村瀬がコツコツと記録を続けてきた『没日録』。
将軍綱吉の死の噂まで記されている――その真相を究明しようと吉宗が思い立ったその夜、村瀬は何者かに殺害されたようです。
享年は驚きの97。
老衰で死んでもおかしくない年齢の彼に何があったのか?
ドラマ10『大奥』第8回放送の始まりです。
村瀬、その怪死
村瀬はなぜ死んだのか?
綱吉の殺害場面では、顔に薄い布が被せられました。布を湿らせておくことで、著しく体力の低い相手は窒息死に至ります。
原作では絞殺だった綱吉の死を変えることで、村瀬の殺害手段をも匂わせる、ミステリ的に高度な描写。
湿らせた布や厚い和紙を被せる暗殺手段は、時代劇のお約束でもあります。
解剖して死因を調べることができない時代だと自然死にしか見えません。
そして、この死から真犯人は見えてきます。
・殺しに慣れたプロの犯行
・右筆部屋に怪しまれず入ることのできる、大奥男性を装った者の犯行
となると実行犯は「お庭番」あたりと推察できます。
この世界でのお庭番には男性もいることが、水野処刑の際にわかっています。
そんなお庭番を使うことができて、かつ権力があり、何か怪しげな人物といえば、冒頭で画面に映っている吉宗以外の者――加納久通と推察できますね。
確定はしていませんが、もしそうだとしたら、彼女の動機は……?
吉宗が『没日録』の続きについて尋ねると、藤波は「ない」と答えます。
村瀬が書いていた『没日録』の続きが無い、あるいは紛失したとなると、その後に書かれた部分を吉宗に読まれては困るということです。
冒頭からフルスロットルで飛ばす今回。はたして真相は?
大奥の夢を叶えて欲しいのに
藤波は、話をすっ飛ばし、男の好みを聞いてきます。
中臈はいないし、総触れもできない。大奥入りを目指す者の夢をどうするのか? という彼なりの気配りが感じられます。
これは既視感ありますね。
昨今、ミスコンやレースクィーンの弊害が議論され、いざ廃止となると、こんな反論が出てきます。
「ミスコン女王やレースクィーンになりたい女の子の夢を奪うの?」
こうした言い分が通じるのは、人の心や世間の空気を読める相手のときだけです。
吉宗はできない。
無駄なものは無駄だから嫌いだとでも言いたげに、話を打ち切る。それでは世継ぎはどうなるのかとオロオロする相手に、こうきた。
「たわけ! 総触れなどなくとも、世継ぎは作れる!」
ガッと怒鳴る冨永愛さんの上様は眼福ものでカッコいいですね。
しかし、藤波の立場になってみると、怒鳴られ、パワハラ気分を味わっていてもおかしくない。悔しそうな表情をしています。
今までの彼は、夢のようにゴージャスな大奥をプロデュースしてきた。綱吉時代の元禄バブルを知っている。そんな藤波からすると切ない話ですよ。
やはり吉宗は『没日録』の紛失が気になっています。
何かに引っ掛かると追い求める性格なのでしょう。
紛失したのはここ数年の記録のみということは、犯人は、そこだけは読まれたくなかった。今、大奥にいる誰かにとって都合の悪いことが書かれているのだろう。
そう推理する吉宗に、久通が提案します。犯人は藤波かその周辺ならば、お庭番に調べさせよう。
吉宗は了承します……って、これはますます久通が怪しいぞ!
藤波へと誤誘導していませんか? そんなにすぐ犯人なんてわからないでしょうよ。
そうはいっても、吉宗は久通を信じているわけで……吉宗は続けて“町人・進吉”への連絡を頼むのでした。
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赤面疱瘡の特効薬を探せ
進吉とは他でもありません。第一話に登場した、元御中臈の水野祐之進です。
今は薬問屋・田嶋屋の婿となり、江戸城へは町娘に扮してやって来ました。
店を出た時からずっと女装してきた!
