青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第26回 感想あらすじレビュー「篤太夫、再会する」

2021/09/13

京都とパリを経て、血洗島へ。いよいよ栄一が実家に帰ります。

思えば前回はたくさん人が死にました。

その余韻は……というところで家康が登場。もう江戸時代ではないですし、ナレーションでよい気がしないでもありません。

 


長七郎と脳内で再会

栄一は帰宅直前に尾高長七郎と語り合う夢を見ました。

本作は夢やオカルトが好きなスピリチュアル作品ですね。思えば血洗島では「蚕が踊っていた」こともありました。

尾高長七郎
北武蔵の天狗と呼ばれた剣士・尾高長七郎|渋沢栄一の従兄弟で義兄だった

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変わり果てた日本にやりきれない思いを栄一は語ります。

「なんと多くの命が奪われたんだ」

そう平九郎の死を嘆いています。

「俺は一体なんなんだ!」

倒幕を目指していたのに幕臣になってしまい、そして幕府が倒された。恩人は死んだ、主君もいない。俺はこれからどうすればいいんだ?

栄一の人生そのものよりも、そんな迷走を9月まで進めたこのドラマはなんなんだろう……という疑問が生じます。悔しいのは私も同じ。一体何を描きたい作品なのでしょうか。

ここでスピリチュアルなお告げをする長七郎。

「前を向け。俺たちが怒っていた世の中は変わった! この先こそ、お前の励みどころだ! 生きていればやることがある!」

全くその通りだとは思います。

渋沢栄一の伝記でも、明治時代からの比率が圧倒的に多い。くどいですが、渋沢栄一主役説もあった1980年の大河ドラマ『獅子の時代』は第一回がパリ万博でした。

なのに9月になっても明治維新をやっている本作はどうしたことでしょう。根本的なところで何かがおかしいので、さすがに何度も指摘せざるを得ません。

 


ほぼ初対面の父親に会い

栄一たちが血洗島村に着くと父・市郎右衛門や千代が出迎える用意をしていました。

こんなホームドラマをするなら、幕末動乱の説明が欲しいところですが、それができない諸事情でもあるのかもしれません。

まぁ、それよりもお涙シーンを出したいのでしょう。

思ったことをそのまま口にして感動する栄一。

我が子うたを抱き上げて喜ぶ栄一……って、お子様のいるご家庭なら違和感を抱かれたでしょう。

たとえ血の繋がりがあっても、生まれてから顔も見ていない父は、幼い子にとって「他人」です。

予告編でも使うくらい定番の名場面にしたいのかもしれませんが、見知らぬおっさんにいきなり抱きつかれたら、子供にとっては恐怖でしかありません。

ゆえに顔が引き攣ったり、怯えている反応がリアルです。

もちろん、父親からすればやっと会えた我が子に怯えられるのは辛く、物語の作り手にしても盛り上げたい場面です。

ゆえにかつてのフィクションでも抱き合って喜ぶことが定番だったりもしましたが、最近は変化しつつあるように感じます。

例えば戦争もののフィクションでは、我が子と再会する親の反応で、作り手の意識がわかります。

近年のNHKですと2019年の朝ドラ『なつぞら』では、戦地から帰還した父に出会ったきょうだいの中で、一番下の子は怯えていました。

うたも少しだけ怯えたかのようには見えましたが、即座に初対面の父を受け入れ、ほのぼのとしたハグでしたね。こうしたことからも本作のスタンスが垣間見えてきます。

 

平九郎が亡くなったのは兄さまのせい!

自宅の前では、母・ゑい、妹・てい、姉・なかたちが、あらたまって頭を下げておりました。

おじさんおばさんもやって来て、わきあいあいとしていたところで、ていが不満をぶつけてきます。

「兄さまが平九郎さんを見立て養子なんかにしなければ、平九郎さんは村で普通に暮らしていたのに!」

確かにその通りです。

そもそも栄一が幕臣になった経緯も結構ヒドい。

村を飛び出し、当時流行していた水戸学由来の尊王攘夷に被れ、テロ計画未遂犯としてにっちもさっちもいかなくなり、平岡円四郎に庇われた。

行き当たりばったりで行動した兄のせいで最悪の結果になったといえばその通りです。

平岡円四郎
慶喜の腹心・平岡円四郎の生涯|渋沢を見出すも暗殺された理不尽な結末

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ただし、ていも幕末の女性としては随分と甘いことを言っているとは思います。

妹に責められた栄一は、尾高家に謝罪に行こうとします。

ここで長七郎の死が語られました。あのスピリチュアルな夢が繋がってくるわけですね。

そして宴会の場面へ。考証的な疑問が色々と湧いてくるシーンですが、それより何より、なぜ戊辰戦争という見せ場を削って、宴会とか鉄道トークで時間を潰すのでしょうか。

栄一にスポットが当てられ、次こそ何かあるのか!と思ったらフランストーク。しかもその内容が取り立てて興味を惹かれるものでもなく……。

 


いやいや平九郎の死は千代のせい?

このあと、栄一は千代と話し合うことになります。ようやく話せると言います。

千代がボソボソと暗い声で戦況を語るのですが、流石に聞き取りにくいのでどうにかして欲しいところではありました。それこそナレーションででも使ったほうがよいのではないかと不安を覚えます。

渋沢千代
渋沢千代(栄一の妻)は気高く聡明な女性|しかし夫は妾を新居に呼びよせた

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平九郎の死を悔やむ千代。

「私のせいです……」

彼女は弟・平九郎に武士になったからには忠義を尽くすよう教えていました。だから平九郎は死んでしまった、自分のせいだと栄一に詫びます。

栄一は「自分が悪い」とフォローする。というか、やはり栄一の責任でしょう。

それでも千代は泣きます。

栄一、それに慶喜にもそういう傾向を感じるのですが、本作はともかく主人公周辺が責任回避をしがち。

平九郎の死については、妹ていが栄一を糾弾した理屈でおかしくなく、千代の謝罪はむしろ栄一を強引に免罪しているようにも見える。

それに栄一は、女遊びについて千夜に謝ることが大量にあるはずです。史実の彼はパリから妾を呼び寄せようとすらしていました。

そうした都合の悪いところは削って、イケメンが美女にバックハグ。「おまえら、こんなん見たいんやろ」と作り手がニヤニヤしている顔が浮かんできて、どんよりとした気分に……。

今週はBGMも過剰です。演出が手詰まりになった作品にありがちな展開で、41話の最終回まで残り15回、その傾向が強まりそうな予感もしています。

 

土方の軍服はサイズ合ってます?

栄一は墓参りへ。その後、よしと箱館戦争の話になりました。

箱館戦争の見立てがあまりに甘いだけでなく、所作指導も全体的に緩慢な印象で、時代劇らしさが徐々に薄れていません? 私が3週間ぶりに見たせいでしょうか。

いずれにしても不安は募るばかりで、例えばよしが「私もしっかりしねえと!」と無理矢理笑うところも妙で、こういう女性が歯を見せて笑うことは、はしたないとされたものです。

このあと箱館戦争へ。

土方の衣装寸法がやはり緩くて辛い。ストック衣装を使い回しているのでしょうが、シルエットをもっと綺麗にして欲しい。

軍服は、どんなイケメンだろうとシルエットが甘いとよろしくありません。見ていて悲しくなってくる。

場面変わって栄一は尾高惇忠と再会しました。

尾高惇忠
栄一の嫁兄・尾高惇忠は学問に通じるも実業はサッパリ?富岡製糸場で大赤字

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避けようとする惇忠を呼び止める栄一。

戦で死ぬこともできず、忠誠を尽くすこともできなかった……誰に会わせる顔もない。そう嘆いています。

栄一は今となっては武士となったのは道を誤ったと言い始めます。

パリでやっとわかった。武器で戦わず、商売をし、畑を耕すんだ! それが俺の戦い方だったんだ!

そしてまたスピリチュアルな雰囲気になって、きれいにまとめるのですが、これってどうなんでしょうね。

お花畑があざとく、しつこい気がします。栄一も精神的成長をしていないという感じでしょうか。あれだけ色んなことを経験してきて、得た教訓が中学生の学級目標みたいなもので虚しい。

それと、本作の「商人は戦争しないんだ! 栄一は平和主義者!」という刷り込みは、歴史認識において有害に感じます。

近代の戦争は、拡大する資本主義が根底にある。その結果が帝国主義であり、二度の世界大戦はエゴの激突でした。

それが世界史を学ぶ上での基礎であるはずなのに、なぜ本作は渋沢栄一をやたらと平和主義者にしたいのでしょうか。

自分が間違っていた――というスタンスを取り入れたって、主人公を毀損することにはならず、むしろ反省から学びがあったほうが人格者にも見えるような気もします。

 

栄一は駿府へ

栄一はこのあと父から今後の見通しを聞かれます。

函館に行くつもりもないし、新政府につくつもりもない。駿府の上様のもとへゆく。そう誓います。

そして上様にあって今後の進路を決めるというわけですが……自分で決めたらダメ? 幕府が情けない体たらくになった責任は上様にあるはず。

渋沢も家庭のある身ですし、本作の父親にしても「そうだね」と言うばかりで、特に響くものがない。

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普通は不安だらけだと思うんですよね。後に経済的に成功することがわかっているからこそのリアクションに見えてしまうのです。

出立時に渡してもらった百両を父に返し栄一は出立します。父は栄一の妻である千代に渡しました。と、こういう経済的余裕があるから、渋沢も上様に会うことを優先できるんですな。

本作ですっ飛ばされた会津戦争では、城下町の商家に「ここは自分がぶんどった」という立札が並んだそうです。

大きな内戦の後ですから、それぐらいの略奪があり、殺伐としていた。

ちなみに、ドラマでの栄一両親は千代に親切ですが、史実では「あんなほっそりした頼りないおなご」と冷たかったようです。

そして、うたが孔子の言葉を言い出します。思い出したかのように漢籍を持ち出しました。

ただ、残念ながらうたを抱く栄一も、隣にいる千代も、子供の親には見えない気がするのは私だけでしょうか……。

栄一は、駿府へ向かいます。

欧州を回った報告と収支目録を大久保一翁に提出。

慶喜と再会し、何度目か数えるのも疲れるようなフランストークをします。

史実かどうか関係なく、ドラマで繰り返す必要は感じられません。普通の作り手なら「視聴者に飽きられてしまうのでは?」という不安を抱きそうなものです。

鳥羽・伏見の戦いも、無血開城も、幕末クライマックスの背景説明をすっ飛ばしたため、二人の再会の緊張感もいまいち。

勝海舟も出ていないのですから、無血開城の背後にイギリスの思惑があったという史実もどうでもよさそうですね。

とにかくBGMが高々と鳴り響き、感動、感動、また感動という展開でした。

 

総評

コロナ禍の中、なんとか大河を作っている。現場も混乱するでしょうから、撮影一つとっても非常に大変だということは理解できます。

それにしたって、あまりに気の毒で見ていて辛い。

衣装はちゃんと仕立てられているように思えない。殺陣の指導も感じられない。所作もおかしい。セリフも棒読みが多い。発声がクリアでなく聞き取りにくい。感情を込めて読んでいない。

あくまで推察と断っておきますが、脚本の仕上げがそもそも遅れているのではないでしょうか。

そういえば土方の死で盛り上げるのかと思ったら、来週持ち越しです。

なんなんだ、本当に引っ張り過ぎでなんなんだ……。

来週土方死ぬよ! 盛り上がってね!

