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【青天を衝け第11回感想あらすじレビュー】
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Mアノンが大暴れし、史実は端折られる……
今週はいろいろと主人公周辺が熱かった。
Mアノン(※水戸学を身につけた危険思想)がすごい。
このドラマを語るうえで「日本近代資本主義の父」だの「聡明な渋沢栄一」だの、やたらと枕が入りますが。
「天子様が夷狄を踏み潰してくださる! うおおおおおお!」
「城を奪うぞぉぉぉ!」
「武器を集める!」
「焼き討ちだ!」
そんなことを叫ばれ、テロ計画を練られ、これで聡明と言われても困惑しかありません。カルトにハマる!という啓発ドラマなら、わかるのですが。
なんでダラダラ栄一の子が生まれて夭折、また生まれることに尺を割くのかわかりました。じっくりこのあたりを描くと危険なのでしょう。
そのせいで、あまりに雑な西日本情勢・薩長の描写になりましたが、大丈夫なのでしょうか。
マイナーかつ悪名高い三島通庸が出てくるあたり、ちょっとよくわかりません。
このドラマは「茶歌ポンが斬新!」とか「歴史の勉強になる!」だの言われておりますが、あの描写だけで理解できるのは幕末上級者だけでは?
まさか『花燃ゆ』や『西郷どん』よりも、歴史背景をすっ飛ばすとは思いませんでした。せっかく慶喜と栄一をダブル主人公にしたのに、これでは意味がない。
そうそう、酒場で藤田小四郎に向かって「父を超えろ!」とさらっと焚き付ける栄一の極悪非道ぶりにもシビれました。
「父をも超える大義をなしてみせる!」
「おう頼もしい、そうだいその意気だい!」
未来のことはわからないから仕方ないかもしれない。しかし、このあとのことを知っていると恐ろしくなります。
『おちょやん』砲が炸裂し、女性を敵に回す2021年春
朝ドラ『おちょやん』はテロップに指導者がずらずら並びます。
役者さんがすごい。
若手の杉咲花さんが着物で雑巾掛けをし、袖を帯に挟む。
東野絢香さんは和服で素早く正座から立ち上がり、相手に掴みかかる。
成田凌さんはだるそうに懐手をしてぶらぶら歩く。
こういう動きって実はものすごく大変です。
それをこの年齢でこなしていて、半端ないものを見て、毎朝「眼福や……」と拝みたいほど。脇を固める舞台系の役者さんは言わずもがなの動きです。
そして思ってしまった。
『青天を衝け』で、特に若手役者が立ったり座ったり動かないのは、所作指導が甘いのではないかと。
そして今週、その朝ドラ砲が直撃したのではないかと思われる展開がありまして。
◆ 朝ドラおちょやん、テルヲを超えてしまった一平…あさイチ・鈴木アナ「ドアホ!」にネット共感「あなたは代弁者」(→link)
糟糠の妻であるヒロイン・千代がいるにも関わらず、夫・一平が若い女優と浮気した挙句、子までできて離婚するという地獄みのある展開。
視聴者はそらもう罵倒しまくりよ。
ここを包み隠さず描いたのは、画期的なことですわな。
この記事にあるように、朝ドラは不倫を描くこともあったのです。
ちなみに2018年下半期『まんぷく』に至っては、モデル夫妻は重婚のため法律上婚姻関係不成立です。ドラマではもちろん描いておりませんが。
◆ “朝ドラと不倫”を振り返る!「おちょやん」一平だけじゃない ヒロインが妻子ある男性に惹かれることも…(→link)
ただ……一平がここまで批判され罵倒されるとなると、こちらの栄一はどうなんだ? そう言いたくもなります。
詳細は以下の記事にあります。
「英雄色を好む」だの、#Metoo時代には全く通じなくなった言い訳をしてありますが、妻子に悪影響を及ぼしたと明言されております。
◆「NHK大河ドラマでは描きづらい」渋沢栄一の激しすぎる"女遊び"の自業自得 その性格は長男にも受け継がれた(→link)
一部、引用させていただきますと。
だが、父の栄一には息子・篤二の所業を真っ向から責める資格はなかった。
栄一自身も女性にはだらしなかったからだ。
ただ、もちろんそれは、現代から見ての話である。伊藤博文にしても、かつての上司・井上馨にしても、さらにライバルの岩崎弥太郎にしても、芸者と遊び、遊郭に出入りし、妾を持っていた。
金や権力を有する者にとって、それはごく当たり前であったし、男としての甲斐性といわれた時代であった。だから栄一もたびたび芸者と遊び、妾も複数かかえていた。
ただ、問題なのは、そんな彼が世間に向けては、道徳を声高に唱えていたことである。
几帳面な栄一は毎日必ず日記をつけており、妾宅に行くときは「一友人」を問うと記していた。
栄一と比べたら、一平にせよ、モデルの二代目渋谷天外にせよ、かわいいものです。
それに『おちょやん』は「英雄色を好む」、偉業達成するなら女遊びくらいいいという甘えも否定している。千代の周囲もそう言ってくるし、千代自身すら夫のスランプをわかってはいた。
けど、それとこれとは話がちゃうやろ!
そう怒り、千代は離婚し、失踪する。それがこれまでの展開です。
そして月曜日からは、そんな千代の不死鳥の如き復活が描かれるわけやね。放送が楽しみや!
