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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第39回「太閤、くたばる」】
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山中の賊を破るは易く、心中の賊を破るは難し
山中の賊を破るは易く、心中の賊を破るは難し。王陽明
SNSで「論破!」と気取るのは誰でもできますけどね。心中に巣食う偏見を取り除くとなると、これが難しい。
このドラマとその反応は、すぐさま偏見を見せてくるから興味深い。
以下のニュースもそうですね。
劇中の世界観から、明軍の佛郎機砲(フランキ砲)の方がよほど怖いと思います。よくこんな暴論を目にします。
「当時の日本は火縄銃が世界一たくさんあった! だから明にも勝てるかも?」
これは雑な議論でして、大砲ならば当時の明の方が優っていますし、マスケット銃の類(烏銃等)も、そこそこ揃っています。動員数も上です。
そもそも日本の火薬は、海を経て海外から調達しなければどうにもならない。
日本と明が本気で対決するならば、明は朝鮮も駆使して海路を塞げばよいだけです。
明側に日本を攻めとる意図がないから、そうなっていないだけ。元寇にせよ、別に日本征服を狙っていたわけでもありませんし。
こういう「日本スゴイ!」系の感想まで出てくるのはどうしたことか?
日本中世史と「日本スゴイ!」言論の結びつきは、私としても気がかりですが……それはまた別の方の論考にお任せするとしまして、今回の注目は別の偏見です。
阿茶局と淀殿の対決とやらを怖がる心理は、昭和平成のおじさん向けフィクションにありがちなですね。
「女同士が俺を取り合って怖〜い!」
こういうパターンです。最近スマホ広告でもよく見かけるパターンだ。
あのデートクラブの女と一晩過ごしてしまった(ベッドで美女を抱く主人公。男も乗り気だったくせになぜか困り顔)。
その女が面接に来ただと!?(そりゃそういうこともあるでしょうよ)。
怖い……(いや、その思考回路に陥る主人公の被害者意識が怖いわ)。
こういう徹頭徹尾、悪いことは全部女のせいと押し付ける、古典的なミソジニーならではの思考回路ですね。
作る側もそんな感情を引き出そうと狙い、見る側もまんまとそんな反応を見せ(実際に見せた層が多数かどうかは要検証)、コタツ記事に仕上がるのだとしたら、もうこれだから日本のエンタメはドツボだとしか言いようがありません。
そりゃ、若い世代は海外のコンテンツへ向かいますよ。
そしてその時代錯誤感は、ここにもある。
◆【どうする家康】山田裕貴がクレジット2番手に昇格 〝脱ぎ〟でもドラマに貢献(→link)
このクレジット順位にやたらとこだわるのは日本独自現象だそうです。
そしてジャニーズ問題が燃え盛っているタイミングで“脱ぎ”で貢献と見出しにするセンスのなさ。
こういう層がこのドラマの視聴主流ならば、ますます人心は離れることでしょう。
君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず
君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。『論語』「子路」
できる人は、チームワークは踏まえても、流されて迎合しない。そうでない人は、何でもかんでも迎合するくせに、チームワークを考えずに悪目立ちをする。
これを踏まえまして。
誰もが悪目立ちばかりして、乱れ切ったこのドラマ。それはこうしたニュースにも現れています。
◆小手伸也、NHK大河「どうする家康」大久保忠世のラストシーン裏話明かす「残念ながら尺の都合でカットになってしまって…」(→link)
◆『どうする家康』松本まりか、大鼠役を全うも本音「やっぱりもっと居たかった」(→link)
大久保忠世はモテモテ自慢する小豆バーの精霊としての役割よりも、本多正信との関係性など、他に描くべきところがあった。
それなのに、これでは演者が自分の悪目立ちだけを考えていたように思える。
女大鼠は、存在そのものがノイズでした。
いつ見てもパッとしない、わけのわからない髪型。服部半蔵との関係性にせよ、忍者としての働きにせよ、いてもいなくてもどうでもいい役回り。殺陣も、筋力がないのが見ていてわかって辛かった。
それなのに今さらこういうことを言われても、チームワークより自分が目立つことしか考えていないのか、と思えてしまって……。
一事が万事、本作はこんなことばかりです。
大河、くたばる
今週のサブタイトルは、こう言いたくなるほど酷い。
半世紀以上歴史あるコンテンツが、こんな無様な終わり方になるとは思いもよりませんでした。
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この脚本は、中年の妄想と誤解、自分のセンスこそがイケてて普遍的だという、論拠の乏しい自信が根底にあります。
根が腐っていたら、どうしようもない。
常に独りよがり、幼稚で不愉快。常に自身は安全な位置から冷笑的な逆張りセンスを繰り出す。
どうせ世の中なんて何をしようが変わらない。だから強い者に尻尾を振って、弱い者を叩くのが賢い。
本人たちは、そんなイカす軍師・本多正信気取りなのでしょう。
しかし、『パリピ孔明』気分で言わせていただければ、それは軍師ではなく十常侍(じゅうじょうじ・後漢末期の悪徳宦官集団)の振る舞いに他なりません。
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あるべき倫理を掲げ、それに少しでも近づこうとする『麒麟がくる』の明智光秀なんて大嫌い。女の駒なんて、よいサンドバッグだったことでしょう。
エンタメと反権力性は、本来であれば定番のセットです。
江戸時代後期の絵師も、戯作者もそう。平賀源内の戯作にせよ、歌川国芳の絵にせよ、それがスパイスになっています。
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それがどういうわけか、令和現在、その手の反権力を、時の権力を相手にするのではなく、光秀や駒のような倫理を持つ者たちに向ける層が出てくる。
光秀やオリジナルヒロインで悪ふざけする『どうする家康』には、そんな迷走する「反権力逆張り冷笑」の悪い手癖がみっちりと詰まっています。
裏にあるのは、強烈な劣等感と恐怖。
それを補うための悪ノリによる団結性重視。
女なんてみんなビッチ! 偉人なんてうわべだけ! 男の子が気になるのはモテるかどうか、エロだーいすき!
そうワーワー騒ぐことで、自分の欲求不満を発散して、性癖までも満たす。妬み嫉みとルサンチマンばかりが見えてくる。
自分の劣等感をどうにかすることばかりを考えていて、登場人物や演じる役者への敬愛とすら決別する。
このドラマは、大好きな自分を満足させることばかりを考えているのです。
けれども問いたい。
そうやって倫理を小馬鹿にし、冷笑論ばかりを唱え、先に進もうとする誰かを叩けば、問題そのものが消え去るのでしょうか?
答えは、このドラマの低空飛行につながっているのでは?
とはいえ、冷笑する側は今さらやめられない。
一種の中毒、いわば言論を用いた五石散(『三国志』の少し後の東晋時代に流行ったアッパー系ドラッグ)なのでしょう。
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ドラマのそのものも、擁護者も、事ここに至っても強気です。
少しでも挫けては、全てが脆く崩壊してしまう、そんな予感を抱いているのかもしれません。
とはいえ現場末端の士気低下は著しいようだ。
いくらネットとSNSで偽装したって、作品の乱れは見て取れます。
さあ、どうする、NHK?
私としては、こんな倫理観の底が抜けたやらかしを見逃すわけにはいきません。今後も、悪徳宦官じみた本作を観察してゆきます。
みなさんも、思うところがあればNHKにご意見を送りましょう。
◆NHK みなさまの声(→link)
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【参考】
どうする家康/公式サイト