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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第32回「災いの種」】
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ボロボロになった比企尼が
頼家が暴れています。
鎌倉を動きたくない!
北条のいいなりにはならん!
妻や子を失った恨みをなんとしても晴らしたいのでしょう。
しかし、広元が御家人一同の総意だとたしなめ、暴れる頼家を和田義盛と三浦義村が押さえ込む。
頼家が叫びます。
「わからないのか! 比企の次は三浦だぞ、和田だぞ!」
そして床に突っ伏し、子供のように泣き叫びます。
皆に望まれて生まれ、万寿様と愛され、育まれていた。頼朝が愛を注ぎ、次の鎌倉殿にすると見守っていた。
そんな頼家が、なぜ、こうも無残な運命に陥ってしまうのか。
「父上……本当に良いのですか、本当に、これで……」
無残な問いかけが館に響きます。
頼家は、三浦と和田が北条に滅ぼされる未来を予知しているのです。
そして建仁3年(1203年)10月8日――千幡が元服し、征夷大将軍・源実朝となりました。
深紅に身を包んだ実衣が得意の絶頂にいます。
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一方、頼家は鎌倉を離れ、伊豆修善寺へ。
政子はそんな頼家を見送り、時政は御家人を代表して実朝に忠誠を誓っています。
「よろしく頼む」
澄んだ声で御家人たちと対峙する、まだ幼い実朝。
この座があまりに脆いことはわかっています。御家人にまだまだ忠義は浸透していない。
その頃、頼家の妻つつじは外で遊ぶ善哉を見守っていました。彼女が目を離した隙に、ぼろぼろの服を着た老婆が善哉に近づいてきます。
「善哉様でございますね……北条を許してはなりませぬぞ。あなたの父上を追いやり、あなたの兄を殺した北条を……あなたこそが次の鎌倉殿になるべきお方……それを阻んだのは北条時政、義時、そして政子。あの者たちを決して許してはなりませんぞ。北条は、許してはなりませぬ」
善哉の頬に両手を当て、恨みを告げたのは、比企尼でした。
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つつじが善哉の元へ戻ってきたときには、その尼は消えていました。
幻か、怨念か、それとも――。
MVP:仁田忠常と比奈
あまりにも惨い死でした。
この作品は、時代の先取りができる人物が、追いつけない周囲によって死ぬ残酷さを描いている。
何が忠常を殺したか?
忠義です。
頼朝が植え付けたいと思っていた忠義の種は、忠常の中で芽吹いて育っていました。
鎌倉殿のために、よかれと思って比企能員にとどめを刺した。
殺したとき、忠常は心を痛めたかもしれないけれど、それでも鎌倉殿のためだ、忠義だと思えば納得できたのでしょう。
それが崩れてしまった。
まだ切腹をすることが当然となっていない時代です。それでも追い詰められ自刃してしまった。
忠義ある武士道を先んじていたといえます。
悪人ではないのでしょう。頼朝の挙兵寺、明るい顔で武芸の鍛錬をして張り切っていた姿を思い出します。
あのまぶしい笑顔。いつでも真面目で誠実で、素敵な人でした。そこにいるだけで明るくなるような人でした。
こういう人が無駄死にしないようにしたい。その思いを泰時はきっと受け取っているのでしょう。
義時は頼家を追い詰める好機と思う横で、泰時はそう願っている。
希望はそこにあります。
比奈も寂しかった。
愛を求めて大事にしているからこそ、北条の裏切りは口にしない。
最後までけじめをつけて、別れようとする。
中世的というより普遍的な愛で、そこが美しく切なく辛い別れでした。
大河とファンタジー
『麒麟がくる』の駒のことを「ファンタジー」だと貶すSNSの意見があり、それを取り上げた記事がありました。
歴史もので駒のように非実在の人物を出し、その目線で描くことは定番の技法です。
そんなことにケチをつけたら大河になった吉川英治『宮本武蔵』は成立しません。
大河でも『三姉妹』や『獅子の時代』は実在しない人物が主役です。
駒は歴史に干渉せず、実在人物の生死を左右したことはありません。
今年の善児のほうがトリッキーな動かし方です。
駒みたいな無名の市民がうろうろすることが嫌いなら、「ファンタジーだ!」とけなすのではなく、もっと歴史通らしい言い回しはあります。
「豚に歴史がありますか?」
民百姓に語るべき歴史なんかないのだから、駒みたいな戦災孤児出身者なんて要らんということなら、ハッキリそう言えばいい。
