『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第8回「調略」 何かと騒がしい真田の女性たちも分析してみました

こんばんは、武者です。

先週はきりが大炎上しております。確かにきりは賛否両論で否の方が多いとは思いますが、個人的には真田昌幸のクレイジーギャンブラーぶりのほうがある意味悪質だと思います。

先週で「生き残るためならばやむを得ない必要悪である策略」から「策を喰らわねば生きていけない謀略依存症」であるとわかってきたのではないか、と。

きりにイラついているならばその間トイレタイムにするでもスマホでネットサーフするでもして乗り越えられるかもしれませんが、真田昌幸の本質について行けないとなると、本作はかなりの苦行になると思います。

そんな中、こんなものが。

◆【真田丸】「ユーモアを入れる勇気」が好評 「軽すぎる」と厳しい意見も(→link

分析すると、年齢層があがればあがるほど厳しい意見が多くなると。その一方で、ツイッターやSNSでの話題=若年層での人気は高いようです。

このペースを保ち、年間視聴率平均『軍師官兵衛』+1~3%獲得すれば、本作は「若年層にアピールできた良作」評価は堅いとみました。

【TOP画像】
『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』(→amazon

 


春日虎綱の息子・春日信達を調略せよ!

今週は、先週欠席だった徳川家の様子からスタート。

先週の不在はやはり大きかった!

こんなに癒やし系とは思いませんでしたよ。

のっけから北条の勢いにおろおろする家康はもはやアイドルですね。とりあえずぶりっこポーズみたいな両手爪かみがかわいいです。

次の狙いは信濃とわかって、ほっとする家康です。

今回は初っ端からマスコット登場です

今回は初っ端からマスコット登場です

北条家では、氏政が汁かけ飯を熱心に食べています。

なんでこんなに汁かけ飯を真剣に食うんだ、氏政。食べるところから汁をかけよ、それがわしの食べ方だ、と汁かけ飯で北条の軍略を語る氏政。

もう汁かけ飯が好きすぎておかしくなったマニアのようにも見えますが、これはシリアスな場面です。北条を迎え撃つ上杉家はかなり焦っています。

真田は上杉家についた以上、北条の矢面に立つことになります。信幸らは焦っていますが、昌幸は調略待機中です。

その調略の鍵を握るのは、昌幸の弟・信尹(のぶただ)と信尹の息子・信春を名乗る信繁でした。

二人は、旧武田家臣で上杉家中では冷遇されていると悩んでいるらしい春日信達に接近します。

春日信達は、高坂弾正昌信(春日虎綱)の息子です。

昌信といえば、武田二十四将の一人。あの有名な信玄が書いたラブレターの送り相手で衆道の相手でもありました。武田家の三弾正の一人、「逃げ弾正」という異名もありました。

ちなみに昌幸の父・幸綱(幸隆)は「攻め弾正」と呼ばれています。

これが実に悲劇的な二代目です。

本能寺の変の混乱では、嫡子を鬼武蔵こと森長可に人質として取られ、殺害されています(本作の第六話あたりです)。

さらにはこの十八年後。川中島を支配することになった森長可の弟・忠政が、兄の撤退を邪魔したからという理由で、春日一族を見つけ出して処刑してしまいます。

武田家臣の中でも屈指の悲惨さです。

さて、ターゲット信達と酒盛りを開くと、不満を煽るようなことを植え付ける信尹。

弱みにつけこむ汚い、流石真田汚い。信尹はさらに、上杉景勝から冷遇されているのではないか、世が世なら一国一城の主ではないか、と煽ります。

さらに昌幸は北条につくとけしかける信尹。信達は怒り席を立ちます。

本当につくのかと疑念を持つ信繁に、目はあると言う信尹。本当につかないのであれば、話にのったふりをして主君に言うはずだ、あと一押しだと。ここで信繁がもう一押しすると立候補します。

今回のミッションは信達の調略!

今回のミッションは信達の調略!

