代打で編集人の五十嵐利休がピンチヒッターを請負。
今朝、突然の話だったので、言い訳にはなりませんが、乱筆乱文をお許しいただければ幸いです。
では、早速、本編へ!
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『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』(→amazon)
お好きな項目に飛べる目次
大久保の要請で、茂久から上洛を命じられる
薩摩へ戻ってきた西郷吉之助(西郷隆盛)。
早速、藩主の島津茂久(もちひさ)と対面します。
一応、おさらいしておきますと、この頃の薩摩は藩主はあくまで茂久(薩摩12代藩主)。
島津久光の実子で、いったん島津斉彬の養子になってからの就任でした。
島津に暗君なし(バカ殿はいない)はどこまでマジなのか?薩摩藩主全12代まとめ
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隣にいる小松帯刀は、薩摩藩の家老です。
最近は、坂本龍馬よりも早く【日本最初の新婚旅行】をした人として名前が知られてきたかもしれません。
茂久は、西郷に京へ行くよう命令します。大久保一蔵(大久保利通)の要請でした。
けど、史実の西郷は、沖永良部から戻ってきたとき島津久光と対面したはずです。
奄美大島から戻ってきたときは久光に向かって「地ゴロ(田舎者)」と言って最悪な雰囲気になりましたが、2度目は小松帯刀の執り成しも合って無事に対面しています。
まだ何もやってない、となんだか正直な龍馬
さて、西郷を京都に呼んだ一蔵は、岩倉具視邸を訪れました。
「西郷が京へ参ります」
「誰やったっけ? あ、西郷吉之助か」
小魚を焼きながら【このままでは終わらへんで】と含みをもたせたセリフを吐く岩倉。
と思ったら、あっという間に坂本龍馬と勝海舟のシーンへ。ほとんどセリフもなしに、岩倉の登場シーンが必要だったかどうか、判断に苦しむところです。
「何をやった者か?」
と問われたら、まだ何もやってないと答える坂本龍馬。
うーむ、そんな風に定義付けちゃっていいんでしょうか。
・死ぬ覚悟で入水
・長い間、島に流されていた
・元をただせば島津斉彬のために奔走していた
・そこで他藩や一橋にも顔を知られ
――ということかもしれませんが、このとき西郷はもう38才です。
幕末志士たちの中では、なかなかの長寿になっています。
思うに今回の西郷は【思想的な裏付け】というか【信念】というか、何か事を成し遂げる人が持っている【心の芯】がないように感じてしまいます。
先週放送のスペシャル編で、磯田道史先生も「ここまでの西郷は単なるいい人」と、図らずも【西郷どんの真髄】を露わにしてしまいましたが、要は、普段、吉之助が連呼している
【民を救いたい】
では、視聴者の心に響かないのではないでしょうか? 白々しい感じがするんですね。鈴木亮平さんのお芝居でどうにか成立させられているというか。
結局、坂本龍馬と勝海舟という、現代人にとってはスペシャルビッグネームに
「西郷は凄い!」
と言わせるいつもの手法。
ここで再び「革命へ向けて一歩を踏み出したという」ナレーション。
【明治維新が革命】という認識は、やっぱり違和感があります。
水を飲んでも太ります
薩摩の自宅に戻った吉之助。
以前の家は売られ、家族は借家に住んでおりました。
祖母は亡くなってしまい生活はますます苦しくなっており、熊吉だけが
「水を飲んでも太ります」
と小さなボケを挟んできます。嫌いじゃないです。
熊吉は、西南戦争で、西郷の息子・西郷菊次郎を助けるという重大な役割もあるので、薩摩の実家シーンになると必ず何か目立つセリフが入ってきますね。
今後も続けて欲しいところです。
というか、西南戦争の描写、間に合います……?
