ドラマ10『大奥』家光編で、おそろしい顔を見せつける春日局――さんざん家光を苦しめてきた彼女が死を目前にして、万里小路有功に切々と語ります。
本能寺の変のあと、家族たちは逃げ惑い、月を見てはやっと生き延びられたと安堵していた。
あんな乱世に戻してはならない――だからこそ、非情な手段を用いても、徳川を存続させたかった。
彼女の願望通り、江戸の庶民たちは平和で楽しい生活を送っていくようになります。
大奥から出たかつての総取締・藤波は、ウキウキワクワクと贔屓の役者・片岡仁左衛門の絵を配っていました。
いわば江戸時代の“推し活”ですね。
生きるか死ぬかの時代から、“推し活”を楽しむまでになった江戸の庶民。
当時を生きた人たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は、どう変わったのか?
『大奥』を振り返りながら、江戸っ子たちの「生活の質」を考えてみましょう。
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幕府公認遊郭・吉原の始まり
『大奥』には男女が逆転しているからこそ、衝撃が際立つ場面があります。
家光が大奥に仕える男たちに暇を出し、遊郭で種付けをするよう命じる場面もそのひとつ。
泣きながら追われてゆく男たちの姿は哀れでした。
これは史実を基にしています。
江戸時代初期、街を建設するために若い男性が江戸に集まりました。
そうなると治安が乱れかねない。いっそのこと幕府公認の遊郭を作ることにした。
それが吉原となります。
時代が下りますと、経済の活発化とともに、幕府公認だけには収まりきらなくなります。
旅館や茶屋の給仕娘、娯楽施設の女性店員などなど、ありとあらゆる場所で性の売買が行われるようになります。
これは『大奥』でも男女逆転して進行しており、この世界の男性たちは「種付け料」を稼いでいることが描かれています。
ペットの飼育
家光と有功を結びつけ、玉栄に呪いをかけた白猫の「若紫」。
実は、放し飼いにされた猫というのも、江戸時代以降ならではです。
それまでは繋いで飼育していたためであり、猫の放し飼いは江戸時代の開幕とほぼ同時期に始まりました。
【生類憐れみの令】は綱吉編で見どころの一つ。
豪華な衣装を着て、綱吉に抱かれる狆は愛くるしいものでした。
そして江戸の街中では、我が物顔で犬が走り回り、町人のお江とお美があきれたように見ているのでした。
日本での犬の飼育は、狆のような高級室内飼育犬は別として基本的に放し飼いでした。
そんな有様で、避妊や去勢ができないとなると、もう 増える一方。
生まれた子犬は水に沈めて始末することが、当時は繁殖対策として当然であったのです。
それを綱吉が止めてしまったものだから、飼育費用が莫大なものとなってしまった。
動物愛護に伴う費用や人員の配置が負担となり、世間はしらけきってしまったのです。
識字率の向上
綱吉は博学であり、さまさまな漢籍を読破。
しかし父である桂昌院は、本を読んでばかりいると視力が低下し、容貌が悪くなると娘の努力を認めませんでした。
そんな綱吉編では、江戸っ子のお江とお美が眼鏡をかけて登場します。
二人は瓦版でゴシップを読み漁り、綱吉の色狂いぶりを話していた。
大奥入りを果たした秋本も眼鏡をかけています。
本を読む。
瓦版を読む。
眼鏡をかける。
これも全てQOL向上の帰結です。
まず、印刷術。
日本が印刷した書籍を手にするようになったのは、宋版の書籍を中国から輸入して以来のこととなります。
『鎌倉殿の13人』では、北条政子が御台所として読むべき課題図書を渡される場面があります。
そこに出てきたのが宋版の書籍です。
こうした印刷物は、バージョンごとに細かな違いが発生することもあります。
綱吉編では、綱吉が手にした『韓非子』と、右衛門佐の手にしたものが異なることがプロットで大きな役割を果たします。
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