そう困り果てる進吉を笑い飛ばす吉宗。やはり吉宗は、喜怒哀楽がハッキリ出る性格なんですね。
本題は……赤面疱瘡でした。
春日局は赤面ゆえに国が滅ぶと言い残していました。
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吉宗は、キリシタン禁制のために国を閉ざしているが、男がいない国だとわかれば異国に攻められてしまうかもしれない。ゆえに隠している。
進吉は、外国に赤面がないことに驚きます。
いや、それもあるのかないのか、“鎖国”ゆえにわからないと吉宗が返す。
春日局は、男女の腕力差をふまえ、異国に攻められたら国が滅ぶと考えていたのであり、聡明な進吉もその危険性を察知します。そして悩んでいます。
薬は土地によって違うのだとか。
悩んでいる進吉の言葉に被せるように、吉宗は思いついた妙案を語ります。
日本中をくまなく探し、赤面特効薬を見つけろ――婿入りしたばかりだと困惑する進吉をみなまで言わせず、誰のおかげでここにいられるのか!と畳み掛ける吉宗。
せっかく生き返っても国が滅びては元も子もないだろうと、一方的に話を決めてしまいます。
久通が、特効薬を探すための計画書を提出するよう告げると、進吉は、杉下の行方が気になっているようです。
久々の対面は、痛快な場面でした。
しかし、吉宗の性格的な欠点と狡猾さも見えてきます。
自分の考えを強く押し通す。相手の言葉を遮る。自分の頭の中では理解しているから、相手もそうだろうと思い込む。最低限の説明しかしない。
吉宗はよいことばかりをするわけだし、久通という彼女を知る最高のバディもいるから、うまくまとまっております
しかし、何かが欠けたら暴君になりかねない怖さも浮かんできますね。
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世継ぎなぞ半刻でできるのじゃ
進吉が気にかけていた杉下は、大奥でお掃除中でした。
すると吉宗がやってきて、時がないから急ぐと服を脱がされます。
吉宗の悪いところがこうして発揮されるとはなぁ……。「総触れなんかなくとも子作りじゃ!」という彼女なりの合理化だ。
時間は半刻(約一時間)だと告げ、いそいそとしていると、杉下は残念そうな表情を浮かべ「種無しです」として断るのでした。
「なんと」
なんと……じゃないですよ、上様!
杉下は、子作り以外は身を粉にして務めると頭を下げます。水野がいなくなってからは、雑事をしているそうです。
水野の部屋子だったとはちょうどいいと、藤波の右腕に据える吉宗。
しかも、古い着物を身につけている杉下の倹約を見習えとのこと。そんな理由ですか!
上様って、合理性ばかり求めて人の心を見ない人ですよね。ここでも藤波の言葉を遮るし、二人の遺恨を水に流さぬか?と簡単に、しかも一方的に言うし。
さらには藤波の監視まで杉下に任せているのでした。
このあと、吉宗は庭仕事をして脛をあらわにした男に目を止めます。
杉下に別れを告げると、ニヤリと笑い、その男とどこかへ……。
何をするのか?って、そりゃお役目ですね。
肉食系上様にもほどがある。情緒など一切ない子作りだ。家光と有功、綱吉と右衛門佐の切ない恋がはるか遠くに消えていくような……。
それにしても、杉下と会った時点で「あと半刻で表向きに戻る」と吉宗は語っていたわけでして。そこから時間は経過しているとなれば、残りはどのくらいでしょうか。
どんだけ時間を惜しむのですか、上様!
大岡越前の腕前とは?
