時は天文21年(1552年)。
光秀は薪を割りながら、義輝のことを思い出しています。
彼も作業をしながら、考えを煮詰めるタイプなのでしょう。薪は十分なのに、近江から帰って、心ここにあらずで薪割りをしていると。
蝮は爪切りや槍の稽古。信長は魚を捌いて鉄砲を撃つ。そして光秀は薪割り。
ついでに言えば『真田丸』の真田昌幸は胡桃カチカチ。そういう単純な反復動作でストレス解消なり気分転換をしているのでした。
光秀は気分転換せねば、そして嫁を
周囲は心配しています。
「近江の様子はどうじゃ」と言っても、何も返さない。叔父上こと明智光安にも公方様の仲裁を受けたとしか言わない。母の牧にも言葉少ない。
光安はこうしみじみと考えています。
「やはりこういう時、十兵衛に嫁がおらんというのはなにかと不都合でございますなあ。母親に申せぬことも、嫁には申せるということがございます。今、そういうことが大事でござってなあ」
「そのようなものでございましょうか」
「その限りではないにせよ、のう」
おっ、叔父上はいい目の付け所ですね。これには帰蝶という理解者ができた信長も同意する。このあとの展開のフックになっています。
-

明智光安の生涯|光秀の叔父とされる謎多き武将は明智城を枕に討死す
続きを見る
蝮こと斎藤利政(斎藤道三)が、敵の閨(寝室)監視をしているのも、そういうことです。
古今東西、夫婦なりそういう関係では、寝物語が重要なものでして。でもここでの光安は、甥の心身を第一に考えています。
優しいなあ。後継とかそういうことでなくて、リラックスを一番に考えています。本作って、戦国時代なのに優しさがあふれていると思えるのです。
蝮あたりが悪目立ちするだけだよ!
ここに光安の息子・左馬助秀満がやって来ます。見るからに素直で爽やかですね。
-

明智左馬助(秀満)の生涯|光秀に福知山城代を任された男 その事績とは?
続きを見る
父に性格が似ているのであれば、あまりひねったことのない好青年なのでしょう。
「伯母上、おいででございましたか」
そう挨拶します。なんでも、明智左馬助は伝吾と鷹狩りに行くとか。
そこで「十兵衛も誘ってみたらどうじゃ」と光安は指示を出します。引きこもってばかりの光秀をそうしてもらえると助かると、牧は言うわけですが、光安には目的がありました。
「妻木の方にでも、足を運んでみたらどうじゃ」
「ああ、妻木……」
これには牧もピンと来ています。秀満だけがわかっておりません。
そして、そのあとの妻木では光秀が水を飲んでいます。
鹿の皮を腰につけ、すっかり狩りの衣装です。それでも、脳裏は義輝の声が響いている。
「麒麟が来る道は遠いのう」
うーん、不器用だ。気分転換が苦手なようです。
そこへ、煕子が姿を見せます。
「ここで何をしておいでです? このような所で鷹狩りですか?」
「鷹狩りに、この近くまで皆と一緒に来たのですが、はぐれてしまい。あちこち走り回ってようやくここに。面目ない次第です」
「それは困りましたね」
煕子にしみじみと光秀は返します。
久しぶりに野に出て、空を見ると、晴れていて見事に澄んでいたと。国破れて山河在りの境地と言いますか。心がいくら沈んでいても、自然は相変わらず雄大で美しかったりするものです。
気持ちが良いのでみんなで馬を走らせているうちに、皆とはぐれてしまったとか。ボーッとしてしまったのかな。それともわざとかな。
ここで煕子はこう返します。
「本当に澄んでいて、静かな音がします」
煕子は耳を澄ますと、空は音がすると語ります。光秀は、そんな相手の豊かな感受性に感じ入るものがあるようです。
「道中風が冷たくありませんでしたか」
煕子は懐から囲炉裏であたためた石を取り出します。部屋で習い事をしていると寒い。懐に入れておくと、寒さがしのげると、そっと渡して来ます。
「ああ、あたたかい……」
「よかった」
光秀はしみいるような顔をして受け取ります。それでも煕子から館へお寄りいただくよう誘われると、今日は帰ると告げるのでした。
そしてこう言うのです。
「この十兵衛の嫁になりませぬか?」
ともに幼い頃、大きくなったら嫁においでと光秀は申した。煕子殿も覚えておられる。私も覚えていた。
-

明智煕子(妻木煕子)の生涯|光秀“糟糠の妻”は本当に彼女だけだったのか
続きを見る
今日、ここで皆とはぐれたことも、なるべくしてはぐれた気がする。そう言い切ります。そのうえで返答は急がない、お考えいただきたいと伝えます。
はい、開始十分で嫁取り決定です。スピード展開だな!
この展開は速いだけではなく、テンプレを外しているところもいいと思いました。
壁ドンとか。顎クイとか。そういう少女漫画や乙女ゲーアクシデントとか。暴れ馬を止めて「このおなごはちがう!」とかもない。
十兵衛を鈍兵衛と呼ぶ意見もあるようですが、彼は素直なだけでしょう。自分が本当に必要で、求めている女性以外はどうでもいいのです。
駒と帰蝶だけでなく、遊女にもそっけない。光安はそこを理解している。そういう欲求ではなくて、彼は心と心で理解できる、そういう存在が欲しいのです。
煕子は感受性が豊か。あざとく狙ったわけでもなく、空の音のことを語ってしまう。恥ずかしいからと隠しもしない。そういう素直で、やさしい心が光秀と響き合いました。
人間の善性といいますか。心の優しさが大事だと描く。戦国時代が舞台なのに、あればこそ、人は優しく思いやりがなければならないとわかる、そういうドラマだと思います。
-

