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【青天を衝け第26回感想あらすじレビュー】
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栄一は駿府へ
栄一はこのあと父から今後の見通しを聞かれます。
函館に行くつもりもないし、新政府につくつもりもない。駿府の上様のもとへゆく。そう誓います。
そして上様にあって今後の進路を決めるというわけですが……自分で決めたらダメ? 幕府が情けない体たらくになった責任は上様にあるはず。
渋沢も家庭のある身ですし、本作の父親にしても「そうだね」と言うばかりで、特に響くものがない。
渋沢市郎右衛門元助(渋沢栄一の父)は息子をどうやって経済人に育て上げたのか
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普通は不安だらけだと思うんですよね。後に経済的に成功することがわかっているからこそのリアクションに見えてしまうのです。
出立時に渡してもらった百両を父に返し栄一は出立します。父は栄一の妻である千代に渡しました。と、こういう経済的余裕があるから、渋沢も上様に会うことを優先できるんですな。
本作ですっ飛ばされた会津戦争では、城下町の商家に「ここは自分がぶんどった」という立札が並んだそうです。
大きな内戦の後ですから、それぐらいの略奪があり、殺伐としていた。
ちなみに、ドラマでの栄一両親は千代に親切ですが、史実では「あんなほっそりした頼りないおなご」と冷たかったようです。
そして、うたが孔子の言葉を言い出します。思い出したかのように漢籍を持ち出しました。
ただ、残念ながらうたを抱く栄一も、隣にいる千代も、子供の親には見えない気がするのは私だけでしょうか……。
栄一は、駿府へ向かいます。
欧州を回った報告と収支目録を大久保一翁に提出。
慶喜と再会し、何度目か数えるのも疲れるようなフランストークをします。
史実かどうか関係なく、ドラマで繰り返す必要は感じられません。普通の作り手なら「視聴者に飽きられてしまうのでは?」という不安を抱きそうなものです。
鳥羽・伏見の戦いも、無血開城も、幕末クライマックスの背景説明をすっ飛ばしたため、二人の再会の緊張感もいまいち。
勝海舟も出ていないのですから、無血開城の背後にイギリスの思惑があったという史実もどうでもよさそうですね。
とにかくBGMが高々と鳴り響き、感動、感動、また感動という展開でした。
総評
コロナ禍の中、なんとか大河を作っている。現場も混乱するでしょうから、撮影一つとっても非常に大変だということは理解できます。
それにしたって、あまりに気の毒で見ていて辛い。
衣装はちゃんと仕立てられているように思えない。殺陣の指導も感じられない。所作もおかしい。セリフも棒読みが多い。発声がクリアでなく聞き取りにくい。感情を込めて読んでいない。
あくまで推察と断っておきますが、脚本の仕上げがそもそも遅れているのではないでしょうか。
そういえば土方の死で盛り上げるのかと思ったら、来週持ち越しです。
なんなんだ、本当に引っ張り過ぎでなんなんだ……。
来週土方死ぬよ! 盛り上がってね!
そうなる展開なんでしょうね。
しかし、決死の思いで函館に行き、そして実際に敗死してしまった人の死を、盛り上げ材料ばかりにされているようで脱力感が湧いてきてしまいます。
客寄せトシさん、死ぬ死ぬ詐欺の是非
今回は土方が死ぬんだろうな、と予想が外れてしまい、申し訳ありません。
まさかここまで引っ張ってトシさん死ぬ死ぬ詐欺をかますとは思いませんでした。
土方がかっこいいのは当然です。
それだけに気合の入った幕末ファンは本作を見てどう感じているのでしょう。喧嘩しても仕方ないので黙っているだけで、実はフツフツと煮えたぎる思いの方もおられるのでは?
紙媒体の歴史雑誌を見ていますとその傾向が強く、当初の持ち上げムードから検証ムードに変わりつつあるようです。
作り手も対策はしているとみた。会津戦争をまるっきり回避し、松平容保しか出さないのは、そうした気遣いなのでしょう。
しかし、危険は回避しきれてないように見受けられます。
◆ 山本耕史以上の人気?大河「青天を衝け」町田啓太演じる「土方さん」が話題!スピンオフ放送要望続々(→link)
該当部分を引用させていただきますと……。
NHK大河ドラマ「青天を衝け」の第25話が22日、放送され、ネットで、俳優・町田啓太演じる土方歳三が話題になった。ツイッターではこの日「土方さん」がトレンドに入り、「イケメンすぎる」「震えた」などのコメントが殺到。町田の芝居を絶賛する声がSNSに相次いだ。
「SNSに相次いだ」「ネットで話題」というのは要注意です。
放送時間にテレビをつけ、実況感覚でSNSに書き込む世代を狙えば、割と簡単にトレンドは作られてしまいます。
大手掲示板で実況していた習慣が抜けない年代ですね。
そうやってネットに書き込んで盛り上がりたい層は、ネットに使うだけ集中力を割いているので、作品の読み取り不足になることも往々にしてあります。
記事の続きを見てみますと。
「私の中の土方さんは『待たせたな!』の山本耕史氏で固定していたのですが、今日の町田さんの写真から抜け出したような御姿に心奪われてしまった」
土方俳優として山本耕史さんを出すことは当然でしょうし、気持ちはわからなくもありません。
しかし、書き込みはさておき、ネットニュースでよりにもよって山本耕史さんの名前を出したのは悪手に思えてなりません。
彼はあの年代でも上位に入る、和装所作と殺陣の巧みさを誇ります。ゆえに時代劇主演も多い。
ドラマとしての『新選組!』も、歴史上の新選組も、熱狂的ファンは非常に多い。そういう熱狂的なファンを刺激するようなことを、よりにもよって本作ですることは危険だと思うのです。
根本的な疑問も感じます。それは最後の段落です。
ちなみに山本版の土方は、その人気を受け、本編終了後、土方が主役のスピンオフドラマ「新選組!!土方歳三 最期の一日」が放送され、多くの大河ファンを喜ばせた。SNSには、当時を思い出しながら、「カッコ良すぎてますます土方さんスピンオフ見たくなってくる」「『新選組!』の時みたいにこの土方さんでスピンオフ1本製作して頂きたいレベルで土方さんが格好良過ぎる…」「是非とも町田土方さんで何かドラマ作ってほしい。大河は無理かもだけど、青天を衝けのスピンオフは欲しい」などのリクエストが寄せられている。
山本版が人気だからスピンオフが実現したのではないでしょう。近藤勇の死後も新選組という組織が箱館戦争まで残ったからこそ、スピンオフ成立の余地がありました。
『青天を衝け』でスピンオフ希望があってもおかしくはない人物は渋沢成一郎でないでしょうか。
1978年のドラマ『雲を翔びこせ』は、渋沢栄一と成一郎がW主人公といえました。
二人の距離が近く、途中まで同じ道を歩みながら別れてしまった。そんな成一郎目線での物語も見たい! そうなることが妥当ではありませんか?
ただでさえ栄一は戊辰戦争に参戦しておりません。だからこそ成一郎目線で戊辰戦争を描くことが求められるともいえます。
しかし、今週も瞬間で終わりました。
成一郎ではなく、土方ばかりに話題が集中するのは「虎の威を借る狐」というもの。
なぜ渋沢栄一が主役なのに、慶喜や土方の話題が沸騰するのか?
要するに既存の幕末ものの威を借りているのです。
本当にくどくて申し訳ありませんが、渋沢栄一の主役構想説もあった『獅子の時代』の初回はパリ万博でした。明治時代の作品ならば、時間配分を考えてそれが妥当でしょう。
それなのにしつこくだらだらと幕末をやる。栄一が参戦しない戊辰戦争をやる。徳川慶喜謹慎への経緯をすっ飛ばす。
幕末ファンの威を借りて、ウケればいいという意識と指摘されても仕方ないでしょう。
ちなみに『八重の桜』の場合、土方を出す状況は本作よりも多かった。会津戦争にもやってきて、近藤勇の墓を作り、湯治しましたからね。
それでもあのドラマは土方より斎藤一を重視している。会津目線で幕末を描くことを目的としていたのです。
土方歳三35年の生涯まとめ~幕末を生き急いだ多摩のバラガキが五稜郭に散る
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謎多き新選組の凄腕剣士・斎藤一72年の生涯 その魂は会津に眠る
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志の高さは、ドラマの作りにおのずと反映されます。何気ない感想も、それを集めたネット記事にも、あらわれるものです。
ちなみに土方を「今までで一番かっこいい!」というにせよ、タイミングが悪かった。
◆ 岡田准一、土方歳三は役者人生で「一番かっこいい役柄」と自信 「燃えよ剣」完成報告 #燃えよ剣 #岡田准一 https://eiga.com/l/Zv0zf
よい役者さんがおそろいで、キャスティングの時点で見たいと思わせます。
全員適役でしょう。
特に鈴木亮平さんの近藤勇なんて、悪いはずがないでしょう。
慶喜の天国のような明治時代
明治以降の渋沢栄一が、慶喜顕彰をしていたことは確か。
しかし慶喜の明治ってそんなに大事でしょうか?
どうしたわけか、本作では明治以降の慶喜も見どころになるもようです。
◆大河「青天を衝け」 今後も吉沢亮と草なぎ剛の共演場面が見どころ―(→link)
「この大河は、栄一と慶喜の2人の線で描いてきた作品でもあるので、2人の関係性は大きなテーマになる。これまで栄一と喜作(高良健吾)、慶喜と円四郎(堤真一)、円四郎と栄一など、男2人の関係性が色濃く描かれて来たが、やはり、栄一と慶喜の関係性はいちばん色濃く残っていくのではないか」
◆ 【青天を衝け】慶喜は終盤まで登場 草なぎ剛が表現する奥行きある演技の魅力(→link)
制作統括の菓子浩氏は「物語終盤まで、渋沢と濃厚な関係が描かれていきます」と今後も物語のキーマンとして、作品に大きな影響を与えると証言。
慶喜の隠居生活は、お世辞にも褒められたものではありません。
コスプレ写真を撮り、自転車を乗り回し(そしてそのせいで地元民の田畑を荒らし)、侍女相手に子作りに励む。
『魔群の通過』(→amazon)の作者である山田風太郎は実に辛辣でした。
「豚一」とは豚肉を好む一橋という意味のあだ名だけれども、何もせずひたすら繁殖していたところが豚のようだと『人間臨終図巻』に記しているほどです。
彼の言わんとするところはわかる。はたから見れば、亡国後に第二のライフをエンジョイしていた劉禅状態でした。
ただ、慶喜の場合、そうでもしないとまずかった一面もあります。
あれほど賢く、フランス仕込みの知恵があり、かつ将軍となれば反政府勢力に担がれかねない。実際、周囲に担がれ朝敵として敗死した西郷隆盛より、はるかに賢い処世術でした。
まさに韜晦(とうかい・目眩し)と言える。
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そんな慶喜が明治以降も渋沢栄一を招いたのは、彼が自分の名誉回復に役だったから。
幕末の動乱の最中、彼に忠義を尽くした永井尚志だの勝海舟は塩対応をされています。彼らは使い捨てられたようなものですね。
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それに対し長州閥ともうまくやり、政財官に顔が利く渋沢は使い勝手がいい。お互い利害関係で結びついていたのです。
彼らの中には「御用記者」「人格最低」と言われたけれども、文才だけはピカイチだった福地桜痴も参加します。
自分の華麗な文才を披露するためなら、信念なんてあっさりポイッ。栗本鋤雲や福沢諭吉からすれば風上にもおけぬ福地は、渋沢と慶喜にとってうってつけの人材でした。
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そういう人間関係をロンダリングをするドラマ。渋沢栄一をテーマにする意味がわかりません。
これだったら徳川慶喜ドラマでよかったのではありませんか?
お札になるから諸事情で主役にしたものの、明治の経済を描けないから、役者の人気や幕末史の人気に逃げたように思えます。
その徳川慶喜の描写にしたって、不都合なところを省いてしまい、何が何やらわからない。
慶喜を描くにせよ、無血開城に勝海舟がいない時点で終わっています。
天狗党のせいで水戸の明治は地獄だった
このドラマ制作者はさておき、私は天狗党を無視できません。
栄一は新政府の暴虐に怒っていましたが、彼らに尊王攘夷を植え付け、幕政を混乱させ、倒幕に至る種をせっせと蒔いたのは水戸藩です。
徳川斉昭と藤田東湖が醸成してばら撒いた後期水戸学の影響があります。
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その恩義があるからこそ、天狗党は明治になって早々に靖国に合祀されました。
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「でも、栄一は天狗党と関わってないでしょう?」
ドラマだけ見ているとそう思ってしまうかもしれませんが、実際は違います。
本作でロンダリングされただけで、首領の藤田小四郎と渋沢は「畏友」と呼び合うほど仲が良い。
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薄井龍之は渋沢栄一経由で慶喜に連絡を取ろうとした。
慰霊を行なっている。
明治以降も藤田東湖の言葉を著作でしばしば引く。
とまぁ、深い関係があり、その思想は明治以降も捨て去ってはいないと考えたほうが妥当です。
明治以降、栄一が指摘したように尊王攘夷を唱えた連中が政府の中枢におりました。そしてせっせと水戸学を国民全体に広めた。
栄一は正反対のことを言っておりますが、武士を消し去るのではなく、全国民に武士道を叩き込もうとしたようなものです。
表層的な西洋人への攘夷が消えただけで、根幹は変わらない。
そのことは果たして変わったのかどうか?
スポーツチームは「サムライ」と称される。
志のある人物を「サムライ」と呼ぶ。
そもそも国民的とされるこの大河ドラマだって、武士が主人公のものが圧倒的に多い。
作中の栄一は何やかやと言い訳をかましておりますが、歴史修正としかいいようがありません。
そんなに新政府で武士が嫌いならば、もっと本気で政府に反発すればいい。実際に、福沢諭吉や栗本鋤雲はそうしました。
武士として生きることが間違いならば、武士としての忠義なんて捨てればよろしい。そうできないからこそ、慶喜に会いに行き、名誉回復に努めている。
栄一をどうしたいのか、作る側もわかっていないのでは?と、不安になってきます。
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