永田熊吉~西郷どん塚地が演じた実在キャラが西南戦争で菊次郎を救う
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と、そこへ大山格之助と有村俊斎有村の二人が暗い顔してやってきます。
一方、吉之助はまたもや「薩摩が島の作物を吸い上げて地獄だ」と憂いているのですが、これがほんと「一人だけ良い子ちゃんでいたいズルい人に見える」んですよね。
過去の本レビューで何度も指摘してましたように、史実の西郷は確かに島のことを気の毒には思っていましたが、それでも再優先事項は薩摩藩であり、結局、黒糖地獄の状況を本気で止めるようなことはしていません。
ドラマだからどう描こうと自由です。
しかし、都合の悪いところにフタをするように描くのは不誠実な気がします。
そもそも西郷の魅力は【清廉潔白】なところではなく、【清濁併せ呑む大きさ】ではないでしょうか。
西郷らの飲み会では、昨今の京都事情にも触れておりました。
クーデターを画策していた長州の連中や、三条実美らの公家が京都から追い出されたんですね。
しかし、この辺の幕末ドタバタって、マジで何が起こっているのかわからなくなってしまいます。
あくまで西郷目線となりますが、本サイトの西郷通史に、簡単な年表を記しておきましたので、以下に抜粋しておきます(よろしければ記事でご確認ください)。
1862年 36才 寺田屋事件で薩摩の攘夷派が島津久光に粛清される
1862年 36才 島津久光の怒りを描い、今度は徳之島&沖永良部島へ
1862年 36才 生麦事件
1862年 36才 高杉晋作らの英国公使館焼き討ち事件
1863年 37才 新撰組の前進・壬生浪士が結成される
1863年 37才 長州藩が下関戦争(英・仏・蘭・米)
1863年 37才 薩摩藩が薩英戦争
1863年 37才 八月十八日の政変で長州藩を京都から追放
1864年 38才 再び赦されて、京都における薩摩藩責任者となる
西郷隆盛~幕末維新の時代を最も動かした男~誕生から西南戦争まで49年の生涯とは
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やっぱり久光がアホっぽいなぁ
京都へ向かうため、村田新八を連れて薩摩を出る西郷。
いつもの川を渡ったところで、懐かしの岩山糸と出会います。
嫁ぎ先の海老原家は薩英戦争での被害はないが、実家は風向きが悪くて戦火に巻き込まれてしまったようです。
何か意味ありげに西郷を見送る糸でした。
そのころ京都では【参預会議】が始まってました。
メンバーは、
・一橋慶喜
・松平春嶽
・山内容堂
・島津久光
・伊達宗城
・松平容保
と幕末の名だたるメンツが集まっています。
そこで島津久光が一橋にキレてます。
「幕府は異国と戦をするつもりか!」
すかさず一橋慶喜も
「攘夷は、いみじくも天子様のお望みである」
「(薩英戦争の終えた島津久光に向かって)芋が焼き芋にならなくて祝着至極」
と小馬鹿にした様子。もうどうにも取り付く島もありません。
一橋も酷いですが、やっぱり久光の描写がきついなぁ。
西郷どんの放送が決まったときに、私、
『島津久光と明治維新―久光はなぜ討幕を決意したのか』(→amazon)
という書籍を読んだんですが、どうしても違うんですよね。
廃藩置県にキレて一晩中花火を打ち上げさせた――そんな一点だけのエピソードや、西郷を島に流したという話から、とにかく【短期・思慮浅い】ということにしたいのかもしれませんが、それはあくまで一面じゃないですか。島津久光の本質を照らしたものではないと思います。
もし本物の久光をお知りになりたい方は、良書だと思います。
あるいは本サイトの久光マトメ記事をご覧ください。
西郷の敵とされる島津久光はむしろ名君~薩摩を操舵した生涯71年
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慶喜は、孝明天皇には信頼を勝ち得ている様子です。
何やら意味ありげな笑みを浮かべるのでした。
出た!大久保の畳踊り!
京都の宿屋・鍵屋に西郷どんがやってきました。
お虎(豚姫)が満面の笑みで出迎えます。
久々の上京で、宿の主人と話していると、吉之助は、大久保が最近お疲れの様子だということを耳にする。
どういうことか?と思って訪問してみると、やっていました。
大久保利通の畳踊りです!
