というと【日蓮宗】を挙げる方が割と多いのではないでしょうか。
開祖の名前と宗派の名前が同じという点がわかりやすいですし、その後もちょくちょく歴史上に登場しますしね。
まあ、別の意味で強烈だから、という理由もありますが……。
しかし開祖・日蓮そのものの生涯となると、意外と知らない方もおられるでしょう。
本稿では、弘安5年(1282年)10月13日に亡くなられた日蓮の生涯を、日蓮宗の歩みと共に振り返ってみたいと思います。
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最初は「是聖房蓮長」と名乗った
日蓮は貞応元年(1222年)、現在の千葉県安房郡天津小湊町に生まれました。
自身は「漁師の子」と自称していたそうですが、現代の研究では地元の有力者の息子だろうと考えられています。
積極的に著述をしていた日蓮は自筆と伝わるものが多く残っていますが、その筆跡からしても、ある程度良い家の生まれではないかという気がしますね。
詳細な理由は不明ながら、天福元年(1233年)頃に天台宗の清澄寺(せいちょうじ/元・千葉県鴨川市)で出家し、仏道を歩むように。
最初は「是聖房蓮長」と名乗っていたのを、後に日蓮と改めたそうです。
そのうち「安房では良い師匠に巡り会えない」と考え、延応元年(1239年)頃に鎌倉へ出て、さらにその後、京都付近へ移動。
比叡山延暦寺でも学んでおり、ここまではこの時代の僧侶として割とスタンダードな道をたどっていたといえます。
大きな特徴を持つようになるのは、
「法華経こそが唯一最高の教えであり、他の経典や宗派はそれに及ばない」
という考えを強め、特に浄土宗への批判が常態化してからです。
「他の経典が間違っているのなら、なぜその存在へ仏罰が当たって滅びていないのか」というツッコミは野暮ですね、ごめんなさい。
そもそも法華経とは?
さて、法華経とはそもそも何なのでしょうか。
原語であるサンスクリット語のタイトルは
【サッダルマ・プンダリーカ・スートラ】
といい、意訳すると「白い蓮の花のように清く正しい教え」となります。
漢語訳としては「妙法蓮華経」といっていたのを、いつしか縮めて「法華経」と呼ぶようになったようです。
ではなぜ蓮なのか?
「泥の中から茎を伸ばして咲く」という特徴が、「泥のような現世の苦しみを昇華して仏になる」という仏教の考えに合致するからだと思われます。
余談ですが、仏教が生まれる前からインドにあったヒンドゥー教でも、蓮の花は特別視されていました。
となると、単に蓮がインド原産の花だからというわけではなさそうですね。
他の植物になくて蓮に顕著な特徴というと、「泥=水の中から咲く」ところでしょうか。
ヒンドゥー教ではガンジス川や沐浴が重んじられていることからして、「水に関わるもの」が特別視されているのでしょうね。
砂漠気候の地域があったり、雨季に豪雨が降るなど、水を崇める理由は複数ありますし。
さらに話が横道にそれますけれども、エジプトとナイル川も似たような感じです。
ナイル川には昔からスイレンが自生しており、古代エジプトで神聖視されていました。現代でも、エジプトの国花はスイレンです。
現代ではインドはヒンドゥー教、エジプトはイスラム教が主流ですけれども、どちらとも直接関係のない宗教が重んじられていた時代から好まれていた花が、今も国の象徴になっている……というのは、歴史の長さや奥深さが感じられますね。
日本の国花は法的に定められていませんが、桜を愛でる習慣は千年続いていますし、菊が皇室の象徴として確立してからも700年は経っていますから、民族性とは国の形が変わっても不変ということでしょうか。
1253年 そして日蓮宗は始まった
閑話休題。
法華経の主旨は「全ての人が、いつか仏になれる」というものです。
そこには女性や、武士のように殺生が関わる職業の人も含まれます。
だからこそ、日蓮は「この教えこそが唯一正しい!」と固く信じ、布教に乗り出したのです。
より詳しく知りたい人は、法華経の中にある「法華七喩(ほっけしちゆ)」というたとえ話から入ると、わかりやすくていいかもしれません。結構俗っぽい話もあって面白いですよ。
かくして自らの歩むべき道を見出した日蓮は、建長四年(1252年)頃、地元の清澄寺に戻りました。
そして、翌年春にここから法華経信仰に関する説法を開始。日蓮宗の始まりはこのときだとされています。
ただ、この頃には既に浄土宗が広まっておりましたので、周辺地域の浄土宗徒からは大きく反発を受けたようです。
反日蓮となった浄土宗徒の中には地頭(御家人)の東条景信もいました。
自身の宗派を否定されただけでなく、日蓮の両親が、とある荘園領主の尼僧に味方していたことも、景信にとっては面白くないことで。
景信はその尼僧の荘園をぶんどろうとしていたそうなので、二重の意味で邪魔をされたことになります。
このため景信は、清澄寺を脅して日蓮を追い出させるのです。
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