鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第17回「助命と宿命」

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お前たちは狂っておる!

義時は、武田信義から起請文を預かりました。

信義は我が子の無惨な死に納得できず、謀反の気などなかったと悔しそうに言います。

息子が死ぬ必要はなかったと言い募る信義に、義時は冷たく「これは警告だ」と突き放します。

さらには、もう二度と鎌倉殿に逆らうなと念押しすると、信義はさすがに我慢できず……。

「お前たちはおかしい、狂っておる」

武田に謀反のつもりはなかった、そう伝えると答える義時。

これでお互い戦わずに済むと片付けるようで、同時に脅迫してもいます。

悔しそうな信義。

そもそも謀反とは、主君に逆らうかうものであり、自分はそもそも頼朝を主君と思ったことはない!

そんな憤りを絞り出しますが、冷酷極まりない、鎌倉殿の懐刀になった義時は受け流すばかり。

そりゃ義高が義時を信じない気持ちもわかります。一番嫌われる役目です。梶原景時がそうかと思ったら、義時もそうなりつつある。

なんなら組織の中では「虎の威を借る狐」扱いで、最も嫌われるポジションかもしれません。

主人公が、大物の懐刀になる大河は多いものです。

『天地人』の直江兼続

『軍師官兵衛』の黒田官兵衛

『麒麟がくる』の明智光秀

『青天を衝け』の渋沢栄一(幕臣時代)。

この手のポジションは『素敵な主君に信頼されていいなぁ』となるのが定番ですが、明智光秀と北条義時の場合、何かがおかしい。一番しんどい立ち位置になっています。

光秀の場合、教養がある人物ですので、それこそ『論語』を読むなりできました。

そのせいで麒麟に取り憑かれてああなったけど、では義時はどうすべきなのか……。

政子は、藤内光澄の処刑を聞かされ、唖然としています。

「殺せとは言っていない!」

「姉上は決して許すなともうされた。鎌倉殿はそれを重く受け止められた。姉上、あなたの許さぬとはそういうことなのです。御台所の言葉の重さを知ってください。我らはもう、かつての我らではないのです……」

義時は家に帰り、我が子を抱いています。

「父を……ゆるしてくれ」

幼い我が子に詫びてすすり泣く義時に、八重が寄り添っているのでした。

 


MVP:木曽義高と大姫

この時代の伝説のカップルと言えば義経と静御前――と、これに加えて木曽義高大姫もそうでしょう。

悲劇がまたも蘇りました。

今回の二人は若く幼いから、余計に残酷さが際立つ。子どもの死と苦しみは、残酷な時代劇では避けられぬものです。

その重いボールをよくぞ受け止めました。メンタルケアが心配になるほどです。

大姫が懇願する場面で頼朝が参ってしまうところは、もう演技を超えたものすらあったと思えます。

そりゃ、あんな子がああ言ってきたら誰も断れません。

キャストの写真を見た時点で、この死は前半の重大なターニングポイントで、どこまでえげつなく心を痛めてくるか、そこにかかっているとは思っていました。

想像以上に酷かった。よくぞここまでできたと思います。もう何も救いがない。

 


総評

大河といえば観光。やっと制限も数年ぶりにとけたわけですが、大河を見て鎌倉に行こうと果たして思えるか? そう問いかけたくなる回でした。

前から鎌倉は怖いと薄々感じてはいました。

慰霊碑はあるのだけれども、大雑把というかあまりに簡単に人が殺されすぎていて、何か理解に苦しむところはあった。

そういう「ほんとうはおそろしい鎌倉の歴史」を余すところなく伝えてきて、秀逸だと恐れ入るばかり。

それでも当人たちからすれば「そんなことないよ! だって風水もバッチリ」かもしれない。

というのも、ほぼ一から設計するものだから、怨霊対策をした作りらしいんですよね……って、だからその発想がおかしいと思いませんか?

そもそも惨殺するから怨霊が出る。だったら、悲劇を未然に防止する方法をなぜ考えないのか?

結局、何が一番怖いかって、人間の心ですよね。

不信感。

猜疑心。

誰もが素直に信じられなくなるから心が濁って、新たな悲劇が起きてしまう。そういう不信感の極みのような回でした。

毎回、演技が圧巻で、小栗旬さんの顔色の悪さ、目の暗さはなんなのでしょう。

木簡を数えていた時。

八重さんにフラれて悲しいと泣いていた時。

幼く見えて、かわいらしさすらあって、透き通った目をした青年だと思えました。

それが今はもう目が暗い沼だ。

今年の大河を見て「将来は義時みたいになりたい!」なんて思う子どもはいないでしょうし、ああなりたいと憧れる若者もいないでしょう。

しかし、それが歴史というものではないかとも思えてくる。

歴史って、英雄になりきった妄想に耽るより、現実社会で起きてはならない決断を迫られる――そうやって心を鍛え、磨くためのものかもしれません。

その点、今年の大河は精神を鍛えますし、本来の意味で歴史を学ぶ意義を伝えているように見える。

やはり歴史劇は、こうでなくては。

 

連休だからこそ見たい歴史劇がある

皆さん阿鼻叫喚のようですが、私は実は毎週うれしい。

ようやく大河が『ゲーム・オブ・スローンズ』以降の世界水準に追いついてきた感があります。

あれはただのドラマでもなく、人間の認識を変えてしまったもの扱いをされていることがしばしばあります。

歴史の本を読んでいるのに

「最近の人はみんな『ゲーム・オブ・スローンズ』のせいか、陰謀を企んでいるみたいなことを言い出すから」

というボヤキも出てきます。

あのドラマ以降「我が国にはこんなスゴイ英雄がいた!」という歴史劇は古くなったと思えます。

むしろ露悪的なまでに歴史を描き、そのせいで精神が削られてしまう、そんな描き方が大事。

野蛮な時代をどう乗り越え、人間の意識をどう矯正したか、そこが大事です。

中世は人間の規範や道徳心がまだ確立できていない。

そこからどうやって高めていくかを描くことは重要でしょう。

『鎌倉殿の13人』は真っ暗闇のような世界でいて、実はもう光が出てきています。

金剛(北条泰時)です。

彼の母である八重は強い意志と慈愛がある。

義時は悪くいえば流されやすい、よくいえば柔軟な適応性がある一方、八重は頑固なところがあります。

揺るぎないものがある。

八重には世の中をよくしたい意志もある。

義時はこのあと苦しい道を這い上っていくしかないけれど、金剛の中に強さや、世の中をよくしたい優しさを感じて救われると思えます。

なぜこんなことを言うかというと、立ち位置の似た人物である司馬懿主役のドラマ『軍師連盟』のおかげかもしれない。

このドラマの司馬懿も人間不信でどんどん顔が暗くなっていきます。

そしてその後継となる司馬昭は、輪をかけて色々と奸悪。

司馬懿と司馬昭は暗黒へと突っ込むけれども、義時と泰時はそうではありません。

金剛が育つから!

坂口健太郎さんになって出てきて「御成敗式目」を制定するから!

とりあえず連休とVODを利用して『軍師連盟』をみると、まだマシかもしれないと救いは得られると思います。精神は削られますけどね。

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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