時透無一郎(鬼滅の刃・霞柱)

『鬼滅の刃』12巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『鬼滅の刃』時透無一郎が古典的で新しい理由~儚い美形剣士に与えられた役割

2020年秋に行われた『鬼滅の刃』人気投票は、色々と驚きの結果がありました。

1位 我妻善逸
2位 冨岡義勇
3位 時透無一郎
4位 竈門炭治郎
5位 胡蝶しのぶ
6位 嘴平伊之助
7位 煉獄杏寿郎
8位 伊黒小芭内
9位 不死川実弥
10位 栗花落カナヲ
11位 竈門禰豆子
12位 甘露寺蜜璃
13位 宇髄天元

一位・我妻善逸と二位・冨岡義勇が意外ならば、主役が四位というのも驚き。

※以下は我妻善逸と冨岡義勇の考察記事となります

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そして目を落としがちなのが三位に霞柱・時透無一郎(ときとうむいちろう)がランクインしたことです。

アニメではまだ顔見せ程度の時期に、この順位はどういうことか?

実は彼のキャラクター性には、日本人が昔から大好きだった古典的な特徴が数多く備えられています。

時透無一郎に魅力を感じるのは、日本に生まれた者なら、ある意味当たり前と言ってもいい。

古き魅力がギッシリ詰まりながら、それでいて新鮮――そして実は8月8日が劇中での誕生日設定となる、時透無一郎を分析してみましょう。

『鬼滅の刃』12巻/amazonより引用

 


儚げで強い美少年にうっとり

まるで少女のよう。色白で儚げで美しく、それでいて天才的な強さを誇る――。

ベタな設定と言いたくなる人物像に、日本人は昔から憧れていました。

代表例が源義経です。

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実際には、色白ながら出っ歯で小柄、特徴的な見た目だったんでしょ。

と、そんなツッコミも確かにありますが……義経のあとにも、歴史の表舞台には儚げな美少年が登場し、人々の心を掴んできました。

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彼らが日本の老若男女を夢中にさせてきたのです。

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儚げな美少年――その条件はこんなところでしょうか。

・史実はさておき、設定上は美形

・中性的でほっそりとしていて小柄

・集団内で弟ポジションあるいは年齢的に若い部類に入る

・弟だけに頼りなく、無邪気なところがある

・天才――体重差も無視して、大男でも軽やかに倒す

・儚げで短命である

・マッチョな武器は見たくない。鈍器でガンガン殴る美少年に需要はありません!

刀を握って二ヶ月で柱まで昇格、最年少の柱にして天才剣士・時透無一郎。

彼はまさしく、そんな儚げな美少年剣士像と一致します。

他の柱が復讐などの自発的な理由で鬼殺隊に加入した中で、彼はわざわざ当主から望まれ、産屋敷あまねが何度も頼み込んで加入したほどです。まさしく天才貴公子ですね。

現在の『鬼滅の刃』ファンが無一郎にウットリするように、読者の祖父母もかつては美少年天才剣士にため息をついていたのでしょう。

なんとなく『るろうに剣心』の瀬田宗次郎を思い出したのならば、宗次郎もフィクションにおける沖田総司がモデルなので当然のことです。

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いわば伝統回帰ですね。

 


マッチョが王道だった時代も

しかし、そんな伝統も下火になった時代がありました。

ハリウッド映画ではシュワルツネッガーやスタローンが流行し、マッチョでムキムキしたヒーローが王道となった1980年代です。

当時人気のあった人気マンガの主人公を思い出してみますと……。

『北斗の拳』
『キン肉マン』
『ドラゴンボール』
『魁‼︎男塾』

主人公はじめ主要キャラのほとんどがマッチョですよね。

連載期間が長い『ジョジョの奇妙な冒険』の場合、1部から3部がマッチョ時代に該当。

4部からだんだんと細くなり、5部ではルネサンス彫刻のような体つきになります。

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かようなマッチョ志向が終焉を迎え、細身のヒーローが出てきた時代――『るろうに剣心』のような作品は「邪道!」「女子に媚びた!」なんて非難もありましたが、時代の要請に応じた結果に過ぎないのでしょう。

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2010年代になればむしろマッチョ系は噛ませ犬となり、そのせいで『鬼滅の刃』では岩柱までも「すぐやられるキャラだと思った」と言われるほどでした。

 


高貴なる血統

無一郎には、他の柱とは異なる特徴があります。

前述の通り、血筋ゆえに加入を望まれている点です。

美少年が、伝説の血を引いている――そこまで話を盛らんでも……と思いたくなるかもしれませんが、これもベタで伝統的な設定です。

例えば源義経。

牛若丸として登場した当初、周囲は彼の父の血統はわかりません。

それが衣川を目指すにあたり、源義朝の子であると判明し、物語はぐいぐいとヒートアップします。

 

高貴な血を引くものの、故あってひっそりと生きる者。物語としては人気の定番設定です。

【貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)】という言葉もあるほどです(→wikipedia)。

無一郎はその一種で、だからこそあまねが自宅までやってくる。昔のロールプレイングゲームも好きな導入部とでも申しましょうか。

「おお そなたは勇者の血を引いておる!」

そんな始まり方ですね。

現在では死語になりつつある言葉に【ご落胤(ごらくいん)】というものがあります。【落とし胤(だね)】とか【落とし子】とも。

諸事情があって、父親を明確にできないものの、実は高貴な血を引いているという設定です。

歴史上、この【ご落胤】説がある人物は、だいたいが後付けのものです。それが事実であった徳川秀忠の子・保科正之のような例もありますが、ごく稀な例です。

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現代風に身も蓋もない言い方をしてしまえば“隠し子”ですね。

このご落胤神話は、時代が下るにつれて薄れてゆきました。

特に明治維新以降は、キリスト教文明圏である西欧列強の影響もあり、むしろマイナスイメージが定着。キリスト教では、私生児は恥ずべきものとされ、むしろ差別対象とされてきたのです。

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それでも、大多数の日本人にとって【ご落胤】は魅力的なものです。

江戸時代以前が舞台であれば、むしろアリ。

「な、なんだってぇ! あいつ、将軍様のご落胤だっていうのか……」なんて設定は、かつての娯楽時代劇には定番だったものです。

そんな中でも無一郎に近いものをあげてみましょう。

天才美剣士にして徳川吉宗のご落胤・葵新吾を主人公とした『新吾十番勝負』シリーズです。

原作は、1957年(昭和32年)から1959年(昭和34年)にかけて朝日新聞に連載された、川口松太郎の小説でした。

出生の秘密も知らず、山中で暮らす美少年剣士。それが真剣勝負を重ね、愛に悶え苦しみ、道を見出してゆく――。

なんだ、無一郎か。と、なりそうですが違います。

これがご落胤の定番設定で、その時代を代表する美男俳優が繰り返し演じてきた典型例なのです。

今時のお子様も、その親世代も、祖父母世代も、もっと昔まで。ずっとずっと愛され続けた、出生の秘密がある美少年天才剣士。

そんな伝統的な像ですから、無一郎の人気は当たり前とも言えるのですが……。

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