ドドドドド………ゴゴゴゴゴ………ドギャアアアアン!
と言えば?
はい、『ジョジョの奇妙な冒険』ですが、実は本作って【歴史漫画】であり、その視点から考察してみよう――なんて言ったら笑われるでしょうか?
ジョジョの起点はヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台にしており、大いにその要素はあります。
歴史の絡んだ作品は、背景を考察するとさらに漫画が面白くなる。
今回はそんな視点から、ジョジョの奇妙な冒険の歴史的背景を探って参りましょう。
第1部:ファントムブラッド

ジョジョの奇妙な冒険第1部Kindleカラー版(→amazon)
◆石仮面と鮮血の儀式
この大人気シリーズは、まず石仮面からスタートを切ります。
「族長(オサ)!族長(オサ)!」
とまぁ、こんな絶叫から始まるわけですが、南米大陸にこんな「血は生命なり!」なんて言い切るようなとんでもない儀式があったの?
そう言いたくなるかもしれません。
実は、劇中で説明されるような人身御供儀式の痕跡はあります。
ただ、資料破損のため、その目的が現在でもわからないところ多く、現代では想像力を刺激されるわけです。
ゆえに作者が「石仮面だーッ! 柱の男ォーっ!」と脚色してもそれはアリアリアリアリアリーデヴェルチなのです。
知識と丹念な取材、そして奇想が生み出した設定と言えましょう。
◆考古学ブーム
アステカ文明の骨董品が、イギリス貴族であるジョースター家にあったという点に注目します。
ナポレオン戦争時のロゼッタストーン発見あたりから、イギリスはじめヨーロッパ諸国は古代文明の発掘、考古学への熱気が高まってゆきました。
交通網が発達し、世界旅行のハードルが下がった。そんな背景があったのです。
こうして数々の素晴らしい発見が報告されるわけですが、同時に様々な問題も残しました。
当時、まだ発達していなかった発掘技術や偏った思想ゆえに「破損する」という痛ましい損失に見舞われたのです。
しかも、ヨーロッパ側からすれば発見であっても、やられた国からすれば泥棒まがいでもあり、大英博物館所蔵品の中には、返還要求されているものも含まれます。
石仮面も、メキシコから返還要求があっても不思議ではありません。
こうした考古学ブームは「ツタンカーメンの呪い」のようなオカルトネタとしても格好の題材でした。

ツタンカーメン黄金のマスク/wikipediaより引用
ディオが変貌する吸血鬼でおなじみの『ドラキュラ』も、フィクションとして進展してゆくのはこの時代のことです。
この作品は、そうした古典的な要素と日本の少年漫画を結びつけた、極めて斬新なものであるのです。
◆階級社会
ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーを比較するうえで、大切なことはその階級差です。
ヴィクトリア朝が終わり、第一次大戦を迎えると、イギリスでも階級社会に大変動が生じます。
本作の時代設定はその前夜。
貴族に野心をたぎらせ立身出世を狙うディオは、時代の申し子とも言えます。
◆切り裂きジャック
ヴィクトリア朝ロンドンならば、切り裂きジャックはある意味出しておきたいところ。
それをきっちりと出してくるところが、やはり素晴らしいのです。
本作には「ロマンホラー!深紅の秘伝説」という宣伝コピーもありましたが、舞台の時代設定をふまえるとピッタリだと言えます。
深紅の時代を思わせる世界観です。
◆ワンチェン
ロンドンには東洋人のワンチェンがおりました。
あやしげなスラム街は、ジョナサンにとっては未踏の場所。
そんな場所に東洋人がいて、阿片窟があるというのも、当時のロンドンが持つ裏の顔でした。
こうした場所には、かのシャーロック・ホームズも潜入したものであり、ホームズ愛読者である作者の知恵を背景とした設定です。

