平安貴族と輸入品

画像はイメージです(駒競行幸絵巻/wikipediaより引用)

飛鳥・奈良・平安 光る君へ

平安貴族は輸入品無しではやってけない!一体どんな“唐物”が重宝されていた?

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医術と薬

『光る君へ』には、オリジナルキャラクターとして北宋人の見習い医師・周明(ヂョウミン)が登場しました。

これに目をカッと見開き、大興奮しそうな人物がいます。

ロバート秋山さん演じる藤原実資です。

実資は、実に当時の貴族らしく【唐物】に目がない。

小右記』には、自分よりも【唐物】を手にした貴族への妬ましさを記しています。

いつか劇中で「なんでアイツが私よりあんないいものをもらうのだ!」と憤る彼の姿が見たいですね。為時が周明から鍼治療を受けたと知ったら、どれほど羨むことか。

とりわけ実資が熱心に、しかも定期的に入手していたのが“薬”でした。

自分自身が定期的に服用しながら、幼い愛娘のためにも入手。

しかも細やかなことに、愛娘の場合は副作用を心配し、服用をためらう気持ちが日記『小右記』に記されています。

そんな【唐物】マニアの実資は、藤原彰子に仕える女房の中でも「藤原為時の娘」つまりは紫式部をお気に入りであり、懇意にしていたと『小右記』にあります。

史実であればその理由を推察するしかないですが、ドラマでは自由に設定できる。

そこでキーパーソンになりそうなのが周明です。

まひろが唐人医(宋人の医者)と知り合いだったと知れば、実資は様々な医学の助言を求めることでしょう。

ドラマの後半で、実資の健康相談や愚痴を聞く役目は、まひろに回ってくるのかもしれません。

周明(光る君へ)
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もしも皆さんが、当時の医薬品を思い浮かべるのであれば、正月に欠かせない「屠蘇」がおすすめです。

あれは伝説の名医・華佗が調合した薬品由来とされ、本国では廃れ、日本にのみ残った慣習です。

屠蘇に含まれる定番である陳皮(ちんぴ)は、ミカンの皮を乾燥させたもの。

当時はそれすらかなり貴重なものだったでしょう。

 

生活を彩るペット

大河ドラマ『平清盛』には、藤原頼長のペットとして鸚鵡(オウム)が登場。

『光る君へ』でも、越前の宋人たちが中央に贈り届けた品目の中に鸚鵡がいて、藤原実資が早速からんでいましたよね。

あるいは源倫子が飼っている小麻呂も、中国由来の「唐猫」(からねこ)であると思われます。

父・冷泉天皇中宮である昌子内親王に、花山天皇が猫を贈った時、わざわざこう詠みました。

しきしまの 大和にはあらぬ 唐猫の 君がためにぞ もとめ出でたる

日本生まれの猫でなくて、正真正銘の唐猫を、あなたのために見つけて来ましたよ。

この日本の猫というのは、ヤマネコがペットとなったものか。はたまた先祖が日本に居着いた唐猫の子孫か、そこは不明です。

ともあれ「わざわざ輸入品を探しました」と詠むくらいですから、相当ブランド意識があったのでしょう。

あの小麻呂も、娘を溺愛する父が求めたのかと思うと微笑ましいですね。

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音楽

光源氏たちが舞い踊る「青海波」はじめ、当時の音楽は【唐楽】や【高麗楽】と呼ばれます。

海外から伝えられた楽で踊ることが定番化しており、単なる遊びではなく天に捧げる聖なるものでした。

平安貴族が音楽を奏でる場面は、それは優美で楽しそうに見えるかもしれません。

実際は、立派な振る舞いや精神性を見せつけるための儀礼でもあります。

『鎌倉殿の13人』では、音楽に対して舐めた態度をした三浦義村に、生真面目な畠山重忠が怒りを見せました。

坂東武者だって、音楽は真面目にするものだと考えています。あれは義村がおかしいのです。

源氏物語』には、音楽と紫式部の漢籍教養を見せつける場面もあります。

須磨に流された光源氏が奏でる曲名は「かうれう」でした。漢字ですと「広陵」であり「広陵散」のことを指します。

この曲名を読むだけで、読者はグッと涙がこみあげかねない、素晴らしいセンス。それには、こんな由来があったからです。

魏の時代、嵆康(けいこう)という人物がいました。

魏の皇族と近く、魏から政権簒奪を狙う司馬昭と鐘会は彼を疎んじ、微罪で処刑を決めました。

琴の名人である嵆康は、処刑の前に自作の「広陵散」を弾き、自らの死によってこの曲も失われてしまうのかと嘆き、斬られたのでした。

曲名だけで、この悲劇が思い浮かぶんですね。

さしたる罪もないのに都から落ちた光源氏はなんてかわいそうなのだろう!

そう号泣するポイントです。

嵆康本人からすれば「俺は光源氏みたいに、女がらみでスキャンダル起こしたわけじゃない!」とぼやきたくなるかもしれませんが、嵆康も中国史屈指の美男であり、光源氏にはピッタリといえます。

竹林の七賢として描かれる姿はおじさんですが、最近の中国アプリではかなりのイケメンとして描かれております。

『鎌倉殿の13人』では、結城朝光から琵琶を習った実衣がメロメロになっていました。

あれは彼がイケメンというだけではなく、彼女に対する

「琵琶が似合う美女といえば楊貴妃ですね」

という言い回しにもポイントがあります。

音楽と中国を絡めることで、心に触れるくるポイントが急上昇するのです。

しかし、庶民にとって「散楽」のような音楽は、単に楽しむためのものでしかありません。

こうした庶民的な感性は必ずしも悪いものではありませんが、拡大解釈することは危険でもあります。

大河ドラマ『青天を衝け』の主人公である渋沢栄一儒教理解は、渋沢が研究者でもないせいか、極めて自分勝手でおかしなものがあります。

例えば『論語』「述而」にはこうあります。

子、人と歌いて善(よ)ければ、必ず之(これ)を返さしめて、而る後に之に和す。

孔子は、誰かと歌って相手が優れていると、必ずその相手に繰り返し歌わせて、自ら一緒に歌っていた。

それが渋沢栄一の『実験論語処世談』にかかるとこういうことになります。

孔子は聖人君子のようだが、そういうわけでもない。

誰かと一緒に嬉しそうに合唱することだってあった。

つまり、宴会では可愛いお姉ちゃんと歌ってたんじゃね?

これを知ったら、藤原為時にせよ、紫式部にせよ、ため息をついて「あの学問が嫌いな惟規だってこんなこと言わないよ!」と嘆きそうな話です。

字面だけ追いかけ、自分の経験やセンスで判断すると、間違うということでしょうか。

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