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【金瓶梅】
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ディテールが細かい! 話もある意味面白い!
お色気たっぷりのハーレムものとして、ヒロインの描き分けができていることは、もちろん基礎中の基礎。
本作はそれだけではなく、当時の上流階級の衣食住を細かく描き、収賄贈賄が横行して腐敗しきった社会に批判の目を向けています。
日常生活の描写はわずらわしいほどではありますが、凝った料理のメニューや服装の描写は、当時の風俗を知る上でなかなか貴重です。
さらに肝心のストーリーも、ある意味面白い。
ただ主人公たちが酒池肉林を繰り広げるエロパロならばすぐ終わるところを、本作は多彩な登場人物の愛憎や流転する運命を、波乱万丈に描くのです。
『水滸伝』とはまるで毛色が違う、エロチックなソープオペラといったところでしょうか。これがなかなか面白いのです。
英雄豪傑のスカッとする物語をお求めの方には、あまりおすすめできませんが、極悪人になろうとして小悪人止まりの西門慶以下、右往左往する姿が何とも味があるんですよね。
ただのエロ小説ならばここまで読まれないと思うほど、人間関係がぎっしりと詰まっていて面白いのです。
オススメの日本版・三次創作は『妖異金瓶梅』など
本作はそのエロチックな内容が人気で、中国語圏だけではなく日本でも映画化されたことがあります。
しかし、本作の味が二時間程度の映画に入りきるとは思えません。
活きてくるのは、エロよりも人間関係の濃密さをふまえた翻案でしょう。
本作は『三国志演義』や『水滸伝』とちがって、明確な目的もないままだらだらと続くのが特徴。
オリジナルキャラクターを勝手に足すのにはもってこいの構成をしています。
では、日本ではどんな作品がオススメか?
高い評価を得ているのが、山田風太郎氏の『妖異金瓶梅 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)』(→amazon)です。
豪華な屋敷内で織りなす人間関係と愛憎を、ミステリ仕立てにした連作短編集でして。
原作を活かした、アッと驚くような仕掛けがあります。
きちんと流れを踏襲しつつ、ミステリとしても出来がよいのです。
他には、竹崎真実によるレディースコミックス版『金瓶梅』。かなり息の長い、隠れた名作となっているようです。
『金瓶梅 (1) (まんがグリム童話)』(→amazon)
女性同士のドロドロした部分、殺人といった事件要素を強調した作品であり根強いファンがいるのも納得できる内容です。
★
長く、くどく、『水滸伝』のファンだからといって読むべきか?と問われたら、そうとは言い切れない『金瓶梅』。
しかし独特の魅力はありますし、こんなリアリティとブラックユーモアのあるエロパロ二次創作スピンオフが、400年も500年も前に創作されたのかと思うと、なんだか感動すらしてしまいます。
原典は流石にハードルが高そう、という方はとりあえず前述のミステリ版と漫画版からおすすめします。
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文:小檜山青
【参考文献】
『金瓶梅―天下第一の奇書 (中公新書) 日下翠』(→amazon)
『中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢 (岩波新書 新赤版 1128)』(→amazon)