大河ドラマ『豊臣兄弟』直イラストイメージ

豊臣兄弟感想あらすじ

なぜ直(白石聖)は殺されたのか?秀長の婚約と戦国農村紛争の実態【豊臣兄弟】

大河ドラマ『豊臣兄弟』の第8回放送は、墨俣一夜城と秀長の婚約者・直(白石聖さん)に注目が集まりました。

豊臣秀吉の出世ストーリの起点となる「墨俣の攻防」が新たな描き方かと思えば、ドラマの終わり間際になって直が殺されてしまうという急展開。

直の死の状況がとにかく気になる!という方は、目次(4.直に対して不誠実過ぎる秀長)からジャンプしてご覧ください。

 

一夜で焼け落ちる陽動作戦の城だった

墨俣一夜城を真正面から描くのは大変なことでしょう。

誰もが知る伝説通りに描いても「陳腐だな」と非難されるし、かといって完全スルーを決め込めば「逃げたな」と結局非難される。

それを本作では、あくまで陽動作戦に利用して「一夜で焼いた」とする展開となり、思わずそう来たか!と感じました。

あの油を大量に入れていた桶が、子供用プールにあって一定の水が溜まるとザバーッと流れるやつに似てんな、とは思いましたが……。

大河ドラマ『豊臣兄弟』イメージイラスト第8回放送2

ともかく墨俣一夜城は、そもそもが妙な話です。

美濃を攻略する上で本当に必要だったのか?と思うような場所でして。

ドラマの第6回放送まで描かれていたように、永禄七~八年(1564-1565年)にかけて織田信長は、尾張の犬山城や美濃の鵜沼城など、稲葉山城の南東側を攻略していました。

史実では、そこから少し西にある松倉城の調略にも成功。

「墨俣に拠点を作らなくても他から攻め込めるじゃん!」という状況であり、史実の織田軍もそうしています。

結局、重要だったのは美濃国衆たちの攻略(調略)だったのでしょう。

だからこそ信長は、斎藤軍に負けても定期的に攻撃を繰り返し、同時に調略を仕掛け続けました。

ですので、ドラマの中の墨俣一夜城が「一夜で焼け落ちる陽動作戦の城」だったとしても、「斎藤龍興に従ってたらこうなるでぇ!」という圧迫効果としてはアリなのかもしれません。

気になるのは、本当の狙いが「北方城」だったという展開です。

あれは竹中半兵衛の“天才っぷり”を魅せるための演出ですよね?

 


真の狙いは北方城!って、なぜわかる?

北方城は、稲葉山城から西へ約10kmの位置にある、非常に重要な支城です。

同時に、史実の安藤守就にとっても非常に運命的な城でして。

詳細は別記事「北方城」をご覧いただくとして、話をドラマに戻しますと、なぜ竹中半兵衛はピンポイントで織田軍の真の狙いが「北方城」だと当てられたのか。

これがもう神秘的過ぎます。

庵に籠もって読書三昧――そんな菅田将暉さんは病弱ながら神々しいオーラを放っており、薄命の天才軍師ということなのでしょう。

だから説明は要らん!と、ばかりに北方城で安藤守就は待ち構え、実際に豊臣秀長たちは取り囲まれてしまいました。

塀の上には弓兵が構え、背後の門は閉められ、正面からは大量の安藤軍兵士たち。

もはや絶望的な状況です。

秀長たちが尾張へ帰還できたこと自体が凄まじい奇跡なわけで、もしかしたら安藤守就が織田家へ降るための手心だったと後で説明されるかもしれませんね。

 

作戦失敗の責任は誰に?

北方城で敗北を喫した秀長たちが帰路につくと、その途中で秀吉や蜂須賀正勝と遭遇。

「生きてりゃそれでええ」

と、秀吉は秀長の肩を叩きます。

こういう秀吉はいいですね。どうせまた秀長に責任をなすりつけるんだろ、とか突っ込まれていますが、それにしても今回の陽動作戦は誰の発案・責任だったのでしょう?

