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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第32回「災いの種」】
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慈円と後鳥羽院
頼家が倒れ、せつも死んでしまい、恐ろしいと訴えるつつじに、義村はこう言います。
コトはよい方へ進んでいる。千幡の身の上に何かあれば、次の鎌倉殿は間違いなく善哉。時を待つように告げるのですが……。
今週も邪悪で、それを隠そうともしていない。ったく勘弁してくださいよ。
義時の盟友のようで、三浦と北条の差に納得できていない――そんな義村の悪企みは続きますが、果たしてどこまで本気なのか。
うまくいくように手札を増やしているだけで、確たる見通しまでは持っていないような印象ですね。
と、ここで京都の後鳥羽院が出てきました。
中原親能が鎌倉の文を届けると、頼家が危篤と知り、死ぬのかと興味津々です。
しかも「うまいもんばかり食って不養生していたのだろう」と冷たく言い放っています。
なんでも推察することが好きなのでしょう。常に頭を働かせていたいタイプだ。
といっても、当時の鎌倉に美味いものはないとは思います。糖尿病になる京都の貴族からの連想ですかね。
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鎌倉からは、弟(千幡)に跡を継がせ、征夷大将軍にして欲しいという要望も来ていました。
「どう思う、慈円僧正」
山寺宏一さん演ずる慈円は、当時の有力貴族だった九条兼実の弟にあたります。
兄弟そろって文才があり、九条家は土御門通親の台頭により後鳥羽院周辺から遠ざけられました。
一方、慈円は歌の才能を後鳥羽院に愛され、側に置かれています。
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山寺宏一さんが高僧らしい気品を見せながら、語ります。
「過日、夢を見ました」
「また、お得意の夢の話か。どんな夢じゃ」
またふてぶてしい後鳥羽院。これぞ帝王でしょう。
信心深くないのか、合理的なのか、夢のお告げは信じていないようです。それでも慈円の話に耳は傾ける。
壇ノ浦に沈んだ三種の神器――その失われた宝剣の代わりが武家の棟梁、鎌倉にいる将軍とのこと。
新将軍を大事にするようにと慈円は言います。
「ほう……」
後鳥羽院は納得しています。
夢のお告げだからではなく、自分も納得でき、かつメリットを察知したようで、つくづく賢い。そして素早く、元服するなら名付け親になると言い出します。
頼朝の子は「何朝(なにとも)」にしようか。そう考え、木と木のつなぎ目は何というのか?と尋ねる。
「実(さね)にございますな」
慈円にそう返され、納得した様子の後鳥羽院。
京と鎌倉を繋ぐ実(さね)になってもらおうということで、実朝としました。
後鳥羽院は聡明です。
聡明で高貴であるがゆえに、彼からすれば人も使えるか否かで判断する冷たさがある。新将軍に恩を着せて、使ってやろうと決意を固めたようです。
三種の神器など無くとも即位したこの帝王はどうでもよいのかもしれない。
それでも世間が信じているからには使わせてもらう。鎌倉にいる一人の人間を道具として操る。
そう宣言してみせると、エキセントリックに、バーン!と遊んでいた道具を倒す。
高貴さと聡明さと豪胆さが出ています。
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後鳥羽院は芸術的センスもあれば、身体能力も高い。気位はもちろん高い。どう表現したらいいのかわからない、すごい人だと思うのです。
尾上松也さんは、そこを毎回、ピタッと正解に打ち込んでくるようで、ともかく素晴らしい。
まさしく生まれながらの帝王がここにいます。
源義光の血筋・平賀を婿に
りくが時政に計画を話しています。
なんでも千幡の御台所選びだそうで、流石にまだ早いと時政が言っても、こういう時こそ早く動くと引きません。
頼家が御家人の娘を妻にしたせいで思い知ったとか。それだけは止めたい、と言われたら時政も納得です。
いちいち鎌倉殿の外戚を殺してちゃたまったもんじゃねえもんな。
京から迎えるわよ、と、りくはウキウキ。やんごとなき血筋の方を見繕うってさ。
そして北条一家が勢揃い。
まだ来ないのか……?と、時政とりくの娘であるきくが何かを気にしている横で、りくが宣言します。
「千幡の御台所は政範が迎えに行く」
15歳の北条政範は千幡の甥にあたり、北条家の後継でもある。
義時はあくまで江間で、時房も後継にはならない。
父母両方の血筋を重んじた継承順序があるんですね。
と、そこへきくの待っていた人物が現れました。
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装束も京風でキザな男は、義母のためにお花を摘んできたとか。義母上には野菊がよく似合うってよ。りくも京都にいる頃よく言われた♪と嬉しそうにしています。
時政もよい婿殿だと褒めている。嫉妬はしないんだな。そして時政は京都風味が好きなんですね。
実際、時政邸跡からは、舶来品の磁器や手で成形した土器(かわらけ)が出てくるそうで、今ならきっと焼酎よりワインやウイスキーを好み、車はレクサスではなくテスラを乗っていることでしょう。
にしても、このキザったらしい平賀朝雅は何者なのか。
後発で出てきたからには、キャラクター性を全開にするのでしょうか。
おもしろい。朝ドラ『ちむどんどん』の田良島でも味が出ている山中崇さんが、何か芳香剤を撒いていったような感があります。すごい香りがしてきたぞ!