吉宗は忙しい。恋をしている暇はない。
まずは財政です。
幕府の財政は米が大事。石高で藩の規模は決まりますが、江戸中期ともなると、どうにもうまくいかない。
人口増加に経済が追いついていません。そこをなんとかしたいのが吉宗です。
そこで市中より米を買い上げ、米価釣り上げを狙うのですが、三人いる老中は「前例がない」「銭金勘定したくない」「商人は苦手だ」と尻込みするばかりです。
吉宗と久通は「予想通りだ」とサッパリ。
なんでも領地で茶が取れるとか、商人とやりとりがあって金に困っていないとか、自分の懐さえ暖かければどうでもいいというスタンスで、吉宗は老中らに苛立っています。
すべては徳川に所領を安堵されているからではないか――そんな武士の忠義を感じる心が薄れているんですね。
いずれも世襲の殿様だと吐き捨てる久通。
この作品は、一代記ではなく江戸時代を通して描くことに意義を見出しているとか。
吉宗という中興の祖の時点で幕府には綻びが生じていると、丁寧に示してきます。
・外国勢力に襲われる
・世襲のお殿様が自己保身と儲けることばかりを考え、徳川への忠義を忘れる
・経済が行き詰まる
このあたりが危ういですが、国の存亡を考えられない老中に、吉宗は失望するばかり。
とはいえ、スケールの大きな考えができる人の方が少なく、それは吉宗も薄々わかってはいるとは思えます。
その吉宗に、久通が会わせたい者がいると推挙します。
大岡越前忠相(ただすけ)――そう、あの大岡越前です。
かくして“大岡裁き”の実際が見えてきます。どうやら、双方の言い分を聞き、落とし所を探るところのようです。
久通は、主君である吉宗の欠点を理解している。
聡明だけど強引に自分の考えを押し通す。そんな欠点を補う人材として、大岡忠相はよい。そう考えているのでしょう。
吉宗は、米価下落と物価上昇をどうすべきか?と尋ねます。
すると、パッと「米価の供給量を落としてはどうか」という回答が忠相から出てきます。出回った米を幕府が買い上げて、流通をコントロールする策ですね。
吉宗は大満足し、大岡を町奉行にして、この件を一任すると言います。
しかし大岡は、杉下と同じく無欲です。銭勘定は素人だし、老中に任せた方がよいと焦っている。
もしここで大岡が喜んだら、どうなったでしょう? 吉宗は無欲な者を高く評価しますから、贈収賄をしそうな者ならば御役を与えず、下がらせたかもしれません。
吉宗は久通に人事を投げ、計画を進めてゆきます。
自分が得意でないことはあっさり人に任せられる。それも才能の一つでしょう。
久通は笑顔を浮かべたまま老中たちを罷免するのですが、貫地谷しほりさんの笑顔が何ともおそろしい……。
そして彼女は、薬草探索を行う「採薬使」の設置も提案します。
田嶋屋や本草学者からの要望でもあるとかで、全国津々浦々をめぐり、薬草を探し、諸国の薬の実情をみる役目です。
吉宗は本草学者ともやりとりしている水野に、感心して喜んでいます。
本草学者とは、東洋医学で使う薬草を研究する学者です。次に始まる朝の連続テレビ小説『らんまん』の主人公のような職種といえます。
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父? お腹様? どうでもよい
大岡忠相は、米相場の鍵を握るのは大阪であると進言しつつ、いくら江戸で買い上げても無駄であると結論付けました。
ここにも幕府崩壊の要素があります。
経済の西高東低です。
誰かが幕府を倒すとなったら、その軍資金はどうするのか? というと、京都や大阪商人と結託すれば捻出できる。
江戸時代後半には、どの藩も財政難に苦しんでおりましたが、西国の薩摩藩には貿易という抜け道もありました。
さしもの大岡も、大阪商人は見返りがなければ交渉できないと言います。
すると吉宗は、ゆるさん、応じねば罰する……と、言いながら口元を押さえます。
「もしや!」
久通は素早く気付きました。ご懐妊です。
藤波と杉下が、吉宗の懐妊を話し合っていますが、どうにも藤波には複雑な気持ちがあるようです。
上様は誰を相手に懐妊したのかわかっていない。杉下すら困惑しています。
流石に見当がついているのではないか?と返すものの、久通は父は定めないという上様の意思をシレッと語ります。
これに藤波が怒る。
男の夢をなんだと思っているのか!