毒をジョースター卿に盛るディオと、それをとがめるジョナサンの攻防も、ミステリ小説のような雰囲気があります。
◆タルカスとブラフォード
ディオ配下でも印象深いのが、タルカスとブラフォードでしょう。
「死髪舞剣(ダンス・マカブヘアー)」やムキムキ筋肉が目立つビジュアルはさておきまして、時代背景設定がこれまたニクイのです。
スコットランドでも屈指の有名な人物であり、ウイスキーの銘柄やフィクションでも取り上げられるメアリ・スチュアートが彼らの主君です。
そんな女王を処刑したエリザベスに彼らは怒りをたぎらせてはおりますが、宗教改革やメアリの失政も絡みますので、エリザベスからすれば「なんでなのォー!」とツッコミたいところかもしれませんが。
ただ、これは作者の調査ミスでもありません。
悲劇の女王メアリに対して、ふてぶてしく狡猾な女王エリザベスという構図は、現在にまで続く定番設定です。
豊臣 秀頼と徳川 家康の関係のようなものをご想像ください。

豊臣 秀頼(左)と徳川 家康/wikipediaより引用
タルカスとブラフォードは、真田幸村と毛利勝永のようなものかもしれません。
この騎士たちは実在の人物ではありませんが。
第2部:戦闘潮流

ジョジョの奇妙な冒険第2部Kindleカラー版(→amazon)
◆覇権のゆくえ〜イギリスからアメリカへ
舞台は、ジョナサンの死から約50年後の1938年――。
祖父から孫という時間移動ですが、これは世界の覇権移動という点でも興味深いものがあります。
アメリカ独立戦争、ナポレオン戦争、第一次世界大戦を経て、世界の頂点に立つ国とは、イギリスからアメリカへと移ってゆきます。
広大な国土ッ! 人口ッ! 第一次世界大戦で被害がイギリスほどでなかったこと……覇権は移動してゆきます。
そんな時代、流行していたカップルがあります。
イギリス人貴族男性と、アメリカ人大富豪令嬢です。
名誉と血統があるものの、財政改革で財産が目減りしてゆくばかりのイギリス貴族。
財産はあっても、伝統と血統が不足しているアメリカ人の富豪。
フィクションでの典型例が、ドラマ『ダウントン・アビー』におけるグランサム伯クローリー家夫妻です。
史実では、ウィンストン・チャーチルがこうした夫妻の子にあたります。
イギリス史上2人目の女性議員であるナンシー・アスターも、アメリカ出身で子爵に嫁いだこうした典型例です。
舞台がイギリスからアメリカに移動することは、実は世界史的にも熱いんだぜーッ!
◆人種差別とスモーキー、そしてジョセフ
当時の時代背景として興味深いのが、黒人少年スモーキーの扱いです。
財布を盗んだと言いがかりをつけられ、警官に殴られそうになっているところをジョセフが救います。のちに、黒人市長となったと語られることによって、歴史の流れがわかる設定です。
ここでジョセフが助けるのは、彼自身の性格によるところが当然大きいとは言えます。
ただ、歴史的に見ると黒人奴隷廃止運動は、アメリカよりイギリスが先行していたことも確かなのです。
イギリスではウィルバーフォースらの活動が実り1833年であったのに対して、アメリカは南北戦争後の1865年まで待たねばなりません。
「イギリス人からすればアメリカの奴隷制度はおかしいぜーッ!」
という捉え方もできなくはないのです。
ジョセフ本人の正義感がもちろん第一でしょうし、1938年という時代背景を考えればそれが答えではあるのでしょう。
◆女性記者とリサリサ〜強い女たちの時代へ
連載された年代をふまえると、この作品は女性の描写にも興味深いものがありまして。
ストレイツォが人質にするかわいそうな女性記者が登場します。歯を抜かれてなかなか大変な目に遭う女性ではありますが、これも結構なパンチが効いております。
1938年当時、女性記者というだけでも彼女は大変挑戦的な性質であったとわかります。
そういう気の強さがあるだけに、助けたジョセフの暴言に怒りパンチを入れるのです。エリナはじめ、1部のしっとりとした女性キャラにはない強い何かが出てきます。
歴史的にみても、二度の世界大戦の間は女性の権利拡張が進んだ時代。歴史背景にマッチした描写です。
こういう脇役だけではなく、リサリサも興味深い人物です。
主人公であるジョセフに最終決戦はゆずるものの、夫の仇討ちのために敵を始末した女性というのは実に個性的です。
ジョジョは戦う女性も魅力的な作品ですが、その始点はまさしく彼女にあります。その戦闘潮流は引き継がれていく以上、6部が女性主人公であるのはむしろ当然のことでしょう。
◆イギリスとドイツの因縁
単純に敵とみなせない厄介な勢力として、ナチスドイツが登場します。
登場したてのところでは、ゲスで卑劣なオカルト実験を企む勢力として出てくるものの、無垢の存在でありながら殺害されるマルコ、そしてシュトロハイムがあれだけ活躍するからには、ナチスドイツを悪とみなせない難しさはあるのです。
これもなかなか興味深い。というのも、ジョースター家はイギリス。二度の世界大戦でドイツと戦ったイギリスにとって、彼らは宿敵なのです。
ジョセフの父は空軍パイロットですから、当然ドイツは敵視していたことでしょう。
そういう因縁を超えてでも、人類の敵と戦う――そんな姿こそが誇り高いということかもしれませんね。
◆ナチスとオカルト
それにしても、なぜナチスはこんなオカルトじみた「柱の男」を探しているのやら。
そうツッコミたくはなりませんか?
過剰な人種差別主義が、フィクションではオカルトと結び付けられやすいことは確かです。
「レーベンスボルン(生命の泉)」という施設を作り上げ、いかにして効率的にアーリア人の子を出産させるかまでつきつめていたのですから、史実的飛躍があっても無根拠というわけではありません。
本作連載は1987年。遡る1981年に『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』が公開されました。
この映画は、ユダヤの秘宝を得ようとするナチスを悪役として、主人公インディ・ジョーンズが戦うというものです。
ナチスとオカルトという結びつきは、そうした連載時の時代背景を考えれば納得できるものです。
それを少年漫画で展開するあたりに、荒木先生のセンスを感じるわけです。
当時の影響といえば、筋肉がムキムキのジョセフはじめとした男性の描写もそうですね。
アーノルド・シュワルツネッガーやシルベスタ・スタローンのような、筋肉質のハリウッドスターが当時のあこがれでした。
5部のジョルノならば女装しても見破られそうにありませんが、2部のジョセフは「おまえみたいにデカくて筋肉質の女がいるか! スカタン!」となってしまうわけですね。
◆サンモリッツ
「柱の男」と戦うジョセフたちは、スイスのサンモリッツに滞在します。
へ〜、スキーリゾートか〜。
そう流しそうになりますが、これも歴史背景を考えるとニクい、シブい!
人類は有史以来、ウインタースポーツを生活のために、そして娯楽のために楽しんできてはおりました。
ただし、目的としてはやはり移動が主。ノルディック式のもので移動することが中心です。
スイスのアルプス山脈のような急斜面を、ただ楽しみのためだけに滑り降りるなんて、そんな贅沢極まりないことは思いつくことすらなかったのです。
それが19世紀初頭ころから芽生え始め、20世紀になって「リゾート」として定着します。

スイスサンモリッツ湖
ジョセフが生きていた時代、スイスのサンモリッツとは、まさしく生まれつつあるスキーリゾートの場所でした。
現代の読者からするとピンとこないかもしれませんが、ジョセフが驚いていたコーラのように斬新なことであったことは確かなのです。
◆古代VS現代
ジョセフたち主人公側は、20世紀前半という当時最先端技術を用いて戦う。飛行機も重要な役割を果たす。そんな特徴のある第2部。
それに対して「柱の男」たちは、古代ローマ戦車戦のような古代の知恵を用いて戦いに挑んできます。
下等とみなす人の命を重んじることもない。ただ、誇りは重視する。そうした行動規範を持つ「柱の男」は、古代的な造型という見方もできます。
原始の人類は理想的であったわけではなく、むしろ生々しく荒削りな規範で生きてきました。
そんな敵へ立ち向かう主人公たちは、当時最先端の科学技術、そして悪しき差別や因習を断ち切ろうとする先見性を武器とするのです。
誇り高く柔軟性が欠ける敵に対して、ジョセフは明るく飄々としていて、ズルい手段も堂々と使います。
ギャグのようで、実はなかなか奥深い。
読み返すほどにそう思える、そんな斬新な作品なのです。
現代人からすればどちらも過去に生きている、主役と敵たち。けれども、ジョセフはじめ誇り高き戦士たちが、時代の最先端の技術と知性で生きてきたことも、重要だと思える作品です。
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第3部:スターダストクルセイダーズ

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◆先進国のゆくえ〜イギリスからアメリカ、そして日本
主人公がイギリス、アメリカ、そして日本へ――。
第2部のラストでは、ジョセフが娘を奪った日本への苦い感情を語りつつも、ソニーのウォークマンを愛好しております。
第3部の約50年後、1988年の日本から物語は始まるのです。
時代の流れは当然のことながらあります。
ジョセフの若いころからすれば、西洋人と東洋人の人種を超えた結婚は想像すら難しいことでした。
そして経済という覇権も、連載と作中時系列の1988年ならば日本にありました。その後の長い不況を経てみれば、皮肉にも歴史を感じる設定です。
それが1980年代。ハリウッドスターが日本でコマーシャルに出る時代でした
未成年飲酒に対する批判も現在ほど厳しくないためか、承太郎がビールを飲む……なんて場面も。
◆新しいようで古典的、それがスタンドバトル
第2部までの波紋に代わり、特殊能力として本作の代名詞であるスタンド(幽波紋)が登場します。
波紋とは違い、事前にどういう能力であるかわからないため、探りながら戦うところに本作ならではの頭脳戦要素があります。
特定の状況に追い込まねば使えないスタンドもあれば、DIOのようにどうすれば勝てるのかわからないものもある。
それがスタンドバトルの魅力ですね。
当時の少年漫画は、『ドラゴンボール』のスカウター描写のように、数値化できる強さ同士のぶつかり合いが多いものでした。
それだけではなく、ジャンケンのように、組み合わせや使い方次第で戦い抜く頭脳戦要素が本作の魅力です。
アメリカンコミックにも同様の趣向はありますが、日本にもそうした伝統はあったものです。
新しいようで古典的、そしておもしろい――それがスタンドバトルです。
当初はタロットカードだけだったスタンドも、エジプト9栄神、そしてもうともかく出てくることに。それも納得のおもしろい能力です。
◆タロットカード
タロットカードってそもそも何でしょう?
大アルカナ(22枚)と小アルカナ(56枚、トランプの原型という説もあり)があり、スタンド能力は大アルカナのみとなっております。
ここで、主人公チームとDIOのカードとテーマをざっと見てみましょう。
空条承太郎:17 星
勇気や希望を示すカード。主人公にふさわしいよいカードです。
ジョセフ・ジョースター:9 隠者
分別のついた老人。知恵のある導くもの。これぞ主人公の祖父というところですし、ジョセフのスタンドは念写で仲間を導いてゆきます。
アブドゥル:1 魔術師
創造的なスタート。好機の始まり。冒険の始まりに出てくるアブドゥルにふさわしいカードです。
花京院典明:4 法皇
慣習により規定されること。遵守。生真面目な花京院らしいカード。緻密な計算ありきの能力でもあります。
ジャン=ピエール・ポルナレフ:7 戦車
ワムウとジョセフの戦っていたあの戦車です。勝利。克服。困難に打ち勝つカード。最終決戦後も生きていられたことも、暗示されていたとか?
イギー:0 愚者
途方もない目的を果たすために向かう、愚かなようで勇気ある者。確かにイギーは無鉄砲なようで考え抜いて戦う戦士です。
DIO:21 世界
全ての面での勝利。ありとあらゆる欲望の充足。不死身であり、時をも操る。まさしくDIOはありとあらゆる面での勝利を目指す存在でした。
三人の主人公、三つの国。そして一世紀という時の流れ――。
1部からの因縁の敵であるDIOを倒すことまでが、作者当初の想定と思われる本作。
時を駆け巡り、現代日本に回帰する。スケールの大きな力作でした。
しかし、スタンドバトルは終わりません。第4部以降、ちょっと特殊な継承を経て、シリーズは続いてゆきます。
第4部:ダイヤモンドは砕けない

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◆非嫡出の主人公
三部作が終了して、一巡したような物語は、作者自身の原点回帰や個人史への転換点を感じます。そこはご了承ください。
第4部以降がずれてきている点。それはジョースター家の血統による継承が、非嫡出となっていく点です。
ジョセフよぉ、スージーQだけを愛するんじゃなかったのかよぉ〜。
そう突っ込みたくなる、それが主人公である東方仗助出生の経緯です。
父:ジョセフ・ジョースター
母:東方朋子
ジョセフが61歳の時、当時大学生であった朋子と不倫した結果、できた子どもという設定。
3部主人公・承太郎は甥であるという、少年誌でよくできたとしか言いようがない設定です。
これも歴史的に突っ込むとおもしろい。
キリスト教圏では、非嫡出子はBastardと呼ばれ、差別的な境遇にさらされてきたわけです。
仗助が半世紀前の人物ならば、なかなか大変なことになったっスね。
歴史的に見ても、そういう存在はいました。
太平洋戦争が終わって間もないころは、米軍兵士と日本人女性の間に生まれた庶出子が多く存在し、しかもしばしば差別的な扱いを受けてきました。
そういうことを考えると、仗助の設定からは斬新なものを感じます。
◆ノストラダムスの大予言
本作の連載期間は1992年から1995年。しかし、劇中の時間軸は1999年とされています。
どうしてそうなのか?
これには考えられる要素があります。
1973年、五島勉の著書『ノストラダムスの大予言』が発売されて以来、日本にはオカルトブームが始まり、うっすらとその年には何かがあると思われていたのです。
大予言で恐怖の大王が襲来するとされた1999年7月が過ぎるまで。
何やらドキドキする緊張感がありました。
第1部以来、オカルト要素があった本作。第4部にもその名残があっても、何の不思議もないことなのです。
ちなみにノストラダムスとは、フランス王・アンリ2世の死を予言したとされています。どうなんでしょうね。
彼の王妃であるカトリーヌ・ド・メディシスがオカルトマニアであったこととか。
様々な要素が積み重なって、評価が印象づけられたのでしょう。
この王妃や、スコットランド女王メアリー・スチュアートがらみのフィクションでも、本人が出てくることがあります。
◆漫画家・岸辺露伴
第4部を読んでいて気になるのは、漫画家が登場するところでしょう。
岸辺露伴はどこまで作者の反映なのか? そこはどうしたって気になります。
作者自身に聞いたところで、素直に「ああ、ボクがモデルだねッ!」とも言いにくいだろうとは思えるのですが……それでもはやり、興味は湧いてきます。
岸辺露伴は杜王町で連載をしています。
漫画もスタンドで余裕を持って描きあげます。これはある意味、作者の理想の反映のようにも思えるわけです。
荒木先生のデビュー当時、仙台のような地方都市で連載することはできなかったと。
業務上の必要性に応じて引っ越したわけですが、できれば地元にいたかった。そんな思いが岸辺露伴に反映されていたとしても、おかしくはないわけです。
スティーブン・キング作『シャイニング』のように、創作者が自分と同じ職業のキャラクターを描くとなると、何かが反映されるとは言われております。
そういう意味で、やっぱり岸辺露伴は面白いと思えるのです。
彼が主人公の作品もありますが、それも納得できるというものです。
◆杜王町――伊達政宗の城下町
杜王町のモデル?
実写映画はどういうわけか海外ロケをしましたが、ンなこた忘れましょう。
それは伊達政宗の城下町、仙台市ッ!

仙台城跡から眺める現代仙台の町並み
東北地方最大の都市にして、唯一の政令指定都市、人口100万を超え、地下鉄も運行している。そんな堂々たる街です。
杜の都という愛称の通り、緑豊かで美しい都市。これぞ少年漫画の舞台にふさわしいぜーッ!
と、仙台観光をプッシュしてしまいますが。
歴史的にみて、見逃せないのは美的センスでしょう。
伊達政宗が「伊達」の語源かどうかはあやしいのですが、彼が美的センスをアピールしていたことは事実です。
最上義光のような、周辺大名は「くだらないことにカネを使ってバカでねーか」と割と冷静に見ておりました。

長谷堂合戦で直江兼続を追撃する最上義光『長谷堂合戦図屏風』/wikipediaより引用
もちろん政宗はただのバカではなく、彼なりに考えていることはありました。
「東北出身というだけで蝦夷、文明文化も及ばぬ者として扱われるこの屈辱ッ!」
豊臣政権下で大名として上洛した際、多くの東北の大名はストレスに苦しみました。露骨に「蝦夷だぜーッ!」とダサい扱いを受け、どんよりしてしまうわけですね。
政宗はそうした東北蔑視に対抗すべく、持ち前のファッションセンスを見せつけます。
そのセンスを気に入られて、秀吉が優遇したとまでは思えませんけれども、目立っていたことは確かなのです。
素朴で地味な印象があるような、そんな東北からド派手なセンスを見せつけるッ!
そんな荒木先生こそ、まさしく伊達者であることは確かなことです。
ちなみに、1995年から1997年にかけて連載された冨樫義博『レベルE』は隣県である山形市が舞台になるエピソードもあります。
1995年とは『少年ジャンプ』誌上で宮城と山形舞台の漫画が掲載されるという、なかなか熱い東北熱がありました。
そんな第4部は、モナリザの手に興奮する吉良吉影が最終的な敵でした。
そんな隠しきれないルネサンスへの憧れは、第5部に昇華してゆきます。
第5部:黄金の風

