こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【『べらぼう』感想あらすじレビュー第43回裏切りの恋歌】
をクリックお願いします。
吉原を立て直すのは歌麿大明神しかいない
吉原の忘八たちが、歌麿の美人画をうっとり眺めている。
蔦重からは、歌麿の美人画の特色も語られます。着物の色をキリリと鮮やかにしたいという要望を、柔らかい色合いが持ち味だと断るのです。
現存する歌麿の作品はどうしたって褪色がある。それを踏まえても、残されている色合いが柔らかいことも魅力の一つ。今年になって再発見された「ポッピンを吹く娘」なんて、そりゃあ繊細な色合いで可愛らしいものでさ。
ただし、歌麿の作品への言及はそれまで。忘八たちは五十枚描いてもらうからにゃあ、と儲ける話ばかりが気になるようで。
蔦重は『錦之裏』を絵でやるのはどうか?と提案しました。
蔦重に声をかけられ、どこか気が抜けていた歌麿はやっと返事をする。
北尾政演が挿絵を手がけた洒落本ですね。吉原の裏事情、普段の花魁を描く作品です。
ただし、それは手鎖(てじょう)になった危険な本であり、忘八たちも「大事(でぇじ)ねえのか?」と気にしています。
時を見ると言葉を濁す蔦重。だからそういう博打打ちじみた思考はやめましょうぜ。歌麿だって巻き込んじまいかねないんだからよ。
すると蔦重が『青楼美人合姿鏡』のことを皆に思い出させます。
あのときは北尾重政(山東京伝)と勝川春章が作画を担当し、歌麿に描かせませんでした。蔦重は、今こそ歌麿でリメイクしようという心づもり。
これは実際に作品として残されています。
◆青樓十二時 續・亥ノ刻(文化遺産オンライン)
当時の一件を蔦重が覚えていることに蔦重が驚くと、忘れるわけがないと返します。人たらしですな。りつがさらに、あのあと蔦重が歌麿を熱心に売り込もうとしていたと付け加えます。
「うた麿大明神の会」の思い出話で盛り上がりだし、次郎兵衛の屁、恋川春町の錯乱などなど、思い出してひとしきり笑い合うのでした。
思えばあのころは楽しかった。店は小さくてぎゅうぎゅう詰めでも、愉快な客もたくさんいた。みんなよく笑っていた。
「大事(でぇじ)ねぇ、歌麿の絵が、吉原を立て直しますんで!」
蔦重はそう断言します。自分にできるのかと戸惑っている歌麿に対し、それを察知した蔦重がおだてます。
「お前ならできる!」
「歌麿先生にならできる!」
「歌麿先生ができなくて、誰にできんだよ」
「頼んだよ。もう、先生だけが頼りさ!」
そして蔦重は歌麿の肩を抱きつつこう言い切ります。
「おまかせくだせえ、駿河屋兄弟が、吉原をもっぺんあの頃に建て直しますんで!」
しかし、歌麿はどこか浮かない顔をしています。肩を抱き寄せる蔦重から逃げるような様子もある。
そこへふじが赤ん坊のための道具を持ってきました。次郎兵衛の妻である“とく”もついてきています。駿河屋兄弟の長兄にあたる次郎兵衛の子が使ったものですね。
次郎兵衛の子供達のことを思い出しつつ、皆が嬉しそうに語り合っている。
しかし、歌麿はどこか冴えない顔色のままなのでした。
吉原から離れて得た幸せも蔦重にはあるだろう
蔦重は歌麿と一緒に耕書堂へ戻ります。そこには身重のていがいました。
あの頃じゃなくてよかったこともあると言い出す歌麿。身重のていがいる幸せということでしょう。歌麿が手にすることのできなかった、愛妻とその間の子との暮らしです。
それを認める蔦重。あの日々から抜け出し、蔦重が得て、歌麿が得られなかったものの対比があります。
歌麿はていに体を大事にするよう労わって出てゆきます。