 


不自然なほどに真田の参加を喜び持ち上げる氏政

ここで今日のきりちゃん梅ちゃんコントタイム。

「信繁が私を助けてくれたとき、超かっこよくてぇ、目がキラキラしてたのぉ〜〜〜」と自慢げに語り、梅を牽制しているようにも見えます。

きりはバカな子ではなくて、バカを装った腹黒い子なんじゃないかと思えてきました。ここは笑顔できりの話を聞きながら、「あの女ムカつく!」みたいな感じで、バァンと叩きつけるように薪を割る梅がよかったです。

梅は無言なのに、気持ちはよくわかりました。女子ウザイと言われるけど、このくらいの息抜きとトイレタイムはありですね。

女子コントはすぐ終わり、信達調略タイムになります。

信繁は、正体が昌幸の息子だと明かします。信達は戦友である昌幸を懐かしみ喜びます。本当に切なくなるほどよい人の信達です。

かつての武田家の名将の子同士が、上杉家の城で花を眺めているとしみじみ語る信達。主家が滅びる辛さですね。

信繁は理路整然と信玄の恩をとき、信玄の孫である北条氏直につくべきだ、あなたはこのままではただ利用されるだけの駒だとたたみかけます。

信繁は優秀なのですが、ちょっとやりすぎたようです。

理屈で固めすぎたな、固めすぎるとかえって相手は警戒すると、信尹は信繁の報告を聞いて分析するのでした。

昌幸は調略に時間がかかりすぎていることを憂慮し、もうそろそろ北条氏直の元に向かうべきだと腰を上げました。

岩櫃で待機している信幸は、父が上杉を裏切り北条についたことに困惑。

地侍の堀田作兵衛も臨戦態勢ですが、「北条を倒す」と宣言し、妹の梅に「上杉よ」と訂正されています。昌幸の下につく者も大変ですね。

昌幸より先に来ていた室賀正武は嬉しそうに昌幸を牽制。氏直は昌幸の遅参に激怒します。

氏直の北条善彦さん、演技を氏政役の高嶋政伸さんに似せていて、とてもうまいですね。

出浦昌相のとりなしも、昌幸の春日信達を裏切らせたという報告もまったく聞かない氏直。そこへ「アハハハハ」と笑いつつ、氏政が登場します。

小田原から息子の陣中見舞いに来たそうです。

出番は少ないけど、存在感はピカイチな出浦さん

出番は少ないけど、存在感はピカイチな出浦さん

氏政は真田が味方についたと知ると大喜び。

まさに鶴の一声。室賀正武がむっとするほど、昌幸が目立ち始めます。

むさ苦しいおっさん同士が薄暗がりの中で顔をつきあわせ、ごちゃごちゃ喋っているだけで、何でこんなに面白いんでしょうかね。

こういうのが本当に三谷さん、うまいな。

氏政の真意は、氏直の牽制でした。

まだ若く未熟な氏直を制しておかねばという気遣いです。氏政はここで退場です。

氏政の側でおろおろしている板部岡江雪斎、私は本当に好きです。演じる山西惇さん、本当にいい味出してます。

クククッ

クククッ

この先、名コンビとなるんでしょうか……

また来た、迷コンビw

 


「武田さえ滅んでいなければ、こんな苦労はしなかった……」

上杉家には、昌幸が北条についたという報告が入ります。

激怒する景勝を前に、信尹は兄と弟は別の道を歩む、もう決別すると宣言。

信尹の立場を想像すると、いくら策でもおそろしくてたまりません。

相手がまだ話の通じる景勝だからよいのであって、森長可が相手ならばとっくに死んでいますね。

信繁はひぐらしの鳴く中、信達を呼び出します。ここで信尹もやって来て、もう一押し。北条につけば海津城は信達のものになる、上杉のもとでは城代どまりだとゆさぶりをかけます。

「武田さえ滅んでいなければ、こんな苦労はしなかった……」

そう苦しそうに語り始める信達。昌幸のように窮地だからこそ生き生きしているのがむしろ異常なのであって、大抵の家臣は信達のように苦しんでいるんですよね。

本作では二話目で滅んでしまった武田家、その滅亡の残響が何とも苦しいのです。

本作の英雄二代目は、皆苦しみ悲しんでいます(昌幸は除く)。

昌幸は調略成功を知ると、佐助を使ってさらに何か企みます。

昌幸らの企みを知らない信達。ついに氏直の花押入りの書状が届きました。

信尹はこのとき、信繁に「わしのようになりたいと申したな? これだけは言っておく、わしのようにはなるな」と言います。

彼もまた汚れ役として辛い思いをしているのでしょう。ここで場面が転換。

 

北条は撤退、上杉も新発田征伐のため越後へ

川中島では北条と上杉が対峙します。

室賀正武が連れてきた現地の猟師によると、上杉は大軍とのこと。

ん、この猟師おかしいな、と思っていたらその正体は何と佐助。つまり上杉は大軍ではないということでしょう。

上杉勢の前には磔柱が立てられています。

腹部を刺され、死んでいるのは春日信達!

