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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第17回「三方ヶ原合戦」】
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どうする「シン・三方ヶ原」
このドラマは、やたらと「シン・大河」というフレーズを使う記事が多いものでした。
そんなのは庵野監督だけでよいでしょう。
「真」は無双シリーズで十分です。
そう思っていたら、大河のサブタイトルになりました。
いいかげん頭に「真」をつけるセンスの悪さに気づいていただきたい。
◆松潤主演NHK『どうする家康』は「シン・大河」になる? 大ヒット大河ドラマ“勝利の方程式”とは | 2023年の論点(→link)
ちなみに上記の記事はノベライズ担当者によるものですので、そういうセンスを共有できているのかもしれませんね。
どうするOBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)
先日、 NHKスペシャルで『“男性目線“を変えてみた』という素晴らしい番組を放送していました。
そこで紹介されたものがOBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)です。
◆「オールド・ボーイズ・ネットワーク」とは?(→link)
今年の大河はOBNそのものに思えます。
「な? わかるだろwww」とでも言いたげに提示される世界観の前提が、ハッキリ言って理解できません。
大事な命懸けの合戦の前に、ダラダラと長ったらしいイチャイチャ。戦国時代というより昭和のサラリーマンものでは?
井伊直政の背後にくっついている追っかけガールズ。顔が良くてモテるなら女を侍らせたいだろ!とでも言いたげです。
1980年代って、こういう「女を侍らせること=強い男」だという価値観があったんですね。
そんな時代に青春を送った層だけがわかる、気持ち悪い価値観を押し付けているように思えてきます。
しかし、日本史を通してそんな勘違い価値観を抱いているのは、ごく一握りの世代に過ぎません。
それでもこのドラマのスタッフは何も言わずに、ニヤニヤしながら「これぞシン・大河だww」と思っているから流されるわけです。
SNSでずっと好きなセクシータレントの水着画像をRTしていたり。
聞かれてもいないのに、萌えるエロいシチュエーションを唐突に語り出したり。
そういうエッチな自分をポロリしてこそ親しまれる。そんな勘違いした世界観を大河ドラマで展開されても困惑するだけ。そんなことだから視聴率が伸びないのでは?
◆NHK大河ドラマ「どうする家康」第17話視聴率は10・1% 前回から0・6P微減も2ケタ維持(→link)
10.1%と、いよいよ二桁割れ目前ですが……話をOBNに戻しまして、その弊害は、関連ニュースにも出ている気がします。
タイトルだけでため息をついたのはこちらです。
◆『どうする家康』阿部寛&武田軍の軍事教育に「ローマ人」「スパルタ」までもがトレンド入りの珍事(→link)
作り手が意図的に混同されているとはいえ、ローマ人とスパルタは異なるものですよね。
「日本といえばカンフー!」
そう勘違いされたような虚しさがあります。
それでも特定の層が盛り上がればそれでいいんですかね。
ちなみに「日本のスパルタ」は薩摩島津が有力かと思います。これは江戸時代に来日したロシア人が語った言葉を由来としております。
どうするOBNの少年漫画精神
OBNをドラマに適用すると、展開が雑になります。
かつて日本では『週刊少年ジャンプ』が国民的な娯楽でした。
雑誌にはアンケートハガキシステムがあり、それが不調だと打ち切り――そんな風に切磋琢磨させて名作を生み出してきた一方で弊害もありました。
ともかく派手に盛り上げた方がアンケートで有利になり、ワンパターンとなる。
作者が描きたいものをやりきっているのに、アンケート人気が落ちないからダラダラと続いてゆく。
こうした弊害があるためか、やたらと長く、プロットがたるんでしまった作品も多いものでした。
そんな時代、少年漫画より格下とされてきたのが少女漫画です。
少女漫画はアンケートより作家性が重視されるためか、プロットがしっかりした作品が多いものでした。
特に歴史ものは、少女漫画の特性がプラスとなります。
それでも男尊女卑が根強い時代です。今では何を言っているのかと突っ込みたい、こんなフレーズが褒め言葉でした。
「男の俺でも面白く読めた!」
「少女漫画なんて子供騙しだと思っていないで、読んでみて欲しい」
漫画界は女性の地位は低いものとして扱う。かつてはそういう暗黙の了解が溢れておりまして。
少女漫画家は少年漫画家より原稿料が安いことも、当然のこととしてありました。
データを見れば女性読者が多い少年漫画作品について、編集者が「それでもこの作品は男性向けで硬派です!」と言い張ることもありました。
こういう男性優位にあぐらをかいたツケが、今まさに来ているのかもしれない――今年の大河を見て、どういうわけかそんな風に思ってしまいます。
ドラマ作りの上層部が同年代の男性ばかりで、彼らが青春時代にアンケートシステムありきの少年漫画を読み漁っているとすれば?