史実の明智光秀はドラマのような生涯を駆け抜けたのか?本能寺までの足跡を辿る
続きを見る
殺伐とした謀略大好きな視聴者には、グッと来るものがあるんじゃないですかね。毎週、クソレビュアーな私は泣いてます。己の心の邪悪さを思い知って、悔し涙を流しております。どうでもいいことを、すまんな。
ともあれ、色気だの、なんちゃら砲だの、鈍いだの、NHKゆえのお堅さだの、ありえないだの、ハラスメントじみたことを言われ続けた光秀。それもそろそろ終わりかと思うとめでたいことです。
ドラマの感想だけならよいにせよ、現実世界ではやめてくださいね。人間はエスカレートするものだからさ。
信秀の方針と信長の不満
尾張と三河国境で戦っていた織田信秀と今川義元は、義輝の取りなしで和睦が成立。
それでも今川は尾張の重要拠点を得てしまいました。
-

今川義元の生涯|“海道一の弓取り”と呼ばれる名門武士の実力とは?
続きを見る
織田信秀は憂慮を深めております。しかも病床にいる。
我が子と重臣を集め、こう言うのでした。
織田信勝:末盛城と佐久間信重
織田信長:名古屋城と平手政秀
信長は、露骨に不満を顔に見せ、歪ませて反論します。
染谷将太さんの演技力を今更ケチをつける人は、少数派になったようで祝着至極。やはり彼ならやりきれますね。
で、この歪んだ顔が役の特性をバッチリ掴んでいませんか。この信長は、変な顔をしないといけない!
不満、不信感、悔しさ、悲しさが全部でる。この信長は、変な顔をして周囲がどう思うかなんてあんまり考えられない。ピュアだから。
末盛城ならば、三河に近く、今川相手に睨みを利かせられる。けれども、那古野城は守護・斯波家の清洲城に近いだけ――そう不満を爆発させる息子に、信秀は清洲城は要だからと返答します。家督を譲らせたいからこそ、大事な城を預けたというわけですが。
けれども、信秀が那古野城から末盛城に出て末盛城にいるから、信長はこうなる。
「納得できませぬ!」
信長は猜疑心旺盛なんですね。親心だからとすんなり受け取れない。めんどくせえ!
「ならば出てゆけ、話はここまでじゃ」
信長はドスドスと、病床の父の前を歩いて出て行きます。
傷つきやすい。気遣いがない。ピュアで悲しい信長です。
でもまあ、土田御前は困惑するし、弟の信勝も心底嫌だろうし、また平手政秀の胃には穴が開きそうではあります……。
本作の信長は、わかってかっこつけて突っ張っているわけではなくて、自分なりに一生懸命生きているだけで「うつけ……」と嫌われてしまう。そういう悲しい人なのです。
-

織田信長の生涯|生誕から本能寺まで戦い続けた49年の史実を振り返る
続きを見る
帰蝶の問題解決
帰蝶がそんな信長を待っていました。
「殿、父上様のお話いかがございました」
信長は、帰蝶を無視してドスドス。気分のアップダウンが激しい。そして、父・信秀がこの城を信勝に与える不満をぶつけます。
家老の佐久間も、お気に入りの柴田 勝家も、皆信勝につける。大事なものは全て信勝のものじゃ! そう絶望しています。
帰蝶はここで、そっと寄り添うタイプではありません。
-

道三の娘で信長の妻・帰蝶(濃姫)の生涯|本能寺の変後はどう過ごした?
続きを見る
この二人はお気に入りカップリング対象だとは思いますが、ちょっとズレてはいるんですね。光秀も、信長も、自分と似たタイプの女性を妻にしたとは思えます。
帰蝶は自分なりに考えて、それは奇妙だと言います。家督を譲るつもりならば、大事なものは殿(=信長)に与えるべきではないかと言います。
信長は、自分なりの猜疑心全開で、母・土田御前の企みと断定します。信勝に家督を継がせようとするつもりだと。
-

信長の母・土田御前の生涯|生まれや名前は?信長の死後はどう過ごした?
続きを見る
父上が弱っていることにつけ込んで、そうしていると爆発させます。
「あの剛毅な父上様が、母上様にさほど甘いとは……」
「甘い甘い甘い甘い!」
信長はそう叫びながら、バシバシと掌を身に打ち付ける。興奮するとものに当たりたくなるタイプなのでしょう。家具を打ち壊さないように要注意だ。家具ならまだしも、人間は殴らないようにしないと。
でもちょっと待て、信長!
先週、信秀と平手政秀の会話を思い出すと、信秀なりの判断で決めた可能性はある。
-

麒麟がくる第11回 感想あらすじ視聴率「将軍の涙」
続きを見る
両親に対して、失礼なことを信長は妄想しているとも言えるわけです。
政秀の胃に穴がまた開くわ……。
-

平手政秀の生涯|自害した信長の傅役 その原因は息子と信長が不仲だったから?
続きを見る
そして信長、反省しない。
松平信忠の生首プレゼント。平手政秀を派遣して(そして帰蝶経由で光秀も使って)今川と和睦したこと。
みな、父上が喜ぶと思ってやったのに、何一つ褒めてもらえない! ただお叱りになる。たわけと仰せられるのじゃ!
信長、なんか暴走してる。
「何故かわかるか? 母上が不服を唱えたからじゃ。父上は母上の言いなりじゃ!」
そして泣き出す。思い込みが激しいぞ。これは周囲の人は絶望して疲れ果てる。光秀の人生は、こんな信長に疲れ果てて本能寺なのか……。
-

なぜ光秀は信長を裏切ったのか「本能寺の変」諸説検証で浮かぶ有力説
続きを見る
帰蝶はここで、スッと立って出て行きます。
寄り添わないことが彼女の性格。先週のように、信長に膝を貸してリラックスさせることはできます。けれども、自分なりに気になったら確認しにいく機転もあるのです。
帰蝶は魅力的です。帰蝶に膝枕できることは羨ましいという感想もそりゃあります。ただ……性格的には「かわいくねえ女!」となる人も結構いるのではないでしょうか。
この帰蝶は、夜のお店には向いていないタイプですね。客と即座に揉めそうな……。
信秀の優しい嘘
帰蝶が廊下に出ていくと、土田御前がいます。そのうえで、こう告げるのです。
「信長にいうてくだされ。お帰りの際に父上にきちんとご挨拶においでなさい」
そのうえで、こう言います。
「京の望月東庵を存じておろう」
帰蝶が、美濃の母が世話になったと言うと、信秀が所望だと告げるのです。医者は尾張にもいる。ただ、双六をしたいのだと。
急ぎ呼び寄せる手立てがあるか聞きつつ、こう打ち切ってしまいます。
「無理であろうな、無理じゃ無理じゃ」
土田御前は冷たいようで、信長は誤解していると思えるのです。
自分の企みが成功したとほくそ笑む、勝ち誇るわけでもない。ただただ、夫のことを案じて、我が子の無作法を気にする女性には思えます。格式にこだわる普通の人ではないでしょうか。そんなに悪い人には見えない。
帰蝶は、信秀の元へ向かいます。侍女に御前が呼んでいると言い、下がらせます。咄嗟にこう言うことが出ると。本当かどうかはわからない。さくっと嘘を言った可能性はあります。
「大殿、義父上様 帰蝶にございます」
帰蝶はそう名乗り、斯様な折と前置きしつつ、こう訴えるのです。
信秀の胸の内、織田の家督を継ぐのはどちらの子がふさわしいとお考えか?
信長か、信勝か。教えてくれたらば、京都から東庵を誰よりも早く呼ぶと条件をつけるのです。
これも、見方によっちゃ可愛げのないこましゃくれた小娘ですよ。
そういう条件提示のあと、こう言います。
「尾張に命を預けに参った女子でございます。預ける方がどんなお方か、なんとしても知りとうございます。父上にとって、信長様がどれほどのお方か、お教えいただきたく思います。どうか、どうか!」
ここでやっと、帰蝶は自分の切ない心をぶちまける、と。
順番がちょっと変わっていませんか。普通の女性ならば、まずは可愛げだの、信長への愛だの、覚悟だの。そこからアピールすると思う。帰蝶はやはり個性的ではあるのです。
「信長は……」
情にほだされたのか。それとも東庵と会いたいのか。ともあれ、信秀は手を動かしながら、かすかな声で帰蝶に何かを伝えます。
帰蝶が信長の元に戻ると、信長は扇を顔に乗せてゴロリと寝転がっています。無防備で、何もしたくないような寝方です。
「どこへ行っておった」
「義父上様のところへ」
「父上は何か仰せであったか?」
「お聞きになりたいですか?」
「……やめておこう。聞くまい……」
扇で顔を隠しつつ、信長は立ち上がります。
信長は臆病なところがある。大事な人に拒絶されたら、もうショックでつらすぎる。だから気になるけど、聞かないんだもん。
信長は大胆不敵か、臆病か。感情を閉ざすか、暴発させるか。グラデーションがない極端さがある。ピュアではあるけど、めんどくさい。
そんな信長に、帰蝶はこう伝えます。
信長は、わしの若い頃に瓜二つじゃ。まるで己を見ているようじゃ。よいところも、悪いところも。それゆえかわいいと。そう伝えよと。
-

