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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第21回蝦夷桜上野屁音】
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白天狗を騙しつつ、蝦夷地を上知とするには
田沼家では蝦夷地の上知計画を打ち合わせています。
上様の許可が降りた――。
すると、進捗を確認された意知がこう返します。
源内の片腕であった平秩東作。その東作から「蝦夷通」として紹介された土山宗次郎との接触を語ります。
意次は、土山の存在を知っていながら「蝦夷通」であったことは初耳のようです。
その仲立ちにより「湊」と密談したと意知は語ります。
湊は松前藩の元勘定奉行でした。江戸幕府の前期であれば、御家騒動になりそうなヘドロが鬱積しているようですね。まぁ、松前は成立は特殊でもあるので単純な比較はできませんが。
その湊曰く、松前道廣は北辺の地をよいことに、やりたい放題なのだとか。
家中を恐怖支配する。
蝦夷の民(アイヌ)にはひどい仕打ちをする。
とどめには「抜荷」――つまり密貿易を行っているとか。
意次も三浦もさすがに驚いているようで、松前はすでにオロシャとの抜荷で莫大な利益を得ているのだとか。これが上地の理由に使えると意知は言います。
意次はその「確かな証し」を欲したようなことを言いながら立ち上がり、そして意知の前に座ります。
「松前は、殊の外“白天狗”と昵懇であるようでな……」
白天狗とは一橋治済のことです。次の将軍の父であり、家治はそこを見越して承認したということです。
「この件のしくじりは決して許されぬ。晴れて上知をなすためには、白天狗や松前に決して気づかれぬよう事を進め、抜荷の確かな証しをやつらの鼻っ先に突きつけてやらねばならん」
そう言われると、意知は抜荷取引の場を記した絵図はどうかと提案します。
なんでも湊が松前にいたころ、漏れてはまずい絵図を探したことがあったのだとか。
すると意次が「よし、お前はここまでだ」と言い放ち、立ち上がります。

田沼意次/wikipediaより引用
困惑する意知。父と子の念頭には源内のことがあるのではないでしょうか。
父としては、獄中で亡くなった源内のように我が子を失いたくはない。
子としては、父に源内を見捨てるよう進言した負い目がある。
すると意知が「父が関わるなら同じことだ!」と強い決意で自分に任せるよう迫ります。
「ご案じなく、うまくやりますよ」
誰袖花魁は花雲助に身請けを願う
例の九郎助稲荷の前で、誰袖が祈っています。
どうやら蔦重兄さんと結ばれることではないようで。
直後に意知が、土山経由でその誰袖からの文を受け取りました。宛先は「花雲助」であるとのこと。
是非折り入って、お話したきことが。
蝦夷の桜につきんして。んふ。
あのとき盗み聞きされていたのでしょう。
意知は「誰袖が松前と繋がっていることはあるか?」と土山に確認すると、それはないと言いつつ「強(したた)か者です」と釘を刺します。
事情をかぎつければ強請ってくるかもしれないと警告するのです。
そして夜、意知は誰袖のもとへゆきます。

葛飾応為作『吉原格子先之図』/wikipediaより引用
鳥が囀るような愛くるしい声音で語り出す誰袖。
「吉原には、松前のご家中、蝦夷地の物産を取り扱う商人など、さまざまなお方が出入りいたしんす。小耳に挟んだお話ではどうも、抜荷の証し……などを探しておられるご様子。わっちはお力になれるのではと思い立ちんしてなぁ」
「なるほど。間者の褒美に金が欲しいということか」
意知はそっけなくそう言い切ります。
「金より、もっと欲しいものがありんす。花雲助さま……わっちを身請けしておくんなんし」
誰袖は艶やかな笑みを浮かべ、意知の目を覗き込んでくる。
嗚呼、誰袖……毎週背負う髑髏が増えていくような禍々しさではありませんか。
蔦重は死神を振り払い、意知が取り憑かれてしまったのか。
なにがおそろしいか?
この美女の微笑みのためならば、地獄ゆきもありだと身震いしたくなるところでしょうか。これぞまさしく傾国――国を傾けてでも愛する価値のある美女です。

月岡芳年『日進佐渡流刑 地獄太夫』/wikipediaより引用
「歌麿大明神の会」
恋川春町が悩んでいます。
自分が辞めた鶴屋で戯作を描いた北尾政演が、とんとん拍子でスターダムに登ったのですから、そりゃあこたえますわな。
蔦重は後に「歌麿大明神の会」と呼ばれるイベントを開催。
歌麿売り出しの会で、歌麿がありとあらゆる絵を即興で描く催しですな。
墨摺、錦絵、春信風、湖龍斎風、石燕風、清長風など、あらゆる絵を描き分けるイベントなんだそうで、ここでの歌麿は扇子に絵を描いていますね。
三味線も奏でられているし、それなりにお金のかかっていそうな場だ。
参加者は、戯作者、絵師、狂歌師、さらにはそれらを志すワナビーまで、誰でも出入りできる宴会なんだとか。
江戸での成功はこうしたネットワークが大事なんですね。
歌麿の名を売りつつ、狂歌集の営業をかける目的もあります。
しかし、歌麿は話しやすいのか、顔見知りの志水燕十の元にいます。何を話し込んでんだと心配しながら、もっとみんなの前に顔を売ってこいと急かします。
戯作者の唐来三和も、蔦重に気安く話しかけてきて、まぁ、盛り上がるのはいいことなんじゃねえの。
すると、まぁさんこと朋誠堂喜三二が、落ち込んでいる恋川春町先生のリカバリを頼んできます。
見るからに悪い酔い方をしているようで……彼はどうにも北尾政演が引っ掛かっています。
話題になった青本『御存商売物』が、要するに春町の『辞闘戦』(ことばたたかい)という先行作品のアイデアをブラッシュアップしたものだそうで。
そういや春町先生は、先行作のないアイデアを求めていましたもんね。
しかし、てめえの褌で相撲を取られた、要するにパクリじゃねえか!って怒っているんじゃねえか、と、めんどくせぇ……。
そんなもん気にするほうがおかしいと蔦重も困惑しています。
まぁさんは、だからこそあいつも口にできないだけで、イライラが溜まっているのだというわけですな。
しかし、政演はンな敵意を知るわけもなく、狂歌師たちの前で自身の狂名は「身軽折助」ではどうか?とはしゃいでいます。
ここでも裾がちょっとはだけて膝が見えておりますな。すっかり酔ってらぁ。
なんかこう、江戸の陽キャと陰キャの違いって気がしてきて、切ねぇ……。
「こいつぁいけねえ」
さすがの蔦重も事情を察し、春町のもとへ「お待たせ山〜」とやってきます。

蔦屋重三郎/wikipediaより引用
すっかり拗ねて俺に構わなくていいと返す春町。
蔦重は「うちの大看板をほっとけるわけねえでしょう!」ともてなしますが、どうしたって政演の浮かれた声が耳に入ってきてしまう。
例の蔦重が依頼した錦絵企画で盛り上がっている話が聞こえてくるのでした。
恋川春町先生、錯乱す
さっそく春町に政演の錦絵企画について問いただされ、まぁさんと二人で「女好きだからやらせてみた」と誤魔化します。
しかし話題はよりにもよって『御存商売物』へ。
レビュアーとしても一流の大田南畝も、勝川春章も大いに褒め、しまいにゃ南畝がこう来ました。
「ほんとに『御存』はよくできておった! 『辞闘戦』と似ているが、地口の化け物という趣向を捨てることで、グッとしまったのだな」
蔦重は慌てて「地口の化け物が好きだ」とフォローしても、時既に遅し。
南畝が「下手くそ〜! 下手くそ〜!」と盛り上がっているのも危険を感じさせます。
政演の狂歌へのダメ出しのようなんですが……ついに本人がこちらへやってきてしまう。
「じゃ、次次次! 春町先生! 俺、狂歌が下手だってんですよ〜ここはひとつ、戯作者も狂歌詠めんだって目に物見せてたってくだせえよ、ねえ?」
嗚呼、こりゃもうダメだ……。
蔦重とまぁさんの静止を振り切り、突如、春町は詠み始めました。
今日出ん(京伝・政演のこと)と 女にもてぬと焦りける
人の褌 ちょいと拝借
モテモテ自慢の腐れリア充が、俺のパクリでヒット飛ばしやがって……そんな恨みが炸裂します。
「調子に乗ってんじゃねえよ! てめえはただの盗人だろうが〜!」
暴れ出す春町。
逃げて柱にしがみつく政演。
もはや誰も春町を止められない。
四方の赤 酔った目利きが品定め
岡目八目 囲碁に謝れ
四方赤良がよォォォ〜〜〜〜酔っ払って何批評してんだテメエ!
『岡目八目』(囲碁から出た言葉)ってレビューで山東京伝を評価してっけど、センスねえんだよ!
囲碁に失礼だと思わねえのかァ!
暴言狂歌を吐きながら、宴会場で暴れる春町を、どうにか喜三二が止めようとします。
と、今度はこう来た。
気散じ(喜三二)と 名乗らばまずは根詰めろ
詰めるも散らすも 吉原の閨(ねや)
気散じ(リラックスすること)とか名乗ってっけど、だったらまずは根性詰めてストレス溜めろや。
溜めるのも散らすのも、結局吉原じゃねえか!
これは腎虚で落ち込み、美女で発散した喜三二には刺さりますわな。
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