それを自らは安全なポジションに置くような言い回しでは卑怯です。
本題です。
今回はそんなファンタジー要素の塊のような比企尼が登場しました。
比企尼は死亡状況が不明。
高齢でもあるし、比企一族の滅亡前に亡くなったとすることが妥当に思えます。
それを本作はあの地獄の中に置き、死亡状況がわからないことを逆手にとって生存させ、呪いをかけるように出してきました。
こういうことがファンタジー要素ではないかと思います。
日本における「ファンタジー」という言葉の使い方はそもそもがおかしくて、なんかありえないようなご都合主義とか、ただ単に自分の気に入らないプロットをさして呼ぶようにも見えます。
ファンタジーはかなり定義が厳しく、かつご都合主義でもなく、残酷な仕掛けにもなるものなのですが。
このドラマの描く時代は「なろう系主人公でも降り立って数時間で即死する」くらいハードにできるわけで。
呪いをかけたり、不吉な予兆として出す方がむしろ向いている。
中世は迷信も通用しますので、ファンタジー要素とは非常に相性がよろしく『鎌倉殿の13人』は序盤から頻出しました。
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むしろ悪夢のようなファンタジー要素を使っているので、斬新でおもしろく、かつ世界基準だと思えます。
歴史劇とファンタジーの組み合わせといえば『ゲーム・オブ・スローンズ』が定番にしました。
続編『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』も間もなく配信されます。
『ゲーム・オブ・スローンズ』では、原作にいたのにカットされた人物もおりまして。
ある女性が一族ごと惨殺されると、ゾンビのように復活してうろつき、呪いをかける設定がありました。
比企尼はその再現のように思えましたね。
これはすごいことでしょう。
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総評
8月が下旬に入りました。
今年もお盆時期には戦争番組が数多く放映されました。
そんな番組のことや、戦争について見聞きしたことを思い出します。
裏切られることがどれほどの苦痛をもたらすか、戦争番組では語ってくれる。
頼家や忠常の絶望を見ていて思い出しました。
それと同時に、悪とは何かも描いていると思えます。
この時代の人がわかりにくいのは、確固たる道徳信念が確立していないことが大きいと思えます。
忠義がないから、ホイホイと頼家にあんな酷いことをできてしまう。
道徳心より生き残るための損得重視だから、「北条強ええからついていこう」となってしまう。
要は流されるのです。
人間はそういうものだとは思います。
みんなで狩りをしたり、畑を耕すならその方がいい。みんなに合わせた方がいいのです。
そういう迎合していく怖さ、いやらしさ、おぞましさがどんどん詰め合わせになったような回。
あの畠山重忠すら迎合して高潔さが消えてゆく過程にはおそろしいものがあります。
そうはいっても、重忠は相手の気持ちを想像し思いやるだけの優しさが残っている。
そんなものあったところで何になるのかとは思いますが、一方で義時は手遅れですね。
義村については、最初から迎合するつもりはさらさらなく、ゲームを楽しむつもりなのでたちが悪い。
人間は、積極的に悪事を為そうという意識ではなく、ただ保身や利益を図った結果、破滅に至る――そんな過程が上手に描かれているように思えます。
今年の大河は勉強になります。
歴史だけでなく人間心理の勉強にもってこいです。
最近このドラマを見ていて自己嫌悪に陥るのですが、義時や義村の言い分が理解できるようになってきたんですね。
策略が当たるとちょっと満足感が出てきてしまう。
今回でいえばりくや実衣が敵意を剥き出す横で、じっとしている義時を見て気持ちがわかりました。
他の連中のように本音を剥き出しにしていてはかえって相手は警戒する。
黙って静かに相手を焦らせれば、勝手にバカなことをする。
その愚行を掲げて追い詰めれば、相手を始末できる。はなから倒そうとせず、回り道をした方がむしろよい。
そうジッと待っていて、仁田忠常の死をうまく利用するところは納得できたようで、そう思った瞬間に自己嫌悪に陥りました。
でも、こういう悪意ある人間の思考回路を学ぶことが大事だとも思います。
胸がぐるぐるするとか、おかしれぇとか、そういうことばかり言っていては世間から騙されてしまう。
リテラシー向上に役立つ番組を流してこそのNHK。
今年の大河は、その使命を果たしているのではないでしょうか。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト