冬季のスポーツ――特にオリンピックのとき日本で最も注目度の高い競技は、何といってもスケートでしょう。
スピード、フィギュア共に、男子も女子も有力選手が多く、様々な大会でメダルを期待。
でも、ちょっと気になりません?
そもそもスケートって誰が何の目的で履き始めたのか。
特にフィギュアなんか意味がわからない。
なぜ氷上をくるくる回り始めたの?
12月25日は「スケートの日」。

スコットランドを代表する絵画『スケートをする牧師』は18世紀の作品です/wikipediaより引用
実は3000年もの伝統があるスケートの歴史に迫ってみましょう。
スケートの歴史は3千年前から
歩くより、滑った方が断然速い!
そんな実用性から生まれたものが多いウインタースポーツ。
スキーの歴史は紀元前2500年前からでなので、なんと4500年!
とは以下の記事で触れさせていただきました。
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スキーの歴史は4500年|紀元前からの狩猟具は武具となり現代のスポーツへ
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スケートはそれと比較するとさすがに短いのですが、それでも3千年前のフィンランドにはその痕跡がうかがえるそうで。
原始的な“かんじき”や“スノーシュー”は、人類が道具を作り始めた時からあるものです。
こうした氷雪上の履物を、板状に伸ばすか、ブレード状にするか。ここが分かれ目でした。
板状に伸ばしたものがスキーとなり、ブレード状にしたものがスケートになったのですね。
ブレード状にするとは、むろんスケートの刃に相当するものを靴底に付けるワケですが……当初は、とうぜん金属製ではなく、馬の骨などが用いられておりました。
北欧神話の中には、スキーを履いた神様がおられますが、スケートをしているときもあります。
神様って、結局は、お国柄を表すものなんですね。
冷えこむヨーロッパ、凍り付く河川
前述の通り、スケートのブレード(刃)には、動物の骨が用いられておりました。
豚や馬の臑(スネ)部分が主原料で、それを紐で靴に縛り付けたのですね。

動物の骨で作られたスケートの刃/photo by Steven G. Johnson wikipediaより引用
鉄製が作られ始めたのは13世紀。
14世紀頃からは、木製のスケート靴が用いられるようになりました。
ただし、鉄製は実用化まで時間がかかり、長いこと主流は木と骨を組み合わせたブレードでした。
地域的に、ヨーロッパではオランダやイングランドが発展。
ノルウェーを中心とした北欧ではスキーが発展しておりますが、これは主に気象条件による影響でして。
・河川や沼沢に分厚い氷が張る
・積雪量が少ない
この二つの条件を満たした場所で、スケートは発展するのであります。
例えば北海道でも、帯広などの平野部ではスケートは盛んながら、スキーをほとんどやったことがない――そんな人も多々おります。
まぁ、スキーは山がなければどうしようもないので当たり前なんですけどね。
スケートは、とにかく地域の気温に左右されます。
地球自体が小氷河期だったとされる16世紀から18世紀では、ただでさえ寒いヨーロッパが現在よりも遙かに気温が低く、ロンドンではテムズ川が凍結し、船が閉じ込められてしまうことすらありました。
こうした冷え込むヨーロッパにおいて、スケートは人々にとって身近なものになりました。
ちなみに中国・宋代においても、スケートが行われていた記録があります。
宮廷では紳士淑女もスケートに夢中なの
スキーは、実用的な移動手段であり、ヴァイキング戦士の間で勇者の証としてたしなまれました。
一方でスケートは、実用性よりも娯楽として好まれ、発展した側面があります。
例えば世界最古の「スケートクラブ」である「エディンバラスケートクラブ」は18世紀に誕生。
紳士も、淑女も、スケートに夢中になりました。
ちょっと錚々たる面々なので、スケートをたしなんだ有名人を書き出してみましょう。
フランス宮廷では、特に盛んであったようです。
・フランス国王ルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人
・フランス国王ルイ16世
・フランス国王ルイ16世妃マリー・アントワネット
・フランス皇帝ナポレオン1世(学生時代)
・フランス皇帝ナポレオン3世
・神聖ローマ皇帝ルドルフ2世
イギリスの場合ですと、フランスに亡命し、王政復古で帰国したスチュアート王朝の君主が宮廷式スケートを伝えたとされています。
ヴィクトリア女王とその王配アルバートも、スケート旅行を楽しみました。
もちろん王侯貴族だけでなく、庶民の間でも、スケートは冬場の娯楽として楽しまれていました。
「屋内アイスリンク」「スケート靴」が誕生
産業革命あとの19世紀は、スポーツにとっても大きな変革の時代でした。
それまで娯楽であった運動が、競技として洗練されていったのです。
スケートの場合は、技術革新も起こりました。
1844年には、イギリス・ロンドンにおいて世界最初の屋内アイスリンク「グラシアリウム」が登場。
コンクリートの上に、化学薬品を流したパイプをはりめぐらせたもので、クラブメンバーのみが利用可能でした。
当時最高級の、社交界のたまり場です。
13世紀には登場していていながら実用化が出来ていなかった金属製ブレード。
19世紀になって、ようやく高品質のものが生産できるようになります。