そう語る藤波は、悪どい男というよりも夢見がちなおじさんのようで愛くるしさすら出てきました。
ここの流れは、日本でも大ヒットした韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の仕掛けを思い出しました。
あの作品では、女性の名前は出てきますが、男性は「父」や「弟」としか表現されない。
「ミラーリング」という手法です。
日本、韓国、中国といった国では女性が「〇〇の娘」や「××の母」といった呼び方で残っていることがよくあります。
それを逆転したらどれほど異常であるか?を示しているんですね。
片方の親だけに顔があって、もう片方がない。それを権力が堂々と認めるおぞましさがわかります。
杉下は藤波を見張るというよりも、むしろ吉宗との落とし所を探る役割を果たします。おそらく藤波は、もう叩いても何の埃も出そうにありません。
そして杉下の提案により、大奥の男たちがズラリと稽古場に集められました。
「稽古総覧」とのことで稽古場へ呼び出された吉宗。
そこにいる男たちは、キラキラした服装ではありながら、平伏する場所が稽古場ということも相まってか、綱吉時代より衣装も地味ですね。
この男たちは吉宗の腹にいる子の父親候補ですね。
上様、どれだけ手をつけたんですか! 驚異的な場面……ですが、この吉宗はいやらしさがまったくない。
こぼれるほどの愛嬌と艶っぽさがあった綱吉との落差が凄い。単なる事務的作業の相手だったのだと思えます。
少しでも羞恥心があれば、頬が赤らんでも良さそうなのに、平然としたままの吉宗。
杉下が「稽古着のない稽古をした相手」とやんわりと告げたことで、やっと気付きます。
しかも、その上で見当たらないと言い出す。その一人とは、あの庭掃除をしていた卯の吉だそうです。
結局、子の父は卯の吉だったようで……杉下からそう聞かされた彼は思わず気を失ってしまいます。
この場面で吉宗はなおも、父なぞ定めなくてもよいと突っぱねているところも重要でしょう。
杉下が父を定めぬと「勝手に名乗る者が出て世継ぎ争いが起こるかもしれない」と忠言したため、ようやく吉宗も折れたのでした。
大岡忠相を主人公とした講談『大岡政談』には「天一坊事件」という話があります。
ある山伏が勝手に、自分は吉宗の御落胤(ごらくいん/貴人がよそで作った落とし種のこと)を自称した、というものです。フィクションとはいえ、元ネタはあったのです。
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真偽はさておき、吉宗が身分を問わず、気ままに手をつけた女性が多いと言う噂は絶えなかったものです。
このシーンにおいては、吉宗だけでなく、久通も、杉下も、色気がないところが実に素晴らしい。
久通は、柳沢吉保とちがい、自分の主君の欠点をふまえつつも、有能だから敬愛している。名馬の手綱をとる喜びを覚えているようにすら思えます。そこに色気や惚れた弱みはない。
杉下も、自分が種無しだと言い切る時も、こんな無茶苦茶なことをやる時も、あっさり淡々としています。風間俊介さんの個性をうまく活きていますね。
風間さんは『麒麟がくる』では徳川家康を演じました。
家康は、側室や子宝に恵まれながら、どこか情愛が欠けていると指摘されます。家を盤石なものとするため子作りに励んだという見方があります。
築山殿と信康を処刑する時も、信長の命令に困惑したものの、後に妻子に落ち度があったとわかるとサッパリした顔すら見せていました。
ドロドロした感情に囚われず、サッパリと物事を進めていく。そんなスマートな流れになってきています。
江戸っ子も上様に納得した
吉宗は江戸の町に「質素倹約を旨とするお触書」を出します。
江戸っ子はケチをつけるどころか、吉宗が率先垂範して取り組んでいるからむしろ感心しているとのこと。
食事場面も出ますが、確かに質素です。白米でなく玄米だし、魚も小さい。
それにしても、町人たちは当たり前のように立て札を読んでいましたね。
江戸時代を通して右肩上がりであった識字率は、世界史的に見ても相当高いところに達しました。
立て札は行書体でした。
江戸時代は、現代人が親しんでいる楷書では書きません。書道を習うにしても楷書はやらない。素早く書けるから行書や草書で書く。
幕末に来日した外国人は、看板や瓦版を読みこなす江戸っ子に驚いていたとか。特にロシアの場合、あえて農奴を学問から遠ざけておりました。
江戸は、教養をもとに民衆の声が醸成される社会ではあったのです。そんな社会だから、読み書きができることを前提とした目安箱も設置され、民も声を届けようとする。
裏表のない吉宗の姿勢に、江戸っ子は応じる。
しかし上方の商人は米の買い上げに応じない――さすがに困っていると、陣痛がきました。
大岡忠相が案内された部屋にいたのは、子供を産もうとして、いきむ上様でした。
呆れた産婆から「後にしろ!」と言われて大岡が引き下がろうとすると、即座に上様が引き留める。
大坂商人の対応を聞きながら、さらに上様はいきむ。
と、忠相は、江戸と大阪の違いを説明するのでした。
同じ直轄地といえども、インフラ整備は有力な商人あってこそ成立している。その力は米相場によって手に入れた銭。お上だろうとそこに手は入れさせないのだと。
「侮りおって……くっそおおお、商人めええ!」
上方商人に憤りつつ、姫君出産を成し遂げる吉宗。
ひょっとしてギャグなのか? と思ってしまうほどの安産でした。吉宗は極め付けの安産体質で、こういう人はむしろ極めて少数派なのでご注意を。
それにしても、出産と政治がこうも見事に一体化してしまうと、むしろ女性が政治に携わらないのはおかしいのではないかと思えてきます。
パワーあふれるユーモアを描かせるとき、脚本家の森下さんはノリノリで輝いていますね。
そしてそんなパワーあふれるセンスで見えにくくなりますが、この江戸と大阪の対立は、時代の対立にも思えてきます。
人間の持つ権力も、時代とともに変わります。
中世となると宗教が強い。ヨーロッパではローマ教皇には王ですら頭を下げねばどうにもなりません。
近世へ向かうとなると、商人が権力をつけてきます。
貴族だけでなく、商人が蓄えた富で学問や知識を身につけるようになる。王侯貴族もその金欲しさに権力を与えるようになっていく。
日本の場合は交易を考えると、海へひらけた西日本が強くなります。
幕末へ至る道があらゆるところへ見えてきたのが、吉宗編の特徴でもあるのでしょう。
人の心がわからぬ上様を諌める藤波
出産を終え、政務復帰した吉宗は【上米の制】について、久通と案を練っています。
一万石につき百石の米を献上させる代わりに、参勤交代で江戸にいる日数を一年から半年にする制度。
聡明な吉宗は、大岡の長所である落とし所を探る術を身につけつつあるようです。大岡を勧めた久通も嬉しいことでしょう。
しかし、吉宗は納得できていない様子。何かがずれている気がしてならないようだ。
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実家の母の具合が悪いから、宿下りをしたい――藤波からそんな申し出があったと報告されます。
お庭番の知らせでは怪しいところはないと、久通は吉宗に報告。
そうですね、ただのドリームおじさんですもんね。そんな藤波から「狸ババア!」と罵倒されている久通の方が腹黒いでしょう。
吉宗に呼び刺された藤波は、金目のものを持ち出さないか?調べられたとして、流石にムッとした様子です。
『没日録』が紛れ込んでいないか、という吉宗の疑念は隠しておいたのでしょう。
そして淡々と暇金(退職金)が渡されるのですが、うやうやしく膝行(しっこう)し、受け取る片岡愛之助さんの所作が実に美しい。
「その額でよいか?」と聞かれた藤波は、金という実利でなく、あまりに情緒がない吉宗に不満がありました。
俸禄が大事だと言う吉宗に、人は牛馬ではないと説き始める藤波。
衣食住だけじゃないでしょ。生きていれば満たされるわけじゃないでしょ!
と、綱吉と右衛門佐の話にも通じることを藤波が持ち出しました。
吉宗は声音に動揺をにじませつつ、わかっていると返す。これは本人も自覚があるのかもしれません。
藤波は、父親を定めぬと言い出した吉宗がまだ許せない。大奥の男を種馬扱いもここに極まれりだと怒りをぶつけます。
それでも話が通じない吉宗に、藤波は言い募る。
大奥の男たちは確かに種馬だけども、それをあからさまにしてはあまりにも虚しすぎる。そこにいかにも「情けが通っているもののように彩ってきたのが大奥だ」と説きます。
あの有功、そして右衛門佐ときて、藤波が総取締を務めてきました。当初は、この役目も堕落したものだと思えたものですが、そうではなかったのです。
子作りだけでなく、情緒を養う場とする伝統を彼も受け継いできた。
派手なお鈴廊下。煌びやかな装い。上様に恋をした。上様から選ばれた――卑しい種馬にそんな夢を見せることも、大奥の役割なのだと。
それでも口を尖らせ不満そうな吉宗に、金をかけずとも情を示すことはできると訴える藤波。
文、言葉、剣術というスポーツ。そんな青春の楽しみ方のようなことをレクチャーします。
政治が忙しくても、もう少し、奥の男に情をかけて!
