延文三年＝正平十三年（1358年）10月23日は、江戸高良（えどたかよし）という武士が落雷に遭った日です。
「ただ運の悪い人の話？」と思われるかもしれませんが、それまでの経緯を見ると「バチが当たっても仕方ないかも……」と思われるかもしれません。
いったい何が起きていたのか？ さっそく振り返ってみましょう。
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観応の擾乱で足利家が同士討ちをしている間に……
「延文」と「正平」という元号だったこの年の日本は、南北朝真っ只中の時代でした。
といっても楠木正成や新田義貞など、特に南朝における（後世から見た場合の）主要人物たちは舞台を去っており、その子供たちによる争いが依然として続いていました。
その中にいたのが新田義興（よしおき）。
義貞の次男です。
『矢ノ口渡合戦にて義興戦死図』歌川国芳／wikipediaより引用
義興は 延元三年（＝建武五年/1338年）閏7月2日に父が亡くなった後、越後に潜伏して機をうかがっていたとされています。
そして足利家の壮大な兄弟ゲンカ【観応の擾乱】が始まると、正平七年（1352年）閏2月に親族や奥州の武士と呼応して兵を挙げ、一時は鎌倉を奪ったものの、結果として失敗しました。
ちなみにこのときの協力者の中には、マンガ『逃げ上手の若君』の主人公・北条時行もいました。
義貞は鎌倉を攻略した当事者ですので、この頃になると時行の中で
鎌倉奪還＞＞＞＞父の仇
という価値観になっていたんでしょうか。鎌倉を取り戻せないと満足に供養もできませんしね。
※以下は北条時行の関連記事となります
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史実の北条時行はどんな人物だった？漫画『逃げ上手の若君』のように戦い続けた？
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さらにいうと、時行にとって三回目の鎌倉奪還チャレンジとなったこの年の翌年（1353年）、彼は足利方に捕まり処刑されることになります。
一方、義興はまだ諦めません。しかし慎重に時期を待ちました。
そして延文三年＝正平十三年（1358年）に尊氏が亡くなったことを知り、義興らは再び鎌倉を奪うために兵を挙げます。
ちなみに義興は元徳三年（＝元弘元年/1331年）生まれですので、父が亡くなったとき数え8歳。
周りの家臣たちがよく教育してきたのでしょうけれども、逸らずに機をうかがったあたり、なかなかの才覚が感じられますね。
ハニートラップにも引っかからず
これに対し、尊氏の息子で鎌倉公方を務めていた足利基氏らは、部下に義興軍の迎撃を命じます。
冒頭に登場した江戸高良は、その部下の一人だったのです。
戦ではなかなか義興に勝てないので、別の人が義興に美人局（つつもたせ・いわゆるハニートラップ）を仕掛けてみたりもしたのですが、これもうまくいかなかったので、高良に話が回ってきたそうです。
高良は一計を案じ、義興一行の十数名を武蔵国・多摩川にあった「矢口の渡し」というところで罠にかけて殺害しました。
『神霊矢口之渡』歌川国貞 ／Wikipediaより引用
渡し船に乗っているところで、櫓（船を漕ぐアレ）を落としたと見せかけ、「探しに行く」と偽って船底の栓を抜いたのだとか。
さらに矢を射かけ、義興は「もはやこれまで」と観念して腹を切った……といわれています。
高良への落雷は義興謀殺からわずか13日後
そろそろ話の流れが読めてきた方もおられるでしょうか。
延文三年＝正平十三年（1358年）の10月23日（ただし旧暦）、高良が落雷に遭ったのは、「義興の祟りだ」といわれているのです。
なんせ義興が謀殺されたのが同年10月10日ですから、たった13日しか経っていません。
当時の人からすれば、「義興の祟りだ！」と見られてもおかしくない話です。
雷＋祟りといえば菅原道真と清涼殿落雷事件も連想されますが、道真の死から落雷事件までは27年ほど開いています。
上下の画像共に『北野天神縁起絵巻』に描かれた清涼殿落雷事件／wikipediaより引用
まあ、武家のほうが気が短いというか、リベンジに積極的なイメージがありますよね。
ちなみに落雷ではなく「江戸高良は、新田義興に取り憑かれて狂死した」なんて説もあるようです。こっわ。
ちなみに義興は義貞の側室の子で、父からはあまり好かれていませんでした。
しかし後醍醐天皇に認められて「義興」の名を与えられてやる気を出し、一族再興のため・父の無念を晴らすために挙兵したという経緯があります。
健気でもあり純朴でもあり、情の濃そうなイメージが浮かび上がりますね。
そんな人が戦で負けて死ぬのならともかく、謀略で殺されてしまったのですから、恨み骨髄に徹するというものでしょう。
計略も兵法のうちですけれども、義興には卑怯としか思えなかったでしょうね。
現在この付近（東京都大田区矢口）にある新田神社は、地元の人々が義興の霊を慰めるために建てられたのが始まりだとか。
神社で祀られるようになってからは、義興の霊も鎮まったようで、武運長久や旅人の守り神になりました。
江戸時代には平賀源内がこの神社と新田義興に注目し、仲間とともに浄瑠璃・歌舞伎の「神霊矢口渡」という作品を書いています。
これが大当たりし、新田神社へお参りする人も増えたのだそうですよ。現代でいえば「聖地巡礼」ですかね。
幽霊や祟りや神様が実在するかどうか――それはまた別の話ですが、恨みを晴らした後にサッと大人しくなるあたりに、何となく人間だった頃の性格がうかがえる気がするような。
祟り神を祀る神社は多々ありますけれども、この21世紀になってもバリバリ怨霊な感じの神様もいらっしゃいますし……くわばらくわばら。
さて、上記の通り義興は次男なので、当然長男や他の兄弟もいます。
彼らは義興が戦っていた頃、どうしていたのでしょうか。
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