織田信秀(信長の父)の生涯|軍事以上に経済も重視した手腕巧みな戦国大名
続きを見る
「最後にこう仰されました。尾張を任せる。強くなれと」
そう聞いている信長は、心に満足感と安堵と愛がしみこんでいくような、晴れ晴れとした無邪気さを見せています。
染谷さんが童顔だのなんだの言われていますが、年齢不詳、いくつになってもピュアで子どもっぽいからこそ、選ばれたのだと思うんですよね。これがこの信長の最適解でしょう。
信長はそのまま、即座に父に会いに向かうようです。帰蝶にお礼は? そこは期待しないでおこう!
帰蝶は、律儀に東庵を呼ぶ約束を果たすため、侍女を呼び出し用事を託すのでした。
京都の医者は今日も大変だ
駒は京都で今日も忙しく負傷者の治療をしています。
若い医師が「阿仙薬を!」と忙しそうに働いている。あれ、東庵は?
伊呂波太夫がそんな駒に「これは大変だね」と声をかけています。なんでも、丹波から三好が攻め寄せ、町衆が巻き添えになっているとか。
駒パートへの批判にはこちらもしつこく言い募っている自覚はあるんですけど。侍同士が争うことで、民衆の被害が甚大であることは、手塚治虫『どろろ』あたりでも出てくるテーマではあります。
あの作品では、貴婦人がどろろたちに食べ物を恵んで、それにどろろの父が激怒する場面がありました。あんたら上のものが争うせいで飢えているんだ、それに施して気持ち良くなるなという怒りです。
手塚氏のような、戦争体験がある世代の描いてきた作品がある。今は、そういう世代のやってきたことを「ダサい、楽しければいいじゃん」と否定してきた層がてっぺんにいる。そこはを自覚せねばならない気がします。
人間は一つ前の世代、親世代がとてつもなくダサいと感じるもの。そして二つ前の世代、祖父母世代がかっこいいと思える。これを頭の隅に入れておくだけで変わってくる。
本作の設計、設定、世界観構築を脚本の池端氏だけが担っているとは思いません。
しかし、彼は戦争の息吹をなまなましく知る最年少世代です。本作は古典的なようで、実は2020年代に一番フィットする作風になる、切り拓く作品だと確信できるのは、こういう時代の流れをクソレビュアーなりに分析した結果です。個人の好き嫌いだけの問題ではありませんので、あしからず。
長ったらしくなりましたが「駒のパートはスマホいじっちゃった〜」というのは、100日後にはダサくなる宣言でしょう。そう嫌味を放っておきます。医療従事者は古今東西大変なんだ。
ついでに言うと、主人公がうろうろするのをRPGというのもファミコン世代らしさなんですよね。ああいうRPGには、古典的な元ネタもあるわけですが(『オデュッセイア』みたいな)、そこを踏まえないで生きていくとRPGで止まるんだろうということは、なんとなく理解できてきました。
さて、なんで東庵がいないのか? なんでも金を稼ぐらしい。
負傷者から金は取れない。でも、治療費はかかる。そこで九条様のお屋敷で稼ぐそうです。うーん、近代国家がどうして医療費を負担するのか、説得力のあるドラマだな。
東庵はかっこつけ、ええかっこしいに見えなくもない。
でも、利害の問題でもある。負傷者がバタバタ倒れて亡くなる。そういうことでは、労働力も減るし、伝染病が流行しかねないし。社会への打撃になる。
人間は慈悲深さだけではなく、利害も考えるから、医療体制を整えたほうが長期的に黒字だと学んだわけだ。
まあ、ここで伊呂波太夫は呆れている。だから九条様のお屋敷で闘鶏をしていたわけかと。
そしてここで張本人の登場です。なんでも勝つ自信はあったものの、40貫負けたそうです。そのうえで、太夫に2貫借りて取り返そうとしている。
ギャンブル依存症ですわな。なんでも明日までに40貫払わねば、家ごと取られるらしい。駒が止めると、あの怪我人から薬代を取れというのかと東庵は言い返します。
駒はここで、尾張から来た書状を渡すのです。
早馬で帰蝶が送ってきたと聞き、興味津々の東庵。なんでも尾張まで来れば、謝礼は望みのまま。東庵は、ここは若い者に任せて行くしかないと目を光らせます。
明日までに払う40貫は、伊呂波太夫が肩代わりをするそうです。
尾張に行くのであれば好都合と伊呂波太夫も、目を光らせる。
なんでも三河の友野次郎兵衛という国一番の大富豪が、病弱な我が子のために、京都から名医を呼んでほしいと頼んできたとか。
東庵と伊呂波太夫の胸算用
1貫=約15万円
2貫=約30万円
40貫=約600万円
100貫=約1500万円
伊呂波太夫は条件を飲むなら段取りすると言い、東庵も豪気なお方だとほくほくしております。
駒も、ついて行くと言い出します。途中で美濃に寄ると。
伊呂波太夫は明智のお侍のことかと尋ねます。駒は、明智のどなたが助けてくれたのか知りたいそうです。さて、誰でしょう。
土岐頼芸の鷹
稲葉山城では、利政(斎藤道三)が土岐頼芸からの贈り物を受け取ろうとしていました。
なんでもお屋形様ご自慢の鷹だとか。利政も鷹匠を前に上機嫌です。
「以前より噂には聞いていたが、よくぞ手放すお気持ちになったものじゃ」
その鷹がバサリと飛び上がり、利政に襲いかかります。主君を庇い、近習が前に割って入る。その直後、近習は咳き込み苦しみ、そのまま息絶えてしまいました。
鷹匠があわてて逃げようとすると、利政は「殺すな!」と周囲を制します。
「土岐頼芸様! このわしを、このわしを、このわしを!」
そう怒り狂う利政。ではあるのですが、いくつか気になるところはあります。
ポイント
・近習の腕は剥き出しではない
・鷹の爪につく毒はそこまで多くはないはず。致死量にできるだろうか?
・それほどの毒性であれば、鷹匠が何より危険だ
・鷹が飛んで利政に襲いかかるかどうかは、確実性がそこまでないとも思う
なぜ鷹匠が逃げようとしたのかって話ですが。目の前、あの状況で近習が死んだら、咄嗟に逃げるのはそこまでおかしくもありません。
暗殺にせよ、あれで成功するというのは、目を瞑って針に糸を通すくらいの難しさは感じます。
フィクションだから、どんな荒唐無稽な殺し方もありといえばそうです。けれども、何か引っかかるのですが。
-