そうなる展開なんでしょうね。

しかし、決死の思いで函館に行き、そして実際に敗死してしまった人の死を、盛り上げ材料ばかりにされているようで脱力感が湧いてきてしまいます。

 

客寄せトシさん、死ぬ死ぬ詐欺の是非

今回は土方が死ぬんだろうな、と予想が外れてしまい、申し訳ありません。

まさかここまで引っ張ってトシさん死ぬ死ぬ詐欺をかますとは思いませんでした。

土方がかっこいいのは当然です。

それだけに気合の入った幕末ファンは本作を見てどう感じているのでしょう。喧嘩しても仕方ないので黙っているだけで、実はフツフツと煮えたぎる思いの方もおられるのでは?

紙媒体の歴史雑誌を見ていますとその傾向が強く、当初の持ち上げムードから検証ムードに変わりつつあるようです。

作り手も対策はしているとみた。会津戦争をまるっきり回避し、松平容保しか出さないのは、そうした気遣いなのでしょう。

しかし、危険は回避しきれてないように見受けられます。

◆ 山本耕史以上の人気?大河「青天を衝け」町田啓太演じる「土方さん」が話題!スピンオフ放送要望続々(→link

該当部分を引用させていただきますと……。

NHK大河ドラマ「青天を衝け」の第25話が22日、放送され、ネットで、俳優・町田啓太演じる土方歳三が話題になった。ツイッターではこの日「土方さん」がトレンドに入り、「イケメンすぎる」「震えた」などのコメントが殺到。町田の芝居を絶賛する声がSNSに相次いだ。

「SNSに相次いだ」「ネットで話題」というのは要注意です。

放送時間にテレビをつけ、実況感覚でSNSに書き込む世代を狙えば、割と簡単にトレンドは作られてしまいます。

大手掲示板で実況していた習慣が抜けない年代ですね。

そうやってネットに書き込んで盛り上がりたい層は、ネットに使うだけ集中力を割いているので、作品の読み取り不足になることも往々にしてあります。

記事の続きを見てみますと。

「私の中の土方さんは『待たせたな!』の山本耕史氏で固定していたのですが、今日の町田さんの写真から抜け出したような御姿に心奪われてしまった」

土方俳優として山本耕史さんを出すことは当然でしょうし、気持ちはわからなくもありません。

しかし、書き込みはさておき、ネットニュースでよりにもよって山本耕史さんの名前を出したのは悪手に思えてなりません。

彼はあの年代でも上位に入る、和装所作と殺陣の巧みさを誇ります。ゆえに時代劇主演も多い。

ドラマとしての『新選組!』も、歴史上の新選組も、熱狂的ファンは非常に多い。そういう熱狂的なファンを刺激するようなことを、よりにもよって本作ですることは危険だと思うのです。

根本的な疑問も感じます。それは最後の段落です。

ちなみに山本版の土方は、その人気を受け、本編終了後、土方が主役のスピンオフドラマ「新選組!!土方歳三 最期の一日」が放送され、多くの大河ファンを喜ばせた。SNSには、当時を思い出しながら、「カッコ良すぎてますます土方さんスピンオフ見たくなってくる」「『新選組!』の時みたいにこの土方さんでスピンオフ1本製作して頂きたいレベルで土方さんが格好良過ぎる…」「是非とも町田土方さんで何かドラマ作ってほしい。大河は無理かもだけど、青天を衝けのスピンオフは欲しい」などのリクエストが寄せられている。

山本版が人気だからスピンオフが実現したのではないでしょう。近藤勇の死後も新選組という組織が箱館戦争まで残ったからこそ、スピンオフ成立の余地がありました。

『青天を衝け』でスピンオフ希望があってもおかしくはない人物は渋沢成一郎でないでしょうか。

1978年のドラマ『雲を翔びこせ』は、渋沢栄一と成一郎がW主人公といえました。

二人の距離が近く、途中まで同じ道を歩みながら別れてしまった。そんな成一郎目線での物語も見たい! そうなることが妥当ではありませんか?

ただでさえ栄一は戊辰戦争に参戦しておりません。だからこそ成一郎目線で戊辰戦争を描くことが求められるともいえます。

しかし、今週も瞬間で終わりました。

成一郎ではなく、土方ばかりに話題が集中するのは「虎の威を借る狐」というもの。

なぜ渋沢栄一が主役なのに、慶喜や土方の話題が沸騰するのか?

