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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第3回千客万来『一目千本』】
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田安賢丸の養子問題
「蔦重が鉄槌を下され……」と稲荷ナビが語ります。
この「鉄槌を下す」という言葉も『史記』由来ですから、江戸時代の教養が進歩したとわかる言葉ですね。
そのころ田沼意次は、ある問題に直面していました。
白河藩松平家が、田安賢丸を養子にと強く望んでいるというのです。
一度は断った話なのに、どうして蒸し返されるのか。
田沼家の用人である三浦庄司がからくりを説明します。
要するに徳川吉宗の血を引く孫を養子とすることで、家の格をあげたいんですな。
先代は将軍を継ぐことを目指していたためか、断ったものの、二代目となってまた蒸し返されているとか。
江戸期のこういう大名同士のマウンティングは陰険。
この時代は戦がないので、かえって、しょーもないことでやりあってしまうんですね。
映画『殿、利息でござる!』は、田沼時代のそうした大名同士のプライドが背景にあります。
伊達重村が、薩摩藩の島津重豪と官位で張り合ったせいで領民が苦しむという話です。
※以下に関連レビュー記事がございます
江戸期の限界が見えて勉強になる~映画『殿、利息でござる』レビュー
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煙管を吹かしつつ、この話を聞いている意次。
意知は、この話を蒸し返したら煙たがられるのではないか?と気にしていますが……これも江戸中期のしょうもないところかもしれません。
紀州藩ルーツの田沼意次は、幕閣からみれば新参者です。
大名同士の揉め事を解決し、そこで恩を着せることで、権力を確たるものとできる。
前述した伊達重村も、田沼を通して猟官運動をしていたものです。
こういう意味のないパワーゲームをして消耗し、さらにそこで贈収賄もあったことが、田沼意次の評価が割れる一因なのでしょう。
SNSでは「田沼の贈賄は捏造!」といった極論も出ておりますが、そうとは言い切れません。
田沼意次は全くの白い政治家というわけでもないのです。
以下に意次の事績まとめ記事がございますので、よろしければ併せてご覧ください(記事末にもリンクが掲載されています)。
田沼意次はワイロ狂いの強欲男か それとも有能な改革者か?真の評価を徹底考察
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血筋に閉じ込められる江戸中期
さて、舞台は江戸城へ。
田沼意次は、10代将軍・徳川家治にこの養子話を持ち出します。
一度決したはずだと難色を示す家治。
すると意次は、先日の豊千代出産祝いで賢丸に叱られた話を持ち出します。
あれほど政治において高い志を持つ英名な賢丸が、政治を行わずにいることは哀れではないか?と。
類稀なる才能が発揮できる機会が、未来永劫訪れるのか。
そう誠意あふれる眼差しで語りかけると、家治は考え込んでしまいます。
意次は、誠心誠意をもって語れる正直者です。そのことを家治は深く信頼しています。
しかし、これはどういうことか。
あの豊千代誕生祝いの席で、一橋治済と清水重好は「なすべきこととして子を成している」と語り合っていました。
御三卿とは、将軍の世継ぎがいないときに供給するためだけの家であって、御三家とは異なり領地を統治する機会はありません。
確かに子作りだけが責務といえる。そこを意次は持ち出したといえます。
江戸時代の身分制度の残酷さが見えてきました。
名門武家に生まれたら食うに困ることはない。しかし、何をすることもなくただの「スペア」として生きるしかないこともあるのです。
そんな無聊を慰めるための文化も発達する。
かくして田安治察は、弟に養子の話を持ち込むのですが、治察の母である宝蓮院が「甘言でございます!」として断固反対。
江戸時代、女性が政治に口を出さなかったというのは誤りです。
世継ぎの母ともなれば政治に権限がありますし、夫婦経営の商家では女性も経営に参加しました。
吉原のりつのように、女将が最高位権限を持つ場合もあります。
賢丸は「兄が世継ぎを得てからのこととしたい」と粘ります。
兄の治察は見るからに虚弱そうですから、この懸念はもっともなことでしょう。
実際、治察も懸念しているためか、まさかの折には呼び戻せるという許可を家治から貰っていました。
迷う賢丸。
松平武元は、この話を聞くと「黙れ!」と叫びます。そして甘言で上様を丸め込んだのか!と続けると……。
「今のお言葉、上様が私ごときに丸め込まれたということになります」
そう冷静に返し、その旨をお取次申し上げてよろしいのかと確認する意次。
こう言われると返す言葉もなく「無用じゃ!」と返すしかない武元。
安永3年(1774年)3月、かくして田安賢丸の養子縁組が決まりました。
これを前年の一橋豊千代と比較してみますと、豊千代の上にある重石が取れたことがわかります。
河岸の女郎を救いてえ!