信長も家康も世界も熱中した鷹狩の歴史|日本最古の記録は仁徳天皇時代
続きを見る
祝! 光秀と煕子の婚礼
さて、そのころ明智荘では。
「いやー、めでたい、めでたい、ははっ!」
光安が喜んでおります。
煕子殿の父上とは他人とも思えないそうです。家族ぐるみの付き合いなんですね。ついに夫婦になってうれしいと。
でも、これって些細なようで重要です。
光秀は安全牌、フィクションとしては面白みのない相手を選んだといえばそう。即座に結婚して大胆だなんだと言われておりますが、光秀は好きなもの、必要なものには一直線に向かって行くのでしょう。
愛には鈍いどころか敏感なところもある。駒や帰蝶に鈍感に見えたのだとすれば、光秀自身が別に好きではなかっただけのことです。
牧も光安に感謝しています。夫亡き後、父のように見守り、こうして十兵衛が巣立ってゆくと。
光秀自身は、巣立つわけではなく煕子殿が嫁入りしただけだと言います。煕子も、巣立ったのは自分だと。
「以後、よろしくお導きくださりますよう、よろしくお願いします」
ここで、光秀と煕子の祝言も描かれます。結婚はあっさりしておりますが、そこへ至るロマンスではなく、夫婦愛の結実を描くということかもしれません。信長と帰蝶も、祝言なかったわけですし。
ここで秀満が、稲葉山城からただちに登城するよう狼煙が上がったと知らせに来ます。
母と新婚の妻に、登城する用意をすると言う光秀でした。何があったのでしょうか……暗殺未遂です。
土岐頼芸を敵にできるか?
利政は家臣を集め、こう言います。
「みよ! 鷹の爪に塗られた毒が、わしの身代わりとなったこの若者の命を凍らせてしまった!」
誰のしわざか? 鷺山から送られてきたと。この国の守護であると、わしが神仏の如く敬うてきた土岐頼芸様からだと主張するのです。
いや、敬ってはいませんよね。
そのうえで、こうアピールします。
美濃のために命をかけて働いてきた。治め、国衆の土地を取られぬようにして、年貢を安くして、治水を行ってきた。
そう稲葉良通や長井秀元に迫るのです。迫られた側は嫌そうですが。
-

稲葉一鉄の生涯|信長に寝返った美濃三人衆の猛将は織田家でどんな働きをした?
続きを見る
「みよ、この哀れな姿を! わしは許さぬ、鷹好きのたわけじゃ!」
そう死んだ近習の死体をアピールする利政。ちょっと嘘くさいなぁ。そのうえで、こう言います。
「土岐様と一戦交えるまでじゃ! 異論がある者は立ち去れぃ!」
誰も立ち去ろうとしません。
ただ、利政の子である高政は不穏な目つきをしております。
「ではよいな、皆心は一つじゃな。今日から鷺山に近づく者は、裏切り者として成敗致す! いずれいくさになるやもしれぬ、おのおの覚悟せよ」
ここであの近習の死体が運ばれて行きます。
やはり芝居がかっているといえばそう思えてしまう。わざわざ死体を見せるということには、無論、意味があります。
目の前で死体があって、平静でいられるかどうか。こういう世の中で嫌な話ではあると思いますが、そこは考えたい。
古今東西、人間は処刑した遺体を晒すようなことをしてきました。それにはやはり意味がある。法を犯せばこうなるという見せしめとして意味があるわけです。
逆に犠牲のアピールにもなる。
ご存知あの宗教は、磔になった男性がシンボルです。
カトリックと、後発のプロテスタントではあのシンボルにも違いがある。端的に言えば、後発のプロテスタントの方が生々しさが薄れています。犠牲者を視覚的にアピールすること、そしてその効果の受容は変化してきたのでしょう。
ともあれ利政のことです。死体ひとつで団結できるのであれば、彼の算盤感情では微々たる犠牲なのでしょう。
-

斎藤道三の生涯|二代に渡る下剋上で国盗りを果たした美濃のマムシ63年の軌跡
続きを見る
けれども、事態は彼が思う以上に複雑怪奇ではある。
高政には父が思う以上の毒が回っていたようです。彼は光秀を止め、こう確信を込めて打ち明けるのです。
「わしは土岐様を守る。父上と戦う。わしが立てば、稲葉達も従うと申しておる」
光秀はたまらず、目を逸らします。
「一緒にやろう。ともに父上を倒すのじゃ」
そう誘われ、光秀はどうするのでしょうか。
今週、織田信秀と信長、斎藤利政と高政父子が描かれたのは狙いがあるとは思えます。
心を開いて話し合ったか。ストレートに感情をぶつけ合ったか。そうした違いが出てきている。
どちらの父子も、断絶はある。
ただ、織田父子はその感情をストレートにぶつけ合ってはいた。信秀は信長をガツンと叩くし、信長も顔を歪めて不満をぶちまけます。
一方で、利政は我が子の不満をかわすようでまともに受け止めず、小馬鹿にしているようでもある。
-

斎藤義龍の生涯|父の道三に負けず劣らず 信長の攻撃を退け続けた実力とは
続きを見る
そういうすれちがいであいたところに、何を流し込むかという違いもあります。
どちらの子も、父の愛が得られないようで、理解できずに何かが足りない。信秀は、帰蝶を経由してそこへ自分なりの愛を補いました。それを信長は受け取ってはいる。
けれども、高政の場合はその空っぽの部分に、頼芸が毒を注ぎ込んだ。
父が自分に似ていない愚かな子だと軽蔑するのであれば、そんな父ではなく別の父になるものの愛を注ぎたくなる。
自我が希薄であることも、利政の不幸ではあると思います。
信長と利政を比べ、そこまで知能に差があるとも思わない。親のせいばかりにしてよいものでもない。
我が強いと言われてうれしい人は多くはないでしょう。エゴイストだと言われれば不愉快でしょう。
自我が強いというのは、欠点に思えます。けれども、困難な時代や局面においては、揺るぎない自我は自分自身にとって最大の味方となり得ます。
信長は、視聴者すらおそれおののいた首箱詰めを反省しているようでもない。今川との和睦も、独断専行であったようです。
-

松平広忠の生涯|織田と今川に挟まれた苦悩の24年 最後は謎の死を遂げる
続きを見る
そして、信長には自分自身の意思で貫いたという強烈な認識がある。こういう人間を操ることは至難のわざです。
一方で高政は、頼芸に操られてしまうほどで、自信もないし、自我もない。確固たる自分がなければ、人は騙され道を見失います。現代でも、ステマや有名人の推薦にコロリと参ってしまう人は要注意かもしれません。
むろん、それが必ずしも悪いとは言いません。むしろ、流行に流されやすい人というのは、一緒にいて楽しくて、明るくて、どぎついことをいうわけでもないし、会話のキャッチボールもできて、愉快でしょう。友達にするなら、この信長より高政の方がとっつきやすいとは思います。
けれども、それも平時であればこそ。緊急事態や乱世であれば、自我がない人は乗り切れぬ何かにぶつかる可能性は高くなります。
そんなわけで、
「あの有名人が自分と同じものを褒めていた!」
「あの有名人がインスタグラムで政治家と写真を撮って載せていた!」
こういうことに常時浮かれている人を見ると、「いい人だけど危機管理能力は低いのかな?」とクソレビュアーはちょっと思ってしまう。
厄介なことに、騙されやすさと知能に関係はさほどない。
あれほど賢い人がどうして荒唐無稽な代替療法にどっぷり浸かってしまうのか? 人間の心には、認識には、様々な側面があるのです。
この作品の信長は、太平の世ならばどうしようもない変人。
ただ、戦国時代に生まれたからその可能性を発揮できる。そういう可能性を持った人物なのです。織田信長を内閣総理大臣にする発想はおもしろくとも、太平の世ならばさしておもしろくないかもしれない。
チャーチルは第二次世界大戦で勝利をおさめた後、選挙で大敗し首相の座を追われました。ユダヤ人を救ったシンドラーは、平時ではただのダメな奴だったとかなんとか。そういう緊急事態で水を得た魚になってしまう人も世の中にいる。
人類全員が空気を読めて、穏当で流されて生きる存在だけであったら、危難の際に種族ごと危険に陥りかねないのです。そうならないためにも、信長のような乱世向き、いわば乱世の奸雄が必要なのでしょう。
織田信秀は先に上がる
那古野城に、駒がやってきています。帰蝶は喜んでいます。
変わらず相変わらずバタバタ生きておると帰蝶は駒にいうのでした。
帰蝶は駒に、光秀が嫁をもらったと言います。噂では色白のよい嫁ごだというと、駒はかすかに動揺を見せています。
それが帰蝶は「会ったらちくちくいじめてやろうと思うておる」ですからね。やっぱり個性的だ。
帰蝶は、尾張に嫁に行ったことを喜んでくれた母が昨年お隠れになったと口にします。
-