と、まあ朝ドラの話を引っ張りすぎましたが、これも大河に関係あるんです。
『おちょやん』の展開は、今後、栄一の下半身暴走で持ち出される言い訳を、先手を打って潰したとも言える。
さらに先をゆき、良妻賢母になっても女の幸せは保証されない。むしろ芸を磨けと見せてくるのです。
まさに2021年のジェンダー感を反映させている。
ついでに言うと一平は最低ですが、父としての母体を含めた我が子への気遣いは栄一よりマシに思えるんだなぁ……。
栄一のやらかしはミニマムにごまかすつもりでしょうけどね。
産後、つらい妻を働かせる!
寝込んでいる妻の元にドタバタ駆けつける!
幼い我が子がいるのに、焼き討ち計画に夢中で飲み歩いている!
そして記事で明かされる下半身事情!
いつ、栄一が一平を最低夫ランキングで追い抜くのか?
そこは楽しみになってきました。
炎上要素で地雷原状態の本作。しかし、私が推察するに、いま最も可燃性が高く、文字通りホットであるのはジェンダーがらみです。炎が、見えてきました。
そしてこういう予測ともなれば、ゲンダイさんが頼りになるんですね。
◆NHK「おちょやん」が不人気 話題にもならないのはなぜか(→link)
『おちょやん』の低視聴率をあげ、話題になっていないとコタツ記事ライターらしく、匿名の関係者トークを使って持ち上げていますが。
ゲンダイさん……このコロナのご時世に、飲み屋で聞いたっぽい関係者トークを混ぜるとかえってリアリティが減りますよ。
Zoomで裏話を聞いていたらそれはそれで大問題ですけどね。
そして案の定、この記事は嘘を書いています。
かなり話題になっています。放映終了前に朝日新聞紙面でまで取り上げられるのは異例のこと。これ以外にも、紙媒体の雑誌でも結構取り上げられています。
◆「おちょやん」で反響、「人形の家」名ゼリフを読み解く(→link)
ではなぜ、ゲンダイさんはこんな書き方をするのか?
以下の記事のように、マリエさんの事件を「女は根に持つから」と収めにいくような、古臭い価値観ベースだからですよね。
◆マリエ枕営業騒動にみる「根に持つ女性」の賢いあしらい方(→link)
なんという反面教師でしょうか。
毎度毎度、ゲンダイさんの節操の無さには逆に感心するほどです。
“初夜”と取捨選択
本作『青天を衝け』関連のニュースを調べていると、ふんどしだの初夜だのがやたらと出てきて、ため息をついてしまいます。
一体何なのでしょうか。まだ言ってます。
◆橋本愛、“初夜”シーン全カットを改めて謝罪「楽しみにしてくださってた方々には申し訳ない」(→link)
こちらも一部抜粋させていただきましょう。
橋本:良いシーンというか、「これから栄一と千代はどうなっていくんですか?」っていうインタビューを受けてて、「キュンキュンするシーンが結構出てくるんですよ」って言ったら、「例えばどんなシーンですか?」って言われて、「結婚初夜とか」っていう、具体的なワードを出してしまって。
天野:うんうん。
橋本:そしたら、それがニュースの見出しになっちゃったんです。
天野:「結婚初夜がある」と!
橋本:私が大々的に宣伝したみたいになっちゃって(笑)。ファンのみなさんが楽しみにというか、ドキドキする準備をしてたら、丸々カットになってしまって。
さて、このドラマ名物のポリアンナ記事(※無理やり褒める記事)も見ておきましょう。
◆放送10回で平均視聴率15・8% 苦肉の編集作業も…NHK大河「青天を衝け」次回みどころ(→link)
というわけで、残念な結果に終わったのだが、その後、橋本が「でも、仕上がり、素敵でした」とつづっていた。
ハッとした。取材して原稿を書くのに似ている。
多くの材料から取捨選択し、身を切るようにして執筆した原稿の方が、後で読み返したら面白いということが多い。逆に少ない材料を小手先で無理に引き伸ばすと、どうしても物足りなくなる。
まずは十分な取材成果、そして放送時間に入りきらないほどの場面が必要だということだ。
このドラマがまるで入りきらない部分を、苦労して捨てているような書き方はどうなのか。
本作は「そこは省いてはいけないでしょ」という要素をバンバン省いています。
今週は、新選組をもっと大きく出してもよいはずと思ったら、13回からですか。遅い。
本作はいつもセンスがありませんし、出演者のインタビューを読んでも、どうにも史実理解が甘いように感じます。
これは彼一人ではなく、ベテランも含めて皆そういう傾向がある。昨年と比較してはよろしくないとは思うのですが。
新選組描写ひとつとっても、
「有名人だからイケメンで出しちゃえw」
という思いありきで、誰もが史実の整合性を考えていない現場なのだろうと思えてきます。
『青天を衝け』について言えることは、撤退戦、退き口だということ。
このドラマで名をあげようとか、活躍しようとか、主演だろうが脚本家だろうが、思わない方がよいでしょう。
他の時代劇や来年にいい材料は引っ張られるのでは。NHKに戦略があるならそうする。
今回はもうコロナもあって短縮もありですし、捨て駒扱いをされていると思われます。
退き口ですべきことは、損害を抑えて生き延びる。それだけです。
しかし燃える材料はいくつもあります。このドラマにはまったく期待をしませんが、来年以降まで延焼させることだけは避けて欲しい。
あと、幕末史を勉強したいなら、このドラマのことは忘れて真面目に本を読みましょう。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト