古典的な恋物語は、どうして二人が結ばれるところで終わるものばかりなのでしょう。
そんな疑問を持ったことはありませんか?
結ばれた後に待ち構えているのは、甘いことばかりではありません。
苦く、辛い、“変化”をテーマにして、話は進んでゆきます。
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種なし、種目当て……大奥とは残酷である
徳川家光と万里小路有功が幸せの絶頂にいられたのは、一年ほどのこと。
春日局はキッパリと「上様のお褥(しとね)から下がる」よう言い渡します。
代わりに連れてこられたのは、種つけに定評のある捨蔵という町人の男でした。
大奥の残酷さをじっくりと見せるこの展開。
有功は種無しと言い切られてしまいました。
男性が原因の不妊は、それとなくタブー視されているようにも思えます。
状況からしてそうにしか見えないのに、ぼかされ、追及されたりしない。有功が突きつけられる場面を見ていて、そんな世の中の仕組みが腑に落ちました。
ジェンダーの呪いは、なおもふりかかります。
愛する家光ですら、他の男に抱かれるよう勧める有功を責め立ててしまう。男は強くなければならないという呪いが有功を縛ります。
そもそも呪いから逃れるため、彼は僧侶になったのでは?
そう思い出すのは、彼の笑みが透き通っているかもしれない。どんな屈辱を味わおうと、彼は仏像のような、蓮の花のような笑みを浮かべます。
ちなみに読経などの仏事をこなす役は相当大変なことであり、『鎌倉殿の13人』の新納慎也さんはトイレにまでお経を貼り付けて覚えていたそうです。
じゃあ、捨蔵改めお楽の方はラッキーなのか?というと、これがとんでもない。
露骨に種目当てだと明かされ、あまりに酷い顛末を迎えます。
大奥って残酷だ……と身震いするしかない。
お楽の方など存在し無かったように扱い、有功に「そなたの子じゃ」と語りかける家光は、あまりにも容赦がないのでした。
色気のないお褥という衝撃
家光本人だって楽ではありません。
義務感からこなすお褥(しとね)の場面からも、世の中にある暗黙の了解を感じました。
結構かわいい上様だ♪ と、ニヤつく捨蔵を蹴り飛ばし、挑むように衣を脱ぎ捨てる家光。まるで戦いに挑むようであり、厳粛さすら感じました。
そして全く色気がない!
日本のフィクションの特徴として、女性がモジモジと恥ずかしがっているパターンが多いとされます。
困った眉。赤い頬。おずおずとした口調。
セクシーな場面ではお約束で、嫌がるそぶりがよいとされる。堂々とした振る舞いは色気がないとされる。
性的同意が成立しにくい背景としても、そんな“女性は性的なことに恥ずかしがるべきだ”という気質好みがあるとされます。
だからこそ、堂々とした家光は新鮮で衝撃的でした。このドラマは社会にかけられた呪いを解く力があるとすら思えます。
のみならず、これまでどれほどの人が苦しんできたのかも伝わってきます。
愛は有功だけに捧げる。
その上で子を為すためだけの行為を淡々とこなす家光。
そう言われても、いくら読経しようとも、嫉妬から逃れられぬ有功。
読経には、精神を落ち着かせる意味合いがあるのだろうけれど、それにしたって限界があると伝わってきます。
愛がなくても、人は生きてゆかねば
愛があるがゆえに苦しめられる家光と有功。
しかし、その愛欲から逃れることで、二人は成長してゆきます。
家光が母になったからか、変わってしまったことに有功は取り残されたような悲しみを味わいます。
彼女は為政者としても覚醒し、民の暮らしを見て回りました。
まだ江戸といっても発展は限定的です。
そして女性たちばかりが働いている。買い物をしていると、うちの息子の種はどうかと勧められるのです。
赤い格子越しに手を伸ばし、身を売る男たちもいる。社会は変わりつつありました。
そんな家光に春日局は苛立ちます。
春日局は果たして危険を案じているだけなのか、それとも変わりゆく外の世界を見て欲しくないのか。
家光は世を救うことを考え、稲葉正勝にその狙いを語るまでになります。
ただの優しさだけではなく、一揆を防止するためだという家光。本作は実在した家光の政治も、限定的ながら反映させてゆきます。
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一方で有功は、寝たきりになっているお楽の方の介護に、自分の存在価値を見出します。
子を為すことはできなくとも、人を救うことはできる。それが本来、仏弟子として生きる道だったのでは? 愛欲から解き放たれた有功の晴々とした顔は、ますます美しく、尊く輝きます。
これには村瀬から話を聞いていた吉宗も、互いの成長を確認し納得します。
聡明な吉宗ならばわかっているのでしょう。自分が思うままに政治をできるのも、先人の苦労ゆえであると。
しかし、世の流れについていけないものもいる。村瀬がそう語る人物とは?
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