鉄製のブレード/photo by Ellywa wikipediaより引用
早い説では1850年、遅くとも1890年には、靴とブレードが一体化したスケート靴が誕生しました。
それまでは靴にくくりつけるもので、滑りやすさが格段に向上したのです。
まさに技術革新。
そして日本にスケートが入ってきたのは明治維新後のことでした。
日本は「下駄スケート」から
明治維新後に始まった日本のスケート。
新渡戸稲造は、留学先からわざわざスケート用具を持ち帰るほどお気に入りでした。

新渡戸稲造/国立国会図書館蔵
しかし、当時の革製スケート靴は高嶺の花です。
なんとかして気軽にスケートを楽しみたい――。
そんな思いから、1906年(明治39年)、長野県下諏訪町の職人・河西準乃助が、下駄に金属製ブレードを取り付けた下駄スケートを発明します。
下駄スケートは、気軽に楽しめる娯楽として、子供を中心にあっという間に広まります。
実に、昭和30年代まで用いられるほど広く普及したのです(下駄スケートの画像検索結果)。
スピードスケートはいつから?
スピードスケートの起源はいつなのか?
実際のところ求めるのが難しいです。
というのも、そもそもの性質上として「いかに素早く滑るか」という目的のためにスケートが開発されてきたわけで、当初から人々はなるべく速く滑ろうと競い合っておりました。
であれば、競技として認知されたのはいつ頃か?
1763年には、イギリスで24キロメートルを滑る競技会が開催。
やっぱりイギリスなんですね。例えばサッカーでも欧州各地で行われておりましたが、最初に協会を作り、大会を開いたのがイングランドだったので今なお母国と言われますよね。
オランダでも1805年、14才から50才までの女性130名を対象とした競技会がありました。
このころには、既に2名による滑走やセパレートコースも誕生しています。
1880年頃には、スピードスケートは人気競技として定着し、観客動員数が10万人を超えることもありました。
そして世界スケート連盟(ISU)が1892年に成立。
翌年には世界選手権が開催されます。
オリンピックでは、1924年開催の冬季五輪第1回大会から、正式種目に認定されておりました。
人気のほどがわかりますね。
フィギュアスケートはいつから?
社交界においても人気のスポーツであったスケート。
庶民がスピードを競ったのに対して、紳士淑女はいかに優雅に美しく滑るかを、重点的に競い合いました。
世界最古の「スケートクラブ」である「エディンバラスケートクラブ」には、入会試験がありました。
この試験は身体能力を見るもので、氷上の帽子を飛び越したり、綺麗な円を描くもの。
フィギュアスケートの原型とは、このあたりに見いだすことができるでしょう。
1772年には、イギリスの砲兵大尉であるロバート・ジョーンズが、世界初のフィギュアスケート技術書を刊行します。
そこには現在のフィギュアスケート技術の原点や、優雅に滑るコツが解説されていました。
ヴィクトリア朝のイギリスでは、シルクハットの紳士たちが、いかに【正確に美しく図形を描くか】を競い合いました。
これはのちの「コンパルソリーフィギュア」の原型とされています。
19世紀後半、氷の質が安定した人造スケートリンクができると、フィギュアスケートは新たな展開を見せることになります。
アメリカでは、バレエ教師のジャクソン・ヘインズが、ステップやスピンを組みあわせ、音楽に合わせる滑り方を生み出しました。
このヘインズが生み出した独創的な「コンチネンタルスタイル」が、現在の「フリースケーティング」の原型とされています。
オリンピックでの競技化は、1908年開催の第4回夏季五輪から。
1924年の冬季五輪開催前以前に、既に競技化されていたのですから、その人気のほどが窺えましょう。

ヘルマ・サボー/第1回冬季五輪フィギュアスケート女子シングル金メダリスト/photo by Bundesarchiv, Bild 102-11014 wikipediaより引用
日本のフィギュアスケート発祥の地は、仙台市青葉城の堀である五色沼とされています。
1897年(明治30年)頃、米国人のデブィソンがスケートをここで始めた、と伝わっているのです。

五色沼のスケートリンク/photo by Kinori wikipediaより引用
仙台でスケートと言えば、五輪での男子フィギュアを連覇している羽生結弦選手が同地の出身でしたね。
伝統が脈々と受け継がれているとしたら、まさに歴史の繋がりを感じる場面であります。
彼はすでに「過去の自分」と対決するような孤高の天才という印象ですが、ぜひとも三連覇が叶ってほしいものです。
★
より速く、より優雅に――。
滑ることを追求したスケート競技の歴史は、おそらく多くの方の想像より古いものです。
今後も新たな歴史が銀盤に刻まれていくことでしょう。
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【参考文献】
『雪と氷のスポーツ百科(大修館書店)』(→amazon)









