北条義時が出かけようとすると、見慣れぬ女性が廊下にいます。
長澤まさみさんではありませんか。
彼女が演じる女房が、こんな説明を始めます。
「鎌倉に穏やかな日々が訪れています。本日は承元二年から建暦元年に至る4年間、この鎌倉で起こるさまざまな出来事を一日に凝縮してお送りいたしします」
北条時政追放から、和田一族滅亡前夜まで。
第39回放送はその時系列を描くようで、いつものオープニングテーマへ。
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天然痘から復帰した実朝
曲が終わると同時に、声のトーンを一つ落とした長澤まさみさんが、今度は声で登場。
源実朝の和歌から始まった今回。
時政追放後に実朝は天然痘を患い、あばたの跡を気にしています。
それでも一命を取り留め、政務に復帰し、医者に叱られつつも、ついついあばたを触ってしまう実朝。
御所で政務復帰を果たす実朝の前で、義時がしみじみと「一時は覚悟を決めた」と語ります。
もしも自分が死んだらどうなっていたか?
実朝がそう尋ねると、実朝と父子の契りを交わした善哉が後釜にすわると義時が返します。
思わず「善哉に悪いことをした」と呟いてしまう実朝。
ここは重要な点でしょう。
鎌倉殿と八幡宮別当を、それぞれ頼家と実朝に割りあてることが、頼朝の構想だったと推定されます。それが頼家の理不尽な死によって逆転した。
誰かがそのことを善哉(後に公暁)に吹き込んだら、実朝が自分の地位を盗んだと思いかねない。
なぜ公暁は叔父の実朝を暗殺したのか?背景には義時の陰謀があった?
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北条政子が、ハキハキと、政治状況の説明します。
まるで教科書に掲載されているかのような説明をして、直後に「違ってた?」と確認。
義時はそんな姉を見て「尼御台は必死に学んでおられる」と苦笑しています。
小池栄子さんの演技が今週も盤石ですね。
しっかりとハキハキと正しいことを言おうと学んだけど、ちょっと自信がない。そんな絶妙な調子が滲んでいます。
政子って、地に足がついた人だと思います。
権力が欲しいわけではないけれど、そうしないといけないことを責任感から学び、さらに全うしようとしている。真面目で誠実。本当に善良な方で良かった。
そんな母を気遣いつつ、実朝は仕事に戻ると言います。
「学んで損しちゃった」と照れたようにこぼす政子がやはり素晴らしい。
実朝はそんな母に感謝しつつ、母に迷惑をかけたから仕事に励まねばと気合を入れています。
しかし……。
歌には歌で返すべし
姉と二人きりになった義時が、政は自分が進め、鎌倉殿を守ると政子に伝えます。
彼女も、しばらくはそれがいいと同意します。
しかし、義時は何かおかしい。
「ずっと?」
政子がそう察知すると、義時はこう言い出しました。
兄上は坂東武者の頂に北条が立つことを望んでいた。
私はそれを果たすのだ。
ついに義時は、実朝を傀儡にすると宣言しました。開き直っています。義時もきっと政の勉強を果たしたのでしょう。
政子は学んだことをまっすぐ使いますが、義時はそうじゃない。
程なくして、実朝のもとに訴訟が届けられました。
内容は高野山と太田荘の争い。実朝が迷い、三善康信も戸惑っていると、義時がズケズケと一方的に高野山の言い分を決めてしまいます。
思わず実朝は、自分がいてもいなくても同じではないかと北条泰時にこぼしてしまう。
そんなことはない!
泰時がそう否定して実朝に気遣っていると、眼前に和紙が差し出されました。
「いただけるのですか?」
「楽しみにしている」
そう言われてキョトンとしている泰時に「返歌だ」と告げる実朝。
つまりは歌で返事をするわけで、泰時は狼狽するばかりですが、鎌倉に文化が浸透してきたことの証しでもありますね。
思い出してください、上総広常が素朴に書状を書いていたあの姿を。
当時とくらべて、もはやそんな時代ではなく、和歌を詠めなければ話にならない。
やることが増えてきたぞ!
