スコッチウイスキーの歴史

イギリス

“田舎者の密造酒”がイギリスの名産品に成り上がる~スコッチウイスキーの歴史

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ブレンデッドで癖のある味をスッキリと

スコットランドのウイスキー製造業者は沸き立ちました。

スミスの後に続けと、多くの製造者がブランドを確立してゆきます。

19世紀後半には、ブドウネアブラムシの害によってフランスのブランデーが壊滅的な打撃を受け、ますますウイスキーの需要は高まりました。

とはいえ、スコットランドの人々にとっては慣れ親しんだ味も、イングランド人にとっては癖の強いものでした。

「なんだか煙臭いな」

「野暮ったいというか、田舎くさいというか……」

マッサン』では主人公が「日本人はウイスキーの味を理解できんのじゃ!」と嘆いていましたが、実はイングランド人もそうでした。

スコットランドの人々はアイデアに富んでいて、柔軟性があります。

癖を抑え、飲みやすい味にできないか。

と、そこで注目を集めたのが、グレーン・ウイスキーです。

19世紀前半には連続式蒸留器が開発されておりまして。

この蒸留器は、グレーン・ウイスキー作りに適しているのです。

大麦から作るモルト・ウイスキーに対して、トウモロコシや小麦から作られたグレーン・ウイスキーは、さっぱりとしていて癖のない味わいが特徴。

モルトとグレーンを混ぜたらば、癖が弱くなり飲みやすくなるのではないだろうか、と考えられたのです。

「いや、やっぱりスコッチウイスキーはモルトだろう! グレーンは邪道」

そんな論争も勃発しましたが、1909年に「モルトとグレーンを混ぜたブレンデッド・ウイスキーも、スコッチウイスキーと見なせる」と決着がつきました。

ブレンデッド・ウイスキーは癖がなく飲みやすく、大人気となりました。

主流となる一方、頑なにモルトのみを守り続けたのがアイリッシュとなります。

ウイスキーはスコットランド人が密造して飲んでいる酒というイメージは消え去り、イギリスを代表する酒となったのです。

日本から竹鶴政孝がスコットランドへ向かうのは、ウイスキー論争決着後の9年後、1918年のことでした。

 


琥珀色の一滴にスコットランドの歴史あり

ウイスキーという酒には、スコットランドの歴史が根付いています。

こうした成立過程だけではなく、ラベルやブランド名からもスコットランドの歴史が感じられます。

日本酒にも偉人の名前を冠したものが数多くありますが、スコッチウイスキーもそうです。

・クレイモア……スコットランド伝統の両手剣。18世紀から使用されたスコットランド人部隊のサーベル状の片手剣もこう呼ばれる

・クラン……クランマクレガー、クランキャベル等。クランとはスコットランド独特の制度「氏族」のこと

・ハイランドクィーン……スコットランド女王メアリー・ステュアートのこと。生前は政治手腕を欠いた女王として疎まれ、ついには祖国を追われたものの、死後は伝説化し現在は歴史観光の目玉に。ウイスキーのラベルには、馬にまたがった彼女の気高い姿が描かれています

・100パイパーズ……名誉革命で王位を追われたジェームズ二世のあとは、ウィリアム三世とメアリー二世がイングランド王となりました。しかしそれを不服とする人々はチャールズ・ステュアートこそ正統な王であると主張しました。彼らをジャコバイトと呼びます。ジャコバイトのスコットランド軍には、士気を高めるために100名のパグパイプを吹く軍楽隊がいました。彼らは撃たれても怯むことなくパグパイプを吹き鳴らしました。この100名のパグパイプ吹きが由来です

・アンティクアリー……スコットランドの文豪ウォルター・スオットの作品名にちなみます

このように歴史がぎゅっと詰まったウイスキー。

独特の香りや味も、酒税に抵抗した密造の歴史から生まれたものだったのです。

スコットランドの人々は、発明が得意で発想が豊かであるとされるようです。

逆転の発想で「これがウイスキーだ」と考えたスコットランドの人々の逞しさに思いを馳せつつ、ときにはストレートを味わってみるのも一興ではないでしょうか。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
土屋守『ブレンデッドウィスキー大全』(→amazon
北野充『アイルランド現代史』(→amazon

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