歯をにっと剥き出しにした義経が、後白河法皇の褒め言葉を聞いています。
隣にはいつもの丹後局と平知康。
義経の表情には独特のものがあります。
おすましすることは苦手なのでしょう。まるで猫が喉を鳴らすように褒め言葉を聞くような姿です。
しかし梶原景時は困惑しています。
法皇たちの前を退去して廊下に出ると、義経に「法皇様は勘違いをしている、鵯越ではない」と確認するのです。
義経は意に介さない。
鵯越の方が響きがいいじゃない。馬に乗って駆け降りた方が絵になる――そうニンマリとしながら言い放つ。
「平三、歴史はそうやって作られていくんだ」
まるで、お前の知っている俺の像だって、そうやって作られたんだぞ!と、挑発するような不敵な台詞ですね。
彼自身の偶像を壊すような、破滅的な輝きが今週も眩しい。
戦の天才だった源義経~自ら破滅の道を突き進み兄に追い込まれた31年の生涯
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曾我兄弟
義経の連勝に鎌倉は湧いています。
しかし、頼朝は義仲討伐の代償と向き合わねばなりません。鎌倉に再び暗雲が立ち込め始める。
戦いを終えた義時も自宅へ。我が子の顔を覗き込み、親父殿に似てきたと微笑みます。
赤子の顔はすぐ変わる。この間までは八重さんに似ていたのに。そう実感を込めて語っていると、八重から思わぬ言葉が出てきます。
「そちらは平六殿の子」
おっと、義村の子だったかー。義時は、あらためて我が子を「金剛、金剛」とあやす。単身赴任の会社員のようで、そうそう平穏なわけもない。
そこへ客人がやってきました。
工藤祐経です。
初回放送では、落ちぶれた格好で出てきて、伊東祐親に領地を戻すように訴えていた人物です。
サッパリした身なりになっていて、義時と八重の結婚に祝いの言葉を贈ります。
すると背後からうやってきた子どもたちが祐経に石をぶつける。
「人殺し!」
なんでも親の仇と恨んでいるとか。
幼い兄弟は歌舞伎でも有名な曽我兄弟でしょう。八重には見覚えがあるようです。
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そんな祐経には仕事がありません。
京育ちで文筆も長けているとアピールをしていますが……おっと、祐経は事態が把握できていないようだ。
坂東武者とは桁違いに文筆ができる、大江広元ら文官が京都からくだってきている。もう需要がありませんな。
しかも縁が深いとされた八重もムッとして、よくそんなことを言えると怒っています。
そしてまた兄弟が石をぶつける。
義時は「考えておきます」とあしらいながら、八重に事情を尋ねると、彼女も「忘れましょう」とつれない返答。
話を逸らすかのように、鎌倉の捨て子やみなしごを養いたいと義時に訴えます。
急にどうしたのか?
思わず戸惑う義時ですが、彼女なりに考えていました。これからも命のやりとりがあるのならば、せめて子どもたちを救いたい。
義時は頷いています。
八重は慈悲深いんですね。父・祐親に似ているから、工藤祐経には断固として嫌悪感を見せる。
それでも優しい。親のよいところを受け継ぎました。この八重の思いは、金剛にも引き継がれるのでしょう。
石を投げた少年たち・曾我兄弟も、かなり重要な伏線となりそうです。
三日のうちに義高を討て
源頼朝は、義仲を討ったいま「片づけておきたいことがある」と扇子を手に口にしています。
まずは武田信義に、武士の棟梁は誰か?ということを認めさせる。要は、河内源氏でのランキングをつけたいわけです。
大江広元が、信義の子・一条忠頼がこちらに参ると告げ、信義には消えてもらうと宣言する頼朝。
「そしてもうひとつは、木曽の倅(せがれ)」
父の仇として頼朝を狙う義高がいる限り、枕を高くして眠れない。そして頼朝は義時に告げます。
「小四郎、お前に任せた」
「私で、ございますか?」
「三日やろう。義高を討て」
優雅に扇子を手にしながら、宣言する頼朝。これが権力の頂点に立つものの姿だ。
刀を手にして目をいからせるのではない。扇子という殺傷力がないものを優雅に動かすだけで、誰かの首が飛ぶ――そんな高みに頼朝は上り詰めてゆきます。
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頼朝と二人きりになった広元が念押しするように言います。
「小四郎殿を試しておられますな。やり遂げてくれましょうか」
「人の世を治めるには鬼にならねばならぬ。奴にはそれをわかってもらおう」
どこまで耐えられるか――義時が試されるようになりました。もう昔には戻れない。彼の日常は変わってしまったのです。
大姫と義高が遊んでいます。
母上がお呼びだとして大姫を引き離した義時は、義高を館の一室に幽閉。
その義高を討つことが、あまりに気が重いのでしょう。
父の北条時政に相談します。
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時政は、辛い役目を仰せつかったと気遣いつつも、上総介の一件が転機となり、頼朝は腹を括ったと見抜いています。
「あの方に逆らっては、この鎌倉では生きてはいけん」
時政の言葉に、もはや躊躇はありませんが、思い出してください。石橋山の危機を乗り越え、敵を打ち破り、御家人たちが鎌倉入りを果たしたときのこと。
俺たちの鎌倉、ここで新しい世が始まると生き生きとしていた顔を。
そんな季節はもう終わったのです。
頼朝も義時も許さない
「聞きましたよ、冠者殿のこと!」
政子が血相を変えて義時に迫ります。こんなことなら初めから大姫と一緒にさせるとか言わないでよ!
