天文17年(1548年)――。
前回出てきた竹千代が、徳川家康として幕府を開くまで、半世紀以上前のこと。
美濃国では明智十兵衛光秀(明智光秀)が、主・斎藤利政(斎藤道三)に鉄砲の説明をしております。
史実の明智光秀は本当にドラマのような生涯を駆け抜けたのか?
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鉄砲を得る理由が知りたい
「巣口から玉薬と玉を込めます。火縄に火をつけ、挟み……こちらを今少し、頬に当てます」
「こうか」
「そうです。もそっと右に向けます。ああ、行き過ぎです。左様、では、指をお引きください」
細かい火縄銃射撃。注目は頬に当てるところでしょうか。頬に当てるタイプは狩猟目的であり、命中率が高くなります。
欧州のマスケット銃は、肩に乗せてともかく撃ち、弾幕を作るタイプが主流でした。猟銃タイプが伝わったため、命中率を考慮できるようになった日本の状況があります。
「うむ、わかったこうだな。よし、引けばよいのだな」
利政が引き金を引くと、水甕が破裂しながら吹っ飛びます。
「みよ、よう当たった、はははっ!」
「はい、お見事でございます」
利政は一瞬はしゃいでから、疑念を呈しはじめます。
利政と光秀が気になるところ
利政:将軍家が手に入れている。確かに高威力だ
光秀:ええ、弓矢よりそうではあります。しかし、装填を考えたら実戦向きではありません。玉薬も玉も、堺でしか入手できない。
光秀:これを戦道具として入手しているとは考えられません……
利政:でも遊び道具とは思えぬ。何故、京の公方様がご執心なのか? それが知りたいものだ
整理しましょう。
得られた断片的な材料から、一番説得力のあるシナリオを形成する。これが大事です。
光秀と話しているとそれができるからこそ、利政はじめ周囲は側におきたい。光秀と話していると、アイデアが生まれるのです。
シャーロック・ホームズは、単独で考えることは当然できます。けれども、ジョン・ワトソンと会話することで推理がより深まってゆく。
鉄砲の状況
まずは将軍家が鉄砲をどうしたいか――動機の解明だ。利政はそう考えました。
「何故?」
そう、何故。ここを探れば、様々なことがもっとわかりやすくなるはず。
そして光秀は、そこを考える人物です。
伊平次という鍛治
光秀は、明智荘の自宅に戻りました。そして鉄砲の構造を書き写しています。
「う〜ん」
熱心に見る。その上で考えています。
確かに装填時間という欠点はある。次の玉を込めているうちに攻められたらどうしようもない。それではそこを改善できないか。そう考えているらしいことが明かされてゆきます。
どんっ!
鉄砲を構えていると、そこへ藤田伝吾がやって来ました。
「おおおっ!」
銃口を見ただけで怯える伝吾。ここも大事だと思います。第一回では、誰も鉄砲のことを知らなかった。ゆえに、変な棒程度だと思い、決して怯えたりはしませんでした。
人というのは、知識で判断をくだすもの。正体がわからなければ、警戒すらしない。知識が身を守り、人の反応を変えます。
「お呼びでございますか」
驚きながらも、伝吾はやっとこう言います。光秀は、火縄銃を分解して中を見たいと言い出します。装填速度向上を考えているのです。
うーん、光秀は優秀!
今の職場にいても役立つはず。発想が柔軟でアイデアがあるんですね。
光秀は、関の刀鍛冶と親交がある伝吾を呼び出しました。
関は今も刃物が名物です。目の付け所がよいんですね。
隣家のよし三は、孫六の弟子であったはず。刀鍛冶なら分解くらいできるはずだと光秀が見立てると、伝吾が鉄砲の噂を聞いたと言います。
伝吾の聞いた話
以前、ここのちかくにいた伊平次。酒癖が悪く、粗暴で酒を飲んでは喧嘩をしていた。
刀鍛冶になると関に行ったものの、長続きしない。それで近江・国友村へ流れた。
そこで今、京のある筋から頼まれ、鉄砲を修理しているとか、作っているとか。
これは噂でしかないとよし三は申すのですが……。真偽のほどが不明なので、黙っていました。
光秀はここでハッとしています。
「伊平次だな!」
まるでRPG、クエスト開始でベタだな〜と楽しみにしても面白いとは思いますが、情報精度として、結構いいネタではあるのです。
もしも伝吾の話に整合性矛盾があれば、光秀もホイホイ出立しない。
九州ならば遠すぎて行けない。
かといって、あまりにできすぎていては罠かもしれない。
光秀なりに考えて、これはありだと思ったのです。
駒の思い
そのころ、明智荘に駒が向かっていきます。
あとを追う菊丸は、早いと文句を言う。それでも駒は、菊丸が遅いと取り合わない。菊丸は昨夜首を寝違えて痛いそうですが。
ついてこなければよかったでしょ。そう言う駒に、一人では危ないと菊丸は引き下がります。東庵が一人で危ないと言っていたそうです。
駒は、明智荘に言って光秀と牧の方に挨拶すれば一日で戻れると強気です。
ところが、光秀は近江国へ出かけてしまった。来るとわかっていたらお知らせしたと、牧は気遣っております。
「まあ、京へお帰りになるの」
そう気づく牧。東庵も終わりから戻ったからには、明日には発つとか。それで挨拶に来たと聞き、牧は丁寧だとお礼を言うのでした。
「十兵衛様はいつお戻りに?」
「三日のうちにとは申しておりました」
牧はあがってゆくよう勧めます。お城には夕暮れまでに戻ればよいと言うのです。
それでも駒は、いろいろと片付けものもあると言い、暇乞いをするのでした。
駒は諦め、戻るしかない。
そこで彼女の口から本音が出ます。
「私、本当は、京へ戻りたくないのです。戦ばかりで、身よりは東庵先生だけで、親も兄弟も……。ここにたほうが、よほどここにいた方が……」
「ここも戦ばかりですよ」
牧はそう返します。
あれほど慈悲深い牧がそう突き放す。そんな乱世が憎く、悲しいと思えてしまいます。
そのころ菊丸は、子どもに差し出された柿を懐に入れています。こういう平和な暮らしを、戦は破壊する。
菊丸は「思ったより早い」と意外そう。
十兵衛様にお会いになれたかと聞かれ、近江に行かれたと駒は言います。
「えーっ、じゃあお会いにならないまま?」
もう二度と会えないかもしれないのに、どうして近江などに行くかな〜。そうこぼす菊丸。
駒は己に言い聞かせるように言います。
「しかたない しかたない。またお会いできる。いつか……」
おっ、本作はちょっと古典的でいいなぁ。吉川英治『宮本武蔵』における武蔵とお通のように、会えるようで会えない二人はロマンの定番でしたもんね。
国友村では見つからない
琵琶湖の北にある国友村に、光秀は到着しました。
光秀はぬかりなく、関の孫六の紹介状を見せます。そういうものがないと怪しい者として扱われかねない。刀鍛冶も、遠路遥々来ていただいて丁寧ではあるのです。
しかし、火縄銃のことは「口止めされている」としてそっけない。
そのような御沙汰はどこからかと光秀が聞くと、将軍家からだと返されます。
乱世ですけれども。将軍権力が盤石であれば、この時点で光秀は引っ込む。ほら、水戸黄門の印籠ですよ。印籠そのものに殺傷力はまるでありませんが、将軍家の御威光あればこそああいうことになる。
「では仕事に戻りますゆえ、これで」
そう打ち切られそうになって、光秀は関から参った伊平次に会わせて欲しいと粘ると、これも断られる。
仕方なく外へ出ると、若い刀鍛冶に声をかけられました。
「伊平次の居場所、よろしければお教えいたします」
光秀が情報量を渡すと、もっと要求されます。マネーは口を割るのよ。
「伊平次はここにはおりませぬ。本能寺に行けば会えるやも……」
光秀の旅は終わらない。
一旦稲葉山城まで戻り、利政に報告です。
光秀も少し成長がある。
日程と旅費交渉、そして全額出すよう言い切ります。借金のせいで「侍大将ぉ!」と叫ぶのはもう卒業したんだ。
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