『武侠映画の快楽―唐の時代からハリウッドまで剣士たちの凄技に迫る』/amazonより引用

中国

北斗の拳にも影響大! 中国エンタメ「武侠」は日本と深い関係にある?

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全員悪人 そんなアウトレイジ三国志があった

三国志』といえば、皆さま何を想像するのでしょうか。

正史→おっ、本気ですね?

演義系→そこは定番ですね!

多くはそんな反応かなと思われます。

エンタメでは『三国演義』が定番で、日本ですと吉川英治氏のアレンジがあったりして、ちょっとややこしいことになっております。

そこで注目したいのが『三国志平話』です。

こちらは全ページイラスト入りの読み物で

・三国時代を楽しみたいけれども、正史はお堅いし、専門的でシンドイ

・ならば講談師のアレンジも踏まえて、コテコテの娯楽モノにしてやろうじゃないか!

そんな考え方から、元代14世紀初期に成立しました。

もう少し踏み込んで、特徴を説明しますと。

・前世の因縁があるというイントロが入っている

・一応は当時の官軍であったはずの三国志の英雄の皆さんが、『水滸伝』レベルでアウトローの住人っぽいやりとりをしている

・張飛が無差別殺人をスタイリッシュにやらかす。道案内を頼んだだけの女を殺したり。悪すぎるやろ!

・諸葛孔明すら、話がまとまらないと剣を振り回して相手を殺す

・ともかく何かあるとやたらと殺す

・超常現象もなんだかものすごく起こる

「全員、悪人。」

そう突っ込みたくなる、『アウトレイジ』状態なんですわ。

 

当時は、まぁ、ともかく何かあればぶっ殺すネタがよかったわけですね。

「どうしてこんなに殺すの? 無茶苦茶なの? いくらなんでもやりすぎでしょっ!」

そう突っ込んだのは『三国演義』の著者として知られる羅貫中(らかんちゅう)です。

『三国演義』は現代からすれば派手で荒唐無稽なようですが、実はかなりブラッシュアップされています。

今なお大人気なのは、その卓越した加筆修正のおかげなのでしょう。

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ともかく、中国大陸には、

【ありのままに殺しまくる】

バイオレンスエンタメが残っていたことをご理解いただければと思います。

 

愛すべき御都合主義エンタメの世界

筆者は中国文学が嫌いなのか。

そう突っ込まれるかもしれませんが、もちろんそんなワケありません。

むしろ、現在のエンタメにも通じる【御都合主義】は大好きです。

その例を見てみますと……。

ちょっと動いただけで、大事な部分がポロリとしそうな衣装。

胸が揺れすぎて、絶対に痛いであろう美少女戦士。

もっと露出度に気を使うだろ!

きつく胸当てをするだろ!

そういうツッコミが入ることは当然といえばそうです。

その究極サンプルが、中国文学エンタメの世界です。

中国では、悪しき伝統である纏足がありました。女性の足の骨を叩き折り、極めて小さくする悪習で、足は痛むわ、肉は腐るわ、非常時は走れないわ。ともかく虐待としか言いようがない。

それでも美女の必須条件とされ、長い年月の間、纏足フェチズムがありました。

はい、あなたがそんな時代の作家だとして。

「美少女戦士を出したいよなぁ。けど、纏足で飛んだり跳ねたりってどうよ? 無理じゃね? うーん……」

そう悩んだとしましょう。

そんなとき、各キャラたちにどうやって派手な活躍をさせますか?

彼らが用意した答えはこんな感じです。

「靴の中に詰め物を入れれば、普通の足と同じように戦えるんだよ!」

「戦ったあと、美少女がおもむろに靴の中の詰め物をやれやれ系主人公に見せる。って、最高じゃね?」

足の骨が砕かれているのに、靴に詰め物したからって戦えるかーい!

御都合主義にもほどがあるでしょ!

ツッコミどころ満載ではありますが、こうした設定が定番になりました。

ここで、もう一つの課題が持ち上がります。

「超絶強ぇえ美少女戦士が、無事に仇討ちを終えたわけだが、ここから最高にグッとくる、今、流行のエンドにしたいわけですよ」

はい、どうしますか?