そう迫る姉に、妹の実衣が、義時に文句を言っても仕方ないとフォローを入れています。
「冠者殿の首を刎ねるなど許さない! 鎌倉殿に会ってくる!」
そして夫のもとへ向かう政子。命を助けるとおっしゃったと迫ると、頼朝は「考えると言っただけだ」とかわします。
まだ年端も行かぬ子どもだと彼女が畳み掛けると、頼朝は自らのことを語り始めます。
父の源義朝が討たれたとき、頼朝はまだ子どもだった。あれから二十年経っても仇討ちの思いは消えない。今でも平家を倒すことを考えている。
義高がそうなるとは限らないと政子が告げても、頼朝は重々しく返すだけ。
「あいつの恨みは、必ず、万寿に降りかかる……」
果たしてそれはどうなのでしょう。自分が恩義を感じないから、皆もそうだと言えるのか。
政子は夫を説得できず、焦っています。
諦めずに冠者殿に会わせてほしいと訴えても、義時は断る。
それでも政子は、迷惑はかけない、冠者殿に会わせて欲しいと訴えます。いったん伊豆山権現に身柄を預け、頼朝を説得してから鎌倉へ呼び戻したいようです。
なぜ伊豆山権現なのか?
「アジール」(聖域)という意味合いですね。自社仏閣に逃げ込めば、そこは治外法権で命は保障される。
そして、無理だと困り果てる義時を説き伏せ、義高と語り合うことになりました。
しかし義高はキッパリと言い切ります
政子は考え違いをしている。決して鎌倉殿を許しはしない。いずれ軍を率いて鎌倉を襲い、首をとるつもりだ。そしてそのときは義時の首も取る。
なぜ怒りの矛先は義時にも向けられるのか。
というと、父・義仲の思いを理解していながら踏みにじったであろうから。
そんな風に恨みを告げると、義高は、こう宣言します。
「自分を生かしておいては皆のためにはならない、早く首をとってくれ」
「でも大姫が!」
娘のことを思う政子は必死に訴えます。
しかし義高はつれなく「いずれふさわしい相手が見つかる」と淡々と、そして二人を突き放します。
「お引き取りください」
義高には、まだ若くとも武士の魂がありました……いや、それが武士の魂なのでしょうか。だとすれば、あまりに救いがない。
検非違使
さて、都では――。
「検非違使?」
義経が、鰹節をもらった猫のように瞳を輝かせています。法皇が甘ったる~く言い切る。
「わしの思う形で示したかった。検非違使になって、京の安寧を守ってくれ」
目を見開きパチパチとさせて喜ぶ義経。彼は思ったことが過剰なまでに顔に出るのですね。
十三人の一人である中原親能が、任官の許可を貰っていないと口を挟むと、
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義経はキッパリ言う。
官位のために戦をしているわけではありません!
この一言に丹後局も思わず反応。あの真っ赤な唇で義経を褒めると、法皇も続けて「頼朝のことは忘れてよい」とニヤついてしまう。
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これがもし、義経の作られたお話通りならば、謙虚に恭しく任官されるのでしょう。
どっこい今年はものが違う。
義経はあまりに配慮がない。官位を求めて戦をしたのではないといえば無欲なようで、むしろただのゲーム感覚で戦をしているとなれば、俄然おそろしさが増すではありませんか。
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それに、こんなにホイホイと釣られてはいけませんよ。うまい話には裏があるものです。
任官問題は、非常に重要です。
頼朝は、義経以外の御家人にもブチ切れ、
「アァ〜、都通過したついでに官位もらうとかどういうつもりよ? 駄馬が道端で草食うみてえなことしてんじゃねぇ!」
と、こんな感じで怒っています。
所領にせよ、官位にせよ、自分の許可範囲内で取らないと周りに示しがつかない。
義経はそういうルールを無視しているから、法皇と丹後局はあとで喜んだことでしょう。
こいつはチョロいな、って。
ちなみに義時はこの点、慎重でした。
上総広常が砂金をやると言ったとき、一旦は断っておいてから相手の機嫌を損ねないために受け取っています。そういうワンクッションを置けるかどうかが重大な分かれ道となる。
とことん能天気な義経は、荒い息遣いをしながら待ち受ける家臣たちのもとへ向かいます。
「検非違使に決まったぞ!」
「おめでとうございます」
本当に、どこまでもシンプルな主従だなぁ。大江広元のような軍師はいない。法皇様は私が大好きだとはしゃいでいます。
さらには「このままどんどん偉くなって清盛を超えてやる!」と続けると、周囲もこの調子だ。
「御曹司ならできる!」
いやいや、誰か諌めなさいってば……。組織にはアクセルだけでなくブレーキも必要ですぞ。
するとそこへ、法皇様が選りすぐった白拍子たちが任官の前祝いとしてやってきました。
静御前――。
日本史上に残る天女のような舞姿を見せます。
美しい。
心が溶けてしまうように美しい。
大仰な演出ではなく、純粋にゆったりと舞う姿を見せてきます。暗い照明の中で皆の心を掴んでしまう。
そんな風に思えるのは、演じる石端静河さんの舞姿が美しいこともありますが、この瞬間を目に焼き付けたいとでも言いたげに、言葉を失って見入ってしまう義経の目線があってこそでしょう。
運命の恋が始まる瞬間でした。
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