ちなみに平賀氏は、上総広常に斬られた佐竹義政や、頼朝と火花を散らしていた武田信義と同じ、河内源氏・源義光の子孫です。
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頼朝が存命であれば、北条が平賀から婿を取るなんて許さなかったことでしょう。
和田と仁田を呼び出す頼家
頼家が焼け落ちた比企の邸宅を呆然と見ています。
そして「あの舅がそうやすやすと討たれたわけがない」と、和田義盛と仁田忠常から真相を聞き出そうとしている。
聞いたところと前置きしつつ和田義盛が語るには、和議の席で北条に呼ばれ、北条の館で殺された、とのこと。
とどめを刺した仁田忠常も同意します。
頼家は二人ににじり寄り、時政が殺したことを確認。
プレッシャーに耐えきれなかったのか、義盛も「実際に手を下したのではないが、命じたのは北条殿だ」と告白してしまう。
「なあ?」
「はい……」
同意を求められ、暗い顔になる忠常。
「許せん……和田に仁田、時政の首を取ってここに持って参れ!」
「しかし……」
「あいつのやったことは謀反に変わりない。討伐するのだ!」
頼家から凄むように頼み込まれ、困った顔を浮かべるしかない二人です。
そして頼家から離れると、義盛が「うちで一杯やってくか?」と忠常を誘います。酒でも飲まなきゃやってられないのでしょう。
忠常は、暗い顔でその誘いを断るのでした。
「なんで頼家様は俺と仁田を呼んだのかなぁ?」
忠常と話ができなかったからか。義盛は三浦義村と畠山重忠に相談しています。
「わかる気がする。戦に強く、忠義者で、ばか……」
「ばか?」
「……場数を踏んでいる」
とっさに言い逃れる義村。言うことを聞いてくれると思ったんじゃないか、ってよ。
言いたいことはわかった。馬鹿だと思っているんだな。
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でも、義村の場合、自分以外みんなバカに思えているんじゃないかな。そしてそれは「バカ」というより正直さでもある。
重忠がこう言います。
「頼家様もかわいそうな方だ。今さら息を吹き返しても、何一つよいことはないのに……」
重忠の変貌っぷりにショックです。
持ち前の正義感はもうない。義盛、義村とは従兄弟の関係であり、一方で北条の娘婿として保身に入りつつあるのでしょう。
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義村が「頼家があのまま亡くなっていたら丸く収まっていた」とは言いますが、両者の性格の違いはありますね。
まずは相手の気持ちに同情する重忠。
一方、そういう感情は捨て、結果と効率を分析する義村。
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話を進めるため、義盛に「北条を討つか?」と尋ねています。
義盛が「その気が合ったら相談なんかしてねえ!」と返すと、義村も「北条に逆らってよいことはない」と返答。重忠も同意します。
忠義などない時代
結局、義盛と重忠は時政に知らせます。
いくら頼家の命令でも時政は討てない――。
そんな風に断った一件を時政の耳に入れると、「ならばなぜ仁田忠常は来ないのか?」と不思議そうにしていたかと思えば、「まさか攻めてくるのか!」と心配している。
重忠は板挟みになって悩んでいるのだろうと同情しています。
にしても、この人たちには忠義がありませんね。
保身だけ。
自分たちの損得を抜きにしてでも、頼家に忠義を尽くそうと誰も言い出さない。生前の頼朝が「これからは忠義を重視する」と言っていた意味もわかります。
幕末ならば、主に殉じる忠義こそが武士の華。
近藤勇にせよ、土方歳三にせよ、あの薄情な徳川慶喜のために命を賭して戦った。
戦国時代だって一応そうです。
真田幸村は九度山で生きていく道を捨てて、我が子を巻き込んでまで、大坂城で忠義を燃やす人生を選びました。
そういう忠義のある武士を描いてきて、ついに「んなもん関係ねえ!」という時代まで、三谷幸喜さんは遡ってきました。
これはこれで楽しいんじゃないかと思います。人の変化を時代を遡ることで味わい尽くす。なんとも贅沢なことじゃないですか。
だからでしょうか、りくは心配しています。
このままではゆっくりと眠ることもできない!
頼家の息のかかった連中が襲ってくる!
だったら死んでもらう!と言い出したところで、さすがに時政も怖いことを申すなと釘を差しました。
「もともと死んでいたのですもの、元の形に戻すだけ」
「無理を言うな」
「生きていれば必ず災いの種となります!」
腹を括れと迫るりくに対し、あれは孫だと苦い声で返す時政。
頼朝と政子の間に生まれた待望の男児が、まさかこんなことになるとは……。
でも時政は、その孫に呪いをかけるよう、りくと共に阿野全成をけしかけたわけで。
本作の時政は自ら悪い方向に向かわず、流されているだけです。その方がより邪悪だと思える。
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