ドラマ大奥レビュー

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ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ『大奥』感想レビュー第4回 感動だけに終始しない春日局の死

2023/02/03

古典的な恋物語は、どうして二人が結ばれるところで終わるものばかりなのでしょう。

そんな疑問を持ったことはありませんか?

結ばれた後に待ち構えているのは、甘いことばかりではありません。

苦く、辛い、“変化”をテーマにして、話は進んでゆきます。

 


種なし、種目当て……大奥とは残酷である

徳川家光と万里小路有功が幸せの絶頂にいられたのは、一年ほどのこと。

春日局はキッパリと「上様のお褥(しとね)から下がる」よう言い渡します。

代わりに連れてこられたのは、種つけに定評のある捨蔵という町人の男でした。

大奥の残酷さをじっくりと見せるこの展開。

有功は種無しと言い切られてしまいました。

男性が原因の不妊は、それとなくタブー視されているようにも思えます。

状況からしてそうにしか見えないのに、ぼかされ、追及されたりしない。有功が突きつけられる場面を見ていて、そんな世の中の仕組みが腑に落ちました。

ジェンダーの呪いは、なおもふりかかります。

愛する家光ですら、他の男に抱かれるよう勧める有功を責め立ててしまう。男は強くなければならないという呪いが有功を縛ります。

そもそも呪いから逃れるため、彼は僧侶になったのでは?

そう思い出すのは、彼の笑みが透き通っているかもしれない。どんな屈辱を味わおうと、彼は仏像のような、蓮の花のような笑みを浮かべます。

ちなみに読経などの仏事をこなす役は相当大変なことであり、『鎌倉殿の13人』の新納慎也さんはトイレにまでお経を貼り付けて覚えていたそうです。

じゃあ、捨蔵改めお楽の方はラッキーなのか?というと、これがとんでもない。

露骨に種目当てだと明かされ、あまりに酷い顛末を迎えます。

大奥って残酷だ……と身震いするしかない。

お楽の方など存在し無かったように扱い、有功に「そなたの子じゃ」と語りかける家光は、あまりにも容赦がないのでした。

 


色気のないお褥という衝撃

家光本人だって楽ではありません。

義務感からこなすお褥(しとね)の場面からも、世の中にある暗黙の了解を感じました。

結構かわいい上様だ♪ と、ニヤつく捨蔵を蹴り飛ばし、挑むように衣を脱ぎ捨てる家光。まるで戦いに挑むようであり、厳粛さすら感じました。

そして全く色気がない!

日本のフィクションの特徴として、女性がモジモジと恥ずかしがっているパターンが多いとされます。

困った眉。赤い頬。おずおずとした口調。

セクシーな場面ではお約束で、嫌がるそぶりがよいとされる。堂々とした振る舞いは色気がないとされる。

性的同意が成立しにくい背景としても、そんな“女性は性的なことに恥ずかしがるべきだ”という気質好みがあるとされます。

だからこそ、堂々とした家光は新鮮で衝撃的でした。このドラマは社会にかけられた呪いを解く力があるとすら思えます。

のみならず、これまでどれほどの人が苦しんできたのかも伝わってきます。

愛は有功だけに捧げる。

その上で子を為すためだけの行為を淡々とこなす家光。

そう言われても、いくら読経しようとも、嫉妬から逃れられぬ有功。

読経には、精神を落ち着かせる意味合いがあるのだろうけれど、それにしたって限界があると伝わってきます。

 

愛がなくても、人は生きてゆかねば

愛があるがゆえに苦しめられる家光と有功。

しかし、その愛欲から逃れることで、二人は成長してゆきます。

家光が母になったからか、変わってしまったことに有功は取り残されたような悲しみを味わいます。

彼女は為政者としても覚醒し、民の暮らしを見て回りました。

まだ江戸といっても発展は限定的です。

そして女性たちばかりが働いている。買い物をしていると、うちの息子の種はどうかと勧められるのです。

赤い格子越しに手を伸ばし、身を売る男たちもいる。社会は変わりつつありました。

そんな家光に春日局は苛立ちます。

春日局は果たして危険を案じているだけなのか、それとも変わりゆく外の世界を見て欲しくないのか。

家光は世を救うことを考え、稲葉正勝にその狙いを語るまでになります。

ただの優しさだけではなく、一揆を防止するためだという家光。本作は実在した家光の政治も、限定的ながら反映させてゆきます。

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一方で有功は、寝たきりになっているお楽の方の介護に、自分の存在価値を見出します。

