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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第43回裏切りの恋歌】
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届かない恋心
「おめぇ、おきよさんみたいな人見つけたのか! いやここんとこのおまえを見て、いい人を探してんじゃねえかって思ってたんだよ! 誰だよ? こん中にいんのか? んだよ? 言えねえような相手か?」
「いや」
「誰だ?」
「俺に女ができんのがそんなにうれしいのかって……」
「あたりめぇだろ! おきよさんと一緒になったときのお前、楽しそうでよ。できればまたそうなってくれねえかって思ってたんだよ。で、誰なんだよ?」
「……言えねえな。俺がお世話になっただけで、俺が好きなだけで、向こうにゃ脈がなさそうだし」
「じゃ、俺が橋渡ししてやるよ」
「いいよ」
「遠慮すんな」
「いいって」
「じゃあうまくいったら教えてくれよ」
「俺、蔦重には言わねえ」
「……は?」
「俺、もう蔦重とは組まねえ」
義兄弟は並んで座っているのに、心は隔たっているのが見てわかる。
歌麿は立ち上がり、看板娘の絵を差し出します。
「このような扱いは酷くねえか。常なら絵師の名前が上になる」
以前、初代西村屋与八が指摘したものでした。蔦屋名義が歌麿名義よりも上である。歌麿はそれに抗議しています。
蔦重はやっと気づき、看板娘はシリーズものだし、仕掛けを売り出したいからだと言い訳します。逆のものもあると。
しかし「それでよいか?」と確認しなかったことを突いてきます。
蔦重は頭を下げ、これからは歌麿名義を必ず上にすると言います。歌麿はさらに続けます。
「西村屋の息子が面白えんだよ」
企画をたくさん持ちこんできた彼の発想を褒める歌麿。
「そうきたか!」と言いたくなるような出来栄えで、面白い本屋は蔦重だけでないと気付かされたんだとか。
蔦重は歌麿に膝を寄せつつ、吉原はどうするのかと言い出します。
立て直すと期待している。歌麿だって恩を受けた。そう卑怯な迫り方をする蔦重。
いくらなんでも歌麿一人での立て直しはできないでしょうし、ここで歌麿に恩を着せるのは厚かましいとしか言いようがありません。
歌麿はそれなりに恩返しはする。よその本屋と女郎絵を出す事もできると返します。
何もかも与えたようで、何一つ与えてくれなかった
蔦重はもう理詰めで返せず、頭を下げて頼むしかありません。
「頼む! なんでもするから考え直してくれ!」
「じゃあ俺を、あの店(たな)の跡取りにしてくれよ。あの店俺にくれよ
「そりゃできねえよ。おていさんもいるし、ガキも生まれるし。だいたいなんでそんなこと……」
「なんでもって言ったくせに……蔦重はいつもそうなんだ。お前のため、お前のためって言って、俺の欲しいものなんて、何一つくんねぇんだ」
「……それ、どういうことだ?」
「おていさんと子、とびきり大事にしてやれよ」
歌麿はそう吐き捨て去ってゆきます。蔦重がその名を呼んでも、戻ってくることはありませんでした。
知らねえうちに、嫌な思いをたくさんさせちまってたんだな。
大事にしてたつもりが、いつの間にか、籠の鳥にしちまってた。
悪かった。あの日から二十年、俺についてきてくれて、ありがとな。
とびきりの夢を見させてもらった。ありがとよ。
体は大事にしろよ。お前は江戸っ子の自慢、当代一の絵師なんだから。
このあと蔦重は、手紙をしたため歌麿に残します。
歌麿の思いは、つよが懸念した通り、気づかれることはありませんでした。
歌麿としては渾身のぶつけ方をしたと思います。鏡の中に顔を映して、自分の中にある恋心を読み取ろうとした。それができないとなると、出会った女たちの顔にそれを見出し、映し取った。
それでも通じない。蔦重は、自分と別の女との恋を勝手に見出してゆく。
だから、おていさんとその腹の中の子をかけてみることにした。
あの店はおていさんのものだ。あの店を継ぐのはおていさんの腹の中にいる子だ。なんでもできるのならば、せめて愛の代わりに差し出して欲しい。そうギリギリの攻防をしても相手には通じはしない。
そしてこの当たり障りのないことしか言わない手紙。
二十年間は結局、なんだったのだろう?
蔦重がせめて怒りでもすればまだよかったのかもしれない。しかし、それもない。
あの初回冒頭の出会いが、こうも残酷な形で終わろうとしています。
予期せぬ陣痛がおていさんを襲う
耕書堂に戻ると滝沢が出迎えます。
蔦重はあえて明るく、もう歌麿はうちとはやらないと返します。
どういうことか?とみの吉が尋ねると、蔦重はこう言います。
「もう、うちでは描かねえってこった」
ていは歌麿が渡してきた絵を見せてもらいます。みの吉がどういった女絵か?と尋ねると蔦重は、恋心を描いたと返します。
「恋?」
ていは何かを察したのでしょうか。
しかし、そう呟いた瞬間、激しい痛みが彼女を襲います。事態を察知した周囲は慌てて産婆を連れてきました。
産むしかないと産婆が湯の用意を言いつけます。
かなりの早産……生まれてきた子は生きてはいけないようです。ていはなんとかして腹の中に留めたいと願うものの、そんな手はありません。
産婆とたかは素早く母体の保護を決断し、産むことにしました。それでも、ていはなんとしてもこの子を蔦重に残し、子を育てる喜びを与えたいと苦しみながら泣いています。
男たちが追い払われ、ていが泣き叫ぶ中、蔦重は産婆に頼んでその場を去るしかありません。
「どうか、おていをお助けくだせえ! 子も出てくる前に不思議に月が満ちて、竹取が三月で大人になったみてえに……」
蔦重が祈ります。
ていは気を失い、産婆とたかがその名を呼び続けるのでした。
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