「一代で躍進した」とか「一代で財を成す」という表現があります。
そこに至るまでは当人だけのチカラではなく多くの手助けが必要で、戦国武将であれば信頼できる部下が欠かせません。
しかし、その頼れる存在が、いつの間にか禍根になる辛いケースも……。
永正十三年(1516年)11月8日は、北関東の戦国大名・宇都宮成綱(しげつな)が亡くなった日です。
宇都宮と言えば、現在は栃木県の県庁所在地。
「餃子の町」というイメージが強いですけれども、同名の戦国大名がいたんですね。
まずはどこからどう始まった家なのか、確認して参りましょう。
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先祖は藤原道兼という由緒正しきお家柄
宇都宮氏について簡単にまとめると
【関東の武士の中でも、寺社や歌壇に縁の深い家】
といえます。
『平家物語』などでは、関東武士のことを「東夷(あずまえびす)」と小馬鹿にする描写がありますが、実は公家の流れをくむ由緒正しい家もそこかしこにあるのです。
例えば、奥州藤原氏は一昔前まで「京の藤原氏(摂関家・藤原道長の一族)の親族ということにして、勢力拡大をしたのだろう」とされていましたが、最近の研究では「藤原摂関家のほうでも、奥州藤原氏を親戚と捉えていた」と考えられる史料が見つかっています。
そんなわけで、東日本でも藤原氏系の名字を持つ人がたくさんいたわけです。
宇都宮氏の初代とされる藤原宗円という人物も、大河ドラマ『光る君へ』で玉置玲央さんが演じられて話題になった藤原道兼(道長の兄)の血を引くとされています。
宗円は【前九年の役】で功績を認められ、下野(現・栃木県)の守護などに任じられ、この地に縁付きました。
宇都宮氏を名乗ったのは、宗円の孫・宇都宮朝綱から。
朝綱はちょうど源平時代から鎌倉幕府ができた頃の人でして。
平家や奥州藤原氏との戦で活躍し、源頼朝に認められて有力な御家人の一人になりました。
百人一首は宇都宮頼綱が藤原定家に頼んで始まった!?
武働きもさることながら、宇都宮氏は歌にも才覚を示しています。
特に、宗円から数えて五代目の宇都宮頼綱(1172~1259年)は、謀反の疑いをかけられたために出家し、その、後京に滞在していたとき、藤原定家と付き合い始めて歌の世界に入りました。
あの有名な『百人一首』も、頼綱が「別荘の襖に歌を書いた色紙をたくさん飾りたいんだけど、歌選びと揮毫をやってくれない?」と定家に頼んだのが始まりとされています。
よくこの依頼で百首も選んで書いたものです。
頼綱が出家した後、弟の宇都宮朝業(ともなり)が鎌倉へ出仕するようになったのですが、朝業もまた歌を通して、時の三代将軍・源実朝と君臣を超えた付き合いをしていたとか。
共通の趣味があると盛り上がりますよね。
それだけに、実朝が若くして暗殺されたときは相当のショックだったらしく、朝業も世を捨てて出家しています。
どうも、何かあったときはあっさり出家して「じゃあ後は任せた」というのが宇都宮氏の家風のようです。
ちゃんと引き継げる男子がいる状態でやっているのが、堅実というか賢いというか。
楠木も一目置く坂東武者のビッグネームに!
その後も元寇との戦いで活躍して出世した人やら。
鎌倉幕府が倒れるまでの戦いで、楠木正成に「宇都宮は小勢だが、一人も生きて帰る気がないようだ。さすがは坂東一の弓取りの家」と賞されたことがあるやら。
関東の武士としてはビッグネームと言っても過言ではなかったのが宇都宮氏です。
しかし、南北朝時代以降はスッカリ勢力を弱めてしまいます。
原因は、関東管領・上杉家と、鎌倉公方・足利家のメンドーな戦いである【永享の乱】の他、もろもろのすったもんだで疲弊したためです。
成綱が10歳という幼さで当主となったのは、ちょうどその頃。
この若さ、いくら戦国時代でも早すぎる就任ですが、トーチャンが突然亡くなったので仕方がありません。
当然、重臣たちは成綱をナメくさって政治を牛耳ろうとしました。
が、成綱は素早く「よし、アイツら邪魔だからまとめて始末しよう」と決断し、武力で押さえつけてしまうのです。
他にも他家の重臣が亡くなったと聞いて、即座に攻め込んで領地をぶん取ったり。
頭の回転もフットワークもかっ飛んでる人だったようです。側近の能力が高かったにせよ、この小学生、コワイ……。
それは一族の人間に対しても同じだったようで、成綱が若いうちに家中の統一にほぼ成功しました。
これにより、あっちこっちでグダグダな戦が続く関東で、確かな地盤を作ることができたのです。
下野だけでなく、常陸の佐竹氏や会津の蘆名氏とも戦ったことがあります。
こんな感じで、成綱の前半生は駆け上がっていく感じでしたが、後半生は少々きなくさい感じになってしまいます。
いかに果断な成綱といえど、一人で家中のことをすべてやれるわけではありません。
当然、重臣の助けが必要になります。
その中の芳賀氏(はがし)という家が大問題になってしまうのです。
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