「戦国時代最強の毒って何だと思います?」
突然そんな疑問を担当編集さんから投げかけられました。
戦国時代だけでなく、暗殺や謀殺に用いられがちな毒。
たしかに現代であれば多種多様の化学薬品がありますが、中世は自然界から生成せねばならず、効果を試すにも色々と大変なことだったでしょう。
では、現実的に考えて、何がその候補となりえたのか?
さっそく考察させていただきます。
破傷風菌が作る毒素が超デンジャラス
いったい毒の中で最強の物質は何なのか?
毒性から言いますと、これは0.5gで世界人類の致死量となる『ボツリヌス毒素』が一番です。
ただし、精製技術が確立されたのは第2次世界大戦中なので戦国時代の実用は難しいでしょう。
そこで毒の一覧をざっと見て目に付いたのが『テタヌストキシン』。
この毒の半致死量(半分の人が死ぬ濃度)は2ng/kgです(2ng=0.000002 mg)。
テタヌストキシンというのは破傷風菌が作る毒素です(テタヌス:Tetanusというのが破傷風のこと)。

顕微鏡で見た破傷風菌/wikipediaより引用
破傷風菌はそこらへんの土の中に普通に存在しており傷口から侵入し感染します。
この破傷風菌の作る毒素が神経細胞に入ると、『運動を抑制する神経の働きを抑えたり、運動神経を興奮』させます。
簡単に言いますと……。
【ものすごい痙攣がおきたり、それに伴う麻痺がおこる病気】
重症の場合は呼吸筋の麻痺をおこして死亡します。
現代の日本では年間100人前後と患者数は少ないものの致死率は約50%と高く、1950年のデータでは致死率85%という恐ろしい病気です。
戦国時代だったらまず死にますね。
調べてみると傷口を汚くすることで破傷風の感染率を高めることができるため、合戦の際に矢じりに「ウ◯コ」を塗り付けて使用していた話もありました。
このあたりのことは漫画『ドリフターズ』にも登場します。
【関連書籍】

『ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)』(→amazon)
破傷風に限らず、汚れた傷口からはいろいろな感染をおこす恐れがあり、相手の戦力を低下させるには効率の良い手段だと思います。
手間と成果を考えるのであれば戦国時代最強の毒は「ウ◯コ」というのも一つの答えだと思いますが、美人女医さん(自称)のコラムがそこで終わるのもチョットあれですので『破傷風』についてもう少し深堀りしてみたいと思います。

意識ハッキリしたまま骨が折れるほどの痙攣
先ほど『破傷風菌は土の中に普通にいる』と説明しました。
要はそこら中にある。
にも関わらず『日本での患者数は年間約100人程度』しかいないのは、なぜなのか?
破傷風って滅多にかからない病気なのか?
答えはyesでありnoです。
世界全体でみると年間に数十万~百万人の方が破傷風により命を落としています。気付かないぐらいの小さな傷から感染するケースもままあり、危険と言えば危険です。
では、なぜ日本では患者が少ないのか?
それは『予防接種』が普及しているためです。
わが国では昭和43年から破傷風ワクチンを含む三種混合ワクチン(DTP)が開始されました(但し昭和50年~55年は副作用のため破傷風のワクチン接種が休止)。
このためワクチン接種をきちんと行っていれば、20代くらいまでは破傷風に対して免疫があるため患者数が少ないのです。
骨が折れるくらいの重症で意識はハッキリ
破傷風に感染すると、通常は3~21日の潜伏期を経て開口障害(口が開けにくい)から始まる特有の症状をおこします。
開口障害の後は、ひきつり笑い→全身痙攣へと症状が進行。
その期間が短いと予後不良となります。
重症の破傷風は骨が折れるくらいの重症痙攣をおこしますが『意識はハッキリしている』ので悲惨です。
毒素が神経に取り込まれる前であれば抗毒素が効果を持ちますので、傷が土壌で汚染されるような怪我をした場合は念のため受診をすることをお勧めします。
ちなみに破傷風菌を純粋培養し、毒素を発見、抗毒素による治療(血清療法)を確立したのは『北里柴三郎』です。
そうそう、江戸時代のスーパーひらめきマン『平賀源内』も破傷風で亡くなっております。大河ドラマ『べらぼう』でも描かれるかもしれませんね。

平賀源内/wikipediaより引用
どんだけ強い風力なんだ!と思っていた
余談ですが私が初めて【破傷風】という言葉を知ったのは、小学生の時に読んだ『恐竜の本』でした。
破傷風は人畜共通の感染症。
人間だけでなく牛や馬もかかる病気です。
私が見たのは「破傷風で骨が弓なりに変形した恐竜の化石(のけぞるような弓型)写真」でした。
おそらく傷口から感染し重症痙攣をおこし死亡したものだと思いますが、当時、破傷風を知らなかった私は「古代の地球では風速50メートルくらいの凄い風“破傷風”が吹くことがあり、この恐竜は風圧で骨が曲がったに違いない!」と勝手な解釈をしておりました。
全然違ったよ!
★
蛇足の蛇足。
文中にあるドリフターズですが、主人公は島津豊久です(笑)。
島津豊久や織田信長などが中世ファンタジー風の異世界に召喚されるアクション系歴史ファンタジーで、めちゃくちゃな話ですがなかなか面白いのでお勧めです。
では、また♪
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