そう切実に願いつつ、藤波は去ってゆきます。大奥プロデューサーとしての意地でした。
片岡愛之助さんは、老獪で重々しいようで、愛嬌のある藤波を演じました。
まさか藤波のことをこんなに好きになれるとは思いませんでした。夢をプロデュースしたい。彼の熱い気持ちはわかります。
しかし、吉宗は面白くない。何が情をかけろだと、愚痴りつつ、杉下の前で酒を飲む。
ただ、それでも酒は銚子一つまでと決めていると自分を律するところが“らしい”ですね。
吉宗は、藤波の言うことも理解しています。
彼女は人の心がわからない。大奥の夢を求める男の気持ちもわからないし、大阪の商人の心意気もわからぬ。
久通や杉下は、一方的に吉宗の意を汲んでくれるからこそ、うまくいっているようなところはありますね。
「人の心が分からぬから、従えられぬ。背かれる」
産婆も、赤子が生まれたばかりなのに米の値のことばかりを気にかけている吉宗に呆れていたとか。
「私はどこか人として、すっぽりと欠けておるのかもしれぬ……」
杉下はそんな吉宗を受け止め、どこか欠けているとすると言い切ります。否定するのではなく、肯定するのです。
そのうえで自分も種がないと言いながら、何一つ欠けるものがない者など、この世にいるのか?と問いかけます。
「ご案じのところは微力ではありながら、私が補って参ります」
そう言い切り、久通もそう思っているだろうと続けます。吉宗は前を向き、政治をしていけばよい。上様にしかできぬことだと、励ます杉下。
確かに吉宗にはそういうところがありますね。はっきりと、普通の人とは違うと示されています。
子どものころ、綱吉の前で語った時も違っていた。賢いだけでなく、空気を全く読まない。周りが綱吉の権威にひれ伏しているような状況でも、彼女だけは思うままに振る舞っていました。
吉宗は普通ではないのです。
江戸の街には、無惨の極みがある
吉宗は目安箱の投書に目を通しています。
江戸の街には貧しい者があふれ、病気になっても治療もできない。無惨の極みだ――そう訴える小川笙船という町医者の訴えに目を止めます。
そして、暴れん坊将軍らしく、颯爽と江戸の街を見物に出向く吉宗。
大岡ですら「(小川笙船を)呼び出せばよい」と言うものの、定期的に街を見て回らねば気が済まぬようです。
街の中には、貧しく家もなく、道端に座り込む百姓親子がいました。倒れて動けない者もいる。
そんな行き倒れの人々に声をかけている者がいます。
小川笙船でした。
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さっそく小川を助ける吉宗が向かった先は、貧しい病人があふれた治療所でした。小川が行き倒れを拾っていたのです。
子どもの体を拭いて欲しいと頼まれ、手伝う吉宗。大岡が城へ戻りましょうと囁くも、吉宗は手助けを続ける。
診療所にうごめく人々たちに目をやりながら「このままでよいのか?」と吉宗が問うと、食わせて休ませれば大方のものは治ると、小川は言い切る。つまり、貧困ゆえに患者が生まれているのです。
すると小川は、吉宗への失望を吐き捨てました。
切れ者だっていうから期待していたのに、ぜいたくすんな、倹約しろってばかりじゃねえか!
ただでさえ赤面で人が死ぬのに、死なせてなるものかという考えにはならんもんか!