強引な盛り上げ展開にもそこまで違和感を覚えないのかもしれません。
ちなみに「男女間で歴史へ興味を持つ割合が異なることはない」とされています。歴史は男性だけのものではありません。
宝塚が典型的ですが、女性向けコンテンツの歴史作品は日本の戦国幕末に偏りすぎず、古今東西多様性があることも特徴とされます。
戦国幕末以外も興味を持ってこそ、本当の歴史好きかもしれませんね。
鹿を指して馬と為す
鹿を指して馬と為す。『史記』
鹿にアルファアカウントが「馬です」とハッシュタグをつけると、なんかそれが信じられちゃう……。
大河ドラマの関連ニュースでショッキングなことがあったので、共有させていただきます。
◆NHK大河ドラマで「戦離れ」? 2作連続文化人に注目...どれだけ珍しいのか、識者に聞いた(→link)
記事のタイトルを読み、一瞬こう思いました。
「ああ、確かに最近の大河の戦離れは深刻だ。渋沢成一郎を出しながら上野戦争をかすりもしない『青天を衝け』。徳川家康が主役なのに金ヶ崎を“なんやかんやで“で済ませた『どうする家康』の戦離れはひどい」
しかし、中身はそうではありませんでした。
要するに、来年が紫式部で、再来年が蔦谷重三郎であるのが異常だということが書かれていました。
果たしてそうでしょうか。
新たな試みではあるものの「戦離れ」が異常とも思いません。
大河の1作目は井伊直弼主役の『花の生涯』。2作目は『赤穂浪士』。どちらも合戦はありません。時代劇というのは合戦だけでもないでしょう。
日本人にとって大河ドラマとは?『大河ドラマが生まれた日』から考察
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『光る君へ』に関していえば、『鎌倉殿の13人』に次ぐ「応仁の乱の前」になります。
戦の有無よりも、応仁の乱を線とみなし、それ以前と以降を分けて考えることが日本史を踏まえる上で重要。内藤湖南以来、この前後で価値観がまるて違うとは指摘されるところです。
そして『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』ですが、大河が戦国幕末ローテーションになったのは最初からでもありません。
初期の頃は、その間に江戸時代中期を入れて三本柱でした。
つまり『べらぼう』はその柱の復活枠であり、脚本は森下佳子さんです。
彼女が手掛けるドラマ10『大奥』で描かれた江戸時代中期は実に面白く、『大河でもこの辺りを見たいなぁ……』と思っていたところで発表があり、私は嬉しくてたまりません。
時代劇の醍醐味を合戦にだけ求めるのは、時代劇への愛が不足していると思います。
と、上記の記事については、以下の部分にも注目させてください。
「1つ目は兵学者の大村益次郎を描いた1977年の『花神』、翌年の78年には桃山時代の商人・呂宋助左衛門を描いた『黄金の日日』が2作連続しており、このパターンに近いと言えるかもしれません」
ただ、同時に木俣氏は「大村益次郎は元武士なので厳密には違いますね」としつつ、もう1つの例がより今に近いのではないかと指摘する。
厳密も何も……兵学者が文化人とはどういう指摘なのか。その調子でいくと、孫子やクラウゼヴィッツ、マハンも文化人に分類されかねません。
信玄や曹操などの名将たちが愛用した~兵法書『孫子』と著者の孫武は何が凄い?
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大村益次郎の代表的な功績といえば、長州征討と戊辰戦争での勝利でしょう。兵部省創成期のトップでもあります。
『花神』というタイトルからして、花粉を撒く花咲か爺さんのように、日本中に戦を広げたことを指しています。ドラマの構成を見ても、戦争が見どころだったことが理解できます。
とまぁ、幕末史に興味がある人が読めばすぐさまわかる、そんな初歩的な間違いですが、記事がアップロードされても、誰も気づかないものでしょうか?
「この海鮮丼は肉が入っていないから、ヴィーガンでも安心して食べられます」
そう堂々と語る誰かを見たらひっくり返りませんか? そのくらいのダイナミックな間違いなのですが……。
しかし、記事へのコメントを見ると『花神』についてのツッコミは少なくてまた驚いてしまいました。
幕末の戦争って、興味を持たれないのですかね。
そりゃあ『青天を衝け』で渋沢成一郎を出しながら、上野戦争をカットしてもさして問題視されないわけです。
こうなると『どうする家康』のスタッフも、いっそ幕末明治で同じようなノリを展開すれば成功したかもしれません。
よりにもよって戦国時代で展開したのがまずかった。
それなら鹿を馬だと言い張っても通ったかもしれません……と言いたいところですが、そもそも戦国時代について勉強していれば、あるいは過ちを指摘する人がいれば、こんな惨状になっていないはず。
三方ヶ原の家康よりも、本作の方が心配です。
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【参考】
どうする家康/公式サイト