ていはかえって歌麿の変化を感じたようで、蔦重にそのことを伝えます。帰り道の途中でもないのに、荷物を運んでわざわざ来たことに不審感じているようです。
あっけらかんとした蔦重は、ていと自分の子は歌麿にとっても甥っ子だからだろうと答える。身寄りもないから喜んでいるのだろうと、いつもの軽い調子です。
場面変わり、蝉の声が鳴り響く中、一橋治済がズラリと並んだ能面を眺めています。
定信はロシアが去ったことを家斉に報告。従来通り、オランダと清以外との交易はしないことになっていると説明しつつ、そこにロシアも入港を許す信牌を与えたところ、戻って行ったのだと伝えています。
家斉は実に見事だと褒め、定信はさらに三方に載せた何かを恭しく差し出す。
家斉もその内容は察知している。
将軍補佐の辞任願でしょう。
世は全て事もなく――穏やかな日々。
九郎助稲荷がそう語るなか、不穏な音楽が重なってゆきます。
蔦重とていは神棚に祈り、歌麿は美人画を描く。蔦重はていのお腹に向けて黄表紙を読む。胎教ですかね。
そして九郎助稲荷が続ける――それは突然やって来たのでございます。
歌麿から聞かされていなかった別れの決意
訪問者は鱗形屋孫兵衛の長男である長兵衛でした。
なんでも『金々先生栄花夢』の板を蔦重に譲ることにしたのだとか。
名作黄表紙の一角に加えて貰えばいいと、鱗の旦那が決めたようです。
これにはあの滝沢瑣吉(曲亭馬琴)も、大はしゃぎ。黄表紙名作シリーズもぐっと引き締まって値打ちが上がるとさ。ったく、暑苦しくてうるせえ手代だぜ。
すると、礼を言われた長兵衛が思わぬことを返答します。
「まァ、うちは十年擦ってないし、万次郎のこともあるし」
万次郎について興味を持つ瑣吉に対し、西村屋へ養子に行った長兵衛の弟だと蔦重が説明する。その様子から蔦重が万次郎に対して、特にどうこう思っているわけではないというのが伝わってきます。
しかし、なんとも妙な長兵衛の態度であるし、因縁ある西村屋ということも気にかかったのか、どこか不穏な声でこう続けます。
「万次郎さんのことってナァ……」
「お前、歌麿抱え込むのやめたんだろ?」
「へ?」
青天の霹靂ですな。
長兵衛は、万次郎がこれでやっと歌麿と仕事ができると喜んでいたと語ります。
兄弟で酒を飲んだ時の会話だそうですが、蔦重はそんな話は聞いていないと焦り、長兵衛も戸惑いながら「そのあと断られたのだろうか」と返します。
気まずい雰囲気になりました。
恋心を描いて、別れの挨拶として渡す歌麿
歌麿は絵を描きあげ、呟きます。
「これで終わるか……」
と、そこへ蔦重が入ってくる。
「歌、邪魔するぞ!」
大股で入ってくるなり、こう告げました。
「西村屋と仕事するって本当か? んなわけねえよな? お前、これ……」
蔦重は歌麿が描いている美人画に目を落としました。歌麿が絵を拾い集め、差し出します。
「これは、蔦重にだよ」
「ああ、そうか……そうだよな」
安堵して受け取る蔦重。そしてしげしげと眺め始めます。
そしてそのうちの一枚が、吉原で見た遣手の絵だと気づくと、もう一枚は水茶屋で見かけた娘だと歌麿が説明します。
「一体(いってぇ)何描いてんだこれ?」
そうきょとんとしている蔦重。
「恋心だよ」
「うん……いや、すげえいい絵だけど、こりゃ売り方が難しいな」
歌麿は渾身の恋心を描いた。しかし、蔦重はそれに値段をつけることを考え出す。歌麿は悔しそうに、売らなくてもいい、売って欲しくて描いたもんでもねえと、噛み締めるように言います。
「じゃあ、なんで描いたんだ?」
「俺が恋をしてたからさ」
ここで蔦重はハッとして歌麿に向き直ります。
※続きは【次のページへ】をclick!