要するに既存の幕末ものの威を借りているのです。

本当にくどくて申し訳ありませんが、渋沢栄一の主役構想説もあった『獅子の時代』の初回はパリ万博でした。明治時代の作品ならば、時間配分を考えてそれが妥当でしょう。

それなのにしつこくだらだらと幕末をやる。栄一が参戦しない戊辰戦争をやる。徳川慶喜謹慎への経緯をすっ飛ばす。

幕末ファンの威を借りて、ウケればいいという意識と指摘されても仕方ないでしょう。

ちなみに『八重の桜』の場合、土方を出す状況は本作よりも多かった。会津戦争にもやってきて、近藤勇の墓を作り、湯治しましたからね。

それでもあのドラマは土方より斎藤一を重視している。会津目線で幕末を描くことを目的としていたのです。

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志の高さは、ドラマの作りにおのずと反映されます。何気ない感想も、それを集めたネット記事にも、あらわれるものです。

ちなみに土方を「今までで一番かっこいい!」というにせよ、タイミングが悪かった。

◆ 岡田准一、土方歳三は役者人生で「一番かっこいい役柄」と自信 「燃えよ剣」完成報告 #燃えよ剣 #岡田准一 https://eiga.com/l/Zv0zf

よい役者さんがおそろいで、キャスティングの時点で見たいと思わせます。

全員適役でしょう。

特に鈴木亮平さんの近藤勇なんて、悪いはずがないでしょう。

 

慶喜の天国のような明治時代

明治以降の渋沢栄一が、慶喜顕彰をしていたことは確か。

しかし慶喜の明治ってそんなに大事でしょうか?

どうしたわけか、本作では明治以降の慶喜も見どころになるもようです。

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「この大河は、栄一と慶喜の2人の線で描いてきた作品でもあるので、2人の関係性は大きなテーマになる。これまで栄一と喜作(高良健吾)、慶喜と円四郎(堤真一)、円四郎と栄一など、男2人の関係性が色濃く描かれて来たが、やはり、栄一と慶喜の関係性はいちばん色濃く残っていくのではないか」

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制作統括の菓子浩氏は「物語終盤まで、渋沢と濃厚な関係が描かれていきます」と今後も物語のキーマンとして、作品に大きな影響を与えると証言。

慶喜の隠居生活は、お世辞にも褒められたものではありません。

コスプレ写真を撮り、自転車を乗り回し(そしてそのせいで地元民の田畑を荒らし)、侍女相手に子作りに励む。

『魔群の通過』(→amazon)の作者である山田風太郎は実に辛辣でした。

「豚一」とは豚肉を好む一橋という意味のあだ名だけれども、何もせずひたすら繁殖していたところが豚のようだと『人間臨終図巻』に記しているほどです。

彼の言わんとするところはわかる。はたから見れば、亡国後に第二のライフをエンジョイしていた劉禅状態でした。

ただ、慶喜の場合、そうでもしないとまずかった一面もあります。

あれほど賢く、フランス仕込みの知恵があり、かつ将軍となれば反政府勢力に担がれかねない。実際、周囲に担がれ朝敵として敗死した西郷隆盛より、はるかに賢い処世術でした。

まさに韜晦(とうかい・目眩し)と言える。

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そんな慶喜が明治以降も渋沢栄一を招いたのは、彼が自分の名誉回復に役だったから。

幕末の動乱の最中、彼に忠義を尽くした永井尚志だの勝海舟は塩対応をされています。彼らは使い捨てられたようなものですね。

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それに対し長州閥ともうまくやり、政財官に顔が利く渋沢は使い勝手がいい。お互い利害関係で結びついていたのです。

彼らの中には「御用記者」「人格最低」と言われたけれども、文才だけはピカイチだった福地桜痴も参加します。

自分の華麗な文才を披露するためなら、信念なんてあっさりポイッ。栗本鋤雲や福沢諭吉からすれば風上にもおけぬ福地は、渋沢と慶喜にとってうってつけの人材でした。

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そういう人間関係をロンダリングをするドラマ。渋沢栄一をテーマにする意味がわかりません。

これだったら徳川慶喜ドラマでよかったのではありませんか?

