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【藤原時姫】
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双系制――母方の血も重視される時代
平安時代は【双系制】とされます。
産まれた子供が、父方だけでなく、母方の血も重視される――藤原兼家の子を見ると、そのことがよくわかります。
『光る君へ』は、ドラマならではの描写ゆえに疑念を抱かれることがあり、そのひとつが元服前の藤原道長が「三郎」と名乗っていることでした。
藤原時姫以外の女性が産んだ男子も含めて考えると、道長は兼家の五男になります。
道長も含めて、きょうだいを確認しておきますと……。
◆母:藤原時姫(父・藤原中正/?-980)
長男:藤原道隆(953-995)
長女:藤原超子(954?-982) 冷泉天皇女御で三条天皇の生母
三男:藤原道兼(961-995)
三女:藤原詮子(東三条院/962-1001) 円融天皇女御で一条天皇の生母
五男:藤原道長(966-1028)
◆母:藤原道綱母(父・藤原倫寧/936?-995)
二男:藤原道綱(955ー1020)
◆母:対御方(父・藤原国章)
四女:藤原綏子(974-1004)三条天皇東宮女御で尚侍
◆母:藤原忠幹の娘
四男:藤原道義
◆源兼忠の娘
二女:藤原道綱母の養女(960?-)
生まれ順では早い二男(藤原道綱)と二女(藤原道綱母の養女)が、時姫が産んだ子よりも低い扱いなんですね。
『光る君へ』では、娘の藤原詮子が嫁ぐと「雲の上の人になってしまう」と、時姫は語っておりました。
詮子の姉である藤原超子が冷泉天皇へ入内しており、時姫はすでに娘の入内は経験済みだったのですね。
二人の娘が入内するにも関わらず、それを光栄に思うより、どこか寂しげであった時姫。
権力欲の強い夫・兼家とは対照的な女性として描かれていました。
時姫がなぜこれほどまでに重要視されたのか?
それには血統や幸運だけではない重要な要素もあります。
安産体質で5人もの子を産んだ。しかも最初の子である藤原道隆と、最後の子である道長には13歳の差がある。つまり兼家の寵愛を集めるだけの魅力が、時姫にはあったのでしょう。
なお【双系制】は時代が降ると薄れてゆき、男系の血のみを重視するようになり、江戸時代において確固たるものとなります。
徳川家康は、徳川秀忠とその妻・江が二男の国千代を寵愛する様を咎めて、長幼の序を重視させ、長男の竹千代(後の徳川家光)を世継ぎに定めました。
八代将軍の徳川吉宗も長幼の序を重んじ、暗愚と見なされていた長男の徳川家重を世継ぎとしました。
女系の血の尊さは問われなくなり、五代将軍・徳川綱吉は「八百屋の娘が母」とまで言われたほどです。
夫が摂政になる前に没する
ライバルの藤原道綱母とは異なり、藤原時姫は日記を残してはいません。
周辺の複数情報から兼家にとって良い妻であったと考えられ、さらには5人もの子を産めるだけの健康に恵まれていた。
しかも彼女の産んだ子が出世して、孫が一条天皇として即位すると、いきおい彼女の親族も出世を遂げます。
中級貴族であった兄・藤原安親は、公卿に列しました。
しかし時姫は夫の兼家が摂政となる前の天元3年(980年)1月15日に亡くなってしまいます。
大河ドラマ『光る君へ』の第1回で登場しながら、その6年後の第2回放送以降、出演がないのはその間になくなっているからなんですね。
この後、権力を求めるため夫・兼家は謀略を重ね、時姫が心配していた三人の子たちも巻き込まれてゆきます。
中でも汚れ仕事をやらせると決められた藤原道兼は、花山天皇を廃位させるため、重要な役割を果たす。
藤原道兼は実際どんな人物だった?兼家・道隆・道長に囲まれた七日関白の存在意義
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道隆と道長の子の世代、時姫にとっては孫の代ともなると、さらに争いは熾烈さを増してゆく。
なんせ一条天皇にせよ、その寵愛を争う藤原定子にせよ、藤原彰子にせよ、全員が時姫の孫なのです。
そうした争いを見ないうちに没したのは、彼女にとって幸運だったのか不運だったのか。
ドラマを思い出しながら、想像を巡らせるのも一興かもしれません。
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◆ドラマレビューはこちらから→光る君へ感想
文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
橋本義彦『平安貴族』(→amazon)
倉本一宏『敗者たちの平安王朝 皇位継承の闇』(→amazon)
他