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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第11回富本、仁義の馬面】
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マッドサイエンティスト源内が蔦重で人体実験
蔦重は平賀源内のもとへ行きます。
吉原嫌いの馬面太夫に、吉原の祭りに出てもらいたい。そのため源内さんに間を取りもって貰おうと考えていたのですが、源内は何か妙な機械に夢中。
新之助が応対しますが、こんな調子では無理でしょう。
源内先生、実験に夢中です。
新之助は機械からのびるケーブルを手にして、蔦重の頭を触ります。
「火ィ出ねえか?」
「残念ながら」
何やってんだよ。いきなり人体実験かよ。完全にマッドサイエンティストじゃねえか! 蔦重の頭ぶったたいでこれですからね。
「こんにゃろう、なんで火が出ねえんだよ」
「いてっ! 俺から火が出るわけねえじゃねえっすか」
「出るんだよ」
「あいてっ」
エレキテルすね。

平賀源内作とされるエレキテル(複製)/wikipediaより引用
出たら悪いとこが治っちまう。病が治っちまう。こりゃそういうとんでもねえ品物なんだってよ。
ますます怪しいことを言い出す源内先生に「じゃあ悪くねえってことだ」と蔦重が返す。
彼の理解だと、病がなければ反応しないってことになりますね。
源内は「そういうことじゃねえんだよ」と蔦重を引っ叩いて、手に汗がついたところで閃きます。
水が伝導を阻害させてるってことかい。新之助はああなってしまってはもう話は難しいと言いました。確かにそうだ。私から伝えておくと約束してくれます。
でも、ここはエレキテルよりも、うつせみと新之助のことが気になりますよね。
新之助は、あの足抜け事件のあと、切腹を止めてもらったお礼を言います。地道にうつせみの身代金を貯めることにしたんだとか。
三百は無理にせよ、なんとか工面して談判をするつもりだそうですぜ。道は遠い。でも一歩ずつがんばるってよ。
なんか新さんがこういうことを言うと切ねえな。
時代劇モブ浪人も、こういう金欲しさに水戸黄門なんかを襲ったりしていたのかと、悲しくなってきまさァ。あれは江戸の「闇バイト」に引っかかったみてえな話だよな。
ここで視聴者が気になるうつせみのことでも。
蔦重曰く、近頃は和算書を借りているんだとか。
吉原を出た後、身を売る術しか知らないのでは困ると目覚めたそうですぜ。女将いねの「夜鷹になるしかない」という言葉で悟ったんでしょうね。これも泣けるじゃねえか。
男の嫉妬が、太夫を吉原嫌いにしたのさ
蔦重は、自分が抱いた吉原を盛り上げるという壮大な夢を思い出しています。
そのためには馬面太夫が必須だ――そう思いつつ蔦屋に戻ると、りつと次郎兵衛がいました。
次郎兵衛は、馬面太夫が吉原を嫌う理由を探り当てています。彼の人柄と人脈のおかげですね。
次郎兵衛はコミュ力強者なので、情報収集には向いています。彼みたいな無害な人には、なんでも喋っちゃうでしょう。
それによると、なんでも馬面太夫は売れていない頃に、駆け出しの市川門之助と、素性を偽って吉原に客としてあがったことがあったようです。
ところが門之助の面を知っている客がいて、バレちまった。
見ぐるみ剥がれて褌一丁に剥かれて大門の外に放り出され、水までかけられちまった。
追い出したのはあの若木屋です。
ここの場面は痛々しいっちゃそうなんですが、馬面太夫も門之助も綺麗な真っ白い褌でね。洒落てんじゃねんか。
別にこちとら助平心で言ってんじゃねえよ。江戸の男は褌もチェックされるもんでさぁ!
その気合を入れた褌と、若木屋の言葉の対比が辛い。若い二人が精一杯洒落込んで来て、この仕打ちですよ。
「嘘ついてあがり込みやがって! 役者なんぞにあがられたら、うちの畳が総取っ替えにならぁ! 二度と大門潜んじゃねえぞ。稲荷町が!」
そう怒鳴られちまったんですね。
次郎兵衛が「出禁は役者だけじゃないか?」と聞くと、ろくに確かめもしなかったんだろうとりつが答える。
この辺も曖昧なもんで、舞台に上がるもんは同じという理屈もつけられなくはないのですが。
次郎兵衛が、役者のもぐりなんてよくある話だというと、りつは悔しそうにこう言います。
「気付いた客が野暮だったのさ。俺の女を役者に抱かしてんのかって言い出して。門之助はいい男だからねぇ。男の嫉妬ってやつさ」
うん、言いたいことは、すげーよくわかる! ほんとうに秀逸なセリフさ。
今週のりつは、推しをする女の情念がバッチバチに出ていて本当にすごい。
息の吐き方からセリフの区切り方、目線から口元まで、感情の揺らぎやくやしさ、惚れた心境が余さず出ています。
女の敵は女とかいってよ。ババアが若い女に嫉妬するみてーな話ってよくあるじゃねえか。あるいは、女同士が胸の大きさ比較してバチバチ火花を散らすとかよ。
ああいうプロットは往々にして男性作者だったりするんですけど、男同士がそうだから女にも当てはめてんじゃねえかと思っておりやして。
認めたくねえし、そんな女みてえなことしてねえって否定すんだろうけどよ。
男だって自分よりイケメンはなんかムカつくし、ジジイだって若い男に嫉妬するもんでしょ?
大河記事でも今年みてえに若いイケメンが目立つと、男性向け媒体がしょうもねえ叩きをしたり、認めてやるみてぇな記事出したりすっけど、野暮の極みだと思いやすぜ。
そもそも、なぜ役者は吉原出禁なのか。蔦重がそう疑念を抱くと……。
「そりゃ役者は分としては四民の外、世間様の外だからだろ」
次郎兵衛が答える。「河原者」とか「河原人」あるいは「河原乞食」なんて言い方もありました。
能役者だって士分の者はいるし、浄瑠璃の太夫だってそうだ。という蔦重のセリフも伏線ですかね。
東洲斎写楽は、阿波徳島藩蜂須賀家お抱え、士分の能役者説である斎藤十郎兵衛説でほぼ確定しております。
実は葛飾北斎の変名であるなんて捻った説やらなにやらありますが、東洲斎写楽の正体云々はもう落ち着いた話なんですね。
浄瑠璃の「太夫」だって尊称。
と、これがどうにも複雑怪奇で、吉原だってかつて最高級の女郎は「太夫」でした。
四民の外と言っても、そういう尊敬をされる者もいる。なのになぜ役者は駄目なのか。
蔦重が納得できないでいると、りつがまとめます。
「ほっといたら、みんな憧れられちゃうからさ。売れりゃあ騒がれるし、千両の給金だって夢じゃない。けど、みんなが役者なんか目指したら、まともに働くやつなんかいなくなっちまうじゃないか。そうならないよう、役者は四民の外の分ですよってしたのさ。どれだけ煌びやかでも、まっとうに働いてるもんが、所詮世間様の外って吐き捨てられるようにしてるってことさ」
「お上の都合ってことか……」
ここで、りつのセリフに合わせて、まっとうに働いていない次郎兵衛のツラが映るのがジワジワと笑えてくるんですけどね。
りつの言い分もそりゃそうで、今だってその辺の連中がみんなYouTuberを目指したら、そりゃやべえじゃねえすか。
つーわけで、そろそろ規制なんかも入ると思うんすけどね。
「ひんむきゃみんな、人なんて同じなのにさ! これは違う、あっちは別って、垣根作って回ってさ。ご苦労な話だよ!」
そうりつが本質を吐き捨てると、蔦重は若木屋が発端じゃあ謝ってくれねえとぼやきます。
するとそこへ大文字屋が飛び込んできて、馬面太夫を呼ぶ策を思いついたんだそうで。
浄瑠璃の元締めは当道座。盲人組織ですな。
で、その元締めといやぁ検校よ。つまり、鳥山検校に話をつけられるってコトだ!
鳥山検校とその新妻の瀬以
かくして大文字屋と蔦重は鳥山検校の屋敷へ。
蔦重はどうにも気が乗らないし、瀬川の迷惑になるんじゃないかと気が気でないようで落ち着きません。
障子を開けると、懐かしいようで、ちょっと変わってしまったような、彼女の声が……。
「重三!」
そこにいたのはすっかり御新造らしくなった、瀬川の姿でした。
今では「瀬以」と名乗っているそうで、なんとも清楚なことよ。
「吉原から客が?」
そこへ鳥山検校が案内されてきます。
彼の耳には、楽しそうに語らう妻と客の声。
瀬以は、蔦重が富本を知らなかったことに、カラカラと笑い転げています。ちゃんと耳掃除してんのかとからかっています。
「ずいぶん楽しそうだな、お瀬以。もう花魁瀬川ではない。私の妻だからな。その方らは?」
そこへ鳥山検校が入ってきました。
大文字屋と蔦重が名乗り、頭を下げると、検校は蔦重の声に何かを感じているようです。
大文字屋の策はこうだ。
馬面太夫の襲名を実現させたい。そのためには当道座に根回しをせねばならない。それで恩を売って吉原に招きたいってことですな。
しかし、当道座には他流の三味線も多い。
ここで蔦重が切り出します。
「鳥山様、馬面太夫の声をお聞きになったことがございますか?」
蔦重は先日初めて聞き、世の宝だと思ったそうで。無意識かそうでないのかわかりませんが、蔦重は自分のセンスに自信があるんですね。
みんなが褒めているからよいと思うのではなく、自分で聞いてよいと判断する。そういう確固たる筋があり、自信があるからこそ、いろいろプロデュースできるんでしょうね。
彼の第一最大の味方は、自分自身の感性――そこを朋誠堂喜三二も嗅ぎつけてきてます。
その上で是非一度お聞きになって欲しいと訴えている。
蔦重とすれば、検校の感受性をも信じているのかもしれません。それこそ、こういうやりとりは瀬川とよくしていたものです。
しかし、なんとも残酷なことに、かつて瀬川だった女がこのやりとりを聞いている。
彼女はもちろん富本節は人気だと世間の声を聞いている。それだけでなく、蔦重のセンスもわかっている。
もしも決定権が彼女にあれば、飛びついて今すぐにでも聞きに行ってもよいところでしょう。
しかし、実際に決めるのはあくまで彼女の夫。この鳥は籠から逃れ、別の籠に入ってしまったのかもしれません。
瀬以は夫にこう語りかけます。
「旦那様、私も聞きとうございます。今度、共に参りませぬか」
「……人が多すぎるところは苦手でな。耳が音を拾い過ぎるのだ。そなたがそれでも行けと言うなら行くが」
聡明な鳥山検校は、自らと蔦重を秤にかけたのでしょう。
瀬以が困っていると、その状況を打破したのは蔦重でした。
「……いや〜、ごめんごめん、ひょっとこお面! 俺が考えなしでした。御新造様も、気まずい重いさせてすまなかったな」
蔦重は自ら秤を下りました。そして話を打ち切って帰るよう、大文字屋を促します。
詫びる鳥山検校に、話を聞いてもらえた礼をいい、強引に大文字屋を連れて行く蔦重。
「重三!」
短い声音の中に精一杯の未練を含ませた声をあげ、瀬以が立ち上がると、夫がその袖を取りました。
「随分とそなたに優しい男だな」
「ああ……重三は女郎には皆優しいので」
「脈が早い」
「そりゃあ、旦那様にこのように触れられては」
瀬以はそう言いますが、果たして誤魔化せているのやら。
りつが指摘していた“男の嫉妬”が重大深刻なかたちで出ているようで……どうなっちまうんだか。
籠の鳥に外を見せたくて
大文字屋が吉原に戻ると、検校を相手に「粘らねえでどうしんだ!」と不機嫌そうにしております。
二人がどこまで気付いているかわかりませんが、敗因は、瀬以の居るところに蔦重を伴ったことですよね。
りつなら、蔦重の同行を止めたかもしれません。
蔦重が次の手で悩んでいると、あのお騒がせ女郎のかをりが「うふん」と蔦重にしなだれかかってきました。
「かをりも連れてってくださんし」
蔦重が困ってもこうだ。
「主さんとなら、たとえ火の中、水の中! 道行の果ては極楽浄土〜!」
「おめえ!」
大文字屋が怒ると、蔦重は誤解を解こうとします。するとそこへ志げがビシッと棒を振り回しつつ、乗り込んで来ました。
「ぶつよ!」
かをりもおとなしく離れました。
「ったく、芝居じみたこと言いやがってよ」
「お座敷で師匠方があれこれやるのを覚えちまって!」
そう吐き捨てる大文字屋と志げ。
「けんど、わっちは籠の鳥。まことの芝居など見たことありんせん。主さん、いつかわっちの手を取り、芝居町へ」
かをりはそう訴えます。
これは悲しいねえ……実際に蔦重を愛しているというより、芝居の中に入り込みたい現実逃避ですかね。
「これだ! かをり、それだ!」
蔦重は閃いたぜ!
蔦重って、人助け精神、要するに侠(きゃん)を発揮するとなると敏感ですね。
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