墨俣一夜城に敵を集め、こっそりと秀長や森可成たちが北方城へ攻め込む――そんな奇抜な作戦は、神軍師の竹中半兵衛に見抜かれていました。

誰がなんと言おうと、結果は失敗。

柴田勝家が墨俣の築城にミスッたときは「謹慎してろ!」と怒鳴られていました。

大河ドラマ『豊臣兄弟』イメージイラスト第8回放送1

果たして今回は「半兵衛が天才だったから仕方ない!」で大丈夫なんですかね。

仮に北方城を攻め落としたところで周囲は敵だらけで、ポツリと一つだけある拠点がどこまで敵の攻撃に耐えられるのか?という疑問も湧いてきます。

とにかく本作の織田信長は、すぐに殴る蹴るで理不尽に厳しいので、誰が責任者なのか気になりまして……。

やはりこのままだと、織田軍は失敗を恐れて何も出来ない組織になりそうで、なんだかマズい雰囲気を勝手に感じ取ってしまう自分がいます。

 

直に対して不誠実過ぎる秀長

それでは、直(白石聖さん)の最期について見て参りましょう。

大河ドラマ『豊臣兄弟』直イメージイラスト

実家に戻り、父との再会を果たした直。

蔵に閉じ込められると、幼少期の頃を思い出します。ワガママを言って棚を倒してしまい、父が流血しながら彼女を守るというシーンですね。

子供というものは、誰しも一度や二度はヒヤッとする場面がありますので、そうした思い出が喚起されることはあるでしょう。

そして父と娘で向かい合い、涙を流しながら「祝言にきてください」と告げる彼女。

「行かん!あの兄弟は許せん!」

そう息巻く父親と、涙を流す直を見て、まるで現代劇じゃん……と思われた方も少なくないかもしれません。

久々に帰省したOLが「都会に出世しそうな彼氏がいて結婚するんだ」と言っているような。

親としては「まず秀長を連れてこいよ!」となりますよね、現代劇なら。

しかし秀長は来ない。

博打や酒、女遊びにハマっているクズキャラなら来なくても仕方ありません。

秀長はそうではなく、むしろ真面目です。

ならばなぜ来ない?

一度ぐらい帰省する時間は作れたはず。

墨俣一夜城の仕事が大事なのはわかりますので、それが終わるまで待てば良いだけであり、とにかく彼女一人に結婚報告をさせるなど、人としてあまりに不誠実ではありませんか。

 


直は死ぬためだけに存在していた?

確かに織田家の本拠地が清洲城だった頃と違い、小牧山城と中村では距離があります。

とはいえ一日で行けない距離ではなく、道中が危険であれば、腕利きの仲間を複数人連れておけば、彼女も死ぬことはない。

でも、そうしなかった。

こうなると別の疑念が湧いてきます。

直をほぼ一人同然で行かせたのは、道中で殺されることにより、大きなインパクトを与えるためでは?

つまり直は、最初から殺されるためだけに存在していた。

大河ドラマ『豊臣兄弟』イメージイラスト第8回放送3

だとしたら、なんて切ないキャラクターなのでしょう。

もしも彼女が疱瘡に罹ったり、あるいはインフルエンザや麻疹、その他なんらかの疫病が原因で死に至るのだとしたら、合点はいきます。

当時の様相を表す意義もあるかもしれません。

しかし、わざわざ結婚報告の後に村の紛争に巻き込まれて……というのは、確実に避けられた悲劇だけに“死ありき”の展開だと感じるのです。

 

戦国時代は農村紛争が頻発?

中世は、村同士の争いが酷い時代でした。

特に水や土地の利権については死活問題だけに村単位で争いが起き、一つの村だけでなく近隣の村に協力を呼びかけ、複数の村vs複数の村という殺し合いもあったほどです。

今回登場した農民たちは鍬や鎌で戦っていたように見えましたが、そんな生ぬるいことはせず、槍や弓を持って戦うのが普通。

村の中あるいは近くの山中に、柵や堀などの防御機能を伴った臨時の軍事施設も設置されるほどで、野武士などに襲われそうになったときも利用します。

やってることは武士の戦いと何ら変わりがありません。

農民だって武器を持って戦います。

そうした状況は、本作の時代考証・黒田基樹氏の著作『百姓から見た戦国大名(→amazon)』にも記述があるばかりか、先行研究者の書籍も数多あり、多くの事例が記されています。

中には150年以上にわたって戦いを続けている村と村などもあり、その都度「◯人死んだ」などの記録も残されるほどでした。

複数の村vs複数の村で合戦が起きたときに、犠牲者の数が事細かに記され、後に、その犠牲に遭った者の村が主体となって戦うときには、死ぬ気で協力することなども記されています。

大河ドラマ『豊臣兄弟』イメージイラスト第8回放送5

そんな状況だったら、誰もまともに生活できないじゃん!

というのは本当にその通りで、当時はまず「自分の村は自分たちで守る」のが前提でした。

ゆえに誰もが武器を持っていた。

ただし、その一方で、各村には領主という存在もいます。

土豪や国衆が治めている地域なのか。あるいは大名が直接支配している直轄地なのか。

領主の階層に差はあれど、基本的に支配者層は「村の治安を守る」のが仕事であり、だからこそ年貢を徴収できるわけで、もしもそれが守られなければ農民たちは田畑を捨て、別の村に逃げてしまいます。

そんな簡単に逃げられんの?と思われるかもしれません。

これが不可能どころか、なんなら「うちの田畑で働いてください。当初は無税で、農機具や種もみもお貸しいたします」と好条件を提示して、リクルート活動をする領主層だっています。

今の社会と同じですね。

極端なブラック企業でもない限り、報酬と仕事はある程度のバランスが図られるものであり、それが崩れるなら他社へ逃げられるだけです。

要は「どれだけ人を囲えるのか?」というのは、戦国武将や大名の能力に直結していたんですね。

だから他国へ攻め込んで、戦に勝てる(食糧や人質をぶん取ってこれる)領主は人気があった。

そこで疑問視されるのが、本作の織田信長の統治能力です。

 


信長の統治能力に疑問

小牧山城から清洲城を通って、中村まで行く道のりは尾張のド真ん中であり、すでに織田信長が制圧して長い。

それなのに、あまりに治安が悪くありませんか。

物語序盤から村は野武士に襲われ、農民たちが虐殺されていました。

秀長だって、友人が首を斬られて愕然としながら、「お前ら武士は何やっとんじゃ!」と秀吉に向かって叫んでいたはず。

あんな危険なことがあって、なぜ直を弥助のお供一人だけで行かせたのか。

城戸小左衛門のような鬼強キャラならまだしも、いざというとき弥助が頼りにならんことは明らかでしょう。

大河ドラマ『豊臣兄弟』イメージイラスト第8回放送4

しかも、この弥助がかなり調子に乗っていて、かつての農民仲間・玄太から「水争いが大変なんだ」と言われ、「小一郎は美濃攻めをやってんだ、そんな小さな事どうでもいい」という発言をしてしまう。

「オレの友だち、スゲーだろ」感が強くて、どうにもなりません。

農民にとって水は死活問題であり、そんなことは弥助だって承知のはずなのに一体どうしたのでしょう。

そもそも水争いが起きているならば、同時に領主層への訴えもあるはずです。

この裁き一つで領主たちの能力も問われるわけで、完全放置状態の信長は、美濃へ攻め込んでいる場合ではないですぞ! 信長様!

直がいなくなって哀しい。

なぜ、あんな最期を迎えさせられたのか。

確かに戦国時代は農村でも紛争が起きる厳しい時代でしたが、直の場合はほんの少しの気遣いだけで避けられた死です。

白石聖さんが演じる直の透明感よ……御冥福を祈ります。

👉️北方城の詳細は別記事「北方城」をご覧ください

『豊臣兄弟』総合ガイド|秀吉と秀長の生涯・家臣団・政権運営等の解説


参考書籍

黒田基樹『百姓から見た戦国大名』(2006年9月 筑摩書房)
太田牛一/中川太古『信長公記』(2013年10月 KADOKAWA)
呉座勇一『真説 豊臣兄弟とその一族』(2025年11月 幻冬舎)
清水克行『室町は今日もハードボイルド』(2023年12月 新潮社)

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川和二十六

歴史学科を卒業。大河ドラマ『豊臣兄弟』レビューおよび歴史エンタメ記事を担当。歴史記事以外でも様々な分野のライティングや編集業務もこなしている。 ◆国立国会図書館データ https://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/001138406

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