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英国王室の人々
本作が魅力的なのは、王族の人々が雲の上の存在ではなく、ぬくもりを感じさせるような家庭人として描かれていうることが大きいでしょう。
英国王室の人々を、史実にそって丁寧に描きます。
ハノーヴァー朝以降、英国王室の人々は極端に真面目なタイプか、放蕩タイプかに別れていました。
ジョージ5世、6世、エリザベス2世は前者。
エドワード8世は後者。
そんな彼らの特徴がよく現れていました。
国王となるジョージ6世は、乳母から虐待のような扱いを受け、そのトラウマが吃音の一因となっています。
華やかでチャーミングな兄エドワード8世に引け目を感じている描写も出てきます。
ついに王位を継ぐことになったジョージ6世は子供のように泣きじゃくり、
「兄がやるはずだったのに……」
「自分は海軍士官なんだ……」
と嘆きます。
ジョージ6世は皇太子として帝王教育を受けていなかったからの悩みです。
通常、国王となるための皇太子は、幼い頃からその心構えや様々なことをみっちりと習います。
ところがジョージ6世は世継ぎではない以上、そのような教育は受けてはいません。
王位を継がない王子たちは軍に入ることが多く、彼の場合は海軍でした。
海軍士官として学んだだけで国王になんてなれない――そんな境遇からの嘆きです。
聡明なエリザベス妃、コーギー犬を可愛がるエリザベスとマーガレット王女姉妹もあたたかい家庭そのものです。
なるほどこれならば、エリザベス女王も納得することでしょう。
史実をあまり知らなくても楽しめる映画ですが、一応このあたりの人間関係をおさらいしておくと、より楽しめると思います。
善良で真面目な人々の、遊び心ある物語
本作に出てくる人たちは、だいたいが真面目で善良です。
ローグはざっくばらんな態度でジョージ6世を苛立たせるものの、根は努力家で極めて真面目。
オーストラリア人というハンデがありながらも、本場イギリスでシエイクスピア俳優をめざして努力を重ねています。あの態度のおかげで、ジョージ6世の心を開けた部分もありますし、よい人なのです。
ジョージ6世やその家族も言うまでもなく、善良。エドワード8世は国王としては不適切者ですが、自分の恋愛感情のためならば犠牲も厭わない、情熱的なロマンチストと言えます(彼がナチスに籠絡される不名誉なところまでは、本作では到達しません)。
そんな生真面目な人の話だから、ガチガチで堅いかと思っていたら、ふっと息抜きできる遊び心も随所にあります。
ジョージ6世が放送禁止用語を立て続けに怒鳴るところ等。
この場面のせいでレイティングがあげられて論争になるのですが、ジョージ6世に扮するコリン・ファースが極めて真面目にあんなことを連発するのには、かなり笑わせていただきました。
派手さはなく、手堅い作りなのに、見終わると深い満足感と感動がわきあがる、まさしく上質な名作。
歴史映画は派手なドンパチがなくとも、深みあるドラマが作れるという、本作はその好例です。
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著:武者震之助
【参考】