歴史系の新書って、コンパクトながら内容も充実していて、つい買ってしまいません?
ときには、今まで信じてきたことが根底から覆されてしまう――そんな衝撃的な本との出会いもあり、『女系図でみる驚きの日本史 (新潮新書)』(→amazon)もまさに、その一冊。

女系図でみる驚きの日本史(→amazon)
女系図で見れば、あの平家も滅びていない!
とまぁ、女性の「腹」を通じて受け継がれる血脈や、女性の立場を解説してくれながら、日本史の別の見方を読者に示す。
大変興味深い一冊です。
女系図で見れば平家は滅亡どころか繁栄しまくり!
本書をパッと見て圧巻なのが、筆者が作成した女系でみる系図です。
この中には、院政期の男色関係が一目でわかる「究極の男色系図」も含まれています。
とにかく驚かされる。
まず平家の血筋は、現在の皇室まで続いておりまして。
源頼朝は女系でも血統が途切れているので、女系で辿ると実は源平の勝敗は逆転しているということになります。

源頼朝(左)と平清盛/wikipediaより引用
渡来人があふれていたかつての京都
かつて、ある政党の党首が外国人の血を引いていることからバッシングが巻き起こりました。
血の問題ではなく国籍の問題だとか、態度の問題だとか、いろいろ反論はあると思いますが、それはひとまず横に置きまして。
本書の第三講では、渡来人が数多くいた古代京都を取り扱っております。
当時はむしろ、中国大陸や朝鮮半島にルーツのあることを、アイデンティティとして大切にする人もいたことが語られます。
こういう記述を読むと「純粋な日本人」というのを考えてしまうかもしれません。
昔の女性の名前は何故わからない?
紫式部や清少納言は、本名が不明です。

清少納言/wikipediaより引用
てっきり女性の地位が低いからでしょ……と考えていたのですが、それは武家の場合に当てはまるとしても、平安時代には必ずしもそう言い切れないとのこと。
むしろ「実名忌避」ではないか、というのです。
「実名忌避」とはどういうことなのか?
インターネットで知り合った人同士は、個人情報である本名でなくハンドルネームを使うようなもの、と説明されて納得しました。
このように、ものすごくわかりやすいたとえに落とし込むのも筆者の特徴で、読んでいてイメージしやすく助かります。
「胤」より「腹」なのか
「ヨーロッパなんかと違って、日本では母親の身分は重視しなかったはず。腹は借り腹というくらいだし」
そんなイメージをぼんやりと持っていた私の頭を、ガツンと殴るのが第五講。
「光源氏はなぜ天皇になれなかったか」がテーマです。
自分のこうした考えを整理してみると、平安時代の話を江戸時代の徳川将軍家あたりで上書きしてしまったのだろうと思い当たりました。
ここで語られるのは、日本では母親の身分がかなり重視されたこと。
身分が低ければ出世にも響き、周囲の見る目も違ってきたわけです。
言われてみれば、光源氏の母は桐壺更衣という身分の低い女性であることは『源氏物語』でも再三言われて来ました。
母親の身分が低い女性を、男性が手ひどく扱う様も『源氏物語』では頻繁に出てきています。
「劣り腹」という、身分の低い母親から生まれた人を蔑む、凄まじい言葉もあったわけです。
先日読んだ『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い(→amazon)』では、足利尊氏が我が子・直冬を疎んじた話が出てきましたが、母親の身分が低いことも関係があるのかもしれません。

足利直冬/wikipediaより引用
もう日本史を今までのようには見れなくなる
第五講を読んでいると、人々の冷淡さにも驚かされます。
我が子だろうと、あるいは妻だろうと、生母の身分が低いだけで冷淡にあしらうというのは、何とも冷たいものだとつくづく感じました。
家族が愛し合うこそ伝統的な価値観だなどと言われますが、歴史を学ぶほど案外そうでもない……と思わされます。
ここで疑問が湧いてくる方もいるでしょう。
「そうはいっても、徳川幕府は側室が母の将軍ばかりだ!」

桂昌院/wikipediaより引用
この点に関して、筆者は実に鋭い説を提示しています。是非、本書を手に取って、お確かめください。
Kindle版でしたらすぐにでも楽しめますよ(→amazon)。
優れた新書を読んだ時の「ランチ一食分でこの知識を……」という感動。
本書を読み終えたあとは、もう日本史を今までとは同じ目線で見られなくなるはずです。
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【参考】
大塚ひかり『女系図でみる驚きの日本史 (新潮新書)』(→amazon)