キッパリと吉宗の政治に対して不満を口にします。確かに最貧困層にとってはそうでしょう。
人は国の宝。それとも貧乏人は人と思っていないのか。
そう詰められ、吉宗はこう言うしかない。
「そなたの言う通りじゃ。まことそなたの言う通りじゃ、小川笙船」
吉宗が目安箱の投書を取り出すと、小川は「まさか……」と驚きの表情を浮かべます。
「いかにも吉宗じゃ」
そして施薬院を作ると宣言します。
「ははっ」と平伏する小川たち。目安箱の意見が実った瞬間でした。
吉宗は、幕府の財政改善で生まれた金を民のために使う、施薬院を作ると久通に語ります。
久通は感激し、今までで一番よい思いつきだと涙ぐんでいます。
「久通は、信様はいつかこうなさると!」
興奮して「信」と呼んでしまい、吉宗は咎めるどころか「お通(みつ)」と呼びかける。
このシーンは、大河ドラマ『麒麟がくる』の果て、麒麟が到来した地点のようにも思えました。
光秀は、民のための政治を行う主君を探していました。
それを足利義昭、それから織田 信長に見出しても夢は叶わず、本能寺へと向かってゆきます。不幸な着地点でした。
しかし、この『大奥』ではそれが叶った。民を思う主君のために尽くすこと――その幸せな着地点がこの加納久通です。
女としての幸せをあっさり無視される上様
施薬院の場所は小石川がよいと大岡が提案しています。
薬草を育てている御薬園が横にあり、費用の節約にもなる。元々は普請奉行だった大岡の案はバッチリです。
それから田嶋屋の進吉を呼び出し、薬草栽培の相談をします。
各地の薬草を植えたらどうか?と提案され、随分とやる気になったものだと興味を抱く吉宗。
赤面を治せるということは、男だけでなく、女にとっても幸せなこと。もとは女の幸せのために大奥入りを目指した進吉にとって、使命感を満たせるのです。
それにしても、中島裕翔さんは町人髷と服装が似合いますね。
武士のキリッとした衣装とヘアメークよりも似合っているかも。江戸っ子らしい話し方も適役に思えます。
江戸時代にはその時代なりのおしゃれやダンディズムがあったわけで、そこを活かし現代でも受け入れられるようにするアレンジが大事。そのお手本のようです。
思わず吉宗も、大奥から出したことを悔やんでしまうほど、健康的な色気がある。
「どうじゃ。そなた私も女じゃ。ぐるっと幸せというのなら、もう一度、私を幸せにしてみるというのは……」
「もちろん! 上様のために、赤面の薬を探し出して見せまさぁ!」
おっと、吉宗なりの精一杯婉曲的なお褥の誘いが、全く通じていない!
「……うん、頼むの」
吉宗、気づかれることすらなく振られました。
めんどくさい。もう今のままでいい。そうなってもおかしくはなさそう。色気がまるでありません。
念願の小石川養生所に、人が来ぬとな?
そして半年後、小石川養生所が完成しました。
立派な施設で、薬研や薬草を準備する手間もかかった場面です。普請奉行の大岡も、医者の小川も自信満々です。
小川は恩義に感謝し、身の朽ち果てるまで仕えると誓います。吉宗は、小川の言葉あってのことだ、将軍としてなすべきことができたと感謝します。
「喜んでくれるかのう。江戸の民も」
「きっと人であふれかえりますよ」
そう感動的なBGMをかけ、吉宗と久通が言葉を交わした後は、ギャグのような展開に。
「誰も来ぬ?」
そう、誰も来ません……悪い噂が立っていました。
なんでも江戸っ子たちは、話がうますぎる、薬草で人体実験でもするんじゃねえかと警戒していたのです。これは史実準拠でもあります。
吉宗は、思わず笑ってしまいました。人の心は不思議でわからないものだと。
こうしちゃいられない、と久通は上様の心を伝え直すと宣言し、逆に良い噂を流すこととします。お庭番を使って噂を操るくらい久通には容易いこと。やはりおそろしい人ですね。
小川も養生所の見学をさせることで、悪い噂を抑えることに成功しました。
かくして人手が足りぬほど病人が集まったのです。
小川笙船の姿が、仁愛に満ちていて素晴らしい。片桐はいりさんが素敵です。
本作は、男女双方が落ち着きのある低い声で自然に話しており、そのことでだいぶ救われる気持ちになります。
成功を確認し、満足げに酒を飲む吉宗。
杉下は上様のためにと、自ら銚子一本分多く酒を用意していました。それを満足げに飲む吉宗でした。
猟師の村で特効薬が見つかったのか?
