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【出師表】
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曹操の才を認め 本人は自信を持たず
『後出師表』を読んでわかるのは、諸葛亮自身が自分の軍事的才能にそこまで自信を持っていなかった、という点です。
そのことを「蜀書」で指摘されただけで、あそこまで叩かれた陳寿は一体どういうことなのか……そう言いたくもなりますが、それが史実であるとは思えます。
三国志フィクション作品による「諸葛亮 被害者の会」陳寿が最も哀れ也
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むしろ劉備ともども、曹操の圧倒的な才能を認めていたこともわかります。
フィクションでさんざん敗北を誇張される曹操ですが、その軍事的な才能の評価は高い。なんといっても『魏武注孫子』があるほどです。
あの曹操が兵法書『孫子』に注釈をつけた『魏武注孫子』は今も必見の一冊である
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中国の歴史には、曹操ほど軍事的な才能がなくとも、王朝を開いた人物はいるように思えます。
では、なぜ曹操は天下を統一できなかったのか?
規格外の英雄その名は曹操!乱世の奸雄は66年の生涯で何を夢見ていたか?
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そのことは、歴史に残る謎です。諸葛亮もその謎を考えていたことがわかります。
彼本人の言葉からは、フィクションで肉付けされた像との違いも見えてきます。
彼自身、軍事的な才能はないとわかっている。
それでもやる!
その前のめりな決意が、随所に現れています。
この姿勢が、後世を生きる人々に勇気を与えてきました。
蜀に追い詰められた諸葛亮のように、故郷や国を失った人々。
目標や大志をつかめず、挫折を味わっている人々。
危急存亡のときを迎え、踏み出すために現実と直視する人々。
そんな彼らの胸に、この名文がどれだけ響いてきたことか。
普遍的な感動が、そこにはあります。
諸葛亮がいてよかった!
世界史の教科書で三国時代を調べ、わずか数行で終わる記述にガッカリしたことはありませんか?
諸葛亮が生きた時代は、長く続く魏晋南北朝時代の初期にあたり、史料も少なく、歴史的な重要性という意味ではあまり大きくありません。
劉備と諸葛亮の願いは叶わず、天下は乱れ続けます。
三国時代の英雄たちである劉備、曹操、孫権は、誰も結局は統一をつかめません。
後味の悪い魏の乗っ取りによって、司馬懿の子孫たちが東晋を建国。
※司馬懿が主役のドラマは爽快感からは程遠く……『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』
ボケ老人のフリして魏を滅ぼした司馬懿が恐ろしい~諸葛亮のライバルは演技派
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その東晋も長続きはせず、天下は乱れに乱れました。
人口の七割が激減したという見方もなされるほど、激動の時代です。
前漢から続く気候の寒冷化。
統計が乱れに乱れてしまうほど、乱れる政治。
人の命も生活も破壊され、何もかもが根底から変わってしまう――そんな困難が待ち受けていたのです。
極寒の三国志~曹操があまりの寒さに詠んだ詩が凍えるほどに面白い
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そんな苦い歴史を考えると、諸葛亮がいてよかったのだとしみじみと思えてきます。
あんな大変な時代に、命ある限り、忠義を尽くすために、困難に挑み続ける人物がいた――彼こそが諸葛孔明!
その姿を思い、文章から伝わってくる悲愴感を味わうと、どうしたって心を動かされてしまう。
道理でも勝敗でもない、人の心を動かすものが湧き上がってくる。
だからこそ、人はこの文章を読み続け、感動してきたのだと思えます。
この世界に困難と、それに挑む不屈の意思がある限り、『出師表』は今日も誰かを感動させ、諸葛亮の生き方は誰かを泣かせ続けるのでしょう。
後味の悪い司馬懿親子による東晋建国に至るまでのこと、そして初めて『三国志』に触れたときのことを思い出すと、しみじみと諸葛亮がいてよかったと思えてきます。
彼の生き方と『出師表』には、知恵だけではない、忠義や徳といった、めざすべき姿があると思えるのです。
諸葛亮の人生と言葉は、コロナ禍という危機に直面する現在を生きる人々のことも、きっと勇気づけてくれることでしょう。
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絵:小久ヒロ
文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
守屋洋『中国古典の名文集』(→amazon)
『正史 三国志』(→amazon)
他