この腹部を刺されたものの、切腹には見えない傷口が不審です。企みを悟られた、このまま攻めるしかないと昌幸は激怒する氏直に進言します。

出浦昌相も昌幸に賛同しますが、氏直は顔をひきつられます。

徳川が甲斐に入った、このまま徳川に攻められたらどうする、と言い出す氏直。

昌幸の献策は却下され、北条は撤退することに。昌幸は殿をつとめて少しは役に立て、と氏直から言われてしまいます。

室賀正武は昌幸の度重なる失態に嬉しそうです。

ほくそ笑んでおりますが……

ほくそ笑んでおりますが……

皆が去ったあと、昌幸と出浦はうまく行ったなと言い合います。北条は撤退、上杉も新発田征伐のため撤退します。

えらいことになったのは甲斐の徳川です。上杉ではなく徳川に向かうことになった北条と敵対することに。家康、またも焦ります。

ここで信繁が映り、時間軸が過去へと戻ります。

 


あるべき姿の直江兼続がようやく登場

氏直からの証文をもらった信達は、これで父上も喜んでいるだろうとしみじみと語ります。

そこへ迫る信尹の凶刃!

なすすべもなく腹を貫かれ、信達は斃れます。

信尹は信達の死体に刀を握らせ、相手が斬りかかってきた正当防衛を主張できるように小細工。

さらに景勝に、信達が裏切ろうとしたので未然に殺したと嘘の報告をします。このとき、景勝の横にいる直江兼続は胡乱な目を信尹に投げかけています。

迷作『天地人』から七年、やっとあるべき直江兼続像が上書きされました。めでたいことです。

確かに冷酷感が漂ってますよね…

確かに冷酷感が漂ってますよね…

◆「天地人」とは一味違う「真田丸」の直江兼続 クールさ前面に(→link

演じる村上新悟さんは本当にいい声、いい演技です。イケボ(イケメンボイス)と呼ばれるのも納得。

かくして春日信達は、川中島にあった磔死体となったのでした(史実だと妻と幼い娘つきでさらにエグい)。

信尹は信繁を先に逃がします。

信達の死体に手を合わせる信繁の前に、景勝が現れます。

武田の者だからとないがしろにするつもりはなかった、むしろ信じていたのに残念だ、人の心はわからないと語る景勝。

信達はこの誠実な景勝を信じ切れなかった。そしてこの破滅を招いてしまった……一番悪いのは真田なのですが。なんとも後味の悪い、やりきれない結末です。

この悲劇の片棒を担いでしまった信繁は、父と叔父の考えと策に戦慄します。私も恐ろしいです……ひっ。

 

なんだかんだで北条も上杉も信濃から撤退!

弟からこの話を聞いた信幸も困惑。

信繁は、昌幸の狙いは信濃の空白化ではないかと分析します。

ひとっ風呂浴びてきた昌幸は、酒瓶と酒器を持って「久々にパパと団らんしよっか〜」と息子の前に座ります。

見た目は風呂上がりにビールを飲む気のいいおっさんなのに、こんなに腹黒いなんて怖いよ! このほのぼの感が辛いよ!

こんな話聞いたあとで一家団らんとか知らねーよという顔をした息子二人も見ていてしんどい。

これはあれだ、懐かしの「暗殺の後の茶もまた格別」by『信長の野望 天翔記』みたいな世界じゃないですか。

もう二度と親子団らんを微笑ましい気持ちだけでは見られません。

こいつ、本当に大河史上最低の父親だと思いますよ(真顔で)。この番組、宣伝で「家族で乗り越える!」とか言っているんだよなあ。だがそれがいい!

霜月けい真田丸<a href=真田信幸" width="370" height="320" />

それにしても、今回の計略は実に綱渡りで、しかもそこに昌幸は信繁を投入しているんですよ。

信繁のまっすぐな純情すら計略に使えると睨んだのか。

信幸も第三話で計略に巻き込みましたが、今度は輪を掛けてひどいわけです。露見して上杉に誅殺する可能性もあったわけです。昌幸は本当にひどいことをしています。

春日信達だけではなく、信繁をも危険にさらしたのです。げ、外道……!

昌幸はリラックスした様子で己の狙いを語ります。

北条が徳川を攻め、上杉が撤退すれば信濃は空白化する。昌幸は地図を広げそう語ります。

信幸は昌幸に大名になりたいのかと問います。昌幸はそうなりたいがなあとぼやき、俺は信濃の国衆で治めたい、我等だけの国を作ると言います。

そもそも武田領なんだから、武田家臣が治めて何が悪い、とも。同じ武田家臣の春日信達を謀殺しておいてそれを言うか!

それにしても、こういうのが一番の危険思想なんだよなあ。ホラ、今でも「国家の思惑なんて知るか!」とがんばる小さな勢力が厄介じゃないですか。しかもなんか雄壮ないいBGM流しやがって!

今週のラストは徳川家康

北条を迎え撃つべく甲冑を着ながら、今回の動きは真田の策ではないかと疑う家康。

家康は本作最大の宿敵のはずですが、なんだか悪の真田軍団を倒すべく立ち上がる正義の味方に見えてきてしまいました。

正義の味方・家康が、悪の化身・腹黒昌幸を九度山に封印する物語、うん、違和感仕事しない。ラスボスなのに癒やし系?

徳川主人公ものより輝いているような気がするんですけれども。

「きつい! きつい!」と言う家康の横に「調略 完」と出るのがこれまたニクい演出です。確かに今週はきつかった!

そういえば、このあと信繁は上杉家に人質として出されるのですが、この状況でそれはものすごくきついと思います。

見ていて胃が痛くなりそうです。

来週も活躍期待かもしれません

来週も活躍期待かもしれません

 


今週のMVP:真田信尹・春日信達(聖人枠兼任)

「わしのようになりたいと申したな? これだけは言っておく、わしのようにはなるな」

この一言が強烈でした。

あの短い台詞で彼の中にある葛藤を語り尽くした感があります。

次点は春日信達。短い出番なのに彼の死が惜しまれて苦しくてなりませんでした。

先週の滝川一益も辛かったけど、今週はずっと辛い……。

 

総評

こんなニュースがあります。

◆酷評どこ吹く風…好調「真田丸」は三谷幸喜の“作戦勝ち”(→link

「余りにもチャラチャラした演出でがっかりだ」

「ドラマの脚本や演出にコミカルな場面が多すぎて、史実との整合性の真偽、臨場感、長く続いてきた大河ドラマとしての重みや深みがイマイチ伝わってこない」

「動き、表情のどれも軽々しく戦国時代とはミスマッチだ」

といった意見に対して、

「どうじゃ、おまえらが軽い、緊張感がない、ギャグが多いと文句ばかりだから、ガチ本気脚本演出で調略してみたぞ!」

と本気で答えちゃった回が今週だと思います。

まず結論から言いますと、私の中では脚本ベスト回。こういうのが見たかった、とガッツポーズです。

脚本がともかくキレッキレで、それに答える役者のキレッキレでした。もうハマリ役しかいない感。

見ている最中は胃のあたりが重たくなり、磔にされた信達が出てきたあたりはちょっと吐き気すら催したのですが、そのくらいやってこその戦国だと思いました。

今週、昌幸と信尹のやり方に戸惑い引いていた信繁は、視聴者の姿でもあるでしょう。

もう素直に、面白いとはしゃぐことはできない。

主人公一族の手は血まみれであると、今週の外道展開はまざまざと示したわけです。

史実では、春日信達の誅殺にあそこまで真田が絡んでいるわけではありません。

改変してむしろ真田側を黒くするなんて思い切ったことをするものです。この勇気と思い切りに感服しました。

今週は、春日信達の悲劇的な運命を中心としたメインプロットも見応えがありました。

それだけではなく、北条、上杉、そして徳川の鼎立状態で争い始めた「武田遺領争奪ゲーム」そのものもとても面白い。

『信長の野望』のマップが本当に生きています。敵が二カ所いるからこそ集中できず、あちこちへと動き回る勢力図が実におもしろい。

そしてそこまで動き回るのも、真ん中の信濃で昌幸がいろいろ企てているからというのが利いています。

合戦場面が少ないと言われる本作ですが、おっさん同士が腹を探り合う謀略戦だって面白いと魅せてくれます。

昌幸が酷すぎて視聴率が下がりそうですが、この路線を黒く貫いて欲しいものです。

そしてこんなニュースが。

◆哀川翔「真田丸」で13年ぶり大河!信繁の盟友・後藤又兵衛役(→link

どんどん話題性のあるキャストが追加できるのはよいことです。

ちょっと想像できない配役ですが、今から楽しみですね!

 


おまけ考察「本作の視聴率が低迷するとしたら原因は何か?」

あくまでおまけですので、興味のある方のみおつきあいください。ちなみにこのニュースを意識しています。

◆「真田丸」の視聴率が迷走している9つの理由(→link

  1. BS視聴への流出があるから
  2. 女キャラがバカで見ていて不快だから
  3. 真田昌幸がド外道だから
  4. 信繁がなかなか活躍しないから
  5. 三谷作品は好みが分かれるし、アンチが多いから
  6. 先が読めず不穏だから
    だがそれがいいと思う人もいるとは思うんですが、自分が知っているところだけ見たいという層もあるんです。今年なら天正壬午の乱より本能寺、山崎の戦い、清洲会議を描け!と
  7. 結局負けるから
    それを言うなら織田信長も最期は燃え尽きるんですよ、豊臣秀吉だって息子の代で滅びるんですよ、と思うんですが、そういう人はいるんです
  8. 「俺の知っている戦国とは違う」現象
    今年は考証担当者の方曰く「最新学説を豊富に取り入れる」方針です。ところがこれをやると「俺の知っている戦国とは違う」とムッとする人がいるそうです。「これが正しいんですよ」と指摘すると「俺の夢を壊すなぁ!」と怒られるとか云々。本作と黒澤明作品を比較して駄目出しする人もいるそうですが、比較自体どうかというのはさておき、『七人の侍』なんかは、最新の学説ではまったく通用しないプロットですし(刀狩り以前設定ならば農民は武装しています)。高年齢層に受けないのも、この要素が大きいと思います。「俺が好きなんだ、史実なんてどうでもいいから真田十勇士を出せ!」もこの層とみた
  9. 道徳的に得るものがないから

戦国武将から学べるビジネスだの生き方だの、水素水が健康にいいと言うくらい怪しいと思っているんですけれども。戦国ものはエンタメとして面白ければ正義、別に道徳的に得るものがまるでなくてもいいと思うんですよね。

教育要素を期待するにしても、歴史を学べるということで十分だと思います。

ところがどうも、世の中には大河は道徳的ではないと、という層がいるらしいんですな……高年齢層に受けないのも、この要素が大きいと思います。

それにしてもSNSでは絶好調ですから、厳しい意見が多いというのはちょっと信じられないくらいです。この状況はおかしいぞ、と思った方は各自NHKまでメール(→link)でも。

 

ではここでツッコミ「本作の女はなぜバカな行動を繰り返すのか?」

◆真田丸登場の女性が愛される理由とは? とり・薫の魅力(→link

いや……流石にそれはなかろう。というのはさておき。

まず指摘せねばならないのは、本作の女が全員バカではないということ。

とりはむしろ超人レベル、阿茶局は聡明、梅も自分が言うべきこと、すべきことをわきまえた性格です。

このことを考えると、三谷さんが女性を描けないから駄目なんだということではない、ということです。

これについては、実は「本作の真田の男がバカだから」ではないかと思います。

男がやらかしてしまっているミスのめくらましに、女が目立つバカなふるまいをしているのではないか、と。

新府から岩櫃までの移動(一話・二話):ここでは薫と松の行動が悪目立ちしていました。

しかし、実は信幸の判断がかなり甘いのです。

義理堅さゆえに勝頼がつけると言った護衛を断っていますし、あまり判断力に信頼のできない松に斥候を任せ、小山田八左衛門の罠も見破ることができませんでした。

信繁が「姉上は敵がいないって言ったじゃないですか〜」なんて言っていますが、それならば自分で確認するか、せめて家臣を使えと。

安土から真田の郷までの移動(五話、六話):松が鬱陶しい場面でしたが、実は松の夫である小山田茂誠も役に立っていません。それどころか足手まといになる他の人質を連れて行くという松の判断をたしなめなかったばかりか、信繁にと念押ししています。

松が琵琶湖に転落する際も、信繁や佐助らは結局彼女を救えていません。

人質奪回作戦(七話):これはもう身も蓋もない話ですが、そもそも昌幸が火事場泥棒で城をかすめ取るような真似をしなければ、あんなに話がこじれていません。

また、きりが「私の忘れ物がどうこう言うけど、そもそもあんたらじゃ救出なんて無理でしょ」と言うのも一理あります。

捕まったら人質として利用される信繁を奪還作戦に派遣した昌幸の判断からして、根本的に間違っているのです。

つまり正しくは「本作の真田の男はなぜバカな行動を繰り返すのか?」ではないかと思います。

信幸と信繁は、演じる役者のせいでわかりにくいのですが、劇中まだ高校生くらい、「小童」です。

判断が甘いのは仕方ないでしょう。梅や阿茶局といった真田家以外の女が比較的まともなのも、偶然ではありません。

 

真田の女たちを分析してみます

ではここで、真田の残念な女たちはどういう役割なのか分析したいと思います。

松の場合「夫を守る盾」

演じる人の愛嬌と脚本で誤魔化されていますが、実は作中屈指の駄目人間認定をされても仕方ないのが松の夫・小山田茂誠です。

彼はとりと信幸が指摘している通り主君を裏切りながらぬけぬけと腹も切らずにいる時点で、かなり駄目な男です。

さらに逃げろと言われても真田の郷にしばらくとどまるのですから、「戦国ではなく現代の倫理観で動く」という非難は彼にもぶつけられるべきだと思います。

安土からの脱出ではさして活躍もしていません。

そんな彼を演じるのは、声優としては人気が高くとも、演者としてはこれが初出演になる高木渉さんです。

そんな彼に「あんな役は死んでしまってもいいよ」という、今松に向けられているような憎しみやバッシングがぶつけられたら、彼のキャリアはスタートの時点であやうくなりかねません。

松と松を演じる木村佳乃さんが弾よけになって、茂誠と高木さんへの非難をかわしているのではないかと思うのです。

薫「策士の恋女房」

薫は大河の主人公母としては珍しいほど駄目な女性に思えます。

批判も理不尽なまでにされており、娘の死に嘆いたら嘆いたで「戦国の女らしくめそめそするな」と言われ、立ち直って食事を取る場面があれば「娘が死んだあとなのに飯が喉を通るとは薄情な母親め」と罵られる始末。

「いくさは嫌いです」とポロリとつぶやけば、これもまた叩かれてしまいます。

観念的な「いくさはいやでございます!」ではなく、薫の場合は実際に嫌な目に遭っているわけですし、出身を考慮しても自然な台詞だと個人的には思うのですが。

もはや彼女は、出てくるだけでサンドバッグにされています。

そんな彼女ですが、視聴者と姑は厳しくとも、夫は実に甘いのです。

謀略を駆使し、敵は容赦なく罠に掛ける彼女の夫・昌幸ですが、妻を強くたしなめることもなければ、「おなごは黙っていろ」と容赦なく言葉を封じるようなことをしていません。

贅沢だ、浮き世離れしていると批判される薫の衣類や京風趣味の扇子ですが、ああしたものを彼女が楽しめるのも、昌幸が許可しているからでしょう。

なぜ昌幸は妻に甘いのか?

二人の馴れ初めは描かれておりませんが、昌幸側にはおそらく恋愛感情があった、政略結婚ではなかったのではないか、と思わせる要素はちらほらとちりばめられています。

私は昌幸が武田信玄正室の侍女としてついてきた薫を見初めたのでは、と推測しております。

信州の山奥で育った毛皮を愛用する昌幸が、京都から着た世間知らずの娘に惚れ込んだ。

そんなかわいい恋女房だから、どうしても甘くなってしまうわけです。二話で薫が夫に助けられた場面で、彼女は夫に「こわかったぁ〜〜〜」と小娘のような声をあげて抱きつきました。昌幸もまんざらでもない様子。

この場面を見た時、実はこの夫婦まだまだラブラブなんだな、と思いました。

薫は謀略野郎である夫の昌幸に、やわらかな人間味を与えているキャラクターなのです。

きり「本質まで切り込むゆえに嫌われるアンチヒロイン」

嫌われ者のヒロインの中で、最も憎まれているのがこのきりでしょう。

ヤンキー、現代人感覚、ツンデレ、ウザかわいい、ともかくバッシングが集中しています。

◆「真田丸」長澤まさみのウザすぎるキャラに視聴者が「来週から観ない」宣言(→link

ではなぜきりは「ウザい」のか。

実は口調や戦国らしからぬ価値観以上に、別の理由があるのではないかと思うのです。

確かに彼女が主筋の人間に態度が悪いという、かなり深刻な欠点を抱えています。真田の家に嫁がせたい父親が娘の言動を知ったら嘆き激怒することでしょう。

きりを何故こんなキャラにするのか。美人で真田重臣の娘なのですから、暴れ馬をなだめるなりやんちゃ坊主を助けるなり、あざとい個性アピールをしてとっとと信繁とくっつけば、批判なんてさして出ないんですよ。

きりは、ツッコミが鋭すぎるのです。

本質をズバッと突いてぐりぐりと抉るからこそ、痛いところを突かれて視聴者は腹が立ってしまうのです。

いい子ぶりっこだから、頭が鈍いから、そういった理由とは違います。

むしろ頭はキレキレではないか、不自然過ぎるほど鋭いのではないか、と思わせる部分があります。恋愛面では信繁、梅、そして自分という三角関係の中で、信繁と梅が相思相愛であることを見抜いています。

さらに信繁の自信過剰な態度を射貫くような言動をし(六話)、七話では人質奪還作戦そのものが最初から失敗するはずだと言い切っています。

前述の通り、六話と七話では信繁が作戦に失敗しています。さらに七話では人質奪回作戦を立案した昌幸が悪い。

視聴者がそれに気づいて疑問を感じる前に、きりがしたり顔でそれに突っ込むものだから、きりへの反感によって疑問が覆い隠されてしまうのです。

そしてなぜ、この二話で信繁と昌幸が愚かなことをやらかしているかと言いますと、作劇上の都合です。

信繁のはっきりした動きが史料に出てくるまでは、まだ時間がかかります。信繁はこのころ元服すらしておらず子ども扱いされているのです。

かといって主人公成人までドラマの開始時点を遅らせると、武田滅亡から本能寺の変を経た信濃の混乱期が描けなくなってしまいます。

まだ幼いはずの主人公を成人に演じさせ、歴史上のイベントにからませるのは大河作劇上の必要悪といえるのです。

そしてそんな必要悪でも、伝説の信長スタンドつき伊賀越えをやらかした『江』より、本作ははるかにまっとうであることは比べるまでもありません。

が、やはりどうしても、信繁が成人するまでのは無理のある展開が続くことでしょう。

その無理から目をそらせるために、きりは鋭すぎて作品の本質まで抉るツッコミをしているのではないか、と思うわけです。

実はきりそのものが、囮として機能している。そんな特殊なヒロインなのではないでしょうか。

きりがイラッとしたら、こいつのこのムカつく台詞の真意は何なのか?を考えて見ると落ち着けるかもしれません(保証はしませんが)。

 

今後の展望:サンドバッグからネゴシエイターへ?

ここまで読んで、ヒロインを盾にして男の駄目さ加減を誤魔化すなんてずるいと感じた方もいるかと思います。

これは本作に始まったことではありません。

かの名作『独眼竜政宗』では、小田原参陣前に母親が政宗に一服盛ったためとんでもないトラブルが発生します。

ドラマ制作時は史実とされていましたが、現在ではこの事件は捏造の可能性が高いと言われています。

ではなぜ史実として流布していたかと言いますと、江戸期以降伊達家の記録でそう書かれていたからです。

実際になかったことを、考えの浅い女のせいでそうなったのだと捏造し、政宗をかばったのだと見ることができるでしょう。

こうした現象は古今東西あります。

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より大きな責任を回避させるため、その近くにいた女がつるし上げられるのはありがちなことです。

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本作でも、そうしたつるし上げられヒロインの定番とも言える淀が出てきます。

彼女をどう扱うのか?

信繁や秀頼のミスをかばうために悪女設定されるのか、それともひねってくるのか?

そこまで見てからでないと、本作におけるヒロインの扱いは判断できないでしょう。

また本作の女性登場人物で、真田がらみ以外で最も早くキャスティングが決定していたのが阿茶局と大蔵卿局であることも、実はポイントではないかと思っております。

この二人は交渉役として活躍した人物です。物語に彩りや癒やしを添える花としての役割ではなく、実務を行うキャラクターです。後半では、女性が実務的に活躍する可能性もあるのではないかと思います。

もうちょっとトーンダウンして欲しい女性陣の暴走ですが、終盤は「あんなにキャアキャアしていた女たちがこんなおとなしくなって……」としんみりするかもしれません。


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武田勝頼は最初から詰んでいた?不遇な状況で武田家を継いだ生涯37年

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武者震之助・文
霜月けい・絵

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真田丸感想

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