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品のない息子・北条朝時
野望を隠そうとしなくなった義時。
今度は政を新しくすると大江広元に語っています。その案とは?
・守護は交代させる。親から子へと継ぐとわずかな者に偏ってしまう
・だが国司はそのままで
義時の話を聞き、懸念を感じてしまう広元。それでは北条だけが目立ってしまう――。
「構わぬ」
そう断言する義時。
時政のように露骨に自分へ利益誘導するのはよろしくない。
そうではなく、大義名分と理屈をこねて、自分にとって有利な制度設計をする。
悪辣なやり方です。
師匠である源頼朝を超え、頼朝の懸念を丁寧に破壊してゆく、北条義時は実におそろしい男になりました。
その頃、義時の妻・のえは、初を相手に愚痴をこぼしていました。
「辛気臭いのよね。小四郎殿も太郎殿も。似たもの親子っていうの?」
ぺちゃぺちゃと話すのえに対し、義父上は執権にならないのかと探りを入れる初。実に賢い女性です。
これに対しのえは、欲を持って何が悪い、私なんて欲が着物を着て歩いているようなものだと開き直っています、
初は夫には悩みがあると言いかけ、やっぱりやめておくと言います。
好奇心たっぷりに「教えなさい!」と迫るのえ。
と、そこへ北条朝時がやってきて、女性二人の間にある干し果物を手づかみにすると、ニヤニヤとした顔でかじり始めました。
「兄上を見ませんでしたか?」
御所ではないかと初が応じ、お邪魔していると挨拶します。
いかにも無神経そうな朝時がその場を去ると、憎々しげにのえが吐き捨てます。
「品がない人は大ッ嫌い!」
「あの人の母上は上品な方でしたけどね」
朝時は、比奈の息子です。
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母と別れ寂しそうにしていたあの少年は、どこか品のない青年に育っていました。のえも小さい頃は構っていたのになぁ。
ともかく、こういうちょっとした場面にも個性が出ていますよね。
ゴシップ好きでゲスなのえ。こちらはいつも通り。
聡明で会話からも何かを掴もうとしている初。父に似て賢い。
無神経で女心に疎そう、なんだかやらかしそうで危うい朝時。さて、どうなることやら。
義時と仲章の心無き会話
筆を持ち、硯に向かう泰時。
源実朝への返歌をどう返すべきなのか。悩んで悩んで、全く詠めない。
場面変わって、実衣は政子に、笑顔で報告しています。
どうやら源仲章が仲立ちとなり、実朝の和歌を藤原定家が手直ししているとか。
百人一首の選者でもある藤原定家は、天才肌でプロの中のプロ。
その指導を受けられるなんて、そりゃ浮かれます。
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ステータスに浮かれてしまう実衣と違い、手直しなんかしなくていいと言いきる政子。
我が子の素朴な感性を伸ばしたいのかもしれません。確かに定家は技巧を凝らしておりますから。
そんな実朝の和歌の話から、噂話へ話題を広げる実衣。
なんでも実朝と千世がまだ同じ床で寝ていないということが、侍女経由で伝わったようです。
二人は仲が良さそうだったのに……と困惑する政子。実衣はこのまま男児が生まれなかったらどうするのか、側室を考えた方がいいと告げます。
「よしましょう」
ここでは政子が話を打ち切るのですが……。
書類を見ている義時のもとへ、源仲章が入ってきます。
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二人で、まるで心のこもっていない業務的な挨拶をこなすと、仲章が後鳥羽上皇の影をちらつかせつつ、鎌倉殿に政指南をすると告げます。
深々と頭を下げる義時。
仲章は、北条追放のことを気遣います。
「正しき道はいばらの道」
そして、悪く言う者はいても自分はお味方だとアピールするのですが、礼を告げる義時の目は一切笑っていません。
伊豆で木簡を数え、米の収穫を推量していた青年は変わりました。政所で書類を見ながら、京都から来た者をあしらえる程の策士となったのです。
このドラマは何かがおかしい。
周囲が主人公を過小評価しているように思えて来ました。
北条義時を甘く見てはいけないはず。それなのに、どこか侮っている。そうしているうちに手遅れになるような気がします。
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