「やっぱ美少女だしさ。仇討ちが終わったら、良妻賢母としてやれやれ系主人公と結ばれるのがいいよなぁ!」

これまた御都合主義が出てきます。

特に明清時代には、定番の終わり方になり

「才子佳人小説」
(イケメンと美少女カップリング)

というジャンルになったほどです。

凄まじく軽薄で薄っぺらに思えるかもしれませんが、その認識である程度はあっているとは思います。

不朽の名作『紅楼夢』は、ひねったバッドエンドですが、ファンはそれでは納得せずハッピーエンド二次創作をしておりました。

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・人外(蛇や狐)だろうが、美少女ならばハッピーエンドであるべき

・幽霊でも美少女であれば、妊娠出産できる

・美少女戦士も、最終的には良妻賢母としてハッピー主婦ライフに落ち着く

お前らな、いい加減にしろよ……そう突っ込みたくなりますが、そうなってしまったのだから仕方ない。

唐代伝奇の成立当初は、教訓めいた筋書きがあり、ホラーテイストであった原典が、明清になると結局カップリング萌えに着地する、そんな様相を呈していました。

『児女英雄伝』という大傑作美少女戦士物語は日本にも紹介されていますが、最後はハッピー主婦エンドです。

 

日中融合武侠ビッグバン

繰り返しますが、中国エンタメと日本は無縁ではありません。

しかも娯楽と終わらせるだけでなく、教訓も持たせること。

これも大いにありで、江戸時代の武士は『三国演義』を読みながら「英雄とは何か?」を学んでおりました。

例えば薩摩藩でも郷中教育で『三国演義』を嗜んだものです。

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あの近藤勇にしても、

「関羽ってまだいるのかな?」

と大人に尋ねる少年時代を過ごしています。

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そして江戸時代が終わり、明治時代以降になると、日本と清の間では留学生等を通して新たな交流が生まれました。

「日本には、満州族以前に漢民族が伝えた呉服がある。このほうがむしろ漢民族の伝統なのだ」

留学生の中には、そんな理由で和服を好んだ者もいたほど。

明治維新を成し遂げた人物たちを憧れの対象にもしておりました。

同時にエンタメにも、熱い目線が注がれます。

西洋からのSFやミステリが上陸し、東アジア全体のエンタメにもビッグバンが到来。清の留学生が「これだ!」と熱くなったのが押川春浪でした。

大河ドラマいだてん「天狗倶楽部」でもお馴染みの押川です。

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彼は「武侠」という概念を日本国内に提唱しました。

日本の武士道をベースとし、義侠心でともかく主人公が暴れまくる――そんな豪快な世界観。

実際、彼の著作は「武侠」づくしです。

「武侠……これはいい!」

そう熱くなったのが、清から留学していた梁啓超(りょうけいちょう)でした。

清から民国へ。革命を志した偉大なる革命家は、押川に魅了されていたんですね。

もともと武士道を伝える『中国之武士道』という著作もある梁啓超です。

押川の武侠を知り「これぞまさしく我々にもマッチするエンタメじゃないの!」と目をつけ、押川の著作をバンバン中国語訳で発行。

清末期民国初期、中国では「武侠」が現代に至るまでの一ジャンルとして熱い定着を見せるようになったのです。

かくして【武術】で【義侠】の行いをするエンタメは【武侠】と呼ばれるようになりました。

この「武侠」という言葉は、韓非子の「儒は文を以て法を乱し、武は侠を以て禁を犯す」が由来とされることもあります。

しかし

・梁啓超が使い始めた

・押川人気は清でもあった

・押川以前には使用例がない

といった論拠から、どうにも日本の押川春浪由来だと思われるのです。

綿々と語り継がれてきた【英雄と美少女戦士が駆け巡り、光と闇が戦う】そんなジャンルに名前がつき、「武侠小説」がどんどん発表されていきました。

しかし残念ながら、この日中交流は戦争を経て断絶してしまいます。

不幸な大戦、冷戦、文化大革命……日中間には深い亀裂が入ってしまうのです。

では

「エンタメ日中はここで交流終了!」

と、なったと思いますか?

いえいえ、文学とエンタメに国境はありません。
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