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◆主人公は仇敵の子
第4部の仗助もどういうことかと意外な設定でしたが、第5部はもっとぶっ飛んだ設定です。
なんとあのDIOに子がいてイタリアにいるのだッ……!
これはどういうことなのかと読者まで混乱しますが、ある意味、時代が荒木先生に追いついたと言えるのではないでしょうか。
荒木先生は、ハンサムな人物を描くと自分に似ていると言われてしまうと語った――そんな現実があります。
『ジョジョの奇妙な冒険』の前に連載された『魔少年ビーティー』では、ビーティーの外見や性格がディオによく似ている。

魔少年ビーティー(Kindle版)
作者自身にも似ているような、魔少年を主人公にしようにも、1980年代はまだまだ少年誌にも読者にも受容できなかった。
それが時代の進歩とともに、魔少年を堂々と主役に据えてもいい――そんな現代史の進化を感じます。
ジョルノは正義感もあるし、悪いとは言い切れませんが、トリッキーで狡猾な戦術で勝利しますからね。1980年代にはちょっと難しいタイプの主人公ではあるのです。
だますにせよ、ジョセフのようにユーモアでおちょくらないと厳しかったと。
◆夢はギャングスター
そんなジョルノの夢は、ギャングスターではあります。
イタリアを舞台にしているという点で、ここは欠かせないところです。
イタリア人だからギャングと連想するのは、どうしたって失礼な偏見にはツッコミかねません。
でも、そういう現実はある。海外フィクションでの定番日本人像としてヤクザはわりとあるもの。深作欣二監督は偉大ということです。
◆ルネサンスの輝き
『ジョジョの奇妙な冒険』の絵柄は変化してゆきます。
どうしたってそこは少年漫画です。理想としての男性像が反映されるもの。1980年代は、シュワルツネッガーやスタローンのたくましい肉体が理想でした。
そして1995年から1999年にかけて連載された第5部となると、すっかり細身になりました。
ジョルノのウエストとジョセフの腕まわりが同じ太さでも違和感はないッ!
そりゃ女のファンも多いはずだよな〜ッ!……というツッコミはさておきまして。
ジョルノって、まるでダビデ像のような体形には見えませんか?
細くスタイルは整っているのに、筋肉はしっかりついている。その体形の美は、まるでルネサンスのようでもある。
カラーページや単行本の表紙からは、その影響を感じるものがありました。
ルネサンス的だからこそ、トリッシュのような女性キャラクターも、胸がそこまで大きくない。
ギリシャの女神像にせよ、ルネサンスの女性像にせよ、胸はそこまで大きくない。
バランス重視なのです。
そういうイタリアが舞台であることも納得できる、芸術の美を感じる第5部。
海外で個展が開催され、叶姉妹がコスプレをし、資生堂やグッチとコラボするのも納得できる。
そんな芸術的な美は、この第5部で頂点に達したとも思えるのですッ!
第6部:ストーンオーシャン

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◆ヒロイン・徐倫登場
女性主人公は『ゴージャス☆アイリン』以来ッ!
編集部からも何色を示されたという徐倫です。1999年から2003年においても、ヒロインは斬新でした。
前述の通り『ジョジョの奇妙な冒険』では女性も進歩してゆきます。
第2部では、リサリサという、主人公の師匠が登場。
第3部では、女性のスタンド使いも行方を阻む。
第4部と第5部では、味方側のスタンド使い、主人公チームに女性がいる。
となれば、第6部で主人公が女性でも不思議はないのです。
近未来舞台なので歴史要素はないようで、主人公そのものが歴史的だということは忘れずにふまえておきたいところです。
第7部:スティール・ボール・ラン