子を為すことはできなくとも、人を救うことはできる。それが本来、仏弟子として生きる道だったのでは? 愛欲から解き放たれた有功の晴々とした顔は、ますます美しく、尊く輝きます。

これには村瀬から話を聞いていた吉宗も、互いの成長を確認し納得します。

聡明な吉宗ならばわかっているのでしょう。自分が思うままに政治をできるのも、先人の苦労ゆえであると。

しかし、世の流れについていけないものもいる。村瀬がそう語る人物とは?

 


実はなし崩し的な変革もあるのが、日本史

日本史の特徴として、なし崩し的に社会の仕組みが変わってしまうことがあると思います。

『鎌倉殿の13人』では、【承久の乱】で後鳥羽院を敗北させた北条義時が、武家政権を確立する様を描きました。

日本史はそういうものだと流しそうになりますが、他国と比べるとこの過程がおかしいんですね。

「どうして北条は天皇に為り変わらなかったのだろう?」

外国の歴史と比較して見るとこうなります。

キッパリと劇的に変えず、なし崩し的に大改革がジワジワ進む。

本音と建前の使い分けも限界がきて、ようやく社会が変わる。

そんなことが往々にしてあります。

この男女逆転版『大奥』もそうです。

江戸城に登ってきた大名の後継は、もはや半数が娘を息子と偽っている。それを謁見している家光だって、正体は、頭巾を被った稲葉正勝なのです。

正勝は「女子相続も認めてはどうか?」と切り出します。

百姓も商人も、武家以外は既にそうしている。これは何も男女逆転版大奥に限らず、婿養子による相続は日本ではよくありました。実は伝統的に女系が強いのが日本の歴史です。

その正勝の提案に、錯乱してしまうのが春日局です。

女が世の上に立つことを認めたら、戦国乱世に戻るではないか!と叫び、病に倒れてしまうのでした。

床に伏せてしまった春日局のもとへ家光が駆け付けます。

どうやら薬断ちをしていたようで、その影響から倒れてしまったようです。

白猫の若紫に何種類もの餌を持ってきたことは、家光の偏食を治すため春日局が「七色飯」などを用意したという逸話が基にされています。

この薬断ちも、家光の病からの回復を願った春日局の逸話からでしょう。本作には実際にあったとされるのエピソードがそれとなく盛り込まれています。

あれほど憎んでいた春日局に対し、周囲は敬愛をあらわにします。

憎くとも大奥は春日局あってのこと。そんな複雑な思いがそこにはあります。

有功は春日局の看病にあたることにしました。

自虐的に「種無しの男はそれくらいしかできない」と言う有功。

彼なりに掴んだのでしょう。大奥に必要なのは、種だけではない。その場を仕切り、管理する者。春日局のあとは誰がその役目を務めるのか。

嬲るように、からかうように、春日局の面倒を見る有功は、姑に復讐する嫁の姿を連想させます。

春日局も相手に虐待されないかと疑っています。彼女に罪悪感があればこその言葉でしょう。

しかし、有功は恩讐を捨てた存在でした。

こう語りかけます。

「鬼でもなければ平気なはずはございますまい」

この仏のような有功に心を開いたのか、春日局は思いを語ります。

 

乱世に生まれたお福は、仏をさらった

明智‌光秀の家臣・斎藤‌利三の娘であったお福。

彼女は幼くして、磔になる父を見ました。

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彷徨い、月を見ては、今日も生き延びたと思う日々。あの乱世にだけは戻りたくない。それなのに赤面疱瘡が流行している。このままではこの国は滅ぶ――。

そう切々と語る春日局にとって、有功とは何だったのか。

「あの日、わしは仏をさらってきたのじゃ。間違いばかりのババであったかもしれぬ。じゃが、そなたをさらったことだけは間違いではなかった」

春日局はそう語ります。

思えば罪と過ちの多い人生でした。彼女が敬愛する大権現こと徳川家康のように、人としての情けを犠牲にしてまで、彼女は泰平の世を築かねばなりませんでした。

「上様を救ったのはそなたじゃ」

「この世が滅びるまで上様とともにいてくだされ」

そう託し、どうか最後まで上様のそばにいて欲しいと語りかける春日局。

そして彼女は息を引き取るのでした。

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戦国乱世はこうして終わってゆくのですが……この感動的な場面はそれだけではありません。

