過と小龍女は名前を聞くだけでうっとりするファンも多いのではないかと思います。

タイトルの「神鵰侠侶」とは、愛情のみならず、信頼や正義感で結ばれたパートナーという意味。まさしく魏無羨と藍忘機の関係です。

その楊過と魏無羨の共通点は?

◆ズバリ生育環境

幼い魏無羨は残飯を漁って生きていた。それを見た江楓眠が憐れみ、我が子のように育て始めます。

楊過も同じような状況で、郭靖と黄蓉という夫妻に引き取られるのです。

楊過は令狐冲よりもキリッとしたイメージがあり、かつ悲壮感が似合う美形が適しています。日本の俳優ならば佐藤健さんでしょう。

人間関係も酷似しておりますが、それについては後述します。

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