べらぼう感想あらすじレビュー

背景は喜多川歌麿『ポッピンを吹く娘』/wikipediaより引用

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第21回蝦夷桜上野屁音 えなり道廣どこまで外道?

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第21回蝦夷桜上野屁音
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蝦夷地を天領とすれば幕府は…

将棋盤を挟み、徳川家治田沼意次が語り合っています。

意次は先日の宴のことを告げているようで、家治も「一橋は外様と仲が良い」とは認めています。

それにしても思った以上に昵懇(じっこん)だと言葉を濁す意次。

家治は「機嫌よく遊んでおる分にはよいのではないか」と言うと、意次は本題に入ります。

「実は……蝦夷地の上知を考えております。そこで港を開き、オロシャとの交易を初めてはいかがかと。加えて蝦夷地では金が採れるという噂も。それをあわせて進めれば、幕府の御金蔵を根本から断ち直せることができるのではと」

「その企みが知れれば、松前は一橋に頼み、止めに入るということか」

「一橋様のお考えは、つかみどころがありませんが恐らくは……」

水魚の君臣たちは瞬時に理解し合います。

しかし、意次は弱気にもなる。

「やはり、よしましょう。豊千代様が西の丸に入られた今、何が起こるやも……」

「やるべきであろう。どんな者が将軍になろうと、揺るぎない幕府を作る。そのために入り用なことがあれば」

そう言われ、意次は頭を下げるしかありません。本質的に徳川家治が聡明であることも伝わってくる。

ここで2027年大河ドラマ『逆賊の幕臣』予習タイムを少々。

もしも、この場面で田沼意次が主張していた政策が実現していれば、小栗忠順たちはどれだけ助かったことか……。

小栗忠順/wikipediaより引用

ロシアはめげずに何度も何度も交易を求めてきて、それが結果的に幕府権威にヒビを入れます。

ロシアが武力行使した際、反応できぬとなれば、武威でもって世を治める武士の名目は丸つぶれ。

松前藩の規模では蝦夷地全域を守り抜くことはできませんので、ロシアの存在を察知したのであれば、交易要求を受け入れるか、跳ね除けるにせよ幕府が責任をもって防衛強化せねば、詰む状況です。

それが先延ばしにされた巨大なツケと直面するのが、田沼意次の後進にあたる小栗忠順ら幕臣たちなのです。

もうひとつ、一橋と外様の近い距離も、幕末となると小栗たちにとっては眉を顰めたくなるものでしかありません。

13代・徳川家定の跡目をめぐり、一橋慶喜を後継者とすべきだという運動が幕末に起こっています。

これは慶喜の器量が優れているという単純な話ではありません。

慶喜が将軍となれば、外様大名でも幕政に関わるチャンスを得ることができる――慶喜の父である徳川斉昭が、そうやって人参をちらつかせていた動きでもありました。

そしてこの体制は、慶喜が将軍後見職として京都に入ることで実現されるのですが、実に苦い結末を迎えることになります。

幕末の江戸っ子たちは慶喜に対して全く親近感がなく、「上様」や「公方様」ではなく、せいぜいが「一橋さん」呼び止まりでした。

そういう苦さのある一橋の要素とは、すでに治済の時点で芽生えていたのではないかと思えてきます。

 


“そうきたか”と言わせてこその蔦重だ

土山が開催した酒宴の翌朝、狂歌師たちが蔦重のもとへやってきました。

二日酔いどころか、迎酒ですからね。どんだけ金を使っているのやら。

歌麿がいそいそと蕎麦を運んでくるところが、実に江戸っ子らしい。

朝そばどころか昼そばだってよ。「ズズっ」と啜る所作もなかなか難しいはずで、上手にこなしています。

大田南畝は蔦重に寄りかかりながら、こんな風に詠んできました。

み心に つゆもたがはず正直に

おそばを去らず 長きよゞまで

蕎麦とかけてんのかい。うまいね。

蔦重はすかさず狂歌集出版を持ちかけます。

大田南畝(四方赤良)/国立国会図書館蔵

しかし南畝はピンとこない。以前やりたいと言ったことすら曖昧になっていて「んじゃ、ま、5年後くらいにな」となかなか人を食ったことを返してきます。

色んな本屋からオファーが舞い込んできて、大忙しなんだってよ。

なぜ一斉にそうなってんのか?と嘆いていると、元木網が「みんな頃合いを見ていたのだろう」と推察します。

でもこりゃ、金の流れなんじゃねえの?