春日局に同情を引かせるようで、彼女は時代遅れだとも思い出させてきます。

村瀬が語るように、時代の流れについていけない。泰平の世が始まったら、乱世を生きることに適した人物は不要となるのです。

春日局の死後、彼女は一体何だったのかと家光は考えています。

誰よりも苛烈で、誰よりも甘かった。

「母でしょう」

振り返ると、稲葉正勝がそう語ります。

正勝にとっては実母。家光にとっても、春日局がいなければ今の存在はない。

春日局が崇敬していた徳川家康が乱世を終わらせた父ならば、春日局は母である。

男女双方がいて歴史が成立していくと確認するような場面です。

 

泰平の世に花開く女将軍

泰平の世に戦はなくても、危機はあります。

幕閣たちが政務について語り合う場で、随一の切れ者である松平信綱は、もうこの世は滅びると嘆いています。赤面疱瘡の流行を前に、彼ですら、もはやこれまでと諦めかけている。

春日局のあとの世は、どうなるのか?

家光が新たな決意をし、諸大名の前に姿を見せます。

このとき、裾を引く音に耳を澄まし、ハッとした顔になる女大名がよい反応ですね。瞬間、彼女の瞳に光が灯ったように見えました。

そして御簾の向こう側から出てきた家光が、声高らかに宣言する。

「父から男名を引き継ぎ、女将軍になる! 誰かわしが女将軍になる事に異存はあるかえ!」

家光の前に伏せる女大名たちの顔が一斉に明るく輝いてゆきます。

 

それでも人生は続き、そして長い

男女逆転版『大奥』は、ロマンチックなラブストーリーがみどころとされます。

しかし、今回は恋をする季節が終わってからの人生について描かれました。

種無しでもう居場所がないと落ち込む有功。

彼はお楽の方や春日局のケアワークをすることで、自らの生き方を見出しました。

むしろ仏弟子の己にとっては原点回帰やったんやないか?

そう悟り切った彼が春日局から「仏」と呼ばれることが実に興味深い。

家光は政治に目覚めます。

そうだ、わしは上様として天下を治めることができるのだ!

そう悟ったことで、春日局への恨みも薄れていったように思えるのです。

春日局がなければ、こうして世を治めることができなかった。そう納得したことで、彼女は前に踏み出します。

これぞ大人の世界。そう思えます。

春日局の死とは感動的なようで、通過儀礼として見送られたように思えます。

 

女将軍もいれば、女大名もいた

本作、男女逆転版『大奥』は非常に勉強になります。

原作つきの作品となると、内容を変えることには慎重になる。それがよい方向に生きているのではないでしょうか。

衣装や結髪考証をして、江戸時代前期を再現しています。この時代、日本人はよく知っているようで、そうでもありません。

あれだけ長い時代ならば、服飾面でも当然のことながら流行り廃りはありました。

それがテレビの時代劇では江戸時代後期以降のものでまとめられがちです。

そういうところを本作は修正しつつ、ドラマにしております。

そしてこの2023年に放映されることで、時代の空気感を落とし込むことにも成功している。

2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第46回のタイトルは「将軍になった女」でした。

征夷大将軍に任官されてはいないものの、北条政子の扱いは実質的に将軍に等しいものであったという史実をふまえたタイトルと展開です。

あのドラマの最終回で制定された【御成敗式目】においても、女性による家督継承は認められています。

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2017年大河ドラマ『おんな城主 直虎』の主人公である井伊直虎。彼女の家督相続根拠にも、こうした武士の法体系があります。

こうした女性による家督継承が消えていったのが、江戸時代以降になります。

本作の後に歴史を振り返ってみると、女性の相続を消してしまったことの方が不可思議に思えてくるところが面白い。

なぜそうなったのか?

そう疑念を抱いて考え、調べていくことこそが、歴史の面白さでしょう。

 

女が上に立つと世は乱れ、国は滅びるのか?