お札になるから諸事情で主役にしたものの、明治の経済を描けないから、役者の人気や幕末史の人気に逃げたように思えます。

その徳川慶喜の描写にしたって、不都合なところを省いてしまい、何が何やらわからない。

慶喜を描くにせよ、無血開城に勝海舟がいない時点で終わっています。

 

天狗党のせいで水戸の明治は地獄だった

このドラマ制作者はさておき、私は天狗党を無視できません。

栄一は新政府の暴虐に怒っていましたが、彼らに尊王攘夷を植え付け、幕政を混乱させ、倒幕に至る種をせっせと蒔いたのは水戸藩です。

徳川斉昭と藤田東湖が醸成してばら撒いた後期水戸学の影響があります。

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その恩義があるからこそ、天狗党は明治になって早々に靖国に合祀されました。

禁門の変】で実際に御所を守った会津藩士が大正末まで合祀されなかったことと比較すると異様です。

「でも、栄一は天狗党と関わってないでしょう?」

ドラマだけ見ているとそう思ってしまうかもしれませんが、実際は違います。

本作でロンダリングされただけで、首領の藤田小四郎と渋沢は「畏友」と呼び合うほど仲が良い。

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薄井龍之は渋沢栄一経由で慶喜に連絡を取ろうとした。

慰霊を行なっている。

明治以降も藤田東湖の言葉を著作でしばしば引く。

とまぁ、深い関係があり、その思想は明治以降も捨て去ってはいないと考えたほうが妥当です。

明治以降、栄一が指摘したように尊王攘夷を唱えた連中が政府の中枢におりました。そしてせっせと水戸学を国民全体に広めた。

栄一は正反対のことを言っておりますが、武士を消し去るのではなく、全国民に武士道を叩き込もうとしたようなものです。

表層的な西洋人への攘夷が消えただけで、根幹は変わらない。

そのことは果たして変わったのかどうか?

スポーツチームは「サムライ」と称される。

志のある人物を「サムライ」と呼ぶ。

そもそも国民的とされるこの大河ドラマだって、武士が主人公のものが圧倒的に多い。

作中の栄一は何やかやと言い訳をかましておりますが、歴史修正としかいいようがありません。

そんなに新政府で武士が嫌いならば、もっと本気で政府に反発すればいい。実際に、福沢諭吉栗本鋤雲はそうしました。

武士として生きることが間違いならば、武士としての忠義なんて捨てればよろしい。そうできないからこそ、慶喜に会いに行き、名誉回復に努めている。

栄一をどうしたいのか、作る側もわかっていないのでは?と、不安になってきます。

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役への理解は大丈夫なのか?

もう秋です。

劇中でも明治です。

それなのに、主演のインタビューを読んでいても不安になるのはなぜでしょうか?

彼の責任ではなく、現場がちゃんと資料を渡していないのでは?

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ここで吉沢さんはこう語っています。

「新政府で働くようになってからは、自分が正しいと思うことに突き進むという意味では一緒でも、そのための手段というか、自分の道理とは外れたことや、何かを切り捨てるようなことをいたしかたなくやる場面も出てきます。それが“大人になる”ということなのかもしれませんが、ちょっと“汚さ”を覚える栄一というのは、自分の中でも意識して演じています」

人間の本質って加齢だけそうそう変わりません。

渋沢は天狗党・薄井龍之の嘆願を握りつぶしています。

妻の千代を裏切るようなことも平気でしています。

小栗忠順が見抜いたように「この前まで攘夷だ、幕府はけしからんだの言っておいて、幕臣になったのか」というのが渋沢の本質。

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そういう裏切りを平然とする渋沢像を知らないのか、それともそういうフリをしているのか?