小見の方は信長や光秀の台頭に影響を与えた重要人物か?戦国時代の美濃攻略
続きを見る
「動かぬようで、時は流れておるのじゃな」
しみじみと帰蝶は言うのです。
そのころ、東庵は末盛城へ。
久しぶりに双六をしましょうと信秀に呼びかけると、相手は返事をしません。
「一足先に、おあがりになったか……」
東庵はそうつぶやきます。
信秀は座ったまま、息絶えていたのでした。
MVP:織田信秀
本作の信秀は、有能なようで普通の枠内に入る好人物だと思えました。
紛れもなくカッコいい、素晴らしい。けれども、信長と信勝対立を回避する手立ては打たないままのように見えた。
息子の信長ほど決定的なことをバシッとやらない。
ゆえに「うつけ!」と叱り飛ばすところはあったけれども……自分と似ていたと帰蝶に語ったと言いますが、これは父としての優しい嘘だとは思うのです。
信長のいないところでは、平手政秀に対して「理解できない」と断言していました。
性格的にも、父子が似ていると思えたことはない。むしろ理解できないからこそ、戸惑っていることがわかりました。
それでも、父として、我が子の求めるものがわかっていたのでしょう。
信長は、父からの肯定が欲しかった。
褒めてもらいたかった。
そのために、もう先が短いことを悟り、嘘をついたのです。
ギスギスした謀略が当然のような戦国の世。殺伐としている。叱責してもよい。絶望を伝えてもよい。
それなのに、信秀は優しい嘘を与えました。信長にとって一番必要なことかもしれない。
純粋だからこそ、自分のしていることが正しいのかどうかわからない。そんな信長にとって、父の肯定があれば大きな励みとなったことでしょう。
美濃の斎藤利政と高政がこじれていく一方で、この尾張の父子は素晴らしい贈り物をしました。
ぶっとんでいなくて、むしろ優れているようで普通。そんな戦国大名が、謀略ではなく優しい嘘をつく。
戦国大名の素晴らしさを、こんなふうに表現することができるのか! 圧倒されました。
そんな脚本を演じ切った高橋克典さんはお見事でした(※編集部注:信秀が実際に帰蝶へそう語る場面がなかったため、帰蝶が咄嗟に信長へ話を盛ったという見方もあるようですが、そのまま受け取って進めております)。
総評
視聴率がブレるためか、評価までブレていた本作。
「ジジババ好みの古臭い大河かと思っていて、すっとろい感じがあって、アバンギャルドな作品になれた、そんな通の私でも納得できる……おもしろい!」
みたいな論調が、定着してきたようですが。
本作は初回から盤石でしょう。思考回路が最新の知見準拠でみっちりしているから、斬新かつ手堅いと思っていました。
テーマ(この場合は戦術でも可)は王道。けれどもセオリー(理論、この場合は戦略でも可)は大胆。セオリー更新をNHKは2010年代半ばにしたのでしょう。
こんな大変なご時世の中、本作の制作にも様々な影響がありそうです。
ドラマを作っている場合か?
ドラマの感想を書いている場合か?
そういう気持ちは常にありますが、本作はじっくり鑑賞すればするほど、危機管理への対処があがるようなところはあると思えてきました。
それというのも、何度か指摘していますが、本作は登場人物の思考回路が明瞭でしっかりしている。
そこを意識して、このレビューを読むことでそのことがわかり、かつ危機への対処力を若干であれどあげるようなことを指摘していきたいとは思います。
馬鹿馬鹿しいと思えばご自由になされば結構です。ただのほっこりきゅんきゅんネタだけではないことを、考えてゆきたい。
じゃあ、まずは今週の感想前にこのことでも。
信長は【サイコバス】か?
本作の信長について探っていくと、三分後には出くわす【サイコパス】というもの。
気になって、専門書を調べてしまった。
日本史の本以外を調べることは苦痛ではないのですけれども、今後【信長=サイコパス】と言われたら、分厚い本を持って反撃したいところです。
本作主演の長谷川博己さんが演じたキャラクターで【サイコパス】の概念にあてはまる人物なら、思い出せますけどね。
2018年朝ドラヒロイン夫だ。理由は各自お調べください。彼のモデルは、史実において被害者のいる事件を起こし、複数回収監されております。ついでに付け加えますと、ヒロインのモデルとの婚姻関係も法律上不成立です。
それはさておき【サイコパス】だ!
この作品の信長の場合、高い攻撃性、無謀さ、ルール違反、他人の生命や権利を軽視する傾向はあります。
ただし【サイコパス】が持つという以下のような要素はない。
・口が達者で魅力的な自己PRができる
むしろ鉄砲トークをして、光秀を困惑させていた。本作の信長を演じる上での要素を、染谷さんは完璧にこなしているとは思います。
大胆不敵か、臆病か。自信満々か、不安げか。常に極端で、中間値を取れないのです。
変な顔をする、イライラして何かを叩いてしまう、一気にガーッとしゃべる、同じ単語を繰り返す。そういうピュアなゆえの情緒不安定さを彼は出してしまうのです。
・自己愛が強烈だ
むしろ愛を求めているようですが。
・表面的には魅力的だ
両親、平手政秀すら呆れておりますね。
こうしたサイコパス気質を持つ人物を探してみますと、むしろ土岐頼芸が該当するのではないかと思います。
-

土岐頼芸の生涯|斎藤道三に国を追われ武田信玄に拾われた美濃の戦国大名
続きを見る
彼は臆病なようで、斎藤利政を殺したい欲求は持っているわけでして。無害な人物ではありません。
信長は残酷です。
それでも、松平広忠は自分の手で討ち果たす。人任せにはしない。それだけでも公平だとも思える。これは蝮もそう。
人間は【皆やっているから】という意識でろくでもないことをします。
SNSに投稿された少女の絵に、こんなキャプションがついている。
「“いいね!”ごとにスカートが1ミリ短くなります」
これに面白がって“いいね!”をつける。
スカートが短くなって下着が見えたことで、死ぬわけじゃありません。ましてや実在の少女が被害を受けるわけじゃない。ただ、ポチッと。みんなやってておもしろいし、ネタだし。うん、無害な遊びですね。
でも……心理的には危険です。
ちょっとした心の動きでも、積もり積もれば、危険なものになる。絵、画面の向こうの人、目の前の人。そのスカートを短くするノリに、心理的ハードルが低くなっていったらどうでしょう?
二次元だの三次元だの、そんな話じゃない。
そもそも写真の発明前、劣情を煽るものは全て二次元でしたからね。それでも罰則は当然ありました。
【皆やっているから】という空気に流される。その危険性は認識していきたいところです。
本作の信長がやらないこと。けれども、人間がやらかしがちなことがあります。
・婉曲する:典型例が「いじめではなく悪ふざけのつもりだった」。
・漸進(エスカレート)する:からかっている、悪ふざけのつもりが、あんなことになるなんて………。
・責任のすり替え:みんながそうしていたから。その場のノリで……。
・距離を取る:以前書いた「殺すなら私たちがわからないところでしてください」と抗議した、ナチスの強制収容所近所の住民が典型例。残虐行為は自分の見ていないところでするのであれば、見逃せることがあるのです。
・被害者が悪いということにする:あんな短いスカートを履いているからだ! そういう類のこと。
ゲスだなあ。そういう気持ちになりますよね。
けれども、人間はやらかしてしまう。どんな人間であれ、目の前で誰かの掌に金槌が振り下ろされるようなことがあれば、目を逸らしたくなるものです。
近代の徴兵制が明らかにした人間の本性。兵士は敵に銃弾を命中させられない。訓練なり、心理的な何かが必要になってきます。
でも、信長は?
信長と斎藤利政は、本作の中で自ら手を汚し、標的を殺害した人物です。暗殺にせよ、他の人物は人に任せていた。殺す瞬間は見ていない。
殺したいけど、距離を取る。相手が悪いことにして、成敗だのなんだの言い換える――。
そうするのが普通のまっとうな人間で、自ら手を下すのが【サイコパス】ということですか? それってどうなんでしょうね。
『ゲーム・オブ・スローンズ』では、スターク家の人物は処刑の際、自らの手で斬首します。彼らは斬首大好きサディストではない。人の命を奪う重みから逃げないためにそうするのです。
信長も、ある意味、人の死から逃げないという意味ではピュアなのです。
人の死から逃げないということ。それはある意味、とても公正な態度です。
いくら人が危機に陥ろうと、遠いどこかのことで知らないと現実逃避できる人間は、鈍感さゆえに惨劇を招きかねない。そこを考えていきたい。
認識の問題
本作はおもしろいという評価が固まりつつあるものの、困惑もあるようです。
でも、これは説明できるとは思う。
蜀犬吠日(しょっけんはいじつ)で説明がつくかな。
日照時間が短い蜀(現在の四川省)の犬は、お日様が出ると吠えるという意味です。これは認識の問題。自分が認識したことがないものが出てくると「ありえない!」と言ってしまうということです。
今回は出てきませんでしたが、竹千代のこと。
彼みたいな子はいると思う。こんな子どもがいないと思うのであれば、それはあなたがああいう子どもではなかったか。あるいは、これまでの人生で出会ったことがないのか。気づかなかったかだけの話。
こういうことを「蜀犬日に吠ゆ」と言うんですね。
そうでなかった。出会ったことがない。それはまだよいとして「気づかなかった」可能性が一番危険だとは思う。
ああいう子どもの言動を、こうは言っていなかったかどうか。
「ありえない」
「かわいくない」
「生意気」
「うそつき」
そういうことをすれば、松千代のような子は「この大人は話してもしょうがない」と自己防衛に回って黙り込むか、嘘をつくしかないのです。そして相手は「こんな子はいない、ありえない」と言い切るまでのことです。
信長の【サイコパス】問題もそうかな。
ああいう人はいます。くれぐれも、ドラマの中ではなく現実にいる人を差別しないで欲しいと願うばかりです。
相互理解が解決法
そういう愚痴っぽいことを踏まえた上で、今週ですが。
信秀を演じた高橋克典さんは、暴れ足りないと語っているそうです。
気持ちはわかります。けれども、MVPでさんざん書いたように、信秀は暴れるだけではない人物像でした。
理解。
愛情。
あるがままの我が子を愛すると、最期の最期で託すこと。
慈愛の人です。それだけでなく、やっとここで我が子に理解を示した。いや、理解できないけど、そういうポーズだけでも取りました。
もちろんそこは戦国大名。
いろいろ損得感情はあるのでしょうが、愛がこの時点での信長の救いになったことは考えてゆきたいところ。
織田信長はすごいとわかっているけれども、そんな人物でも肯定感を求めてしまうのです。そこが、本作の生々しさで、ひき込まれてしまうところなのでしょう。
秀吉はコミュ力の達人
そう示された今週。光秀の結婚? それはすんなりいくわけです。光秀は相手の感情にするっとコミットできて、心を動かす達人です。共鳴する相手がいれば、結婚なんて即座にしてしまうのでしょう。
そういう心の動きが示されて、来週予告で秀吉が出てくる。
笑顔です。
この秀吉は、20世紀型のヒーローというか。最大公約数のナイスガイになりそうな予感がします。
彼は自分をどうPRできるか考えている。でかく見せる。セレブとして演出できないなら死んだほうがまし。
だからこそ、命を失うことなんてどうでもいい。名誉欲が命を上回るタイプ。営業職向きです。
彼と出会った瞬間、自分と気が合ってしまい、運命を感じる。それは運命ではなく、彼が考えに考え抜いた技術ゆえなのだけれども。そういうコミニケーション能力の化け物じみた人物なのでしょう。
-

豊臣秀吉62年の生涯をスッキリ解説・年表付き!派手な伝説はドコまで史実?
続きを見る
この作品は、現時点で最新の知見をもとに、戦国時代の英雄を洗い直すドラマです。
見れば確実に得られるものがある。そういうドラマで目が離せない。
本作をじっくり見ることで、得られることは大きいはずです。紛れもなく見逃せないドラマです。
あわせて読みたい関連記事
-

明智光安の生涯|光秀の叔父とされる謎多き武将は明智城を枕に討死す
続きを見る
-

明智左馬助(秀満)の生涯|光秀に福知山城代を任された男 その事績とは?
続きを見る
-

明智煕子(妻木煕子)の生涯|光秀“糟糠の妻”は本当に彼女だけだったのか
続きを見る
-

史実の明智光秀はドラマのような生涯を駆け抜けたのか?本能寺までの足跡を辿る
続きを見る
-

今川義元の生涯|“海道一の弓取り”と呼ばれる名門武士の実力とは?
続きを見る
【参考】
麒麟がくる/公式サイト


































