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【オリンピック負の歴史】
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スポーツと愛国 そしてレイシズム
むろん害悪ばかりではありません。
スポーツが人を結びつけた例もあります。
戦争に巻き込まれ、目指していた東京五輪を逃したどころか、日本軍の捕虜となったルイス・ザンペリーニ。
1988年の長野五輪で聖火ランナーとして走り、戦争を乗り越えた平和の象徴として、感動的な場面を演出しました。
戦争が引き裂いてしまった祖国が、もう一度統一されて欲しい——。
韓国と北朝鮮の、そんな願いが込められた「統一旗」が、スポーツ大会で使用されました。
2018年平昌大会では、女子ホッケーチームがこの旗のもと、協力して戦っています。
※南北統一チームのもたらした絆を描く『ハナ 〜奇跡の46日間〜』
しかし、これがマイナス面に出てしまうと、レイシズムや対立を煽るきっかけとなり、暴力すら誘発します。
フーリガンの暴力行為。
スポーツに熱中するあまり、特定の国を嫌うようになってしまうこと。
スポーツは、悪意ある陰謀論とも結びつきやすいものです。
その一例として、
「五輪で日本がメダルを獲得した競技は、白人に有利になるようルールを改正される」
「あの競技は、特定の国に有利になるよう不正が行われている」
というものがあります。
大抵は陰謀論の類いで、冷静に検証すれば過ちだとわかるものです。
五輪やワールドカップを通した愛国心の煽り方があり、かつ危険であったことは、第二次世界大戦前のベルリン大会を筆頭として証明されてきました。
そのため、スポーツにはその過ちを繰り返すべきではないという毅然とした態度もあるものです。
サッカーの試合等では、レイシズムを行った観客は観戦ができなくなります。
過去の教訓が活かされているのですね。
都市計画と財政
スポーツ施設は、都市計画や人々の暮らしに根付いたものとして、慎重に作られてきた歴史があります。
無計画な建設は、都市の生活を破綻させかねない。そのため最近では厳しい目線が注がれるようになっています。
近年、ヨーロッパでは五輪招致を中止する流れが増えてきています。
高騰する開催費用もありますが、都市計画において慎重さが求められてきているからです。
住民の意見を尊重しない建造物等は、反対運動により阻止されるリスクがあります。そんなものを抱えてまで手を出すほどの意味があるのか、そう問われているのです。
高騰する費用も大きな問題です。
予算は、ロンドン大会で5倍、アテネ大会は16倍に達し、ギリシャの財政破綻を招くこととなりました。
そうしたリスクを避けるため、五輪を回避する流れも最近は強まっています。
五輪の招致合戦と民主主義の成熟度は、反比例の図式を見せるようになっているのです。
21世紀の五輪は、異なる様相を見せつつあります。
延期された東京五輪も含めて、この後、どうなってゆくのでしょうか。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
夫馬信一『幻の東京五輪・万博1940』(→amazon)
坂上康博『日本史リブレット スポーツと政治』(→amazon)
森まゆみ『異議あり! 新国立競技場――2020年オリンピックを市民の手に (岩波ブックレット)』(→amazon)
ロバート・ホワイティング/玉木正之『ふたつのオリンピック 東京1964/2020』(→amazon)
大野芳『オリンポスの使徒―「バロン西」伝説はなぜ生れたか』(→amazon)