春日局は、女性が国をまとめると世が乱れてしまうという恐怖感があると語られます。

これも歴史的な実例があります。

イングランドのヘンリー8世です。

彼は次から次へと王妃をとっかえひっかえしたこともあり、イギリス史でも屈指の知名度を誇ります。

彼がそうしたのは、女好きであったからではありません。むしろ愛人くらいいくらでも作れたのだから、王妃なんて仮面夫婦で我慢できたはずでした。

ところが、恋女房である王妃キャサリンとの間には王女メアリーしか生まれない。

ヘンリー8世は焦りました。

彼の父であるヘンリー7世は、シェイクスピア劇でも有名な内戦【薔薇戦争】に勝ち抜いて王となりました。血統的には正当性が薄く、再度内戦となったら危ういのです。

とにかく自分の後が女王なんてまずい。王子が生まれるまで離婚と再婚を繰り返すぞ!

そう無茶苦茶なことをしたのがヘンリー8世でした。

彼が「女王なんて弱っちい!」と嘆いていた娘二人は、それぞれメアリー1世とエリザベス1世というイギリス史でも屈指の意思強固な君主となったのが、なんとも皮肉なのですが……。

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そして日本の明治政府です。

天皇が男性と男系に限定されるようになったのは、明治以降となります。

幕末の孝明天皇まで、天皇とはむしろ中性的な存在でした。化粧をして御簾の中にいて、女官が取り次ぎを務めてきたのです。

しかし、明治政府は「こんなか弱そうな君主を据えていたら、欧米列強と渡り合えんではないか!」と天皇のマッチョ化を進めます。

女官は廃止。京都の御所から東京に連れてくる。西洋式の軍服を着せて、馬に跨らせる。髭だって伸ばす。

こうしてすっかりたくましくなった天皇の肖像を、ロールモデルとして日本国民は目にすることとなりました。

ただ、明治政府上層部がそう考えた時代、イギリスではヴィクトリア女王が統治しています。

女系を認めないと血統の維持そのものが厳しくなると、それこそ欧米列強の一員であるプロイセンの外交官も釘を刺したのですが、通じなかったのです。

男女逆転版であるからには、『大奥』はもちろん架空の歴史を描いています。

それでいても春日局の恐怖心に類するものは、実際の歴史にもあるから面白い。

 

現実ともリンクする傑作

そして歴史は続いてゆきます。

世界規模の大災害ともいえるコロナ禍の中、注目を集めたのは各国の女性首脳でした。

台湾、ニュージーランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、ドイツ、アイスランドといった女性首相は、他国よりも適切な初動対応を取れたのではないかとされました。

安易な生物学的な説明は避けつつ、対話を求める姿勢や彼女らを選出する有権者の偏見のなさが好要因ではないかと分析されています。

そこまでふまえたのか。今回の春日局に対する目線は優しいだけでもないように思えました。

村瀬は時代についていけなかったと振り返っておりますし、家光はじめ周囲は春日局の懸念を切って捨てているからこそ前に進めています。

切実な背景や動機があろうと、時代錯誤はそうでしかない――キッパリとそう宣言したように思えます。

ドラマから目を現実社会に向けて見ると、まだまだ春日局は現実世界を彷徨っていることがわかります。

コロナ禍にも果敢に立ち向かったニュージーランドのアーダーン首相は、2023年2月に辞任することとなりました。

そして彼女がいかに性差別的な対応を受けてきたか、改めて認識させることとなりました。

あれほどまで立派に国を率いた人物であっても、性別が女性というだけでそんな偏見にさらされるのかと、驚いた方も少なくないかと思えます。

男女逆転版『大奥』は、そんな現実まで深く読み解ける、2023年にふさわしい傑作です。

そして希望も与えてくれます。

最後の場面で、家光が堂々と女将軍になると言い切ったとき、女大名の顔も明るく輝きました。

女性がリーダー像を見せることの意義が、あの瞬間に伝わってきました。

女将軍に、女大名――あの姿が現実の一歩先をゆくものであればよいのに。そう願った瞬間でした。

そしてこのことは、女性にとってだけの救済ではむろんありません。

御簾の奥で頭巾を被り、偽りの姿を見せていた稲葉正勝のような男性も、肩の荷を下ろすことにつながります。

歴史を描く作品とは、人類の歩みを切り取るものでもあります。

その道はこの先にも続いていく、未来へもつながっていく。

そう示しているこの作品は、歴史を学ぶ意義と喜びがつまった贅沢な傑作です。


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【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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