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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第16回「信玄を怒らせるな」】
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鶏肋――どうする伏線回収
SNSとドラマが結びついた影響でしょう。
昨今は「伏線回収」という言葉が大きな存在感を放っていて、SNSでもドラマ通になれる「マウント材料」となりつつあります。
それが好きな方かつ「鶏肋」の意味がわからない方は、ググることなく先に進みましょう。
伏線回収への期待感が最高潮になったのが、朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』です。
「伏線 カムカム」で検索すると、ドッサリ出てきます。
多すぎるので省略しますが、この「伏線」には罠がある。
大河でもできますね。こんなふうに勝ち誇る投稿が。
「ワンパターンですよねw 信長が鉄砲連射するのは、長篠の戦いの伏線ですよww」
「家康と築山殿がイチャラブするのは、このあとの悲劇への伏線ですよw ショックを与えるためにベタベタしているってわかりませんか?www 五徳がチクリキャラなのも怖いよねw」
「姉川で信長が家康の陣に鉄砲を打ち込んだのは、関ヶ原の小早川秀秋の伏線ですよww知りませんでしたか?」
こういうヤリトリは、送り手と受け手の知識が合致しないと通用しないんですよね。
そして噛み合って「やった!」とならないと、盛り上がらない。
SNSでもそういう値に合わせてあるから、あまり複雑だと、かえって気付かれないで終わる。それどころか「わからない!」「雑w」「意味不明w」と嘲笑すらされます。
これまた朝ドラでは『ちむどんどん』がそうでした。
琉球文化独自の伏線とその回収があった同作。
ヒロインの料理を食べ続けた妹が、体調が回復している――といった、東洋医学の根底にある「医食同源」の結果も示されたりしました。
琉球は日本本土よりも中国に近いぶん、そうした思想が濃い。それを反映していた。
ところが、東洋医学や琉球文化を知らない視聴者からすれば、こうなる。
「なんであの妹体調いつの間にか回復してんのwww 雑www」
朝ドラであれば、現在放送中の『らんまん』も、現時点で伏線と思える描写が「地味w」だのなんだの言われかねないかと危惧しています。
大河ですと『麒麟がくる』の伏線回収が見事でしたね。
タイトルの時点で、光秀の行動原理と、本能寺の変の動機が説明できた。
麒麟とは、織田信長が花押に使っていたものです。信長は東洋思想を学んでおり、安土城のインテリアにも中国の聖人をモチーフにした装飾を用いていたとされます。
劇中の光秀は、幼いころから儒教思想を信奉していました。
そんな光秀が、麒麟を掲げる信長を見たら、吸い寄せられるように惹かれることが思想からわかる。
けれども信長に仕えてみれば、彼は麒麟が到来するという泰平の世を作るようには思えない。彼のいる限り、戦乱は終わらない。
そう落ち込む光秀は、徳川家康に麒麟到来の素質を見出します。
光秀と家康が楽しそうに談笑する姿をみたとき、信長は怒りに燃えました。聖獣麒麟の化身が、己を見かぎり、次を見出しつつあることに怒りを抱いたとも思える。
結果、信長は光秀を打ち据え、そしてドラマは本能寺に向かってゆきます。
このように「麒麟は儒教の聖獣である」と深掘りや考察をすれば、解ける謎でした。
長谷川博己さんはこうした役作りのために儒教書籍を読んでいたそうです。これぞ深掘りでしょう。
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しかし、『麒麟がくる』でそんな儒教トークが盛り上がっていたかというと、そんなことはない。
漢籍教養で伏線を読み解けば、めんどくさい奴と言われかねない空気が優勢でした。
麒麟? ビールのアレ? ぐらいのノリの方が多かったでしょう。
『鎌倉殿の13人』は、序盤に退場した北条宗時が作品の根幹を語っていました。
平氏でも源氏でもない、坂東武者の世を作る――そのロングパスを義時が引き継ぐ。
義時に敵対する後鳥羽院は最終盤に出てくると、坂東武者を「東夷(あずまえびす)」と蔑む。
東西の対決が、序盤から設定されていたわけです。
これぞ伏線では?
伏線なりトリックというのは、SNSではしゃぐだけではなく、知識を吸収し、生かし、考えてこそ見えてくるものでは?
オタクという言葉には、かつてネガティブなイメージがつきまとっていました。
とはいえ、そのころは、考察本のようなものも売れて、知識をコツコツとインプットする連中がオタクだという暗黙の了解はあった。
それが今では、SNSで盛り上がってウェーイww いいねとRTをつけてはしゃぐことが大河通のセオリーとなっているようにも感じる。
『貞観政要』を読んだのか。この戦法は『孫子』ならどこを参照すればよいのか。そんなことしたらウザがられるのでしょう。
PVを稼ぐことが正義の今、こんなことを言っても無駄でしょうが、SNSでワーワー盛り上がるのは、本質的な考察でも、解像度の高い深掘りでもないと思います。
おそらく、2000年代以降、大手掲示板で実況していた感覚が抜けない層が「フラグキターーーー!」のノリで目立っているのでしょう。
それを切り取って記事を作ればウケるのでしょうが、そろそろ時代錯誤に突入しつつあると思います。
SNS受けは“鶏肋”かもしれぬと?
SNS全盛期、PVを稼げれば勝ち。
そんな時代は、正しいかどうかよりも、感情を動かす方がウケると思う層はいます。
SNS特化ばかりを狙うことは、果たしてどうなのか。
最大公約数を叫ぶ競技に適応することは正しいのかどうか。
根本的な問題として、SNSはどこまで信頼できるのか――。
「知ってる? 6に6をかけると36になるw ろくろくさんじゅうろくww マジウケるよねw」
こんなどうでもいい意見でも、RTされたらバズったことになる。
一体その先に何があるのか。
今、若い世代は韓流や華流に夢中です。
大ヒット作品である『魔道祖師』およびそのドラマ版『陳情令』の視聴者たちは、劇中のモチーフである魏晋南北朝時代の本売り上げに貢献している。
特集を組んだ『すばる2023年6月号』は、あっという間に売り切れたほど(私も買い損ねました)。
そういう知識欲ある見方こそ、オタク本来の考察や深掘りでしょう。
『どうする家康』で「耳カプwww」「これがわからないヤツはバカww」と盛り上がっている一方、若い世代が『陳情令』に流れる。
だからこそ大河ドラマという枠そのものの信頼性に危機感を覚えるのです。
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昨今はSNSのファンダム空気を読むかどうか、これが重要です。
朝ドラですと、ともかくひたすらNHK東京作品を貶し、NHK大阪作品は何が何でも褒めることがルール。
今期『らんまん』には放送前から「反省会」タグがありました。
「主演が『るろうに剣心』映画で悪役だったからダメでしょw」といった、よくわからない投稿まであった。
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中身はどうでもいい。
手っ取り早くNHK東京朝ドラ叩きに乗れば乗るほど勝てる。
界隈が好きと認めた作品を、褒めない者、批判する者を叩く。
界隈が嫌いな作品は、ひたすら叩いて面白がってよいという、空気を作る。叩かない奴はダメ。
これが昨今のファンダムの作り上げる空気であり、ルールです。その中心にはアルファアカウントがいて、指示を出すように動く。
そういう層を狙った方が効率はよいのでしょう。
しかし、大河ですと『天地人』『江』『花燃ゆ』『西郷どん』は、貶していい位置に落ち着きました。出来が悪いので、仕方ないとは思います。
こうした作品と共通する短所がありながら、むしろ褒めることがドラマ通ルールとなったためか、過大評価されていたのが『いだてん』『青天を衝け』でしょう。
大河通を自認する誰かがいたら、好きな作品、嫌いな作品を挙げてもらい、分析するのも一興ですよ。
では「鶏肋」について。
鶏肋とは鶏ガラのことで『世説新語』にこんな話があります。
曹操は劉備の割拠する漢中攻めを行ったものの、思わぬ苦戦をしてしまい、どうにも攻めきれません。
「鶏肋……」
苛立った曹操がボソッと口にします。
そこで伏線回収のプロである楊修は見抜きました。
「鶏ガラは食べるほどの肉はないけど、スープにするとうまい。つまり、そこまで価値がないけど捨てると勿体無い。そんな曹操様のエコロジー精神だね! でもま、今回は撤退ってコト。みんな引き上げよ」
こうして撤退準備を始めました。
内心、揚修の「伏線回収www」というドヤ顔が嫌いだった曹操は、このあと彼を処刑しました。
この処刑には曹操の後継者争いに関係あるなど、諸説ありますが、今それを説明するのも面倒なので割愛します。
『軍師連盟』や『三国志 Three Kingdoms』に出てきております。
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鶏肋という言葉は、今は辞書にも掲載されていますし、ググれば出てきます。
とはいえ、この曹操の漢中攻めの時点では、楊修しか読み取れなかった。
それを読み解いたからこそ、曹操は楊修がかえって嫌だと思った。
そういう周囲からはむしろ理解し難く、不気味な考察くらいが、伏線を読み解くという技術ではありませんか?
例えば『どうする家康』では家康と瀬名について、
「こんなに、らぶらぶな瀬名チャンがこのあと殺されるなんて……この胸キュンも伏線なのね」
とかなんとかSNSで触れられたりしますが、ごく普通の歴史が描かれているだけで、とても伏線と呼べるシロモノではないでしょう。
「寝る前に水を飲んだらトイレに起きる羽目になる」
言ってみりゃ、その程度のことです。
それでもSNSでバズればよいって?
果たしてそれで良いのでしょうか。
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【参考】
どうする家康/公式サイト