私の疑問は、次の一文を見て溶けました。

「セリフが難しい!経済の話になってくると本当に何を言ってるのかちんぷんかんぷんなので大変です(笑)」

実は、本作で見ていて漠然と感じている違和感の正体がこれだった気がします。主役が意味を理解せずに言っていると思える場面が頻出していたのです。

彼のみならず、多くの方がそう。そこまで難しいセリフでもないし、初期の頃から比べると難易度も語彙力も落ちていませんか?

「おかしれぇ!」

「胸がぐるぐるする!」

なぜ、こんな安易な言葉(難しい語彙を使わない層の言葉)をしつこく繰り返すのか。

疑問だったのですが、セリフの難易度を落とすことで、感情移入をさせているように見受けられます。

『麒麟がくる』は相当語彙力が高いものでした。例を挙げると、信長の台詞が「天下を取る」ではなく「万乗の君」となっていた時は驚きました。読んだことはあっても聞いたことは初めての言葉だったのです。

「万乗の君」とは、一万台の兵車を指揮する君主ということ。

では兵車とは?

古代中国で用いられた戦闘用馬車で、騎乗にとって代わられました。

ゆえに古代中国史でも知らないとパッと想像つかないようなシロモノですが、その単語を言うときの染谷将太さんは理解して噛み締めながら言うような迫力があったものです。

それに、ここまで言いたくないけれど……染谷さんならば、素直にチンプンカンプンとは言わなかったんじゃないか?と考えてしまいます。

慶喜役が乗馬シーンで愚痴っていたインタビューでも思いましたが、仲間内で話すならばともかく、インタビューでここまで赤裸々に本音を語らなくともよいと思えるのです。

「ディーンさんは前回(=連続テレビ小説『あさが来た』)も同じ役を同じ大森(美香)さんの本でやられているので、やっぱり“染み付いている感”というか、(五代が)ディーンさんご自身でもあるなと。ディーンさんの人柄とすごく共存している感じがして、それがご一緒していて気持ちいいなと思うし、すごく魅力的です」

『あさが来た』からの出演者が多く、それを引きずっている人が多すぎてバランスがおかしくなっておりませんか?

あの作品でのディーン様は、せいぜいヒロインを助ける便利なイケメンでした。

しかし、本作ではグラバーから銃器を買って販売する死の商人です。

ディーンさんのルーツである福島県には、こうして売られた銃器で命を落とした人の慰霊碑が各地にある。

そういう五代友厚とディーンさんが共存していてよいのか……そう思ってしまいます。

慶喜と慶喜役を重ねる意見もよく見かけますけど、徳川慶喜と人格的に一致する人間なんて、ろくでもないというのが率直なところです。それこそ「豚一」と皮肉られかねない。

そしてこのインタビューでも、所作指導が甘いと明かされている。

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そろばんも未経験で「今回、初めて触りました。決まった動きをやるだけなので、手順さえ間違えなければOKみたいな感じです」と舞台裏を明かす。

今年は所作がともかくおかしくて、時代劇はもうダメではないかと不安になることばかり。

その一旦が垣間見える言葉です。

しかし、期待はまだされているようです。

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カリスマ経営者たちによる新展開と、視聴率の“V字回復”に期待したい。

カリスマ経営者たちの新展開とは言いますが、残り15回でどこまで描けるのでしょうか。

ただ、数字のケアについては余念がなく、慶喜を引っ張り、五代友厚をクローズアップする。イケメンがやたらと脱ぐ理由も数字狙いでしょう。広告代理店が好きそうな手法を連発しているわけです。

そうやってなんとか底上げして当初こそよい数字を出し、成功作軌道に乗せる戦術はうまくいきましたけど。

ただ、それも最後まで続くのか。

かつての勢いを失った24時間テレビが裏番組にあろうと、戊辰戦争を描いてイケメンを何人もくどいほど長ったらしい演出で死なせた。

私にはあざとすぎて理解できなかった「ネジを口から出した小栗忠順の斬首」も人によっては「神回!」だったそうで……。

本来最も稼げそうな戊辰戦争で、この数字では……。


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【参考】
青天を衝け/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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