畳回しとも言いますね。
険悪になった薩長の間柄を取り持つために大久保利通が指一本で回したというもので、よろしければ以下に史実の詳細があります(長州側の記録に残っていました)。
とても映像化できない薩摩藩士たちのトンデモ武勇伝!大久保 従道 川路 黒田
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さすがに指一本は無理でしたが、瑛太さん、どうやって回してたんでしょうか。
畳が上から吊り下げられているような感じにも見えてしまいました。まぁ、実際にやるのは無理っすな。
畳回しで腕が棒になってしまった大久保は、別室に移動して、吉之助を京都に呼んだ理由を語ります。
どうやら島津久光らと一橋慶喜の仲を取り持って貰いたいようです。
そもそも、配下の者たちの間でも、一橋慶喜配下の平岡円四郎だけが上から目線で浮いていて、すでに崩壊寸前の様子。
一橋も平岡も将軍家名代であり、最初から臣下たちの話なんて聞く耳持っていないのです。
久光は半泣きになって酒宴を足早に退席していたのでした。
そこで大久保は、畳回しまでして周囲の者たちだけでも繋げていたとのことです。
史実では薩長が打ち解けるための畳回しが、こちらに使われたんですね。
大久保によれば、このままだと薩摩が浮いて、標的になる。
しかし、そんな薩摩でも、吉之助だけは
「評判がとんでもなく大きくなっている」
「あの斉彬公が認めた男」
だそうです。
今週は、周囲の言葉による【西郷凄い!】の持ち上げが凄いですね。
つい最近までの南国暮らしではリゾラバしてただけって印象なんですけどね。
そのころ慶喜は、ふきを引き連れ京都に。
ふきが西郷を気にしていて、それに嫉妬しているんだそうです。モテモテだな。
一橋は嫌いだが、オマエはもっと嫌いだ!
西郷は再び島津久光と対面します。
以前、地ゴロとバカにされたことを未だ根に持っているのでしょう。
一橋は嫌いだが、オマエはもっと嫌いだ!と久光に罵られる西郷。キセルを投げつけられ、それでも今回は何も言い返さず黙って久光の言葉に従います。
西郷は、村田新八と共に一橋を訪ねます。
が、玄関口で追い返されます。
狐につままれたように鍵屋へ戻ると、お虎がキレながら、女性客の訪問を西郷に告げます。
誰か?
と思ったら、そこにいたのはふきでした。
今は、一橋慶喜の側室になっているようです。
おそらく新門辰五郎の娘をイメージしているのでしょう。
偉大なる親分・新門辰五郎とは? 将軍慶喜に愛された火消しと娘・芳の生涯
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ふきは、西郷に手紙を渡しました。
手紙には【牛男】と大きな文字。
こういうのを寒いと思うか、面白いと思うかで作品への評価も変わるんでしょう。
直弼はすげぇヤツだったんじゃないか
慶喜と久々の再会を果たす吉之助。
「敵か味方かわからない」とのことで
慶喜によると、島津久光は日本国を憂いているようで自分のことしか考えてないんだそうです。
だから芋らしい。
そんな慶喜に対し、西郷は「また逃げようとしているのか」と強く迫ります。
開国も攘夷もどちらにしたって茨の道。
だから逃げようとしているのか?と。
誰も信じられずに苦悩している慶喜は、急に
「井伊直弼はすげぇヤツだったんじゃないか?」
とか言い始めました。
直弼が正しい政治をしていれば、橋本左内は死んでなかったはずだとつなげる西郷。さらには
「守るものは幕府ではなく民だ」
と続けます。
まるで倒幕も辞さない――そんな言葉をこの段階で言うのは早すぎません?
先見の明があるというより、幕府サイドど真ん中にいる慶喜に、この発言はマズイと思うのです。
しかし、そんなことを言われた慶喜も
「オマエは変わらんな」
と他人事なんですね。
なんだか似てきやがったな……って今日何回目?
同時に吉之助は
「徳川も薩摩も長州もないと天下に号令をかけられるのは一橋慶喜様だけだ」
なんて言葉もつなげました。
これもちょっと不思議で、どうとでも取れる内容――逆に言えば何も言っていない。
長州を排除したばかりですよね?
潰しにかかる場面では?
長州征討で潰される寸前だった長州藩~なぜドン底から復活して倒幕できたのか
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一体この話し合いの場はなんなんでしょう。
最終的に島津久光と一橋慶喜が会見できればOKという感じですかね。
そしてまた最後に、主人公持ち上げ補正が入ります。
慶喜が言うのです。
「なんだか似てきやがったな。斉彬殿に」
いや、もう、本日何回目っすか。
いっそのこと水曜日のダウンタウンで検証してほしい。
【アイツすげーんだよ、と言われれれば言われるほど陳腐なヤツに見えてくる説】
慶喜、心がぶっ壊れ?