土山みたいなでけぇスポンサーがじゃんじゃん金を出してりゃ、嗅ぎつけてくるだろうよ。

蔦重としては悔しい。己の嗅覚が優れていねえんじゃねえか、ってなりますわな。

彼は素直に、老舗の本屋との力量差を感じていると打ち明けます。奉公経験もないし、足りてないところがあるのじゃないかと悩んでいるわけです。

歌麿はそんな義兄を見つめています。

「けど、そこがいいとこじゃないか。だからこそ、ずっとやってるやつには出せねえもんが出せんじゃないか」

そう励ましの言葉を投げかけてくる南畝。せんべいのように薄い『吉原細見』に「そうきたか!」と驚いた。

菅江は俄の本である『名月余情』にグッときた。

そして元木網は『一目千本』からそう思っていたってよ。

元木網/国立国会図書館蔵

確かにあんときぁ、彼の湯屋に営業かけて喜ばれていましたもんね。

「そうそう。お前さんには“そうきたか”がお似合い」

南畝が結論づけ、蔦重は調子を取り戻します。

そして南畝に「青本」の依頼を出します。狂歌集とのタイアップで売り出すことを思いついたようですぜ。

来年は間違いなく四方赤良の年になる。そこで、耕書堂からは狂歌集ではなく、狂歌指南書を出してくれと依頼する蔦重。確かに狂歌の人口が増えれば、教科書が要り用になりますわな。

「はあ、そうきたか!」

南畝もそう納得し、歌麿も「蔦重、調子が戻ってきたんじゃねえ?」とニコニコ。

さらに何か思いついた様子の蔦重ですが……でもな、蔦重、おめえさん、諸葛亮役が要り用なんじゃねえかな。

桃園三兄弟よろしく、励ましてくる次郎兵衛と歌麿はいるけど、本家本元だって、諸葛亮を見つけねえと勝つには勝てても大勝利につながる策は出せなかったじゃねえか。

そう思えてきましたぜ。

いや、だって、北尾政演の戯作者としてのパフォーマンスを補ってデビューさせたのは、鶴屋じゃねえですか。

蔦重は企画を出すのは優れていても、ノウハウの未成熟な作家を育てることは不得手。

育て切った作家を引き抜いた方がいいんじゃないか?

それと諸葛亮の確保です。思えば瀬川はいい線いってましたが……次なるその枠の登場が待ち遠しいじゃねえか。

 


