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【青天を衝け第22回感想あらすじレビュー】
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国際博覧会はオワコン
先週に続き、1980年大河ドラマ『獅子の時代』に注目させてください。
あのドラマが放送されたとき、パリの万国博覧会を見た視聴者は衝撃を受けたことでしょう。
1980年といえば、5年後には「国際科学技術博覧会」、つくば万博を控えていました。
テーマは科学技術。これからきっと伸びていく、そんな日本の科学技術の姿は、ピタリと大河とも重なったのでしょう。
それから時は流れまして……こんなニュースがあります。
◆遅れる万博パビリオン誘致 「各国建設型」は目標の1割(→link)
2025年大阪・関西万博をめぐり、海外からのパビリオン(展示館)誘致が遅れている。
各国が独自に建設する場合、6月末までの申請を求めていたが、手続きした国は目標の1割強にとどまった。
万博の盛り上がりに水を差しかねず、政府は対応を急いでいる。
オリンピックもすっかり嫌われとなり、オワコンだとため息をつかれておりますが、万博もそうなのです。
2025年なんてそこまで時間もないように思えます。
コロナ関係なしに誰が行きたくなるのでしょう?
かつての万博は、若者にとって夢あふれるイベントでした。
しかしこうも娯楽が多種多様化した今、若者が昔のように万博に夢と希望を感じるともさして思えない。
むしろ「若者はオリンピックや万博に感動するんだ!」とワクワクするのは、元若者世代だけではありませんか。
そういうドツボと重なってしまい、洒落にならないほどオワコン感が漂っている。それが『青天を衝け』だと思えてしまう。
本物の若い世代は、VODで海外時代劇をイッキ見しているのではなかろうか? 大河は一週間待たされるわけだし。
そういう懸念が万博推しのせいで強まりました。
『青天を衝け』は、いつまでも自分が若いと勘違いした元若者が喜ぶコンテンツではありませんか?
歴史的に見ても、2021年、万博ほどオワコン感が漂うものもありません。
オリンピックと双璧ですね。
パンデミック拡散も大きな理由です。
WHOも協力しているというアプリ『Plague Inc.‐伝染病株式会社‐』をプレイしました。世界中に伝染病をばらまき、人類滅亡をめざすシミュレーションです。
このアプリでは、オリンピックは感染拡大の大チャンスとして存在します。
繰り返しますが、WHOも協力するほどしっかりしたアプリで、とっくにそう認識されている、と。
のみならず、BLM運動由来、グローバル・ヒストリーによる、歴史の見直しからもよろしくありません。
万国博覧会とは何か?
複数の国が参加し、技術や物産を競い合い、教育や啓蒙を目的とする……表向きはそんなことを言われておりますが、裏を読み取ってこそ歴史の醍醐味はあります。
そこには植民地、帝国主義の影が見える。
19世紀とは、社会進化論(社会ダーウィニズム)の時代でもあります。
ダーウィンの進化論を社会にもあてはめ、適者生存だのなんだの言い出したもので、科学的で説得力があるように思えて悪質なのですが、要するに植民地支配の名目として機能していたのです。
それまでは「奴隷を使役し、世界を支配することは神の意思!」であったものが「適者生存だ、これぞ科学」となった。
そのあたりはややこしいので、各自自習でもお願いしたいところです。
いずれにせよ、そうして現代では否定されたエセ科学と差別が根底にある催しが、この博覧会です。
綺麗事で飾り立て、参加国は収奪した特産物を並べます。
茶:イギリスが茶葉のために、インドと清で何をしたか?
象牙:そのためにアフリカで象を殺す
ダイヤモンド:ブラッドダイヤモンド、紛争ダイヤモンドは今日まで至る問題
こうした欲望を満たすために、現地民を搾取しようと、社会進化論で取り繕う――そんな構造があります。
渋沢栄一が「王様が商売の話をしている!」と感銘を受けたレオポルド2世は、悪辣な代表格です。
コンゴ自由国では手足切断当たり前 レオポルド2世に虐待された住民達
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このドラマの解説なり感想で、こういうものがあります。
「渋沢栄一って根っこは商人だから、戦争をしたがる武士とは違うよね」
だとすれば、彼自身、都合にあわせて武士と商人の顔を使い合わせていることも理解していただきたい。
それ以上に、19世紀以降、戦争の主たる原因は経済になりました。
宗教やイデオロギーではない。搾取により大量殺戮が起きる。それが近代史以降の流れです。
アダムスの『国豊論』では、経済のために囲い込みをすることの是非を論じている。世界史の基礎ですね。
小作人の家は邪魔だから消毒だ 土地清掃で破壊されたスコットランドの氏族たち
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インドの飢饉にせよ、背景には金を儲けたいイギリスの経済がある。
英国領インドの飢餓地獄が凄絶すぎる~果たして飢饉は天災なのか人災だったのか
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そうして植民地支配者同士がぶつかりあい、二度の世界大戦へ向かってゆく。
日本だけで見たって戦争の原因に金がある。
つまり、19世紀以降、商人が金のために搾取し、殺す構図が明瞭明確になったのです。
19世紀から20世紀にかけて活躍した国の政商が、平和を愛し、仁徳に溢れる人物だとして顕彰するのは危険でしかありません。
現代だって、金を稼ぎたいからと労働者を搾取し、命まで奪う悪徳経営者はいます。
従業員を過労自殺に追い込んだ会社経営者がニコニコしながら人徳だのなんだの説いてる姿を見てどう思いますか?
彼らが半世紀後、大河ドラマになっていることを想像してみてください……。
そうそう。商業による搾取といえば、ちょうどホットなニュースが出たばかりでしたね。
◆ 仏当局、ユニクロなどを捜査 ウイグル人強制労働問題で(→link)
渋沢栄一の顕彰も笑って済まされないと思うのです。
問「BBCがコルストンをドラマにするか?」
このドラマは歴史学の基礎からして外しており、どうしたものか。
世界でBLM運動が高まる中で、見直しがどんどん進み、商人像は破壊の定番です。
◆ 焦点:コルストン像引き倒し 「奴隷商人」英で議論(→link)
コルストンは渋沢栄一と通じる部分もある。
有能な商人であり、かつチャリティに貢献しました。
地元民にとっては顕彰対象だからこそ、ブリストルで銅像を建てた。
しかし、その商売なりチャリティの原資が非人道的ということで、顕彰されなくなったのです。
BBCがコルストンにイケメンをキャスティングして、奴隷貿易を除外したドラマを作ったら?
そもそも放映まで漕ぎ着けないでしょう。
マスコミから視聴者まで「ふざけるな!」と言って企画時点で終わります。
そういう国際的には話にならんことを本作はしている。
このことを踏まえまして、先へ進みましょう。
批判理論(Critical Theory)に耐え切れるコンテンツか?
最近ニュースで“Critical Race Theory”という単語が頻出します。
歴史や社会を人種観点から見直すこと。
よくこういうことをまとめて「ポリコレ」と言い出す向きがありますが、あの言葉は不正確な上にもう古いんですね。
新しい言葉があります。
アメリカではトランプ前大統領が毛嫌いし制限したものの、バイデン現大統領がその制限を撤廃しています。
歴史も当然影響を受けます。
◆ 米で議論沸騰 「批判的人種理論」とは何か(→link)
アメリカが偉大だのなんだのいうが、奴隷の労働で得た繁栄じゃないか。
そこを無視して栄光だけ白人のものとするのはいかがなものか。
そんな批判があがり、既にコロンブスが「アメリカを発見した英雄」でなくなり、コロンブス・デーは消えました。
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エンタメに政治を持ち込むなというのは、あくまで一部の話。時代劇は真っ先にCRTの影響を受けます。
例えば西部劇『マグニフィセント・セブン』。
リメイク元の『荒野の七人』では全員白人であった7人ですが、この作品では人種比が異なります。むしろ史実に近づけた結果そうなっているのです。
『アナと雪の女王2』では、サーミ族をモデルにしたノーサルドラ族が重要な役割を果たします。
日本でもCRTに耐えられる作品は出てきており、アイヌが重要な役割を果たす『ゴールデンカムイ』と『熱源』が代表格。NHKでも『永遠のニシパ』を放映しています。
で、どうです?
もちろん、お気に召さない人はいるのでしょうけど、こういう要素を入れたからって別につまらなくならないでしょう?
ここでもう一度『獅子の時代』に戻りましょう。
あの作品は、Race(人種)は抜けていますが、批判理論(Critical Theory)に耐えられる設定でした。
明治維新だのなんだのいうけれども、官軍を恨む声は満ちている。多くの命を奪って、我を通した。作中では、会津の男がそう薩摩の男に問いかける。
◆大河ドラマ『獅子の時代』(→amazon)
会津と薩摩をW主人公にすることで、批判理論をクリアしているのです。
小説ですと、司馬遼太郎の明治ものはなかなかクリアするのは難しく、むしろ山田風太郎の方が通る。
大河ドラマは?
ここ10年の幕末明治ものならば『八重の桜』のみがクリア。
あとは全て落第どころか、歴史観が80年ほど後退していないかと不安になるほど。
海外では批判理論をクリアした時代劇はむしろ標準です。
そういうドラマをVODで見ている層が『青天を衝け』を見て評価できるのかどうか。
アイドルドラマとしてイケメン鑑賞に徹するならそうだと言って欲しい。
ともあれ、今どき渋沢栄一を礼賛している危うさには、日本人の多くが気付いてもよいと思います。
お札になった時点で人選ミス。そして、そのミスの尻拭いを受信料でやるような構造です。
できれば故・金子信雄さんが演じた渋沢栄一が見たかったんですよね。
実録極悪明治路線で映画化して欲しかったなぁ。
それでも『鎌倉殿の13人』がある
昨年の『麒麟がくる』で秀吉を熱演した佐々木蔵之介さんが、また快挙を成し遂げようとしています。
◆ 君子無朋(くんしにともなし) ~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~(→link)
NHK番組で知ったという「清の雍正帝」をテーマに選ぶ時点で、ただごとではないと思いました。
よりにもよってあの人を選ぶのか。と、選んだ時点で歴史への興味関心が高いとわかります。
彼は『麒麟がくる』でも、いろんな本や資料を読み、秀吉ゆかりの場所を巡り、役作りをしていたそうです。
昔のことなんてわからない、そう開き直ることがない、大河俳優らしい誠意。だからこそ、劇中、ああも上手だったのかと納得しました。
そして来年に期待が高まります。
『鎌倉殿の13人』の出演者は皆コメントからして素晴らしい。
中でも、彼が際立っていました。
「頼ってきた者を追い出すような真似は出来ぬ。男には、守らねばならぬ道がある」のせりふとともに紹介された。
木曽は芥川龍之介、松尾芭蕉がほれ込んだ人物だったといい、青木は「『木曽義仲』とはとても魅力的な人物であったようです。牛に松明をつけて平家を襲撃した、という知識しかなかった私は自分がとても恥ずかしくなりました」
知識がないことを居直らず、かつ調べて、芥川龍之介や松尾芭蕉が感じた魅力まで語る。
彼は歴史ドラマの意義を理解しているのだと思えます。
本物の木曾義仲は会えるはずもないけれど、彼が放つ魅力を感じた人がいる。そのことを理解し、誠実に引き継いでいこうという気持ちがわかります。
演じることによって、新たな気づきも得られる。
研究者にも、ドラマのことで役者と話していてアイデアを得たと振り返っている方がいます。
そうやって人間同士がぶつかり合うことで火花が散る。
歴史を描くというのは、そういう火花を生み出す作業だと思えるのです。
来年に期待します!
みなさまがんばってください!
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト