天文18年(1549年)、帰蝶は織田信長に嫁いでゆきます。
帰蝶の乙女心(そもそもそんなもんあったっけ?)はともあれ、これは外交的に怖い。
何が怖いって、今川義元の太原雪斎からすれば、むしろ織田信秀が追い詰められているとわかってしまうから。
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そして今川義元は、三河の松平広忠を焚きつける。
一つの点が動くことで、いろいろ局面が変わる――本作はこういう難しいことをやらかします。
しかも視聴者の目を先入観で曇らせている。
恋愛、役者の顔、昭和のようなサラリーマン劇を想像するか。脚本家の年齢を理由に「どうせジジババ向けで目新しさなんてない、ベタなものでしょ」と半笑いでいるか。
本作の謀将たちのように、作り手は罠をしかけまくるのでしょう。
ちょっと『三国志』の話でも。
【定軍山の戦い】で、夏侯淵が討ち死にし、自軍が大敗した時、魏の曹操は敵軍に法正という知謀の持ち主がいると知り、こう漏らしました。
「そんなことだろうとは思ったぞ……劉備には、こうもできないだろう」
曹操の強がり?
いえ、彼なりに敗因を考えて、誰か策略を巡らす人物がいるという仮定を見いだしていたのでしょう。
思考回路を組み立てると、相手が何をしているのかがわかるようになる。
天才だから?
知略が高いから?
ゲームならばそれで話がつきますが、現実でもそういうことはできると解明されつつあります。
大河を見ながらそういうことを考えてみると、他の場面でも色々と効率化できる気がしてます。
松平広忠、討たれる
今川義元から戦の準備をするよう焚き付けられた松平広忠は、山道を移動しております。
近習が「そろそろ日が落ちまする」と声を掛け、麓で日暮を待ってから移動することを提案。鬼が出ると怯えている者もおりました。
これはただの臆病でも何でもない。鬼の正体が猪だろうと熊だろうと、あるいは夜盗だろうと、危険なのです。夜間の移動は避けるべきである。
「そち一人で戻れ」
広忠はそう言う。
今こうして読み返していると、広忠が愚か者に思えるかもしれない。
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人間の判断力って、いつも100パーセント出せるものでもありません。
何か不安があったり、油断があると、正しい判断ができなくなる。広忠は、あの義元の迫力に怯えていたのか? それとも好機到来と思ったのか? ともかく冷静さを失っている可能性は否めません。
そのとき!
茂みが動いて飛び出すのは、ただの兎でした。
そしてその直後、矢が放たれて近習が倒れていきます。
「殿ッ!」
やはり本作は殺陣が生々しく、抜群の進歩を感じます。そうそう、弓矢は発射音が微音ですから急襲に向いています。
やはり、戦国ものならばこういう生々しいリアルな暗殺劇が見たいところです。乙女心? 振られたみたいでほっこりきゅんきゅん? そういうのは現代劇でいいじゃないですか。
世界のトレンドは『ゲーム・オブ・スローンズ』。日本流の残虐劇を見たいニーズに応じたいところですよね。
日本人が心清らかだの、自慢したい英雄の話だの、その手の需要は国内だけだから。がんばれ、殺陣チーム!! やはり、日曜この時間は殺伐としないとなぁ。おにぎりマネージャー、スポーツ促進ドラマはニーズがないんですね。
そこは抜かりがない本作。広忠が木の幹にもたれたところで、何物かが喉首に刃を当てます。襲撃者はただの夜盗ではありませんね。
このあと、菊丸がやってきて屍を発見。脇差を見るところが細かいですね。
顔では判別できない。首はもうない。そして持ち物で誰かがわかるほどに、広忠を知っているということです。プロフェッショナルだな。
菊丸は、三河の刈屋城へ向かいます。広忠の妻である於大の方(竹千代=家康の母)はこう言います。
「これはまごうかたなき、広忠様の脇差……」
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あまりにつらい遺品確認です。
於大の方の兄である水野信元(竹千代=家康の伯父)は、菊丸に殺害犯について尋ねます。
ポイント
◆松平広忠殺害犯は?
・菊丸の推察では、織田の者。織田の手の者が、広忠周辺に潜伏していました
◆さて、今後どうなるか?
・今川義元は黙っていられない
・今川義元相手に勝利はできない
・しかし、そうなると織田信秀の元にいる竹千代が殺害されかねない
菊丸は、竹千代様を守ると誓います。
「広忠様がお亡くなりになれば、その後をお継ぎになるのは竹千代様。いずれ三河一の大名となるべきお方を織田方が抑えたことになりまする。我らは竹千代様の影となり、命に換えてもお守りいたします」
「そなたが頼りなのじゃ。竹千代を頼んだぞ」
そう信元と於大の方は念押しします。
ただの三河の農民から、後の権現様を守る者へ。素晴らしい転換点が見えました。菊丸はじめ、オリジナルキャラクターはさんざん叩かれます。
くどいようですが【廟堂(為政者)】と【江湖(民衆)】の対比は意識しましょう。自分自身が【江湖】に住みながら、【廟堂】を目線で見下す視点は、正直、理解できかねます。両方なければ世の中は成立しないのです。
でも、ちょっとわからないことはありますよね。
織田の意図は何でしょうか?
わざわざ危険を冒して、今川義元に喧嘩を売る必要もないでしょうに。
夜明けに来た夫
那古屋城では、白無垢の帰蝶が一睡もせずに将来の夫を待っておりました。
そしてここで、波の音が聞こえてきます。【波音=金・未知の何か】と共に、朝日を背景にしながら彼は来ます。
帰蝶にとって未知のもの。彼女は初婚ではありませんが、誰も知らないその相手をここで見ることとなるのです。
その男は、いきなり帰蝶に顔を近づけてきました。しかもドスドス歩く。
はい、今週も信長うつけチェック!
信長うつけチェック
「距離の取り方がおかしいぞ!」
信長……いきなり顔を近づけるなぁ! 相手が困るだろ。ん? 蝮の娘はなんだかそうでもない?
→信長くんは、距離の適切な取り方がわからないんですね。これは蝮さんもそうで、いきなり「でかした十兵衛ぇ!」とスキンシップしますからね。その娘である帰蝶さんなら、対応できそうです。よかったですね!
「嫁いでくるのは蝮の娘と聞いていた。いかなる蛇女かと思うたが、ふふふ、いらぬ心配だったようじゃ。わしは織田三郎信長。この城の主じゃ」
どかっとくつろぐ信長です。
信長うつけチェック
「余計なことを言うなよ!」
普通に褒めろ、普通に! 美人だと言えばそれでよかろう。
→信長くんは、本音剥き出しで喋ることで相手がどう思うか、理解できないんですね。でも帰蝶さんなら対応できる予感がありますよ。そして相対的に、光秀くんのジェントルマンっぷりがわかります。
一方の帰蝶も気が強い。
普通の女だったら、泣いていてもおかしくはないはず。それが姿勢を正して座り直し、「信長が来るのを今か今かとお待ち申し上げておりました」と、きつい口調で言い切る。
それに、帰蝶は全然信長にときめいてないようです。まだ、この段階では。
さて、信長はどうしてすっぽかしたのでしょう?
信長のUMAチェック!
「あまが池の化物とは?」
又左衛門が、池に化け物がいると言った。城下は大騒ぎだ。
ひと抱えほど大きく、鹿の頭、目は星のように光り、その目に睨まれた途端、真っ赤な舌が伸びてきて池に引き摺り込まれそうになった!
そういうたわけた話を信じたわけじゃないけど、村の者は心の底から怖れている。化け物が出るから外に出られぬ。畑を耕せぬ。
そこで!
わしが池に入った。村の者と同じ心にならないと、UMAは見つからない。わしが池に入れば、皆安心するだろう。
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おっ?
なんだか帰蝶は呆れるどころか興味津々ですよ?
それにしてもこの二人、色気がないと思いませんか?
帰蝶は明智光安が先週言ったように、頬を赤らめておりません。信長も、別に帰蝶が美人だからとデレデレしているわけでもないのです。
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むしろ本作って、色気や恋心を強調していないと思います。そこばかりの話をしたいのだとすれば、何か誤誘導されているか、先入観の仕業でしょう。ドラマの感想って、解析することができるので、実はそこまで無害なものでもないですね。
信長は、子どものように「そちには悪いことをした。すまぬことをした」とションボリしてはいます。そのうえで、何か欲しいものがないか聞いてくる。遠慮はいらん。
ここで帰蝶は、メイク道具だの着物だの要求しない。お腹が空きましたと言う。
これはかなりぶっ飛んでいるんですよ。まっとうな婦人は、食欲をそうおおっぴらにしないのが、日本の伝統でして。
『源氏物語』のような平安文学において、下品で非常識な設定をされている近江の君のような人物には、食欲もりもりしているという設定がありがちなのです。
作者の紫式部も、イワシが好きだということが恥ずかしくて隠していたとか。
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そういう生理的な欲求を出すことは、恥ずかしいわけでして。平安時代から時代が降れば薄くなるものの、上流婦人が「腹減った!」とストレートに言えないことは、なんとなくわかりますよね。古いドラマあたりだと、お腹が鳴って女性が恥ずかしそうにすることもあります。
そこで信長が普通の性格なら「下品な女だな〜」と、タピオカ叩きをするSNSユーザーみたいな反応をしそうなところですが(現代でも女性の食欲は咎められる?)、まるで違う反応です。
「ふふ、わしもじゃ。さりとてここで腹を満たすのはもったいなきことかも知れぬ」
末盛城で、父上がご馳走を用意していると言い出すのです。
子どもっぽいな〜。結婚式そのものより、ご飯に興味あるとか? この調子で、甘いものをもりもり食べて、家康をもてなすのでしょう。
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「今はこれでしのぐがよい」
そう差し出すのは、干し蛸。海を知らぬ帰蝶は未体験の味です。
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空き腹が紛れると勧められ、帰蝶は噛み締めています。固くて塩辛いと感想を言いつつも、海の味だと言われて興味が湧いてきます。
信長は帰蝶の隣に座り、こう言います。
「よし、お前たち、もうよいぞ! みんな参れ! これがわしの嫁じゃ!」
ここで民がぞろぞろと入室。
「色の白きおなごじゃ〜」
「たいした器量じゃ、尾張にはおらん」
のっぽの末吉。ちびの平太。槍の太助は大飯ぐらい。
「わしは今日忙しいのじゃ、お前たち帰れ!」
「白いのう、白いのう〜」
そう言いつつ、民は帰ります。これは帰蝶だからよいようなものを……。
信長うつけチェック
「嫁の顔を見せるなぁ!」
嫁いできたばかりの嫁を、いきなりわけわからん連中に見せるって、何を考えているんだ?
→信長くんは、とことん帰蝶さんの気持ちに寄り添えないんですね。平安時代ほどではないとはいえ、当時の上流女性が顔を見られるのは、恥ずかしいことです。まぁ、帰蝶さんでよかったとは思います。
信長と帰蝶は、すっかり気が合っています。もしも相性が悪ければ、最低最悪のところへ向かうほどでした。
こんな信長が出てくる戦国乙女ゲーにハマれますか?
なまじ染谷将太さんだけに、かわいいだの、イケメンだの、丸顔で迫力がないだの、言われておりますが……。
視聴者が絶望する、いい信長だぁ!
毎週のように絶望しましょう。これぞ誰も見たことがない信長だ!
信長はわかりやすすぎたかもしれない。岐阜駅前のライトアップゴールデン信長像すら、もう珍しくないもんね。そこで、頭の中身を新解釈し、入れ替えたと。
でも、本作スタッフは適当にぶっ飛んだ造型にしたわけでもない。理詰めで造型してますね。
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そうそう、帰蝶は「男前!」と言われておりますが。女性は男前な行動を取らないもの、女性がサバサバすることをいちいち男性性と結びつけるのは誤解のもとかもしれません。
帰蝶は、帰蝶ゆえに。信長は、信長ゆえに、ぶっとんでいるのです。
ついでに言いますと、信長がそこまで情に篤いかどうかも注目したい。ただの好奇心からかもしれませんから。
信長の行動だからと、なんでもプラスにしようと考えるとか。従来の信長像との比較をする意見はたくさんあるのでしょうけれども、一回全部忘れるくらいの方がよいかもしれません。
うつけ者からの祝いの品
末盛城にて、結婚報告です。信長と帰蝶夫妻を見て、父の信秀と母の土田御前も満足げではあります。
土田御前も帰蝶も立て膝ですが、当時の女性は正座ではありません。これが正しい姿勢です。
平穏な時が流れております。
信秀は、斎藤利政(斎藤道三)が育てた見事な松にご満悦。
へぇ〜、蝮にガーデニング趣味が。彼なりにリラックスしたかったのかな。なんでも、その松と帰蝶は背比べをしてきたとか。
帰蝶の成長と嫁入りに合わせて育ててきたとか?
どうですかね。帰蝶は初婚でもないですし。
枯れぬ松はめでたいもの。よい心がけだと信秀もうれしそうになっております。
帰蝶が松に寄せてめでたいことを言うものですから、土田御前も頼もしいと安心感を見せております。
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美濃とはいろいろあった。
されどこれを機に、水に流していこうじゃないか!
信秀はホクホクムードです。
ここで信長は、自分もサプライズギフトがあると言い出す。
「この尾張の繁栄には欠かせぬものでございます!」
若侍が持ってきた箱を、信秀は開けます。
まぁ、そこはね。貝合わせとか? 何かめでたいもの? そう思いたいじゃないですか。
それが、生首でした。
信秀はため息をつく。そしてこう宣言します。
「そなたらには、座を外してもらいたい」
土田御前は立ち上がりながら、中が見えたのでしょう。
うれしそうな信長に、嫌悪感を出して去ってゆきます。
ここまで怒っていても所作が美しいところに、檀れいさんの真価を見ているとは思えるのですが。帰蝶も出て行きます。
こうなったら、信長は何か嫌な予感があってもよいところです。
けれども、ニコニコしてる。
「なんのつもりや! これを見せればわしが喜ぶとでも思うたか? 松平広忠の首など! このうつけが!」
信秀は現実を認めたくないのか、うううぅう……と困っております。
信長……無駄に頑張ったな。臭いしないように塩漬けにしたりして、血抜きもして、努力はしたんだとは思います。そういう努力を評価されなくて、信長ショック!
「解せませぬ! 広忠は今川に擦り寄り、この尾張に攻め込もうとしていた。広忠を倒し竹千代を抑えたのは、三河を抑えたのも同然!」
信長が、ただのうつけならばどれだけマシか。どうでもいい農民の首だったら、どれほどよいことか。なまじ、説得力はあるんだよなぁ……。
信秀は、もう道徳教育はあきらめているのか、時機があると怒ります。
「今川に勝てるか?」
信長は、尾張は備えているし、美濃が黙っておりませぬと反論。
彼なりに考えたんですね。美濃の同盟がある今こそ広忠を殺そう! 彼なりにがんばったね……。
信秀は、そこまで美濃を信じられぬと言います。まだ日が浅い。こちらが危うくなれば噛み付いてくるのが蝮だと。
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だんだんと、信長は理詰めで負けるとわかってきたようです。
「この首、持っていけ!」
そう言い切られ、信長は悲しそうにこう言います。
「わしは父上に褒めてもらえると思って……」
そんな我が子を、信秀は「このうつけが!」と打ち据えます。
「愚か者……」
信長は首をもっておとなしく去ってゆくしかありません。
信秀、不安そうな顔でため息をつきます。病状は進行中のようです。
暗殺の流儀
最近、レビューを書いていて気づいたことがあります。
皆さん、ハセヒロさん光秀とのバーチャル恋愛に夢中で、帰蝶に号泣したとか(そもそも帰蝶はそこまでショックだったのか? そこは気になります。戦国大名の娘が?)。
染谷さんがかわいいとか(確かに実写版ピーターラビットのよう)。
そういう意見を見かけますが、私が同じところに着目しても、安心感はあっても斬新性はない。そこで、もっと別なことを真剣に考えたい。せっかくの大河ですからね。
テーマはスマートな暗殺について。
戦国の世の中だからこそ、どうやって敵を始末するのが最善なのか、考えてゆきたいところです。
普通は、あんまり真剣に暗殺を考えませんし、トークしませんよね……。
「暗殺後の茶はまた格別……」
とか言ってみたくないですか?(それは『信長の野望・天翔記』)
まぁ、やらない理由はわかります。
まず友達が減りますよね。
大河オフ会でずーっと「この居酒屋で一番暗殺しやすいのは、あなたの席だね!」と告げようものならいろいろ面倒なことにはなりそうです。
もちろん物理的暗殺は無理にせよ、敵に勝利するのであればそこは考えないと。映画館で脱出経路を確認するのは、災害時に役立ちますし。
世界が『ゲーム・オブ・スローンズ』を見てどうやったら暗殺を防げるのか考えているのに、日本人が大河でも恋愛にばかり注目していたら、この後深刻な事態に陥るかもしれません、
「楽しければいいじゃん♪」とへらへらしているのは危険ですからね。
てなわけで暗殺を実行した信長ですが……。
視聴者もため息をついて、絶望したと思います。丸顔だの童顔だの――先入観に反するからって早速叩かれ始めた信長ですが、それこそ新機軸でしょう。
残酷なことをするのが子どもだと、より一層怖いことがあります。蝮の毒入り茶より凶悪ではありませんか。なまじ、このあと褒めてもらいたい少年の心が見えるところで、絶望的な気分になってしまう。
信長は最期の日を迎えるまで、ある意味では成熟せず、どこか幼い、ピュアな何かを持ち続けるのでしょう。
信長のこの首のことは、どういうことを言われるか、想像は尽きます。
メンヘラ?
サイコパスかな?
でも、サイコパスってそもそもなんですかね? 一応の定義はあるかと思いますが、日本映画の予告編で「さぁ、ゲームの始まりです……」と眼鏡を光らせている系ですか?
サイコパスにせよ、ソシオパスにせよ、メンヘラにせよ。
そういう犯罪をやらかす人は、「先天性の特徴があればよい」と人類は思っていたものです。
科学技術が発展する前は、狐憑きだの、魔女だの、そういう分別をしたがっていた。
実際に危険な人物ではなく、社会から阻害された人種、外国人、身分の者を憂さ晴らしに処刑し、溜飲を下げていたものです。
科学技術発展後は、でたらめの骨相学だのなんだのが持ち出され始める。
どちらも21世紀現在、旧時代のものとして片づけられております。
ある神経科学者は自分の脳を撮影したMRI画像をみて愕然としました。自分の脳に、サイコパスのものと同じ特徴があったから。
じゃあなぜ彼は、犯罪を犯さずにいられたのでしょう? サイコパスとそうでない人。分けるのは何なのでしょうか?
それはまだ研究途上なのです。
安易にサイコパスだの病気だの、嫌いな相手のことを呼びそうになるときは、自分自身の価値観が止まっているかもしれないと、一度冷静に立ち止まった方がよいかもしれません。それがどれだけ傲慢で差別的で無知なことか。ましてや特定の人種と残虐性を結びつけるなど、旧時代の偏見そのものです。
この作品の信長は、無茶苦茶なことをこれからも続けるのでしょう。
時代ゆえか。
彼の先天性のものなのか。
考えてゆきたい。というのも、実は、この殺害そのものに理屈は通っているのです。楽しいから殺したわけじゃない。
松平広忠が危険であったのは確か。
彼の首一つで、尾張と三河の戦乱が防げるのであれば、この暗殺はむしろ人道的かもしれません。
そういう意味では、合戦が始まってから土岐頼純に毒入りの茶を飲ませた斎藤利政以上のものがある。
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水野信元と菊丸は、織田の動機がわからないと言っておりました。そういう思惑を上回るほどの鋭さが、信長にはあります。
ただ、箱に首を入れて持ち込むことはいただけない。信秀にせよ土田御前も、そっと首を持ってきたらそこまで怒らなかったかもしれない。
ナチスが強制収容所で虐殺を行なっていることを、当時のドイツ人が知らなかったとは言い切れません。
収容所付近の住民は、こう抗議しました。
「私とその家族の目につかぬところで殺してください!」
自分の目の前でなければ、何万人が死のうが仕方ないこと。こういうふうに、人間は残虐度ではなく、自分自身との距離で判断することがあります。信長は、この距離の取り方が理解できないのでしょう。
この点では、利政が上です。
標的に毒入りの茶を飲ませる。実際には強制でも「罪を恥じて飲んだ」と言い訳はできるのです。
遺体損壊について言えば、百害あって一利なし。この時代、東西各地で残虐な遺体損壊を伴う刑罰はありました。
※いやな遺体損壊てんこ盛りの『ゲーム・オブ・スローンズ』は、西洋中世史ベースの作品
『MAGI』では、火刑にあう遺体が出てきます。
あのドラマに「西洋が東洋を見下す作品!」とレビューをつけてお怒りの方がおりますが、きっちり見ていないのか、何らかの誤解か偏見か劣等感があるのでしょう。
※当時、カトリックの残酷な刑罰は有名です/『MAGI』
じゃあ、どうして人類は遺体損壊を止める方向へ向かうのか?
晒し者にして得られるメリットよりも、デメリットが大きくなったということです。再来年の大河『鎌倉殿の13人』では、戦国時代が霞むほどの遺体損壊があるかもしれませんので、予習でもしておきましょう。
遺体で遊びまわるより、真面目に供養する方が周囲の感情は和らぎます。何も信仰心や優しさだけの話でもない。そこはメリットです。
信長は、もっとスタイリッシュな暗殺ができたとは思います。
・殺害を織田以外の誰かに押し付ける
・そのうえで、遺骸をきっちり埋葬供養し、その恩を三河にアピールする
気分が悪くなる話で申し訳ありませんが、そこは考えたいところ。
そういう意味では、斎藤利政のお茶会はスタイリッシュでクールでした!
信長は、帰蝶を通してそんなスタイリッシュ暗殺を学びたいところですね。これから蝮という宝玉は砕け散るわけですが、その輝きは信長と光秀の中に残り続けるのでしょう。
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そして、松平広忠殺害が信長だったという驚愕の展開ですが。
確たる資料がないからには、創作ではどうしようがそこは自由です。
松永久秀役の吉田鋼太郎さん主演『柳生一族の陰謀』は、ある人物の生首がとんでもない利用法をされます。ナレーションで「……と、史書には記されている」と言い切れば通る。そういう様式美ですから。
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※『柳生一族の陰謀』
この手のトリッキーさでは、三谷幸喜さんの『真田丸』ラストが冴えてましたね。
真田が支配する松代藩から、吉田松陰の師匠である佐久間象山が輩出される。倒幕の原動力となる人物を育てたのが真田であるとして、強引に徳川への復讐へ結びつけておりました。
こういうことは無茶苦茶でもギャグでもなくて、手法としてはダイナミックでむしろありなのです。
この世には見てはならぬものがある
帰蝶は廊下に出て、土田御前の隣を歩いております。ここでこの姑は、あの箱の中をご覧になられたのかと聞いてくるのです。
「いいえ」
「そう……この世には見てはならぬものがあるのです。開けてはならぬ箱があるのです」
帰蝶は不思議そうな顔になります。箱とはもちろんあの箱のことでしょうが、それだけではない心の構造かもしれません。
土田御前が鬼母とも思えない。普通の人なのだとは思います。
我が子の中に得体のしれないものを見出して、疲れ切っているものを感じる。美しいこの母の顔は、いつもうっすらと疲れているのです。
ここで土田御前は、二人の少年の姿を見つけます。
大きな子が私の息子、次男の信勝。そう紹介して、こう同意を求めるのです。
「私によく似ているでしょう?」
これはただの容貌の問題とも思えません。
あの子がおかしいのは、私のせいじゃない。私はまともな子を産むことができる。そういう悲しい叫びのようでもある。
遺伝の知識が曖昧な当時のことです。子どもの不幸や異常性は、現代でも父より母のせいにされる。信長が異常性を見せるとき、誇り高き母の心も傷つけられてしまう。そういう悲しさが彼女にはあります。
小さな子は竹千代(後の徳川家康)。三河松平家のご嫡男。 そう言われます。
「参りました。もう手がございませぬ」
竹千代はしおらしくそう言います。織田信勝はこう返します。
「なんじゃ、もう参ったか」
「そなたの腕が立ち過ぎるのじゃ。次からは駒を落として差し上げなさい。ふふっ」
土田御前はうれしそう。ここで竹千代はこう返します。
「情けは無用にございます」
「まあ……人質の身で愛想のない子じゃ」
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土田御前はこう言う。
彼女は愚かでも、意地悪でもない、普通の女性だと思います。
むしろ相手がおかしい。
信長と家康。三英傑が周囲にいるとこういうことかもしれないのです。
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本作って悲しいものがある。
才能って、人に尊敬されるどころか、嫌われることも多いのでしょう。家康は、こんな愛くるしい少年期で既に、狸親父として嫌われる何かが生じちゃってる。
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鉢の中の金魚、城の中の竹千代
このあと、家康は石の鉢に入った金魚をじっと見ています。
今でも高い金魚は本当にすごい価格ですが、当時は、これだけでもうマネーが泳いでいるようなものでして。すぐ死ぬ魚にマネーをかける織田家は半端ないものがあります。
帰蝶がそんな竹千代に近づくと、相手はこう返して来ます。
「そなたは誰じゃ?」
「帰蝶と申します。昨日美濃より信長様の元に嫁いで参りました。美しい魚でございますね。なんという魚ですか?」
「金魚じゃ。唐より渡ってきておいて、こんなところで泳ぐ金魚もかわいそうじゃ。国を遠く離れ、狭いところに閉じ込められ、わしと同じじゃ。母にも会えず、時々この城に連れてこられて、つまらぬ将棋の相手をし……」
うわー、これは小狸だな。かわいげのなさが芽生えているぞぉ~。
「つまらぬ将棋?」
「わざと負けておるのじゃ、せめて信長様がおられればのう……」
すごい。大河史上、最もかわいらしくてかわいくない、そういう家康だ……現時点で既に賢い!
でも、同情心や想像力はあるし、観察眼はかなりあるのです。
人間の賢さって何でしょうね。
IQとか、EQとか、出身校偏差値とか。いろいろ言われておりますが、結局頭の使い方だろうという話にはなってきます。
竹千代はこの時点で賢い。それは将棋で信勝に勝てるからだけではない。じっと観察し、受動的なようで、頭が常に回転しているのでしょう。
でも、愛想がないと言われてしまう。
彼は笑顔で振る舞って、可愛い子として愛される。そういう【知恵】はないのです。今は子どもだからこうですけれども、慶長年間ともなれば「あのクソ狸……」と憎まれるようになっていると。
賢いって思いましたよ、それはもう、風間俊介さんのキャストビジュアルの時点で!
まず、書物を手にしている。こういうビジュアルで手にしているものは、シンボルにもなり得る。書物という時点で、家康は賢いとわかる。そして風間さんの顔です。彼は美形というよりも、聡明さが魅力の役者さんだと思えます。それなのに、NHKがあまり良い役を与えなかったことは悔やまれます。一昨年は忘れよう……。
人間として友達にするのであれば、パリピ秀吉が一番人気となりそうですが、信長と家康も興味深い人物像になるとは思いますよ。難解でしょうけれども。
そんな竹千代は、信長様は将棋が強いと言い切ります。ここでその信長が、ドスドスとやってきます。
「信長様!」
「どけ! 帰蝶、帰るぞ!」
やはり自分の言動が周囲からどう思われるか、ぶん投げちゃっている、そんな信長です。
竹千代が実父を殺して首を箱詰めにしたのが信長だと知ったら、どう思うことやら。遠い将来には、正室と嫡子もそれをやられるわけですし。
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なんだかんだで、家康はそこまで厳しくないところはある。三英傑でも、一番マイルドかもしれない。まぁ、反論はあるかもしれませんが。
秀吉の子にせよ、女児は助命しています。
秀吉による豊臣秀次事件ほどの無茶苦茶さはない。
だからといって家康のことを真面目とも慈悲深いとも、権現様素晴らしいとも思いません。これも彼なりの観察眼かな。信長や秀吉の失敗を冷静に考えて、妥協点を探ったとか。
なんかこの時点で、家康が家康たる合理性が出てきていて興味が尽きません。
出産経験のある女性を側室にする、確実性重視路線とか。
なんかしぶい人生訓とか。
信長のような熱くてシャープな知性、秀吉のようなパリピ人誑しとは違う何か。彼の天下取りまで描かれないわけですが、それもそうなると説得力のある人物像になるのでしょう。
鉄砲の音で気晴らしを
那古屋城で、信長はむしゃくしゃした気持ちを発砲で晴らしています。
「お見事でございます!」
まぁ、戦国武将だからさ。帰蝶がそれを見ていて微笑ましいんですけれども。むかついたからエアガンで空き缶を撃つ中学生だと思うと、なんかうつけらしさが出てくるので、そこは考えないようにしましょう。
信長は、鉄砲は音がよい、この音を聞くと気持ちがスッとなると言います。イヤホンの音質にこだわる高校生みたいなことを言い出しおって。
光秀は鉄砲の構造が美しいという。信長は鉄砲の音が好きという。感受性が豊かといえばそうですけれども。
「そなたも試してみるか?」
そう帰蝶に勧めます。もう、この二人は完全に独特の世界を作り出しちゃっていてすごいな!
帰蝶は怖がることもなく「やりまする!」と言い切ります。
信長は帰蝶を呼び「重いぞ」と気遣うのです。
「しかと的を見よ。放て!」
銃声が響きます。
「的をかすった! そなた筋がよいではないか」
「まるで雷に打たれたような……かようなものとは……」
「懲りたか?」
「楽しうございます! かようなものと知っておれば、美濃のいたときもっと早くやりたいものを」
帰蝶は鉄砲に興味を持ちました。彼女については、これまた全く新しいヒロイン像だと思った方がよろしいかと。
「いくさは嫌でございまする!」
と、何度も迫る女性ではない(ただし、そういう女性が本作に出ないとは言いません)。男勝りとしても、今までのヒロイン像は忘れましょう。2010年代半ば、NHKは何かを見出したようです。
「親父殿も嗜んでおるのか?」
信長はそう言い出します。松永久秀同様、蝮にシンパシーがあるのかもしれません。
帰蝶はここで、いとこの明智十兵衛のことを言い出します。急に鉄砲をてにいれたいと言い、堺に参り大変で、父をも困らせたとか。
「ほう、そなたの親父を困らせるとは、おもしろい男よの」
帰蝶はそう促され、「十兵衛は何かに夢中になると怖いものがこの世から消えてしまい、困るのだそうです」と語ります。これも、その彼の興味が暗殺になったらと想像すると、怖いものがあるわけです。
ここで信長が、光秀に興味津々であったり、身を乗り出せば、ある意味簡単ではあるのですが。
あるいは、帰蝶が熱心に語ることに嫉妬を覚えるとか。
信長は飽きて眠くなっていそうな、ぼんやり顔になりおった!
自分が知らん奴のことを話され始めて、どうでもよくなってそれが顔に出ている、と。まったく手強い作品だな。
先週、光秀が信長を見た時もそうですが。
この二人は、この時点ではどちらにせよ運命は感じてないようです。
それが自然といえばそう。
「わあーこの二人! すごぉーい!」ってなるんだとすれば、視聴者側の先入観あってのものですからね。
ここで帰蝶は話題を変えます。
「お父上と何か悪しきことでも?」
「毎度のことじゃ。気にするほどのことでもない」
あの首騒動を見ていると、むしろ気にしろ……と言いたくなりますよね。信長、反省しているように思えないんだなぁ。
両親は信長対応に疲れ切っている。こういうことを物心ついたころから繰り返してきたのでしょう。遊び相手の腹を力一杯踏んづけるとか。噛みつくとか。何か割るとか。怒鳴るとか。暴れるとか。高いところから落ちるとか……。
人間の性格は、成長と共に変わると思われがちではあります。
それがそうでもないとわかってきた。
信長も、家康も、そして光秀も。幼いころから変わらぬ本質があるわけです。きっとどこかで、まだ若い秀吉は人気者陽キャとして愛されていることでしょう。
「信長様は、お父上がお嫌いですか?」
「いや。帰蝶殿は親父殿が好きか?」
「はい、時々大っ嫌いになる以外は」
「時々大っ嫌いになる。ふっ、わしも同じじゃ」
ここで気が合って笑い合う二人ですが、やっぱり相当ぶっ飛んでます。
当時は儒教規範がある。父が嫌いかと聞くとか。大嫌いと言い切るとか。この二人はぶっ飛んでいます。
時代考証ミスでもないし、現代っ子というわけでもない。そこは儒教教典を引用するのですから、ふまえて踏み外していることは意識した方がよさそうです。
本作は、こういうことは言われる。
「斬新なドラマ。特に昨年のあの作品を見続けて目が肥えたこの私には、こういうベタな作りは物足りなくて……」
「過去のあの作品、あのロボットアニメ、あの漫画みたい」
「脚本家が爺さんでしょ、斬新なわけないじゃん」
どうでしょう。脚本家の池端氏の実力はわかるとして、それだけではない日本史以外の最新研究成果も感じます。
EテレのあるNHK。そこは舐めてない方がよいかもしれない。
相手が先行しているか、こちらが先行しているのか? ずれていることそのものは認識できても、どちらが背中を追われているかわからないものです。わからないというよりも、事実を認めたくないだけかもしれません。
そこは冷静に考えたいところではあります。
胸の中に舞う恋心
さて、今週いつになったら出てくるのかわからない、そんな光秀ですが。夏の美濃で馬を引いております。馬の背には米俵。
「暑いですなぁ」
「ああ……」
藤田伝吾とそう語り合っております。
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毎日かんかん照りで、雨が降らないとか。隣の里では、田に引く水をめぐり、大きな揉め事になったそうです。死人が出ましたかね。
行き先は妻木城だそうです。
妻木ほどの城で米が不足しているから、叔父上(光安)の命令で向かっているとか……なんだかちょっと怪しいですね。
妻木城では、暑い折によう来てくださったと感謝しております。光秀は、幼いころ父に連れられてよく来ていたからと案内を断り、中を見て回っております。
廊下を歩いてゆくと、子どもの笑い声がします。あたりには花びらが落ちております。その花びらを拾い、彼は何かを考え込んでいます。
部屋に入ってゆくと、こんな女性の声がしました。
「もし、戸を閉めてくださいませ。鬼に見つかってしまいます」
「鬼?」
「かわいい小鬼三匹が私を探しているのです。かくれんぼにございます」
そう彼女は言い、手を引っ張って一緒に隠れるのでした。
光秀は優しくこう言います。
「しかし、表には花びらが落ちておりましたよ。あれでは小鬼たちも気付いてしまう。その花びらをどうなさいます?」
「私を見つけたら、花吹雪を浴びせてやるのです」
ここで光秀は、何か思い出したようです。
「覚えがあります。わしもここで鬼となり、かくれんぼを。隠れていた女子をみつけて、花吹雪を浴び……そうかあれはそなたか。煕子殿じゃ!」
「はい! またお会いできて嬉しく思います」
光秀も、この城の花びらに麗しい思い出はあるとうっすら感じていたのでしょう。だからこそ花びらを追いかけて、彼女と出会った。帰蝶との態度と明らかに違います。
帰蝶の光秀への思いは、恋心であったかもしれませんが、少なくとも光秀側はうれしいわけでもないようです。
モテモテがありがたいという【常識】はもううんざりさせられます。好きでもない相手に思われることは、人によってはただ重たいだけ。光秀はそういうタイプなのでしょう。
煕子は明るく語ります。
「里も屋敷も、何もかも昔のままにございます」
「うむ、この庭も懐かしい」
ここで煕子は、城下の祭りの思い出を言い出します。最初に光秀がここへ来たのは、祭りの日。笛の音がかすかに響く中、廊下を歩きながら光秀は煕子に告げていました。大きくなったら、十兵衛のお嫁におなり、って。
「そんな……ことを」
「子どもの頃の話にございます」
ここで軽く流せず、困惑するわけでもない光秀。いけますね。なまじ鈍いだけに、これは好感触だとわかります。
子どもたちがやって来ました。
「みつけたぞ、みつけたぞ!」
「なんと、鬼に見つかってしもうたぞ」
「もう逃しませぬ!」
「逃げてみせようぞ、それー! こっちじゃこっちじゃ」
ここで光秀は、花吹雪を巻く煕子を見ています。
長谷川博己さんの本領が発揮されています。
相手が駒でも、帰蝶でも。こんな明るく花が咲くように微笑む顔にはなっていない。これはいけます。スローモーションで煕子を目で追いかける映像になるあたり、完全に恋に落ちてますわ。
色気だの艶だのやたらとうるさい光秀ですが、今まではなんだったのかと思えるほど、キラキラしております。
これはわざとベタにしているのでは?
キャストビジュアルの時点で、煕子はピンク色の着物、しかも花を持っております。
例えば帰蝶が花を持つでしょうか?
食べられないのに?
彼女が人の心を癒す、素直で優しい人物であるとわかります。ある意味ここまでベタなヒロインだと、かえって難しいかもしれない。帰蝶あたりと比較してつまらない、地味という声もあるかもしれませんが。
でも、近くにいたらありがたいのは、こういう女性ではありませんか。
光安の【十兵衛結婚大作戦】
さて、明智荘では光安がソワソワしております。牧と囲碁をするものの、気もそぞろ。
はい、ここで明かされました。
光安の計画「十兵衛結婚大作戦!」
光安:妻木殿にはもう伝えてある。そろそろ十兵衛も、結婚適齢期。照子殿もよい年頃。出会いをセッテイングしてみました!
牧:雲を掴むようでは……?
光安:麗しい煕子殿がいる! あとは妻木殿がよろしくとりはからってくださる。
牧:どう取り図るのです?
光安:それはわかりませぬ。十兵衛がその気になってくれればめでたいのじゃ!
光安の計画も雑と言えばそうです。しかも、十兵衛の硬さを甘くみているのでしょう。母である牧は、そこを理解していて半信半疑であると。
ただ、目の付け所はよい。
光秀と煕子のロマンスはベタではあります。信長と帰蝶と比較するとわかりやすいですし、こちらで十分よいだろうとは思います。
もう見なくていいんだ……木登りしたり、暴れ馬を止めるヒロインと、それに惚れるヒーローは。
明智光安なりに考えてきました。
亡き兄に、光秀が身を固め、一家の主になったとき、この城を返す。その時まで守る。そして兄上がそうであったように、立派な城主になってもらう。それまであともう一息じゃ。
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牧は、明智がながらえたのも光安殿のおかげと感謝しております。
「牧殿にそのようなことを言われると……」
そう謙遜する善人。それが明智光安です。
甥を殺害してまでトップに立とうとする叔父は、古今東西いるものでして。土岐家もそうでしたね。明の永楽帝のよる「靖難の変」もその一例です。光安はそういう野心家ではないと。
そしてその光秀が帰ってきます。
なんでも妻木殿に酒を勧められ、庭や山の話で盛り上がったそうです。
光安は、妻木殿の立派な姫君のことを持ち出そうとしますが、光秀は酒を飲まされつつ、庭や山の話をしたというばかりです。
「今日は館へ戻り休みます。では」
これには光安も牧もがっかりしてしまいます。でも、失敗ではないようですよ。
光秀は、廊下であの花びらをじっと見つめています。その心にまで、煕子が花びらを撒いていったようです。ハセヒロさん本気の恋愛演技です。
清らかですねぇ。情熱的というよりも、ゆっくり花開くようなものを感じます。
かくいう私も、光安には全面賛成じゃ。毎週、光秀と恋愛してほっこりきゅんきゅん感想ばかりで、流石にもっと暗殺トークが見とうなってきた。
光秀が身を固めれば、もっとそういう感想巡りができるのではあるまいか?
駒は傷心を癒せるのか
さて、京都では。望月東庵が壁に向かって叫んでおります。
「一服一銭、よい茶でござる。茶はいかがかな」
そこへ茶を売る商人が。彼に何をしているのかと問われると、鼠が出るから壁の穴を塞いでやろうとしていると言います。茶売りも「うちも夜中になると鼠がうるさいのなんの」と愚痴を言うのです。
東庵は、うちは飾った花まで食われると言います。花なんか食って腹の足しになるんですかね、そう返す商人。
そうそう、花は腹の足しにはならない。東庵は彼なりの鼠増加論を語ります。
「わしらも鼠も、恨めしいのは戦じゃ。戦の度に人が減って空き家が増え、空き家には食うものがないから引っ越して来る」
「人が減ってわしらの商売もあがったり」
「そうか、じゃあ一服もらおう」
かくして東庵は茶を飲むのです。何気ない会話のようで、戦争による傷痕について語られております。
そのころ、駒は針治療をしておりますが調子が出ない。
「いたたたたたっ!」
「ごめんなさい!」
「何やってんだよー」
駒ちゃんではだめだ。先生呼んでくれと言われるのでした。
茶を飲んでいる東庵に、駒は自分では針治療ができないとこぼすのです。
「私駄目です、駄目みたいです……」
「ああ、そうか……」
東庵も思うところはあるようですね。
「駒はこのところこうなのじゃ。困ったもんじゃ」
東庵は茶売りにそう打ち明けます。
駒のことを「うざい」だのなんだの言わないでおきましょう。帰蝶とのよい対比です。ふっきって、信長と鉄砲を撃っている帰蝶は、乙女心がないわけではないにせよ、変わっているのです。
するとそこへ、賑やかな声がしてきます。
「参られよ、参られよ、参られよ。伊呂波太夫がひと踊り、伊呂波太夫がひと踊り」
見たい!
そう思いますが、伊呂波太夫の姿は来週までおあずけです。
MVP:織田信長
豪華な登場でした。
前々回が一瞬だけ、前回がかわいいだけでよくわからない。
そして今回、一気に彼の本質まで迫る言動が見られました。
個人的な感想としましては、事前予想通りです。ただ、寛大な編集さんからボツを喰らうくらいよくわからん予想だったので、まぁ、なんとも言いようがないかな。
光秀の長谷川博己さんも毎回素晴らしい。
そして染谷将太さんの信長は、打てば響く想定どおりの演技をしていて、作り手としてはたまらんものがあると思います。
セリフがない時でも彼は動いている。飽きて途端にやる気のない顔になるとか。機嫌の悪い時はドスドスと歩くとか。側にこいつがいたら嫌だ……しみじみそう思えるのがすごい。
信長については「私が読んできた信長像とは違うようです」という声は毎週どこかで見かけます。作り手は「誰も知らない信長像」と言い切っているのに、それを毎回「違う」と言ってどうするのか、って話です。
人間の認識は進歩をしております。
それは夢を壊すということでもある。
成功したリーダー、カリスマ性のある人物は、きっと道徳心があるはずだ――。
これは所詮嘘だと、21世紀になればわかってくる話なのです。
スティーブ・ジョブスの作った製品は素晴らしい。けれども、ジョブスの人間性は素晴らしいの? そういう話です。
※ジョブスの性格は、各自お調べください……
そういう人物像への幻想から目覚め、最新鋭の研究を踏まえて歴史上の人物を踏まえてゆくと、おもしろいものが見えて来る。
それを踏まえて「新しい信長像」にするわけです。それをじっくり見ていきたい。絶望することには、なるでしょうけれども……。
総評
うつけとは何か?
愛想とは?
人間そのものがおもしろい。そこに到達しつつある本作ですが。
本作の信長にせよ、家康にせよ、光秀にせよ。現代で進路相談した場合に何と言えばいいのか、だいたい想像はつきます。各々の特徴はこんな感じです。
信長は、作業効率に関係ないスーツやネクタイ着用に反発する。ランチに同僚と行くと空気をぶち壊す。
家康は、じっと見つめて観察していて、なんとなくキモい奴と同僚に好かれない。
光秀は、お人好しなのだがマルチタスクができず、パニックに陥るかもしれない。
パーティションで区切れる。ヘッドフォンをつけてもいい。フレックスタイム。いっそのことテレワークで、プログラミングでもやればよいのではないかということです。
飲みにケーション? それは秀吉さんに任せましょう。
内閣総理大臣に向いているかどうか? そこはわかりません。
今週は素晴らしいところがありました。
「今作での織田信長は、うつけな描写は控えめなのかな? 見ていてもうつけかどうかわからない」
これも、今回の生首サプライズギフトで終わりでしょうか。
うつけとは?
人間の知能判断基準って、そもそも何なんでしょうね?
前述の通り、IQだのEQだの出身校偏差値だの、いろいろありますが。
空気を読めない。口が悪い。意に沿わない。そういうタイプは“うつけ”だの“クソ”だのと評価される。そのことは実体験を通して理解しています。
自分の意に沿わぬ意見、知らないことを言う人間がいたら?
理論と関係ないところで馬鹿にして、威張り散らせばそれだけで優位に立てる。そのうえで相手をバカと言い切る。ありがちなパターンです。
女性研究者に「ブス!」と言えば勝てると思っている男性が典型例ですかね。
※こういう感じ
本作の光秀は、恋心に反応しないから「鈍感」で「ツッコミどころ満載」と言われる。同意が曖昧だろうと、一緒に寝た駒を襲わないからおかしいとすら言われる。
信長は、もはやわけのわからない誹謗中傷にツッコミつつある。
家康は、かわいい子役。今のところは。
本作のおもしろいところは、人間の主観的な評価がどれほど一方的であるか痛感できるところだと思えてきます。
人間そのものがどれほどおもしろく、悲しい存在か。そういう吸引力がある。
まだ信長のことを書けるので書きますが。
信長は、別に二面性はない。
いつでも自分自身の感情に素直で、激しく出してしまうところだとは思う。
かわいい顔をして怖いことをすると言われたところで、なにがかわいいのか、なにが怖いのか、本人は全然理解できていない。
気がつけば、嫌われていて。
好きな親にも、周囲にも、嫌われてしまっていて。
犬の群れの中に生まれてしまった猫のような、そういう戸惑いを感じる。
猫には猫のやり方がある。
それなのに、爪を引っ込めるのが気持ち悪いだの、喉を鳴らすのが不吉だの、目がそもそも不気味だの、気がつけば生きることそのものを否定されてしまう。
圧倒的な孤独があるんでしょう。
そんな犬の中の猫として生まれて、できればこんなふうに生まれたくなかったと悩む。自分はどうしてこうなのか、みんなとどうして違うのか? 何のために生まれてきたのか?
自分が何者なのかすら、理解できない。
だからこそ、目の前の興味を持ったことは全力で取り組むだけ。そう戸惑う信長が、光秀という理想の膝であたたまることを覚える。
けれども、光秀はやがて気付く。この猫は、人を食い殺す虎なのだと……。
結局のところ、人間像をおもしろく描かなければ、手癖や芸で盛り上げるにせよ限界がある。
そう確認できた、今週も濃密な時間でした。
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【参考】
麒麟がくる/公式サイト



































