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【ジル・ド・レ】
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芸術的センスは歪んだ方面に発揮され
最初の殺人は、1432年から33年の春にかけてのことでした。
城に使いとして来た12歳の少年を手に掛けます。
その後もジルは、少年少女を殺し続けますが、主に対象となったのは少年で、犠牲者は性的な虐待まで加えられたのです。
やり口は変態そのもの。
犠牲者を着飾らせ、豪華な食事を与え、油断しきったところを愛撫し、そして殺す――。
彼の芸術的センスは歪んだ方面に発揮され、殺人をも絢爛に演出したのでした。
「城に出かけた子供たちが戻って来ないぞ……」
やがてティフォージュ城の近辺には恐ろしい噂が流れ始めました。
殺された子供たちの親は衝撃と失意に苛まされますが、しかし誰も領主のジルを疑いません。
高い地位にある誇り高き騎士。教養に溢れ芸術的センスに恵まれた超人。
しかも戦争で活躍した救国の英雄です。
まさか彼が破廉恥な所業を行っているということは、人々にとって信じられないことでした。
悪い噂は全て、ご領主様を妬んだ者による中傷だろう。
それが人々の出した結論だったのです。
黒魔術が行われた痕跡が次々と
1440年5月15日、ジルは決定的なミスを犯しました。
城の所有権をめぐって僧侶と争いになり、相手を誘拐した挙げ句、幽閉したのです。
あまりに乱暴な行動に世間も黙ってはいられません。ナント司教はジルの素行調査に乗り出しました。
城を調査した結果、衝撃の事実が明らかになりました。
城からは、
・着衣のない50名もの幼い少年の遺体
・黒魔術が行われた痕跡
・悪魔崇拝
・男色
・異端
・背教
・涜神の証拠
が発見されました。
それだけではありません。
さらに80人から200人もの少年が、拷問殺人の犠牲になり、手足と頭部を切断されていたことも発覚。
しかも、気に入った首を選ぶため、側近に並べさせていた事実も明らかになりました。
狂気というほかありません。
法廷に引き出されたジルは、救国の英雄として堂々たる態度を見せ、裁判官を罵ったかと思うと、次の瞬間には自分は敬虔なキリスト教徒だと訴え、泣き崩れるという、まるで違う態度を見せました。
一貫していたのは「性的快楽のため少年たちを嬲り殺しにしていた」という狂った主張だけです。
戦争で荒廃した世界に暮らす当時の人々にとって、血腥い話は確かに身の回りに溢れてはおりました。
が、それでもジルの告白は暴力的過ぎて衝撃が強く、聞く者は顔を背け、顔面からは血の気が失せるほかありません。
一部の証言はあまりの残虐さのため、裁判記録から削除されたほどです。
そして同年10月26日、ジルは貴族にとっては不名誉な絞首刑に処されました。
救国の英雄が何故こんなことになってしまったのか。
人々はそう嘆きました。
生まれつき残酷な面があったのか。幼い頃、祖父に性格を歪められたせいか。戦場で血と暴力を経験してしまったせいか。ジャンヌ・ダルクの処刑に絶望したのか。
それはおぞましくも悲しい、英雄の失墜でした。
ジャンヌ・ダルクの死は理由になるのか
救国の英雄から一転し、鬼畜変態貴族・西の横綱級にまで墜ちたジル・ド・レ。
まるで堕天使のようなその生き様は、人々に衝撃とインスピレーションを与えます。
花嫁をたて続けに殺していたという童話「青髭」のモデルともされ、『悪徳の栄え』の作者であるマルキ・ド・サドはジルにあこがれていたと言われます。
そしてジルは、百年戦争を舞台としたフィクションには必ずといっていいほど登場します。
最近では漫画『ドリフターズ』や、ゲーム『Fate』シリーズにも出ておりましたね。
こうしたフィクションでは、ジルが堕落した理由についても描かれることがあり、ジャンヌ・ダルクの死にショックを受けたという説が多いようです。
ジャンヌからすれば「人のせいにしないでよ!」と強固に主張したいのではないでしょうか。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
『ダークヒストリー2 図説ヨーロッパ王室史』(→amazon)