美人錦絵を売り出す蔦重、色の違いを学ぶ歌麿

蔦重が、忘八たちの前で作戦を発表しています。

捲土重来となる作は『青楼美人合姿鏡』のリバイバルでした。

勝川春章『青楼美人合姿鏡』/国立国会図書館蔵

本ではなく錦絵でやるそうですが、しくじりを知っている忘八は猛反対。そもそもがあれだって値段高騰で売れませんでしたもんね。

瀬川は喜んでいたけれど、それは蔦重個人の満足感って話だしなぁ。

しかし今回の蔦重は、きちんとした理屈でもって分析しています。

清長が受けている理由は、景色の中に美人を描くからだ。と、確かにそれはわかりまさぁ。江戸の景色の前に佇む美人は、伸びやかでいいもんですね。

そこを読み取り、吉原の景色の中に佇む女郎を描いてヒットを狙いに行くんだそうです。

問題は絵師でしょう。りつが「誰にすんだい?」と尋ねると、蔦重は「そんなの決まってんじゃねえですか!」と満面の笑み。

こいつもある意味進歩してんだか、してねえんだか。それこそ前回の『青楼美人合姿鏡』にしたって、瀬川の姿を是非とも絵に残したい欲求はありましたよね。

それが今回は、目の中に入れても痛くないほどかわいい、義弟の歌麿を世に出すためにそうしている。

なんて愛に溢れたヤツなんだろう。公私混同だけどさ。

場面変わって耕書堂へ。

歌麿が、ドキドキしながら摺師を見守っています。

煙管を吸っている重政も、見守る歌麿も、そして見守られる摺師・七兵衛の手つきも、何もかもが素晴らしく、当時描かれた絵が動き出したかのように見えます。

「はい、できましたぜ」

刷り上がった絵を見て歌麿は驚く。

「おお……す、すげえ! 元とは別もんだ!」

「だろ? ただ濃く擦りゃあいいってもんじゃねえ。絵の具を少なめにして板にむらなく伸ばし、しっかり摺り込んでって指示すりゃあ、そういう仕上がりになんだよ」

そうしてああいう浮世絵はできていくのですね。なんて素敵なのだろう。

蔦重が戻ってきて、嬉しそうに絵を見ている歌麿の姿を目にします。何か暗い顔に見えますが……歌麿はすかさず蔦重に絵を見せています。

「指図すりゃこうなるんだって、重政先生と七兵衛さんが教えてくれてよ!」

ここで重政が、素直に喜べない蔦重に気づいて何かあったのかと声をかけます。すかさず蔦重が謝る。

「歌麿すまねえ、此度は外れてくれ!」

なんでも忘八は、女郎の錦絵企画では歌麿には金が出せないと言い出したんだとか。

仕上がりも大事だけど、絵師のネームバリューも大事。ここが歌麿のネックで、師匠の名前など出せないわけですね。

 

歌麿の才能こそ最大の“そうきたか”

歌麿は納得したのか、誰に頼むんだ?と聞いてきます。

北尾政演にするのだとか。

師匠の北尾重政が「あいつは錦絵はやったことがない」と驚いていますが、それでも『岡目八目』というランキング本の「画工」で清長に次ぐ二番に入っているし、『御存商売物』の作者であるという点が評価されたのだとか。

鶴屋への対抗戦略でもあって、あちらが戯作で売り出すなら、こちらは絵師として売ろうという作戦を取るのだそうです。

歌麿は納得し「そりゃ“そうきたか”ってなるもんな」と言います。

蔦重は歌麿の素直さがますます申し訳なくなったのか、さらに謝るしかありません。

歌麿は蔦重に頭をあげてもらい、それだけの大仕事を頼むなら、忙しくなって政演ができなくなる仕事をやると言い出します。

「歌……あんがとな歌、あんがと」

「なんだよ」

そう涙ぐむ蔦重を重政がじっと見つめています。

蔦重が、七兵衛と重政を送り出します。

蕎麦を食べる江戸の町民・北尾重政作/wikipediaより引用

この七兵衛は、本職の摺師で73年のキャリアを持つ松崎啓三郎さんだそうです。お見事でした。本物の職人芸が見られるなんて、なんて贅沢なドラマなのでしょう。

重政はお礼を言われると「世話焼きは俺の性分だからよ」と明るく返しつつ、政演のことも頼み込んできます。

「……と言いつつ、俺ゃ、歌にやってほしかったけどねぇ。俺ゃ駆け出しのやつの絵は山ほど見っけど、そいつらが落ち着く先の画風も大体は読めんだよ。けど、歌はからっきし読めねえんだよなぁ」

そう言われ、改めて歌麿の可能性と未来を見つめるような顔になる蔦重。

そして決意を固めて耕書堂の中へ戻り、「歌麿の名をどんどん売る!」と宣言します。

「絵は、今のまま、人の真似でいい。人真似上手の歌麿でお前の名を売る。したらよ、世間は思うわけだ。“こいつ、どんな絵描きやがんだ”って。そこにどんとぶつけんだ。お前ならではのとんでもねえ画風の絵を」

歌麿は困惑しつつ、こう返します。

「蔦重、俺はさ、実のとこ、絵のことは気にしてねえから、名が上がるとかほんとにどうでもいいんだよ。屋根があって、飯食えて、絵描いて暮らせりゃもう十分……」

「俺がそうしてんだよ! お前は、蔦屋史上とびきりの“そうきたか”になんだ。俺がそうしてんだよ」

「……まぁ、蔦重がそう言ってくれんなら」

「おう!」

涙ぐみつつ、そう応じる歌麿。蔦重は考えがあるとも言っていました。

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