重三郎は『細見』の改をどうするのか――そう唐丸と話しながら吉原の通りを歩いています。
すると、旅姿をした音羽という女郎と遭遇します。なんでも新潟の古町に売られていくのだとか。
「おさらばえ」
そう言われ、歩いていく後ろ姿を悔しそうに見る重三郎。
音羽を救うことはできなかった。重三郎は唐丸を帰らせ、河岸の二文字屋へ向かいます。
そこには病気になった女郎たちが寝ていました。肺結核や梅毒の症状が見て取れる。
女将のきくは、弱々しくこう言います。
「もう、見世をたたんじまおうかと思ってるんだ。女郎なんて売られてきて他に生きる術がない。とりわけここにくるのは大店なんかじゃ弾かれちまう女たちさ。この娘らはわっちが手を離したら終わりだと思ってやってきたけど、もう……」
「女将さん、もうちっとだけ耐えてもらえねえすか。俺がなんとかするんで」
重三郎がこういうと、きくは怒り、こう言います。
「あんたにどうにかできるわけないだろ!
「どうにかします!よくします、こんな吉原……よかないんで」
そう決意を固める重三郎。
彼は人の苦しみを見捨てられない、侠気あふれる男です。
さて、九郎助稲荷に手を合わせる重三郎。
「どう思う? 今、これしか中橋じゃねえかと思うんだよ」
稲荷はなかなか危ない橋じゃないかと思うと返すものの、人にその声が聞こえるわけもなく、それでも重三郎は決意を固めています。
「じゃあ行ってくらぁ」
さて、どうするつもりか?
長谷川様を騙すしか、中橋!
重三郎は花の井をそっと呼び出し、頼みがあると言います。
さて、何でしょうか。
するとそのあと、長谷川平蔵がズカズカと走っていく。
この走る姿が日本らしいナンバ走りで味がありますね。見た目はいつも格好いいのによぉ。
平蔵は宴席を開きました。
今日も豪華な料理が眼福。平蔵は鏡を何度も覗いては、自分の見た目ばかりを気にしている。
「お待たせいたしんした」
そこへ花の井が来ました。
態度が軟化しており、平蔵と口をきくようになっていますね。
「花の井、一世一代の頼みとはなんだ?」
花の井は「入銀本」の話が持ち上がっていると言い出します。
「入銀本」とは金を募って作る本のこと。
現代で言うならば「クラウドファウンディング」に近いでしょうか。
クラファンというと近年の発想のようで、江戸時代から既にありました。
寺社仏閣の再建だとか。
推し作家の活動資金だとか。
そうしたものをみんなで出し合うイベントがあったのです。
このドラマでも、クラファンで資金集めをする場面はこれからも出てくることでしょう。
花の井はそんなクラファン本で平蔵を騙しにかかります。
なんでも入金額で順序が決まるようで、好かない女郎が三十両入れた、そして柳眉を顰めつつ、こう来ました。
「悔しいおす、わっちは何としても、本の頭を飾りとおす!」
そう花の井が胸に寄り添ってきたら、平蔵の鉄腸も蕩けますぜ。
ここで禿(かむろ)や振袖新造も揃って「拝みんす、長谷川様」と頼み込んできます。
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