ところが、です。
せっかく一橋慶喜と島津久光の会見を取り付けたのに、当の島津久光が国に帰る――と言い出したのです。
「大儀であった」
そんな一言で西郷の働きを終わりにしてしまう久光に対し、西郷は殊勝に頭を下げます。
憎たらしい家臣の萎れる姿を見て嬉しくなったのか。
久光は【軍賦役兼諸藩応接係】を西郷に与えるのでした。
その数日後のことでした。
慶喜の乗った輿が何者かに襲われ殺されてしまいます。
と、思ったら、輿に乗っていたのは家臣の平岡。
「斬られたのは俺だ……」と慶喜は正気を失い取り乱します。
西郷が一橋のもとへ謝罪に出向きます。
島津久光が勝手に帰ってしまった件について直接謝るのでした。
すると、西郷が謝るどころか、一橋のほうから「国父殿に謝りたい」と言うではありませんか。
しかも、気持ちわるいぐらいの笑顔。
喜色満面です。
まるで精神がぶっ壊れたような。大丈夫か、慶喜……。
声色まで、なんだか囁くような、鼻から抜けるような声で。
完全にキャラを変え、
「西郷の熱い心をおれにくれ」
などと言い出すのです。
なんだ、この笑顔。
と思ったら目の奥に不気味なものを感じたそうです。
MVP:笑福亭鶴瓶
ドラマの役の岩倉具視ではなく笑福亭鶴瓶さんです。
話の繋がりとか考えると、今日の出番は一つも必要なかったんでは?
そんな風に思うのですが、笑福亭鶴瓶さんのドラマは凄いっすよ。特にイヤな奴を演じさせたら、ほんとうにドコまでも腹黒くなることができて、ドラマに熱が入るんですよね。
今後の期待を込めてのMVPです。
なんせ、このドラマは、
・島津斉興
・由羅の方
・井伊直弼(と長野主膳)
・島津久光
主にこの4人がイヤな奴を演じてきましたが、ストレートであまりにわかりやすい悪役だったんですよね。
しかも、歴史的背景を考えれば、必ずしも悪役だけでもなかった方たち。
『そうか、井伊直弼って歴史の教科書だとイヤなやつだけど、実際は、そう判断しなきゃいけない事情もあったんじゃん。むしろ、泣けてくるわ』
ドラマだからこそ、そんな要素も見たかったのに、西郷どんは、西郷サイド以外は、全部ダメなやつなので、もったいないんですよね。
総評
今回は、
「西郷はすげぇ」
そんな持ち上げ描写が目立ちました。普段より多かったのでは?
気になってリストアップしてみたんですが……。
・坂本龍馬が勝海舟と飲みながら「西郷すげぇ」
・大山と有村が「西郷いなきゃ困る」
・大久保が「評判がとんでも大きくなっている」
・一橋が「なんだか(斉彬に)似てきやがったな」
主要なシーンのほとんどは
「西郷、すげぇ!」
に費やされたのではないでしょうか。
何度でも言います。
「西郷、すげぇ!」というのは視聴者にそう思わせるのが大事であって、それをどう見せるか?がドラマの真髄ですよね。
なんで、そんな大事なことをセリフで言わせて終わりにするのか。
だから【西郷の何が凄いのか】未だに全然わかりません。
島津斉彬には気に入られていた――という史実はあり、それは人の好き嫌いだから非常にわかります。
あの斉彬公のお気に入りの西郷。若き日は農政に従事して、意見書が認められて取り立てられたのがキッカケで、斉彬のもとで研鑽を続けた。
何か得体の知れない人間である。会えば引き込まれそうな魅力がある。
皆、少なからず西郷に興味を持ってしまうが、当然、反発するものもいる。
それでも、やっぱり捨て置け無いのである――ぐらいのスタンスであれば、私のようなひねくれ者にも『一体どういう人なんだ?』と思わせられるのでは?と思ってしまいます。
逆に聞きたいです。
西郷すげぇ!
という登場人物たちのセリフに納得される方は、西郷の行動の中からどこをどう感じ入ったか、その凄さを語って欲しい。
別に揶揄するためとかではなく、本気で気になるのです。
何がすごかったんだろうか、と。
とりあえず個人的に笑福亭鶴瓶さんのドラマは好きなので、今後はそれを楽しみにしたいと思います!
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等