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【モンテスパン侯爵】
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ルイ14世に渾身の嫌味を放って逮捕、トホホ
もうこうなったら、次はわかりやすい嫌がらせです。
モンテスパン侯は喪服に身を包み、宮中へ向かいます。
ルイ14世は怪訝な顔で彼に尋ねました。
「お気の毒に。どなたがお亡くなりに?」
モンテスパン侯はギロリと王を睨むとこう言い放ちました。
「愛する妻です。二度と彼女に会うことはないでしょう」
そう言うとあてつけがましく足音を立てて、背を向けて立ち去りました。
王はポカンと相手の背中を見送りましたが、やがて猛烈に腹が立ってきました。
「家臣たるもの国王の機嫌を取るものなのに、あの傲慢な男はなんなのだ。逮捕しろ!」
モンテスパン侯は二週間を牢獄で過ごしたあと、釈放されました。
そして、何をしでかすかわからない危険人物として、許可無く領地を出ないことが条件としてつけられたのです。
モンテスパン侯は馬車を黒く塗らせました。
これが現代風に言うと、車を黒塗りの霊柩車に変えるような感じでしょうか。
馬車の御者台には角が二本つけられ、家紋を書き直す時も角をつけるよう指事しました。
「寝取られ男」は角が生えるという言葉から来たもの――なんだかオシャレというか、奇行極まるというか、あるいはこれがフランスのエスプリってやつですか。違いますね。
さらに彼は、領地に戻ると、盛大な「公爵夫人の葬儀」を一ヶ月掛けて行い、喪に服しました。
彼は隠すことなく、全力で周囲に「俺は寝取られました」アピールをしたのです。
モンテスパン侯の全力寝取られ男アピールは、宮廷の人々をあきれさせたものの、パリ市民には「面白くて反抗的な貴族もいるんだねえ」と好意的に見られました。
領民たちは彼の人柄を敬愛していたので、心から同情を寄せ、美しい侯爵夫人の不在を悲しみました。
ここまで熱心に寝取られ男をアピールしたのは「本当は妻のおかげで出世できたと喜んでいるんじゃないの?」というゲスの勘ぐりを断固阻止するためでもありました。
彼の貴族の友人たちは、その災難を真面目に受け止めません。
しかし純朴な領民たちは、心の底から同情してくれたのです。
ここまでしてやっと、モンテスパン侯の気持ちは落ち着いて来ました。
寵姫の夫と栄光と没落と
フランソワーズの、夫に対する怒りは収まりませんでした。
彼女は夫に対して別居訴訟を起こします。
当時、離婚は大変ハードルが高いものでして、別居訴訟が実質的な離婚訴訟のようなもの。フランソワーズは容赦なく夫から持参金や家財道具をむしり取りました。
結果、モンテスパン侯は借金まみれになってしまいます。
夫が借金まみれになる一方、フランソワーズは栄光への階段を駆け上がっていました。
彼女が本気になれば、心優しく王の愛だけが頼りのルイーズ・ド・ラヴァリエールでは太刀打ちできません。
度重なるイジメのような仕打ちに心を痛め、修道院に送られてしまいました。
ここからはフランソワーズにとって、栄光の日々。
華麗な美貌は王の寵愛と宝石やドレスで輝いていました。それはもう満足の日だったでしょう。
しかし、寵姫は年齢と戦わねばなりません。
加齢と度重なる出産で、彼女の美貌もやがて翳りが見え始めます。
自分よりずっと若いライバルを、黒魔術にまで頼って蹴落としきたフランソワーズ。
それにも限界がありました。
ルイ14世が新たな愛人に選んだのは、聡明で控えめなマントノン侯爵夫人です。
若さに弾けるような女性ではなく、むしろ地味系のノーマーク女に栄光を奪われてしまうのでした。
そしてついにフランソワーズは、あろうことか夫に助けを求めます。
モンテスパン侯は当然、家に戻りたいという妻の頼みを断ります。
結局、フランソワーズは、かつて自分が追いやったルイーズと同じく、修道院で神に仕える日々を送ることになるのでした。
皮肉な状況を面白きに変えて
モンテスパン侯はその後、宮廷への出入り禁止が解かれました。
彼は宮中で「彼の娘」とカードゲームを楽しむことすらありました。
彼女らは、名目上彼の娘ということでしたが、実際にはフランワーズと王との間にできた子たちです。
この皮肉な状況も、角が取れて丸くなったモンテスパン侯にとっては、面白いことでした。
かつては妻への愛が暴走し、奇矯な振る舞いをとっていたモンテスパン侯。
晩年の彼は面倒見が良い老貴族として知られていました。
そんな彼は1701年、穏やかな最期を迎えます。
妻に先立つこと6年、61年の生涯。
全力で寝取られ男をアピールして歴史に名を残すという、フランス史においても中々ユニークな一生を送った人でした。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
安達正勝『フランス反骨変人列伝 (集英社新書)』(→amazon)