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◆一巡した世界で西部劇
だんだんと難易度があがる『ジョジョの奇妙な冒険』。掲載誌も変えて、一巡したあとの世界からスタートします。
西部劇になるというのは、これまたある意味原点回帰です。
荒木先生のデビュー作は『武装ポーカー』。
西部劇であり、騙し合いをする、少年漫画離れしたシブい作品です。
◆処刑人ツェペリ
ジャイロ・ツェペリにはモデルがいます。
フランスの処刑人であり、人類史上2番目に多く斬首したアンリ・サンソンです。
ハンサムで教養があり、若い頃はなかなかモテて、国王ルイ15世の寵姫デュ・バリー夫人とも関係があった。
そのまんま漫画主人公にもなれそう……実際に坂本眞一に『イノサン』の主役でもあります。
ジャイロに結集されているサンソンの要素は、無実の少年を救いたいという恩赦を願う心です。
処刑人でありながら、罪のない人を殺すことだけはなんとしてもl回避したい――そんなアンリ・サンソンの願いが、ジャイロを通して結実します。

シャルル=アンリ・サンソンの肖像画(イメージ)/Wikipediaより引用
◆人種が入り混じる出場者たち
本作は西部劇でありながら、伝統的なハリウッドもののお約束を打ち破る先進性があります。
サンドマン、ポコロコ、アブドゥル、ドット・ハーン……人種が混合しております。
実際に当時のアメリカ西部には様々な人種がいたものの、フィクションでは「白人だけのほうが見栄えが良い」といった思惑により、白人だけの世界にされているのです。
そこを時代考証をして、修正をしたのがリメイク版『マグニフィセント・セブン』。
その公開前にこういう描き方をする荒木先生はすごい。
それに『マグニフィセント・セブン』にすら出てこなかった、女性戦士のホット・パンツも出てくるのですから、革新的なものがあります。
◆南北戦争
ファニー・ヴァレンタイン大統領の父は軍人。
西部劇のお約束といえば、南北戦争です。
勝利した北軍か、敗北した南郡か。
どちらについたにせよ、軍人として内戦を戦い抜いたが故に、愛国心を高めた者もいる。暴力の味を覚えてしまった者もいる。後遺症やトラウマゆえに、社会からはぐれてしまった者もいる。
そんな傷跡も、西部劇には欠かせない要素なのです。
◆大統領が戦うのってアリなの? YES! YES! YES! むしろ最先端ッ!
本作のラスボスはファニー・ヴァレンタイン大統領です。
それはありなのか?
アリですね。むしろ流行に一致しちゃってますね。
2010年、セス・グレアム=スミス『ヴァンパイアハンター・リンカーン』が発表されました。
南北戦争は吸血鬼を壊滅したいリンカーン大統領の悲願ゆえの戦争だったッ! 黒人が死んでも誰も気にしない、そんな奴隷制度こそ吸血鬼蔓延の背景にあったのである……というなかなか強烈な話ですが、これが大ヒット。
2012年には映画化された『リンカーン/秘密の書』が公開されています。
この作品は、そういう考え方もありなのだと世界に衝撃を与えたのです。
そういう2010年代のトレンドを、偶然なのか必然なのか、取り入れる荒木先生はやはりセンスがすごいッ!
連載期間が2005年から2011年ですからね、時代を先取りしていますね。
過去の歴史を取り入れるどころか、未来に振り返っても歴史的な要素を入れる。それが『ジョジョの奇妙な冒険』の奇妙であり、スゴイところだと再確認できます。
★
第8部「ジョジョリオン」は未完結ですので今回は見送りました。

ジョジョの奇妙な冒険第8部Kindleカラー版(→amazon)
けれども3.11の後に杜王町を舞台としており、そしてコロナ禍に連載期間が重なっているということも気になってなりません。
歴史を取り込み、どう先取りしてゆくのか?
これからも読み続けたい――『ジョジョの奇妙な冒険』には、そんな世界観に満ちあふれています。
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【参考】
『ジョジョの奇妙な冒険』第1部:ファントムブラッド(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第2部:戦闘潮流(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第3部:スターダストクルセイダーズ(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第4部:ダイヤモンドは砕けない(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第5部:黄金の風(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第6部:ストーンオーシャン(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第7部:スティール・ボール・ラン(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第8部:ジョジョリオン(Kindleカラー版)