田嶋屋の採薬使ツアーにスポットが当てられます。
太い大木のある村を、歩いて進んでゆく一行。太い木が鬱蒼とある森は、日本らしいの景色でしょう。
時代劇のロケ地にこうした森を選べるスタッフは、実に仕事ができる。
海外の日本紹介でも、山伏がこういう森にいる絵を撮りたいらしく、しばしば見かけます。
しかもこの場面で、道祖神が映るところも興味深い。色気がなく、種馬を連呼する今回らしい小道具といえる。
これぞジャパンという感もあります。日本の同祖神神輿は海外で人気なのです。
進吉たちの向かう先は、赤面を出していない猟師の村――秘密は猿の肝でした。
当時の日本で、自然に肉を口にするのは、マタギのような猟師です。なるほど、こういう設定できましたか。
干した猿の肝を見せられ、半信半疑の吉宗と久通。
信じられないかもしれないけれど、この目で見たと進吉。
するとそこへ大岡が駆け込んできました。
「市中で赤面が発生しました!」
吉宗の顔が一気に曇ります。
時代劇欲張りセット、豪華松花堂弁当のよう
今回は原作を変えてきているそうです。
村瀬が他殺されたこと。そしてメインキャラクターとして、大岡忠相と小川笙船がいます。
どうしてそうしたのか?
様々な理由は考えれます。コロナ禍を意識してのこともあるでしょう。
それのみならず、今回は時代劇欲張りセット、いわばアベンジャーズ状態です。
一人だけでも時代劇主役を張れる。そんな愛される人物が三人揃いました。
しかもこの三人を扱った時代劇は、映画、テレビでも民放の定番でした。
現在は、民放の時代劇が激減して、往年の定番をNHKが拾うことがあります。『大岡越前』も『赤ひげ』も、近年で放送されたのはNHKだけでした。
大岡忠相は早くからエンタメ化されていた人物で、元を辿りますと『大岡政談』にまでたどり着きます。
彼の町奉行時代の判断が江戸っ子に愛され、エンタメとして昇華されていったのです。むろんフィクションですから、誇張や他の奉行の逸話も混ざります。
こうした大岡忠相や“遠山の金さん”こと遠山景元をモチーフとした講談は、そのオマージュをたどると、漢籍を読んでいた江戸時代の教養も見えてきます。
狄仁傑(てきじんけつ)の『狄公案』、“包青天”の名で知られる包拯(ほうじょう)の『包公案』などを参考にし、自国版を作ればヒットすると見込んだのでしょう。
赤ひげは、1958年(昭和33年)に連載された山本周五郎『赤ひげ診療譚』が発端。
『暴れん坊将軍』は1978年(昭和53年)から2002年(平成14年)にかけて放送されました。
こうした人物を男女逆転させて、揃い踏みさせる。そんな狙いを感じます。
それほどまでに魅力的で有能な人物が出揃った【享保の改革】の意義をあらためて問い直す。そんな展開になりそうです。
そうそう、採薬使のどこかロマン溢れる全国行脚も、これまた往年の時代劇によくある設定でした。
忘れかけていたような時代劇のあるある設定を出してくる今回。
実に豪華です。
政治はできても、空気が読めない上様
徳川吉宗は颯爽としていて、かっこいい。私も大好きです。言うまでもなく、素晴らしい。
とはいえ、こういう人が上司や同僚にいたらどうでしょう?
吉宗は、情と理のうち、後者だけに特化していて前者に疎い。そりゃ藤波も苛立つわ。そう思えるところはしばしばありました。
藤波が説得している間も、納得いかぬように口を尖らせていたほどです。
これは綱吉ともよい対比です。
綱吉は聡明ながらも、情に流されてしまう。生類憐れみの令だって、父親の情に流されてしまった結果として描かれます。
そんな毒となる情は捨てろと右衛門佐は導いていました。そして打掛を脱ぎ捨てた場面は、からみつく情からの解放に思えたものです。
そんな綱吉が、どうすればあんな考え方になるのかとおもしろがった吉宗。
彼女はそもそも、何の感情すら絡みつかない。読み取れない。自分が最善だと思ったら、相手のことなんか考えずに押し切る。結果的に正しければよいだろう――そんな強引さがあります。
それだと流石にまずいから、藤波は苦言を呈する。久通や杉下が情緒面でのアシストをする。そんな関係がうまく生きています。
吉宗みたいなタイプは、他人の感情を理解するというより、攻略法として学んでいく方がよい。あるいは周囲がそれを察知してサポートに回るか。
この上様も、なかなか、凸凹しているのです。
この立場だからよいものの、現代社会にいたら「あいつ、空気読めないよね」と思われてしまうかも。
そんな個性の尊重まで考えさせてくれる、よいドラマです。
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【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)









